最悪のネトウヨを探し出せ
自らのプロフィールに「朝鮮人虐殺」などと記すヨーゲンは、ツイッター上で在日コリアンのユーザーを発見しては、昼夜を問わずただひたすら差別と偏見に満ちた醜悪なメッセージを送りつけていたのである。
たとえば、次のようなツイートを彼は毎日のように書き込んでいた。
<在日は踏み潰されても気持ちの悪いヒゲだけ動いているゴキブリ>
<在日は虚言妄言の精神病。頑張っても糞食い人種は糞食い人種だ>
<不逞鮮人は日本から出ていけ><在日こそ人殺し。在日殺すぞ!>
<朝鮮民族を絶滅させよ!>
書き起こすだけで胸糞が悪くなる。しかもターゲットが在日コリアンの女性である場合には、さらに居丈高に、そして下劣なツイートを送り付けた。民族差別的な罵倒に、性差別が加わるのだ。容姿を貶め、ときに卑猥な言葉を交えて在日女性を罵った。おぞましい画像を送り付けられた在日女性も少なくない。しかも心無いネトウヨがそれを囃し立て、ヨーゲンを愛国者のごとく持ち上げるものだから、当人はますます図に乗るのだ。ヨーゲンは賞賛と扇動を燃料にネット上で"大暴れ"した。
ヨーゲンから受けた"被害"を警察に相談した人も少なくはない。だが、顔も名前も所在地もはっきりしないネット上の匿名アカウントに対し、警察は動こうとはしなかった。結局、被害者は泣き寝入りするしかなかったのである。
大阪府に住むフリーライターの李信恵さんもその一人だ。
李さんはこの8月、自らに向けられた在特会などのヘイトスピーチをめぐり、同会や保守系「まとめサイト」に対して損害賠償請求の訴訟を起こした。
実はそれに先立つ昨年初め、李さんはヨーゲンに対する刑事告訴を検討していた。
「ゴキブリ」「不逞朝鮮人」などと連日にわたってヨーゲンから読むに堪えないヘイトスピーチを送り付けられていた李さんは、地元の警察に"被害"を訴えたのである。しかし、警察の対応は冷淡だった。その頃はまだ、ヘイトスピーチがもたらす被害について、警察の認識が浅かったということもあろう。担当した警察官は李さんに同情しつつも、まるで単なる口げんかや口論で苦しんでいるかのように受け止め、これを事件として扱うことはなかった。
口論も議論も、対等な力関係のなかでおこなわれるのであれば問題ない。しかし、ヘイトスピーチは社会における力関係を利用して、マジョリティがマイノリティを一方的に傷つけるものである。こうした認識に欠ける警察には、往々にして深刻な被害の訴えが伝わらない。李さんもまた、法的救済を受ける機会もなく、その後もヨーゲンの下劣なヘイトを浴び続けることになった。
これに憤慨したのが、ネット上に存在する在日女性からなる小さなコミュニティだった。もともとはツイッターでK-POPやコスメなどの情報を交換していただけの、なんら政治色を持たない集まりである。
年齢も職業も異なる彼女たちは、それぞれ面識はなく、「在日女性」であることだけで緩やかにつながっていた。
しかしネット上にあふれるヘイトスピーチは、K-POPやコスメについて語るだけの彼女たちをも脅かしていた。ツイッターで韓国に触れると、脅迫じみたメッセージが寄せられる。韓国旅行の思い出を呟いただけで「日本に帰ってくるな」と見ず知らずの人間から罵倒される。そうした日常を、彼女たちもまた、ずっと耐えてきたのだ。そうするしかなかった。生きることを否定され、人間としての尊厳を否定されてもなお、彼女たちは屈辱に耐え続けた。
しかし、どんなに目をそむけても視界に飛び込んでくるヘイトスピーチ──なかでも李さんに向けられたヨーゲンの度重なる悪罵に対して、ついに彼女たちの忍耐も限界値を超えたのである。
「もともと私たちはツイートするたびに『(韓国に)帰れ』『ゴキブリ女』と差別的なメンションを受け続けてきました。しかしフォロワーだった同胞の男性たちでさえ、巻き込まれるのが嫌なのか、いつの間にか私たちのフォローをはずしていた。結局、味方なんていないのかと絶望的な気持ちにもなりました。ただ日常の些細な会話を交わしていただけの私たちも、ヘイトスピーチの前では一人ぼっちだったんです」とそのうちの一人は打ち明ける。
「だからこそ李さんに対する攻撃を他人事だと傍観できるわけがなかった。ライターとして発言を続ける李さんは、攻撃の対象となりやすい場所に立っていただけで集中砲火を受けていました。もし私と李さんが入れ替わったとしても同じ。ヨーゲンが発するヘイトは在日女性全体に向けられたものだと思いました。私たち在日女性全員への攻撃でもあるんです。だから、絶対に李さんを孤立させてはいけないと、皆で話しました」
もちろんヨーゲンだけがヘイトの使い手であったわけではない。しかし、彼は間違いなく差別を煽るネット右翼の象徴的な存在だった。実際、ヨーゲンには何千人ものフォロアーが付き(そのなかには保守派を自称する有名ジャーナリストや評論家もいた)、在日コリアンに向けられた醜悪なツイートは日々、拡散された。
彼女たちは公開の場であるツイッターから撤退。仲間内だけで情報交換できるLINEに足場を移して何度も議論を重ねた。
「ただ励ますだけでは意味がない。李さんとヨーゲンのツイッターのやり取りに割って入ったとしても、女性相手ではヘイトが勢いづくだけです。本質的にヨーゲンのヘイトを止めるにはどうしたらいいか、具体的な案を出し合いました。警察は動かないし、そもそも同胞の男性たちも見て見ぬふりをするばかりで頼りない。日ごろは『在日として戦え』などと威勢の良いことを言うわりには、李さんへのヘイトを放置させているのですから」
そこで行き着いた結論が「ヨーゲンを探し出すこと」だった。
「せめてネトウヨとして一番目立っているヨーゲンの所在をつかみ、ネットは決して匿名が担保されているわけではないのだと、ヘイトを繰り返しているヨーゲン、いや、ネトウヨ全体に突き付けたかった。何よりも、李さんに1人じゃないんだということを伝えたかった」
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