(2014年11月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ミハイル・ゴルバチョフ氏は、世界でロシアと西側の冷戦が再現される恐れがあると警告している。自分の指揮下でソ連崩壊を見届けた指導者は勘違いしている。
冷戦は、2つの政治・経済体制の間の世界的な競争だった。数十年の間、世界は核による自滅の影で暮らしていた。1989年に共産主義が負けた。もう後戻りはできない。
ウラジーミル・プーチン大統領のロシアは、売り込むべき代替的なイデオロギーを持っていない。プーチン氏の権威主義的なスタイルには、特に西欧のポピュリスト的な外国人嫌いの人々の間で崇拝者がいる。だが、事実を語るなら、世界にはロシアの政治・経済モデルの市場となるような場所はあまり存在しない。
プーチン大統領のロシアは危険だが衰退しつつある地域大国
ソ連は超大国だった。現在のロシアは、危険だが衰退しつつある地域大国だ。この2つの特徴は関係している。プーチン氏は、旧ソ連圏で領土と影響力を手に入れたいと思っている。彼は「尊敬の念」を切望している。
だが、クリミア併合とウクライナ東部の侵略が世界秩序に対する深刻な挑戦だったとしても、存続を脅かす脅威には、まだ及ばない。
ゴルバチョフ氏の嘆きは、起こり得たかもしれないことに対する嘆きだ。ソビエト共産主義の灰の中から生まれてくれると期待した対等な国同士のパートナーシップを物差しにして、ロシアと西側との関係における現在の危機を評価しているのだ。
実際、西側の多くの人々も、この期待を共有していた。だが、グラスノスチ(情報公開)の提唱者であるゴルバチョフ氏にしてみると、欧米が旧共産国を北大西洋条約機構(NATO)に招き入れ、それによってロシアが弱っている局面で同国に屈辱を与えた時に、事態が間違った方向へ進んでしまった。
ゴルバチョフ氏は、一体どうすれば、ソ連の保護から逃れた国々にとっての自由とロシアの勢力圏の保持の折り合いをつけられたのか、きちんと説明できていない。ポーランドはそもそも、自分自身で選択するために解き放たれたはずだ。ウクライナについても同じことが言える。