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【デスクから】
「琵琶湖は、近畿の水がめ」はもうやめよう
新聞やテレビなどのニュースで「近畿の水がめ」という言葉を見聞きすることがある。琵琶湖の水が、京阪神など淀川水系エリアの水源となっていることを取り上げる際、しばしばこういう比喩が用いられるのだ。
しかし、滋賀県は、琵琶湖を「水がめ」と表現するのを避けている。「琵琶湖はただの水の入れ物ではなく、人々の努力で水質や水量が保たれ、湖によって生活している人も多い」という考えからだそうだ。平成7年には当時の稲葉稔知事が「それ(水がめ)は無機質な入れ物を意味し、必要なとき、必要なだけくみ出す意識が働いているような気がしてならない」と議会答弁で嫌悪感をあらわにしたほど。県の公式ホームページでも、琵琶湖を紹介しているところでわざわざ「琵琶湖は水瓶?」と取り上げ、県の考え方を説明している。
報道する側は必ずしも県の方針に従う必要はなく、自分が適切だと思う比喩を使えばいいと思うが、それにしても、今の時代、「水がめ」と聞いてどれくらいの人がピンとくるだろうか。「琵琶湖は近畿の貯水槽」「ポリタンク」などと例えるのもしっくりこない。
産卵期を迎えた湖の固有種・ビワマスが、生まれた川を下り琵琶湖で数年間回遊したあと元の川へ遡上(そじょう)する-そんな話を聞くと、やはりこの湖は単なる水の器ではない、奥深い存在に違いないと思ってしまう。
(大津支局 小林宏之)