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NHK、予算上限、約190億円 ネット事業拡充に民放社長ピリピリ

産経新聞 11月16日(日)12時18分配信

 NHKがインターネット業務拡充に向けてまとめた新たな「実施基準」の要綱をめぐり、民放に警戒感が広がっている。NHKは一部のスポーツ中継などをテレビ放送と同時にネット配信することを例示しており、民放からは民業圧迫を懸念する声が続出。放送と通信(ネット)の融合に課題が山積するなか、NHKと民放の「二元体制」のあり方が改めて焦点化してきた。(三品貴志、本間英士)

■「想定より広い業務」

 「想定より業務範囲が広いという印象を受けた。NHKは受信料制度との整合性をどう説明するのか」

 TBSの石原俊爾社長は10月29日の記者会見で、NHKが28日に発表したネット業務の実施基準要綱に絡み、こう牽制(けんせい)した。

 実施基準は放送法改正に伴い、NHKのネット業務の大枠や費用などを規定するもので、要綱はそのたたき台。NHKは今月11日まで実施しているパブリックコメントを踏まえ、改めて実施基準案を作成し、総務相に認可を申請する。

 要綱では、災害などの緊急時に加え、スポーツの生中継など「社会的な関心に応えようとする場合」に番組をネット同時配信することを明記。また、番組放送中にネット経由で番組を巻き戻して再生できる「時差再生」も業務に盛り込んだ。

■予算上限、約190億円

 NHKは具体的な対象番組やサービス内容を毎年度、「実施計画」として策定する方針で、実施基準はそれに先立つ“大方針”といえる。そのため、要綱には抽象的な表現も多く、テレビ東京の高橋雄一社長は「分からない部分が多い」と困惑。同時に、「配信分野でNHKに突出されれば、民間の多様なサービスが成り立たなくなる」と訴えた。

 民放側の懸念は、NHKが豊富な予算を背景に無料配信を充実させれば、広告収入や有料配信で成り立つ民放ビジネスが圧迫されかねないという点にある。NHKが要綱で、ネット業務の予算上限を「受信料収入の3%(190億円程度)以内」と設定したことにも抵抗感は広がっている。

 既に一部スポーツ中継のネット同時配信に取り組んでいるWOWOWの和崎信哉社長は、この上限額について、「われわれの規模からするとすごい額。非常に大きなものが出てきた」と驚いた様子で語った。

■国も巻き込み議論を

 一方、要綱では市場競争への影響に配慮することも明記され、NHK経営企画局は「3%はあくまで上限。額は今後、精査する」と説明。総務相が実施基準を審査する際も「受信料制度の趣旨に照らして不適切でないこと」などのガイドラインが設けられている。

 籾井勝人(もみいかつと)会長は6日の会見で、「受信料を払っている人とそうでない人の間に差が出るのはフェアでない。野放図にネットで番組が見られるわけではない」と、当面、サービスは限定的になるとの見通しを示した。

 一方、フジテレビの亀山千広社長は「NHKには具体的なビジョンを語ってほしい」と注文を付けつつ、「国も巻き込んでテレビの将来像を議論し、早く結論を導かないといけない。NHKによって、良い意味で意識させられた」と、二元体制の緊張感をかみしめるように語った。

■広告はネット配信に大きな壁

 民放にとって、番組のネット同時配信には大きな“壁”がある。スポンサーとのCM契約はテレビ放送のみを前提にしており、番組をネット配信する際のCMのあり方についての議論は始まったばかり。また、仮に在京キー局が番組を全国に同時配信すれば、地方の系列局の視聴率が下がり、広告収入の減少につながる恐れも指摘されている。

 このため、在京キー局5社は現在、まずは見逃した番組をネットで無料視聴できる「見逃し配信」導入に向けた検討を進めている。ただ、多くの放送局幹部が口にする大きな課題が、権利処理の難しさだ。

 番組のネット配信は著作物の2次利用に当たり、出演者などの許諾を再び得なければならない。フジの亀山社長は「権利処理だけで多大な労力がいる」と語り、手続きの煩雑さがNHK、民放を問わず、番組のネット配信や海外展開の壁になっている現状を指摘。著作権法改正や規制緩和に向けた議論の必要性を訴えている。

 改正放送法 今年6月の参院本会議で可決、成立し、来年4月に施行される見通し。NHKのインターネット業務拡充や地方民放の経営支援が主な柱。NHKにとっては「テレビの全ての番組の同時提供」を除くという条件付きで、放送と同時のネット配信が解禁。ラジオ番組の同時配信やネット経由の情報をテレビなどに表示する「ハイブリッドキャスト」も恒常的業務に位置付けられた。

最終更新:11月16日(日)13時43分

産経新聞

 

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