論者(初心者) · @ronja_yty
16th Nov 2014 from TwitLonger
マリオン由実氏のブログ『輸血の疑問~移植片対宿主病』について。
論者(@ronja_yty)です。大変遅くなりましたが、マリオン由実さんのブログ記事『輸血の疑問~血液の放射線照射(2014.10.21)』の内容について意見を述べさせていただきます。
冗長した文章で読み辛いかとは思いますが、その点は先に謝ります。
ブログ記事の先頭から順に、私が気になった箇所を抜き出し、それに対する私の意見や資料の引用を付記する形式で進めていきます。お手数ですが一応引用した部分を当該資料を文中検索してご確認ください。論拠となる資料は末尾にまとめてあります。宜しくお願いします。
————————————————————————————
A.「まず輸血に関しての一番のリスクを挙げます(中略)を移植する方法をとっています」
→ この辺りは見解の相違はありません。
————————————————————————————
B.「でもちょっと待って…H10年に供給されH12年以降0ということはH11年には症例があったと仮定されますそれがいったいどれくらいだったのでしょうか?それに12年以降0というのも変です」
→ (×仮定 ○推定) H10(1998)年に2件、H11(1999)年に4件の輸血後GVHDの症例があります([1][2][3])。原因としては「赤血球M・A・P」「人全血液」が挙げられており、これらは「放射線照射なし・白血球除去フィルター未使用」の輸血用血液です。
これらが使われた経緯は判りませんでした。推定するに[4]のp.13表4「照射を考慮すべき患者」×「ガイドライン-IV 平成11年1月1日」の辺りの様な気がします。ただし改定後の「ガイドライン-V 平成21年1月1日」では「全製剤照射」となっています。いずれにせよ、この6例の輸血後GVHDは放射線照射血液製剤によって引き起こされたものではありません。
————————————————————————————
C.「医療においてリスクとベネフィットがあるなら、当然リスクの症例が何軒かあるはず」
→ (×何軒 ○何件) この輸血用血液への放射線照射は「輸血で人が輸血後GVHDになり死亡するリスクを減らす為の行為」ですから、「リスクとベネフィット」の関係を当てはめるのは少し違うかな…と考えます。出来ればどの様なリスクが予想できるかの記述がいただきたかったです。
あえて言及するなら、[2]の「輸血後GVHD予防の基本方針(5)」に「緊急輸血時に照射血液が即座に入手できない場合には、患者の救命を優先し、未照射血の使用を躊躇すべきではない」とあります。想定される状況としては
①【このままだと出血多量で100%死ぬ】
↓ ↓ ↓
②【とりあえず輸血して生かすけど0.2%前後([3]「約300-900分の1」)の確率で輸血後GVHDで死ぬ】
の流れになるかと思います。この前後のどちらを選択すればいいかは明白でしょう。そして放射線照射はこの「0.2%前後」を「限りなく0%」に近づける為の手段と言えるでしょう。ベネフィットの部分ですね。リスクの部分は後で述べます(※E)。
————————————————————————————
D.「それから厚生省の(中略)『現在では全ての製剤が保存前白血球除去製剤となったが、保存前白血球除去のみで輸血後移植片対宿主病が予防できるとは科学的に証明されていない』と(中略)医療とは人命を預かる仕事です。科学的に100%証明できないと本来は使ってはいけないのではないでしょうか。(中略)証明されていないのは、白血球が放射線によって除去仕切れないということです」
「車のガソリンでもそう。からになっても一滴はあるでしょう?ガソリンタンクの中を開けて拭きまくるぐらいやらないと」
→ ここは複数の事案が混ざっているので慎重にお読みください。
まず、貴女は大きな見落としをされています。注目していただきたいのは「保存前白血球除去のみ」です。
これは[5]をお読み頂ければ解るかと思いますが、「保存前白血球除去」は「機械的な除去」「フィルターを使用」して「輸血用血液製剤の1バッグに含まれる白血球数を1×10^6個以下に低減」する処置です。白血球は残ります。よって、先程の「0.2%前後」より下がるけれども、輸血後GVHDを起こす可能性は0とはまだまだ言えません。この意味で「保存前白血球除去のみ」で(輸血後GVHDを)「予防できるとは科学的に証明されていない」と厚生省は正直に明言しているのです。何の問題もありません。
そこで登場するのが「放射線照射」です。貴女がガソリンを例に出し「拭きまくる」と言った所です。
[3]の中程、「2.輸血血液の放射線照射」の「輸血が必要不可欠となれば〜」をご覧ください。途中は端折りますが「以上のことから15Gyから50Gyの放射線照射であれば輸血本来の効果には影響を与えず、かつリンパ球の増殖能力を抑えることができるので、血液の放射線照射は、輸血後GVHDを防ぐための現在唯一の有効な手段とされている」との結論が出ています。
これが貴女が「拭きまくるぐらいやらないと」と指摘した、それを対する完璧な回答だと言えるのではないでしょうか。
よって、貴女が「白血球が放射線によって除去仕切れない」と疑問視してしまったのは、貴女が「保存前白血球除去のみ」と「放射線照射」を勘違いされたからに過ぎません。
あと「科学的に100%証明できないと本来は使ってはいけないのでは」のご指摘は、心情的にはよく解ります。ですが、現実にはそうでない事も多くあります。お薬を例に挙げれば、8割の患者さんには効果的なのに、残り2割の患者さんには左程効かないなんて事はよく聞く話です。また、私が患っている疾患は原因がまだ判明していません。しかしながら症状が起こる仕組みが大まかに解明されてきたので、パーキンソン病の薬を「流用」して症状の緩和をはかっていました(今は専用の薬もあります)。バイアグラだって、元々狭心症の薬(として開発していた)でしたよね。この辺もベネフィットに関係する事柄でしょうか。
————————————————————————————
E.「(補足)リスクについて」
→ 他の資料にも言及がありますが、[4]が簡潔にまとまっているのでこれを用います。p.12「【5】今後の課題」の各項目、放射線照射によるリスクの可能性として、「1.血液細胞の発癌性」「2.血液細胞中ウイルスの突然変異」「3.輸血効果に対する影響」「4.カリウム濃度の変化による健康被害の調査継続」を挙げています(p.11「【4】これまでの我が国に於ける対策の経緯」の後半も参照)。
いずれも「リスク」がある事は明確に認めて「極めて低い」としながらも、「長期的な調査・継続的な検討」をと、慎重な姿勢を保とうと宣言しています。
「継続的な検討」で言えば、[6]1枚目最後「…照射試料容器中の吸収線量が中心吸収線量を100とした場合(中略)不均一性等を考慮しなければならない」事や、[3]の「2.輸血血液の放射線照射」の「赤血球においては(中略)200Gyまでの照射であれば、溶血や酸素運搬機能の変化に影響を及ぼさない。赤血球寿命も100Gy以下であれば不変」等々とある様に、(放射線照射する)血液に対する吸収線量15Gyから50Gyという値を「だったらもう少し上げて45Gy位でやろうぜ?白血球を徹底的に不活性化させればより安全だろ?」という意見もありました(すいません資料どっかに失くしました)。
ともかく。【輸血後GVHDになる/ならない】で考えれば、「H12年以降0」という実績を見れば、放射線照射は一応「完璧」な仕事をしています。
リスクとベネフィットを勘案すると、今のところベネフィットがリスクを大きく上回っている事は確かでしょう。
————————————————————————————
————————————————————————————
とりあえず、ここまでが『輸血の疑問~血液の放射線照射(2014.10.21)』に対する私からの意見です。
ついでと言ってはアレですが、関連している次の『輸血の疑問~血液の放射線照射(2014.10.21)』にも簡単に言及しておきます。
————————————————————————————
————————————————————————————
F.「15SV」「『放射線被曝』された血液が危ないというより、もうその血液が血液としての機能がないもの」
→ E.で述べた[3]の「2.輸血血液の放射線照射」の項目で、100Gy以下なら白血球以外の血液の機能は保たれるとあります。
————————————————————————————
G.「じゃがいもの芽はすぐに伸びてしまうので」
→ 伸びるというより、じゃがいもの新芽にはソラニンという毒素があるので、それによる事故を防ぐ意味合いの方が大きいのでは?
————————————————————————————
H.「食べる根の部分」
→ じゃがいもの「イモ」は茎(塊茎)です。根じゃないです。
————————————————————————————
I.「放射線で遺伝子が破壊されたじゃがいもは死んだものと同然で栄養分もなにもないハリボテのようなものなのかもしれません」
→ 「しれません」で思考停止してはいけませんよ。調べましょう。コレは大事な事かと思います。
————————————————————————————
J.「それから輸血後のGVHDですが、2000年以降600件に1件症例がでましたが、輸血は年に120万回行われています。(船橋俊介さんの見解)
2000件起こっているということです」
→ 私が今まで提示した資料や、また御自分でお調べ直しになっても宜しいと思いますが、「600件に1件」は「白血球除去や放射線照射など何もしない場合の日本人の輸血後GVHDになる確率」です。また何度も出てきましたが「H12年(2000)以降0」です。
船橋俊介氏の発言に対しては疑わしい点・事実誤認が各方面から数多く指摘されています。少なくとも必ず「ウラ」をとる位の慎重さで彼の発言を聞くべきだと思います。
————————————————————————————
K.「通常Hb7・0㌘以下で輸血を開始するのですが」
→ [7]の指針の中で繰り返し「Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない」と書かれています。
(とりあえずこれに関しては参考としてこの資料をお読みいただければと思います。)
————————————————————————————
L.「つまりかなりの確率で残った白血球が増殖し、GVHDを起こしている人も水面下にいるのです」
→ 繰り返しになりますが、白血球が増殖しない様に放射線照射処置をしています。また、[1][2]にある通り、「マイクロサテライトDNA多型解析」で輸血後GVHDが原因だったかどうかが確定できるとの事です。
————————————————————————————
————————————————————————————
本当にダラダラと長くなってしまい申し訳ありません。一通り、貴女の記事と私の知識と異なっていた所・うろ覚えだった所・知らなかった所を、今一度調べてみて書き連ねてみました。また、私の記述や考えとどうしても意見されたい事があればおしらせください。以上で終わります。失礼しました。
————————————————————————————
————————————————————————————
資料・出典
[1]「輸血情報」日本赤十字社 http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu9903-47_090805.pdf 1999(H11.03)(推定)
[2]「輸血情報」日本赤十字社 http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu9912-57_090805.pdf 1999(H11.12)(推定)
[3]「輸血血液への放射線照射(GVHDの予防)」原子力百科事典ATOMICA http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=08-02-02-12 2008(H20.02.12)
[4]「輸血後 GVHD 対策小委員会報告」日本輸血・細胞治療学会 輸血後 GVHD 対策小委員会 http://www.aichi-amt.or.jp/labo/transfus/_userdata/guide_out_yukestu_gvhd_20100101.pdf 2010(H22.01.01) <P6>
[5]「製剤|安全な血液の供給のために|血液事業|活動内容・実績を知る」日本赤十字社 http://www.jrc.or.jp/activity/blood/flow/make/index.html 2014(H26)
[6]「血液照射装置(γ 線)に よる照射血液の保存に 伴う血漿K値 の変動」新潟大学医学部附属病院輸血部 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtc1958/42/1/42_1_23/_pdf 1995(H07.12.15)
[7]「血液製剤の使用指針(改定版)」厚生労働省医薬食品局血液対策課 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0210-8j_0001.pdf 2009(H21)改訂