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 5歳までの教育が、人の一生を左右する――。労働に関する計量分析手法を発展させた実績で2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大学経済学部特別教授はそう指摘し、近年、教育政策の分析に力を入れている。少子化に伴い、未就学児の幼児教育から受験まで、教育産業の囲い込み競争が過熱する日本。このほど来日し、「格差是正のためには、幼少期の子供とその親に対して働きかけをすることが大切だ」などと主張するヘックマン教授に、幼少期における教育のあり方と意味などについて聞いた。(聞き手は広野彩子)

人生でその人なりの成功を収めるうえで、「ケーパビリティー」を高めることの重要性を指摘されています。このケーパビリティーとは、やはりノーベル賞を受賞した経済学者アマルティア・セン米ハーバード大学教授が定義した「潜在能力」のことでしょうか。

ジェームズ・J・ヘックマン(James Joseph Heckman)氏
米シカゴ大学経済学部特別教授。1944年、米イリノイ州シカゴ生まれ。65年、コロラド・カレッジを優等の成績で卒業、数学の学位を取得。68年、米プリンストン大学から経済学修士号、71年に同Ph.D.(経済学)を取得。ニューヨーク大学、コロンビア大学などを経て77年からシカゴ大学経済学部教授。2000年、人が働こうとする時の意思決定など社会的なテーマに関する計量経済学的な分析を発展させたことにより、ノーベル経済学賞を共同受賞。格差に関係する社会・経済的な諸問題の根源に関する研究をライフワークとしてきた。
(写真:陶山勉)

ヘックマン:そうです。ケーパビリティー、すなわち「潜在能力」は、人生の様々な局面で自ら行動を起こしていく時に必要な、様々な能力を指します。言い換えると、人が社会の構造の中で効果的に「機能」を果たしていける能力ですね。我々が「知性」という時には、特定のタスクを継続できる能力も含みますが、それも重要な潜在能力の1つです。例えば発明家トーマス・エジソンは「天才は1%の才能と99%の努力だ」と言いましたが、タスクを継続する能力は、その「努力」に当たる部分です。(タスク継続につながる)忍耐強さや自己抑制力、良心は重要な潜在能力です。

人生を決定づけるのは「潜在能力」

 潜在能力は、IQ(知能指数)で測れるわけではありません。潜在能力は、(経済力など)資源の制約、情報量と社会的な期待、両親の情報と期待、そして本人の選好、という4つの要因から影響を受ける「非認知スキル」です。

ではIQは何を測っているのでしょうか。

ヘックマン:知能の一部を測り、抽象的な問題を解く能力を示します。IQを高めたければ、乳幼児期の働きかけが重要です。これまでの研究で、IQは人生の初期にかなり決まってしまうことを示しているからです。30歳の人のIQを変えるのは極めて難しいですが、生後3カ月からであれば変えることができます。


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