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森信茂樹の目覚めよ!納税者

消費再増税延期はアベノミクスの失敗を意味する

森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員]
【第82回】 2014年11月17日
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消費税率の10%への引き上げを延期するかどうかが大きな政治問題と化している。仮に延期したとすれば、それはアベノミクスの失敗の始まりである。なぜなら現在わが国経済の停滞の要因は、消費税8%への引き上げに加えて、円安でも輸出が伸びない経済構造、公共事業を追加しても資材や労働者の不足により事業が進まないというアベノミクスの第1の矢、第2の矢に想定外の事態が生じていること、加えて第3の矢は全く行われていないことにある。これをすべて消費増税だけのせいにして先送りすることは、アベノミクスの失敗を意味する。

わが国経済が抱える課題

 現在わが国経済の停滞は、消費税8%への引き上げに加えて、円安でも輸出が伸びない経済構造、公共事業を追加しても資材や労働者の不足により事業が進まないというアベノミクスの第1の矢、第2の矢に想定外の事態が生じていることではないか。

 第1の矢である異次元の金融緩和で想定されていたストーリーはこうである。金融緩和による円安を通じて輸出が伸び、企業業績が改善され株価も上昇するというものである。しかし現実には、円安による輸出(数量ベース)は増加していないし、1ドル110円台を超える、これ以上の円安は輸入原材料価格の引き上げにつながるので、家計の購買力を奪い望ましくないという見解が出始めた。

 デフレ・円高経済の20年で、わが国企業の海外への移転は予想以上に進んでおり、また経常赤字の状況では、わが国経済にとって望ましい通貨レートは安ければ安いほどいい、というものではなくなっている。

 第2の矢である機動的な財政政策として行われた公共事業も同じである。

 公共事業を拡大して需要を追加し、消費税率引き上げの経済インパクトを緩和しよういうのが想定されたストーリーであった。しかし現実には、資材や労働者の不足などにより公共事業はさっぱり進捗しない。無理やり執行させれば、コスト高で赤字となりかねず、また民間建設事業の足を引っ張ることになる。

 このように、わが国経済の抱える問題は、需要不足ではなく、少子高齢化に伴う労働力不足という供給側に要因があることが分かってきた。これへの対策は、消費税増税を延期することではないはずだ。

なぜ消費税増税が必要とされたのか

 今回の消費税率引き上げは、社会保障・税一体改革として行われたものである。その趣旨は、少子高齢化の下でわが国の社会保障を持続可能なものにすること、社会保障の財源を可能な限り、現役世代で責任を持ってまかなうようにすること(後世代へのつけ回しを慎むこと)の2点である。

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森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員]

(もりのぶ しげき)法学博士。東京財団上席研究員、政府税制調査会専門家委員会特別委員。1973年京都大学法学部卒業後、大蔵省入省、主税局総務課長、東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、財務省財務総合研究所長を最後に退官。その間大阪大学教授、東京大学客員教授。主な著書に、『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)など。
 

 


森信茂樹の目覚めよ!納税者

税と社会保障の一体改革は、政治の大テーマとなりつつある。そもそも税・社会保障の形は、国のかたちそのものである。財務省出身で税理論、実務ともに知り抜いた筆者が、独自の視点で、財政、税制、それに関わる政治の動きを、批判的・建設的に評論し、政策提言を行う。

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