社説[県知事に翁長氏]辺野古に終止符を打て

2014年11月17日 05:30
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 沖縄の人々が長い間、心の底にしまい込んでいた感情が、マグマとなって一気に地表に噴き出した。予想を上回る歴史的な選挙結果である。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を最大の争点にした知事選で、移設反対を主張する前那覇市長の翁長雄志氏(64)が、埋め立てを承認し移設容認に転じた現職の仲井真弘多氏(75)ら3人の候補を大差で破って初当選した。

 1月の名護市長選に続いて再び、「埋め立て承認・辺野古移設反対」の強固な民意が示されたことになる。沖縄の多数意思が何を求めているかは、もはや疑う余地がないほど明白だ。

 同時に実施された那覇市長選も、「オール沖縄」の旗を掲げ翁長氏と完全セットで選挙戦を展開した前副市長の城間幹子氏(63)が、自民、公明推薦の与世田兼稔氏(64)を振り切った。

 保革の枠を超えて集まった人々が、保守層だけではなし得ず革新層だけでも果たせなかったであろう二大選挙のダブル勝利を勝ち取ったのである。沖縄の今後の政治潮流に大きな影響を与えるのは確実である。

 仲井真知事が昨年12月に行った埋め立て承認の法的効力は今も生きている。とはいえ、県外移設の公約に反して事前説明もないままほとんど独断で承認したことが有権者から2度にわたって否定された事実は極めて重い。

 もはや辺野古移設をめぐって丁々発止と渡り合う時期は過ぎた。「地元の頭越しには進めない」という普天間問題初期の政府方針に立ち戻り、計画見直しに向けた話し合いに入るべきである。

 1996年の返還合意からはや18年。住民にこれ以上、精神的負担を強いてはならない。ここまできてなお移設を強行するのは、暴力的な犠牲の押しつけである。

 試合終了のホイッスルを鳴らすときだ。

    ■    ■

 昨年12月、仲井真知事は首相官邸で安倍晋三首相と会談し、沖縄振興策などの説明を受け、「驚くべき立派な内容」「140万県民を代表して心から感謝する」と最大限の賛辞を連ねた。記者団に対しても「いい正月になる」と、耳を疑いたくなる言葉を連発した。

 知事が辺野古の埋め立て申請を承認したのはその直後である。

 この一連の言動が県民感情を刺激し、特に高年層の激しい反発を招いた。

 仲井真氏は出馬表明にあたって「県民に誤解を招いた」と陳謝し、選挙中も文書を配って重ねて「いい正月」発言をわびた。いかに有権者の拒否反応が大きかったかを物語っている。

 今回の知事選は仲井真政治に対する信任投票の性格を帯びていた。

 結果は仲井真氏のオウン・ゴール。「辺野古ノー」と同時に、「仲井真ノー」が示された選挙でもあった。

 自民党本部は当初、苦戦必至の仲井真氏出馬を懸念し、自民党県連に再考を求めたが、県連はこれに従わず、自ら墓穴を掘る結果を招いた。那覇市長選の候補者選びでも、もたつきが目だち、調整力、指導力の低下を印象づけた。

 自民党県連は知事、那覇市長という重要ポストを失っただけでなく、保守層と経済界の分裂を生じさせ、知事選では公明党の支援も得られなかった。

 党内で責任問題が浮上するのは避けられない。沖縄の政治は流動化の過程に入るはずだ。

 当初、革新陣営の中には、翁長氏の過去の経歴や政治活動に対するアレルギーが強く、当選後の心変わりを懸念する声があった。

 懸念が杞憂(きゆう)に終わったのは、仲井真氏当選に対するかつてない警戒感と、保守革新両サイドの選挙協力が予想以上にうまくいったからだ。

 劇的な勝利を手にした翁長氏には、休む間もなく難題の数々が待ち受けている。今後の県政運営は容易ではない。

 主張の異なる支持層の声をどのように拾い上げ、公約を実現していくか。自民党時代に発揮した手腕を、自民党を野党に回してどのように発揮していくか。政治家としての正念場である。

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沖縄県知事選挙2014の一覧

普天間飛行場の名護市辺野古移設の是非をめぐり、従来の保守・革新の対立構図から一転した沖縄県知事選挙。現職・新人の計4人が立候補し、基地問題や振興政策を問う。11月16日に投開票される。

候補者プロフィール

下地幹郎(しもじ・みきお)
1961年8月生まれ。宮古島市出身。中央学院大商学部卒。96年、自民公認で衆院初当選。以降、衆院当選4回。2009~10年に国民新党政調会長兼国対委員長、幹事長。12年郵政民営化・防災担当相。政党そうぞう前代表。

喜納昌吉(きな・しょうきち)
1948年6月生まれ。北中城村出身。73年国際大(現沖国大)除籍。76年「喜納昌吉&チャンプルーズ」結成。代表曲に「ハイサイおじさん」など。2004年参院選で初当選し1期。04~11年、13~14年まで民主党県連代表。

翁長雄志(おなが・たけし)
1950年10月生まれ。那覇市出身。75年法政大学法学部卒。85年の那覇市議選で初当選(2期)。92年に県議選で初当選(2期)。2000年の那覇市長選で初当選、4期14年務めた。県市長会長、全国市長会副会長などを歴任した。

仲井真弘多(なかいま・ひろかず)
1939年8月生まれ。那覇市出身。東京大工学部卒。61年通商産業省(現経済産業省)入省。大田昌秀県政で副知事。沖縄電力会長、県商工会議所連合会長などを歴任。2006年に知事選初当選し10年から2期目。

(届け出順)


政策の比較




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[普天間飛行場移設と辺野古埋め立て]

日米両政府が1996年4月、米軍普天間飛行場の全面返還で合意。2006年5月に名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部にV字形の2本の滑走路を建設する現行計画を両政府が合意、07年、政府が環境影響評価手続きを始めた。民主党政権では「県外」で迷走。12年12月の第2次安倍内閣発足後、県関係の自民党国会議員らが県内容認に変わり、13年12月に仲井真弘多知事が辺野古沖の埋め立てを承認した。14年1月、移設に断固反対する稲嶺進名護市長が再選したが、政府は移設計画を進めている。防衛省はブイ設置、海底ボーリング調査の後、埋め立て本体工事に着手する構え。
「普天間・辺野古新基地」まとめページ

[カジノ法案]

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備を推進する法案。超党派の議員連盟が議員立法で提出した。カジノを含む国際会議場、ホテル、娯楽施設などを一体として整備し、滞在型観光を実現し、地域経済の振興を図るのが目的。法成立後、カジノ解禁に向けた法整備を国に求めている。

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11月17日(月) 紙面

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USJもやめるべき。

yls (11月16日 21:11)