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「朝日は赤くなければ朝日ではないのだ」過激な天才、赤瀬川原平を追悼2■パロディの刃

2014年11月16日 10時50分

ライター情報:近藤正高

赤瀬川原平『櫻画報大全』(新潮文庫、1985年)
「朝日ジャーナル」で連載された赤瀬川のパロディイラスト「櫻画報」の単行本を文庫化したもの。巻末には、連載終了から14年を経て「櫻画報」を振り返った、赤瀬川ほか松田哲夫・呉智英・南伸坊・四方田犬彦といった人たちによる座談会を収録する。

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「1」より続く
私が初めて赤瀬川原平の名前を知ったのは小学生のときだったと思う。『別冊一億人の昭和史 昭和マンガ史』(1977年)という本が家にあって、それに「マンガ昭和無署名犯罪史」と題する赤瀬川の描き下ろしイラストが載っていたのだ。

8ページにわたるこのイラストは、大正末の関東大震災から刊行当時に世間をにぎわせていたロッキード事件まで、半世紀のあいだに起こった犯罪事件を各時代のマンガの主人公とともに描いたものだ。そこではたとえば、昭和30年代前半のヒーローである月光仮面が、カミナリ族(暴走族の元祖)と呼ばれる若者たちとともにオートバイで疾走している。しかしよく見ると月光仮面のバイクにはタイヤがなく、その車体はキノコ状の何やらニョキニョキ伸びた物体に乗っかっている。

その物体が一体何なのか、子供だった自分にはわからなかった。だが高校生ぐらいになってあらためて見て、それが男性のナニであり、しかも障子を突き破っていることに気づきハッとなった。そう、この絵は、石原慎太郎の小説『太陽の季節』のかの有名なシーンのパロディでもあったのだ。それは障子の破れ目から、太陽が顔をのぞかせていることからもあきらかである。「太陽」と月光仮面の額の「三日月」が対置されているところにもしびれる。まあ『月光仮面』の原作者の川内康範がこれを見たら、きっと気を悪くしたことだろうが(そもそもこのイラストは、版権とかちゃんとクリアしていたのだろうか……)。

『昭和マンガ史』には、この描き下ろし以外に、赤瀬川のイラストの代表作である「櫻画報」から抜粋した図版も収録されていた。もちろん子供にはその意味するところなど理解できなかったが、何か見てはいけないヤバいものを見たような気がした。そのため私のなかで赤瀬川原平は、よくわからない、何やらおどろおどろしいものを描く人だという印象がしばらくのあいだ残った。

「櫻画報」や「マンガ昭和無署名犯罪史」、あるいは私が先日べつのところでとりあげた「論壇地図」は、赤瀬川が1970年代に雑誌などに多数発表してきたパロディイラスト、パロディジャーナリズム作品の一角を占めるものだ。今回は赤瀬川が何をたくらんでパロディに手を染めたのか見ていきたい。

■朝日新聞社の雑誌を“乗っ取った”「櫻画報」
赤瀬川のイラストでも「櫻画報」は社会的にも話題を呼んだ作品だ。最初の連載誌「朝日ジャーナル」は、1960年代末の大学紛争のさなか、「週刊少年マガジン」とともに学生のあいだでよく読まれていた雑誌である。

ライター情報

近藤正高

1976年生まれ。サブカル雑誌の編集アシスタントを経てフリーのライターに。著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。一見関係なさそうなもの同士を関係づけてみせる“三題噺”的手法を得意とする。愛知県在住。

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