新しいMicrosoft Officeで日本のパソコンはどう変わるか - 世界で日本だけに新Officeが投入される理由
マイナビニュース 11月17日(月)0時0分配信
●新Officeの登場から1カ月
日本マイクロソフトが、コンシューマ向けPCにプリインストールして提供する「Office Premium」と、既存PCで利用できる「Office 365 Solo」を2014年10月17日に発売して、ちょうど1カ月が経過した。日本市場向けにだけ用意されたこの2つの製品は、クラウド時代、マルチデバイス時代において、日本マイクロソフトが新たに提案したOffice製品だ。
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Office Premiumは当該PCを使用し続ける限り、最新版のOfficeアプリケーションが永続的に利用でき、OneDriveによる容量無制限のオンラインストレージ利用、Skypeを利用した月60分間の公衆回線への無料通話、マルチデバイス対応、マイクロソフトアンサーデスクの利用といった4つの「Office 365サービス」が、1年間限定で利用できるようになっている(更新も可能)。その点でも、Office搭載PCの価値を大きく高めた新製品だといえるだろう。そして、1年ごとの契約となるOffice 365 Soloも、最新のOfficeアプリケーションとともに、「Office 365サービス」が提供される。
日本マイクロソフト 執行役 コンシューマ&パートナーグループオフィスプレインストール事業統括本部長 宗像淳氏は、「日本のパソコンが変わる日」と、2014年10月17日を位置付ける。それだけ、新たなOfficeが日本のPC業界に与える影響が大きいと、日本マイクロソフトでは捉えている。Officeの価値が高まることで、PCの価値観を大きく変えてしまうというわけだ。
改めて、日本マイクロソフトが新たに投入したOfficeは、2つの製品に分かれる。
ひとつは、10月17日以降に出荷されるPCに搭載された「Office Premium」だ。これは単独のパッケージとしては提供されず、PCへのプリインストール版としてのみ提供となる。OfficeアプリケーションはOffice 2013をベースにしており、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Publisher、OneNote、Accessで構成。常に最新版にアップデートして利用できる。Office Premiumがインストールされた当該PCを使い続ける限り、永続的な利用が可能だ。
さらに、OneDriveによる容量無制限のオンラインストレージ利用、Skypeを利用した月60分間の公衆回線への無料通話、iPadやスマートフォンでもOfficeが利用できるようになるマルチデバイス対応、何度でも電話問い合わせが可能なマイクロソフトアンサーデスクの利用といった4つのサービスを、1年間利用できる。当初は、OneDriveによるオンラインストレージは1TBまでとしていたが、これが容量無制限となった点も特筆できる。同社では、これらの4つのサービスをまとめて、「Office 365サービス」と呼ぶ。もし、1年を経過して、Office 365サービスを継続的に利用したい場合には、1年間の延長利用版を購入すればいい。価格は5,800円だ。
もうひとつは、「Office 365 Solo」である。既存のPCや、Officeを搭載していないPC向けに用意した製品であり、2台のPC、あるいはMacとの組み合わせ環境で利用可能だ(つまり、PCとPC、PCとMac、MacとMacという組み合わせ)。Office 365の機能を1年間限定で利用できるほか、Office Premium同様に、Office 365サービスも1年間使える。価格は11,800円だ。
では、こうした機能やサービスが提供される新たなOfficeによって、なぜ、日本のパソコンが変わるのだろうか。
●新Officeで日本のパソコンはどう変わる?
最大の要因は、IT利活用の中心と基点をPCにする提案ができるという点だ。
「これからは、あらゆるIT利用が、スマホやタブレットですんでしまうのではないかという言い方がされていた時期もあった。だが、本当にそうなのだろうか。やはり、PCが得意とする領域は確実にある。創造性や生産性を追求するといった部分では、PCが優れているのは確か。Officeの利用という観点では、PCを基点に考えることが適している」(日本マイクロソフト 宗像淳執行役)。
PCを基点としたマルチデバイス利用を提案するためのきっかけを実現するのが、新たなOfficeということになる。実は、新たなOfficeは、マルチデバイス利用の促進が大きな特徴となっている。
例えば、Office Premiumを搭載したPCを購入すると、iOSおよびAndroid向けの「Office Mobile」を無償でダウンロードするだけで、iPhoneやAndroidを搭載したスマートフォンにおいて、Officeの商用利用が可能になる。さらに、年内にもサービスが開始される「Office for iPad」をダウンロードすれば、iPadでもOfficeの商用利用ができるようになる。来年市場投入が予定されているAndroid搭載タブレット向けのOfficeも同様だ。
このように、Office Premium搭載PCを購入すると、PC、タブレット、スマートフォンといったマルチデバイスで、Officeを商用利用できる環境が整うというわけだ。
「これまでは社内や家庭内だけで利用していたOfficeアプリが、外出先に持ち出したスマホやタブレットから、より柔軟に利用できるようになる。外出先で気がついたことがあった場合や、作業をしなくてはならない場合には、Officeのアプリを利用してデータを作成。それをOneDriveに保存して、あとでPCで加工するといったこともできる。このとき、創造的な仕事や、生産性を求められる仕事を行うのはあくまでもPC。新たなOfficeは、PCを中心としたマルチデバイス環境を促進することになる」(日本マイクロソフト 宗像淳執行役)。
●新Officeは、進化するOffice
もうひとつの特徴は、進化するOfficeとなったことだ。
これまでのOfficeにも、アップデートのサービスが用意されていたが、新たなOfficeではバージョンを超えて進化することになる。いやむしろ、バージョンという概念をなくしてユーザーに最新版のOfficeが提供されるようになったといっていいだろう。
Office Premiumでは、インストールされたOfficeアプリケーションは常に最新版にアップデートして利用でき、インストールされた当該PCを使い続ける限り、永続的な利用が可能だ。例えば、2014年4月にOffice 2003のサポートが終了したのは、記憶に新しい。従来のOffice搭載PCでは、サポート期間が終了したOfficeをそのまま使い続けるのは、脆弱性の観点からも危険である。新たなOfficeへと買い換える必要があるわけだが、新しいOffice PremiumがインストールされたPCなら、そうした問題がなくなる。
また、Office Premiumに付随するOffice 365サービスも、進化するOfficeを象徴するものだ。
発表当初は、OneDriveの容量は1TBが上限だった。これだけもコストパフォーマンスが高いサービスであったが、米国でのOfficeユーザーに対する容量無制限サービスの開始に合わせて、日本でも同様に容量無制限が採用されることになった。こうしたサービスの進化も期待できるというわけだ。
あくまで仮説だが、現在、Office 365サービスでは、Skypeによる月60分間の公衆回線への無料通話が用意されている。これがスマホへの通話も無料で提供されるようになると、そのサービス価値はさらに高まることになろう。こうした進化が期待できるのが新たなOfficeということになる。
だが、新たなOfficeの普及において、懸念されることもある。これまでとはまったく異なるライセンス体系であることから、ユーザーがその仕組みを理解するために時間がかかるという点だ。
例えば、Officeを利用するためにはオンラインでの登録が必須となっている。この際に、IDとなるMicrosoftアカウントが必要だ(新たに作成してもよい)。
さらに、PCにインストールされているOffice Premiumの権利は、PCに付属しているため、PCを譲渡した際には、そのまま権利が新たな所有者に移管する。しかし、Office 365サービスは、Microsoftアカウントを持つ所有者に権利が付与されるため、PCを譲渡した場合にはこのサービスは移管できない。新たな所有者は、Office 365サービスを利用する場合には、別途サービスを購入する必要があるのだ。
このように、PCに付属するライセンスと、人に付属するライセンスが混在している環境にあるのが、新たなOfficeということになる。この仕組みをしっかり理解して、正しい使い方をする必要があるのだ。
●Officeの戦略において、米Microsoftが日本市場を重視する理由
先にも触れたように、Office PremiumとOffice 365 Soloは、日本市場向けに開発された製品である。全世界をひとつの製品で展開するマイクロソフトにとって、これは異例のことだ。現在、コンシューマ向けOfficeは、全世界で「Office 365 for Consumer」としてクラウドベースの製品へと移行している。
今回の(日本における)新Officeもこれをベースにしているのだが、PCにOfficeをインストールして販売しているのは日本だけであり、米Microsoft本社のOffice開発チームは、日本市場向けにエンジニアリングリソースを割いて、Office製品を開発しているというわけだ。では、なぜ日本市場向けのOfficeが開発されているのだろうか。
最大の理由は、日本市場におけるアタッチレートの高さだ。
日本市場においては、量販店で販売されているコンシューマ向けPCの94%にOfficeがインストールされている。これだけの比率でOfficeが利用されている国は、ほかにはない。そのために、米Microsoftは日本を重要な市場と判断し、日本市場向けの特別なOfficeを開発しているのだ。これはほかの製品には見られない異例の措置であり、その点でも米Microsoftが、日本市場の特殊性をしっかりと理解しているともいえるだろう。
実は、日本市場の深い理解度については、かつてOffice製品のプロダクトマネジメントグループを率いた米Microsoft コーポレートバイスプレジデントの沼本健氏の存在が見逃せない。
2013年2月に発売されたOffice 2013においては、途中の開発段階まで沼本氏が重要なポジションで携わっていた。その際に、日本マイクロソフト側からも様々な要望が寄せられたのだが、沼本氏は開発部門に対して、「日本からの要望は正しいものばかりだ。なにも言わずに聞け」と号令したという逸話がある。(かつて、2年間の期間限定ライセンス版Officeが日本市場向けに提供され、ネットブックなどに搭載されたことがあった。これも当時の日本市場からの要求を反映して用意されたものだ。)
沼本氏は現在、クラウド&エンタープライズ事業を担当しているため、今回の新たなOfficeに沼本氏の声が直接反映されているわけではないが、日本市場の要求が反映されやすい体質は、いまでも続いているといえよう。それだけ日本のOfficeビジネスは、米Microsoftにとっても重要なビジネスであるというわけだ。
ちなみに、Office Premiumの名称は、これまでパッケージ版で用意されていた「Office Personal」、「Office Home and Business」、「Office Professional」という3つのエディションのさらに上位に位置付けるということから命名された製品名だという。米Microsoftと日本マイクロソフトが協議して決定したこの名称には、最大限の価値を提供するOfficeであるという意味が込められている。それを日本にだけ投入するというわけだ。
その一方で、Office 365 Soloは、1人で利用することを意味する「Solo」とした(企業向けOffice 365がEnterpriseやSmall Business、個人向けOfficeがHomeやPersonalといったように、利用する規模や範囲を表す名称が付いていることに合わせている)。実は、米Microsoftからは、「Individual」(個人)という名称が提案されていたというが、日本市場で分かりやすい単語ということで、Soloに決定した。ここにも日本側の意向が反映されている。
●ユーザーに嬉しい新Officeは、PCメーカーや量販店にも嬉しい
こうした数々のエピソードからも、米Microsoftが、日本の市場性を強く認識していることが見て取れる。今回の新Officeの取り組みは、日本マイクロソフトの収益性を拡大すること、そして、PCメーカーや量販店にとっても、収益を確保しやすい仕組みである点も見逃せない。もともと日本マイクロソフトにとって、Officeは日本市場における売上高を拡大するために不可欠な製品だ。
それは売り上げ計上の仕組みが違うことからも見て取れる。Windowsの場合は、一度、米Microsoftに売り上げが計上されたのちに、日本マイクロソフトにその収益の一部が売上高として計上される。
これ対して、日本で出荷された(売れた)Officeの場合は、最初に日本マイクロソフトに売上高が計上され、そこから米Microsoftに収益が支払われる仕組みだ。その分、嵩(かさ)が大きく計上されることになり、日本マイクロソフトにとって重要なビジネスである。
また、今回の新Officeでは、従来Officeと比べても、PCメーカーとの取引条件は同じといわれており、PCメーカーのOffice調達コストには変更がない。むしろ、PCメーカーにとってみれば、これまでに比べて価値の高いOfficeを同等のコストで調達でき、PCの魅力を引き上げることにつなげられると考えていいかもしれない。さらに、Office 365サービスの存在によって、同サービスが1年後に切れた場合には、新たな販売機会(Office 365サービスの継続)が発生。これまでにない収益が生まれることになる。
Office Premiumを通じたOffice 365サービス利用の場合、使用しているPCから、PCメーカーのサイトを通じて、Office 365サービス継続版の購入が可能だ。それらはPCメーカーの収益になる。そして、量販店の店頭でもOffice 365サービスの販売を行っており、これは量販店の収益拡大につながるというわけだ。新たなOfficeは、新たな売上拡大の要素を持った製品だともいえる。
こうしてみると、新たなOfficeは、ライセンス体系にとどまらず、これまでのOfficeとは大きく異なる仕組みとなっていることが分かるだろう。PCの価値を引き上げるのはもちろん、マルチデバイス化によるスマホやタブレットによる利用範囲の拡大といったメリットもユーザーに提供する。そして、PC業界にとってもプラスとなる要素を持ったものだ。新たなOfficeは、「パソコンを変える」ことができる製品というのは、そうした意味からも的を射ているといえよう。
(大河原克行)
最終更新:11月17日(月)0時0分
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