2014-11-17
■ダンディズム
土曜日
一関の市長がやってきて岩手の名産品をアピールする食事会に招かれた。
格之進の千葉社長が開催する会で、自慢の肉は控えめ。
驚いたことに、どれもものすごく美味しい。
野菜の一つ一つが瑞々しく、工夫の凝らされたしいたけ入り蒟蒻やにごり酒。こんなに美味いものがそんな一箇所に集まっているのかと驚かされた。
こういう日に誰を連れて行くかは非常に重要だ。
元来人見知りな性格なので、知り合いがホストの千葉さんだという状態はできるだけ避けたい。
ダメモトでSF作家の鏡明さんを誘ってみた。
するとなんと、来てくれるという。
久しぶりにお会いした鏡さんは年齢を感じさせない若々しさで、かっこいい帽子とコートで現れた。
ダンディだ。
電通という会社は激務で知られる。
そのため、かつての電通マンは平均寿命が60歳と言われていた。
そんな激務の中を生き残り、今なお世界中で活躍している鏡さんは巨大な体格もあって年齢を感じさせない迫力を持っている。
やっぱり男は年をとったらダンディでないといけない。
なんとなくそう思った。
しかし一体ダンディとはなにか。
よく知らなかったのだが、もともとは 18世紀後半から 19世紀にかけてロンドンとパリで同時に起きたムーブメントらしい。
過度な装飾を嫌い、洗練された美意識に基づく服装と思考様式を採用する。
当時のヨーロッパでは紳士はカツラをつけ、化粧をするのが一般的だったが、ダンディズムの実践者であるブランメルはそれをやめ、シンプルだが完璧な服装と身だしなみという新しい美意識を実現した。
コンピュータの基礎理論を完成させたバベッジの相棒であったラブレース伯爵夫人オーガスタ・エイダ・キングの父、ジョージ・ゴード・バイロン男爵もまたダンディズムの実践者であり、ブランメルに憧れ、独自の美学を達成しようとした。
そういえば今年の春ごろにテレビ東京でやっていた「俺のダンディズム」というドラマはけっこう面白かった。
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今はHuluでも見ることができる。
カバン、万年筆、靴など、いろんなアイテムのこだわりのポイント、歴史、ものの見方、などのウンチクと、主人公の段田一郎のコミカルな演技がいいコントラストになっていた。
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書籍も出ている。
とてもおもしろい作品だが、「俺のダンディズム」だけを見るとダンディズムは要するに小物にいちいち理屈をつけたり歴史を感じ取ったりするというかなり・・・というか相当鬱陶しい趣味である、というようにしか映らないが、本質的にはモノではなく立ち居振る舞いや思考様式、そしてそれら全体を貫く自分独自の美学の追求というのがダンディズムの本質のようである。
田舎だと、よく「○○はいいものだ」とお仕着せされたりする「一点豪華主義」が横行する世界がある。
たとえばモンブランの万年筆だけを持って歩くとする。
しかしそれはダンディズムとは呼べないのではないかと思う。
なぜならば、モンブランの万年筆は確かにダンディズム的なアイテムではあるが、それを持ち歩き、使う生活様式にまで踏み込まないと意味がないのだ。
Tシャツにジーパンでモンブランの万年筆を持ち歩いてもダンディズムとは呼べないのだと思う。たぶん。
「俺のダンディズム」の中で段田一郎は子供の頃からの趣味である切手を売って少しずつ高価な小物に買い換えていく。
毎回ラストで新入社員の宮本南 (石橋杏奈 )がめざとく新アイテムを見つけ、「それ、○○の○○ですよね ?とってもダンディですよ」と締めくくるのが定番なのだが、新入社員でそこまで男物の高級ブランドに詳しい女が実在したら嫌だ (一体これまでどんな生活を送ってきたのだその女は )。
女の子にモテたい、というところから出発するダンディズムはなんか軽薄で、そもそもダンディズムではないのではないか。
でも美意識って難しいもので、「これが俺はカッコいいと思ってやってるんだよね」という立ち居振る舞いをしても、人に伝わらなければただの変わった人で終わってしまう。ヘタすれば死ぬほどウザい。かといって「どう ?どう ?こんな感じ?」と周囲に媚びたらそれはそれで美意識としてどうなんだろうという気がする。
ただ真似すればいいというものでもない。
たとえば僕が鏡さんと同じ帽子とコートを買っても、鏡さんのようにはなれないと思う。
やっぱりそれはちょっとちぐはぐで、どうも僕自身には似合わないだろうからね。
けど、最終的にああいう雰囲気に辿り着こうと思ったら、まず自分独自の美意識を磨いていくしかないんだよなあ、きっと。
鏡さんは LEONとかを読んでる感じがしない。
なにしろ教養と感性を武器に食ってきた人だから、人に聞くまでもなく自分で答えにたどり着くのだろう。そういう意味では美意識も相当なレベルまで洗練されているに違いない。
ただ本で読んだ軽薄な知識に頼るのではなく、自分なりに磨いた美意識で勝負する新しい美学の完成、たぶんこれがダンディズムの本道なのだろう。
ダンディはエレガンス以外を職業にしてはいけないらしい。
エレガンス、それはプログラマーがこだわるポイントのひとつでもある。
プログラマーは服装にどんなに無頓着でもシステムのエレガンスに拘る。
個人の技量によって美意識の基準は変化するが、本当に美しいコードは大自然の神秘にも似たエレガンスを持っている。
そうすると可視化されてないだけでコードの上ではダンディなプログラマーというのは実在するのかもしれない。
プログラマーとダンディ、意外と共通点あるかもなあ
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