ゆうすけ遭遇する
「はぁ…はぁ」
もう幾ら歩いただろうか。膝に手を置き立ち止る。
「かなり歩いた、そろそろ出口とかなんか見えてもいいだろ。」
チラリと腕時計に目をやる。絶望のあまり脱力し大きく溜息を吐いた。先ほど確認した時刻からまだ5分も経っていない。
もう限界である。
壁に手を置くとそのまま膝から崩れ落ちるように座り込んだ。
それでも僅かに希望を抱き、虚ろな目で先を見通さんと目を細めるが、前後遠くそこにあるのは依然として暗闇である。部屋を出た時と同じもの。ここまで歩いてきたこと自体が嘘だったんじゃないかとさえ思えるほど
いかなる変化も見られない一本道である。
これ以上歩いて何も無ければゆうすけはこれ以上平常心を保つ自信が無かった。
かと言って戻ると言う選択肢を選ぶ気もない。
あの部屋に戻ったところで食料があるわけでもなし。いずれ直面する飢えに怯えながら布団をかぶっていたずらに時を過ごすなんて出来る訳が無い。
ゆうすけは生きる事に無気力であるという自覚はあるが、死ぬことが出来るかと言えばそれはまた別の話である。部屋で一人死を待つ…そんな覚悟は欠片も持ってなかった。
結局進むしかないのだ。
進むしかない。だが生か死か…この局面になってさえやる気が湧かない。
なんていうかだるい。
「ワックが食べたい。今なら某国産チキンでも有難く食べる…」
ふと呟いてみる。勿論何も起こらない。
ゆうすけは目を閉じ久しぶりに神様に祈った。
「異世界の神様お願いします。ワックセット。出来ればコーラ付きでここにお願いします。チートとかそういうのいいんでワックが食いたいんです。一生のお願いです。」
ゆうすけは異世界の不思議な可能性に賭けた。もしかしたら願い事が叶うかも知れない。
仮にここにゆうすけを転移させた存在がゆうすけを見てたら面白半分にワックセットを出現させるかもしれない。これはかなり得な取引の筈である。チートの権利とワックセット…それを取り換えると言うのだ。もしゆうすけが神なら1も2もなくワックセットを出現させる。
・・・・もしそういう存在がいたらの話である。
何度も祈った後ゆうすけはそっと目を開けた。
当然そこにはワックセットは無かった。
別にがっかりなんてしない。元々期待なんてしてなかったし。
それにしても静けさが耳に痛い。シーンっていうこの感じ。俺凄く馬鹿みたいだ。
誰も見てなくて良かった…
「さてと気分転換も済んだし行くかな。」
ぱんぱんとお尻についた白い砂を払うと立ち上がる。もう歩けそうだ。
恥ずかしさを紛らわせるためわざと大きくつぶやく。
それにしてもああ腹が減った…異世界にワックはあるかな。
おなかが減ったなぁ。そう思うゆうすけの前髪を微風が撫でた。おっ涼しい
立ち上がったゆうすけが歩くのを再開しようとした。その時
ドォン…
不意に遠くで音がした。
「ん?」
ドォン…ドォン…
それは何か大きな質量が何度も叩きつけられる様な重低音
「なんだ?なんだ??」
今までずっと静かだった空間に突如放り込まれた得体のしれない轟音
その変化についていけずゆうすけは戸惑う事しかできない。
ドォン…ドォンドォンどぉん!
心なしかこっちに近づいて来てる気がする
「え?やばい?これやばい??」
ゆうすけの背筋をつるりと何かが滴り落ちる。
噴出した冷や汗が全身を滑りおちていく。
それは本能が発した危険信号である。
くるっ
回れ右をするとゆうすけは全力で駆け出した。
進むとか進まないじゃない。
部屋を出るんじゃなかった。
半泣きで今まで来た道をゆうすけは駆け抜ける。
どぉん!!どぉん!!
もうかなり近い。
回廊が一本道で会ったのが災いした。
これじゃあ何処にも隠れる事が出来ない。
自分の部屋まではまだかなり距離がある。あそこまで逃げ切れるとはとても思えない。
気がつけば轟音はちょっと気を抜けば追い抜かされてしまうぐらいに
すぐ真後ろにまで迫っている。
死神の息遣いまで聞こえてきそうだ。
ゆうすけはまだ一度も後ろを振り返っていないが、この謎の音がなんであるかとっくに理解していた。
これは追う音である。得体のしれない巨大な何かが今自分を追っている音だ!
「はぁ…!はぁ…!」
息が切れる。
「今まで部屋で引きこもってるっ…ひゅーッ!!間ちょっとでも…!!」
足が痛い。幾ら息を吸い込んでも肺が急速な負荷に悲鳴を上げている。
運動不足だったゆうすけの肉体は今ここにきて、肉体の酷使に明確な反旗を翻していた。
「体鍛えとくんだった!!」
半泣きで叫ぶゆうすけ
だがそれはいまさらの話である。後悔するのが致命的なまでに遅い。
アクションゲーですら苦手なのに、得体のしれない何かから30分以上全力で逃げ続けるなんて出来るわけがない。
俺はここで死ぬんだろうか。いやだ誰か助けて。
神様!!
走りながらゆっくりと振り返ったゆうすけが見たものはおおよそ想像通りのものだった。
回廊いっぱいに広がる巨大な鳥の二つの鉤爪。見上げるような高さから二つの蜥蜴の頭が垂れさがってる
それらは涎をぽたぽたと垂らしながら自分だけを見つめていた。
股が冷たい。
脳内の恐怖を急速に絶望が駆逐していく。
「俺もう駄目」
きゅっと目を瞑るとゆうすけは小さく丸まってその場に命と体を投げ出した
どーにでもなーれ。
ゆうすけ諦めるの巻
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