顧客の離反に現実味/第14部・東北電の難路(6完)逆風

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顧客の離反に現実味/第14部・東北電の難路(6完)逆風

太陽光で発電した電気の明かりの下、作品を手掛ける佐藤さん

<脱原発ののろし>
 縦120センチ、横50センチ。小さな太陽光パネルの購入は、脱原発へのささやかな「のろし」のつもりだった。
 宮城県丸森町耕野の画家佐藤路代さん(40)が、自宅に発電装置を備えて11月で1カ月になった。発生したエネルギーは売電せず、全て照明や携帯電話の充電などに活用している。
 2009年6月、仙台市から丸森町に移住した。荒れ地を耕し、沢水をくむ。あこがれの田舎暮らしは、東京電力福島第1原発事故で一変した。放射線量が跳ね上がり、沢水はもちろん、里山のまきも暖房に使えなくなった。
 「原発で生まれる電力を使えば、事故時には利用者も責任の一端を負わなければならない」と佐藤さん。東北電力との契約は続いているものの、将来的には自力で全量を賄うことも考えている。

<調達先切り替え>
 東北電は今、「安価な料金」「安定供給」を旗印に原発の再稼働を急ぐ。だが、原子力に依存する経営戦略は顧客の離反を招く可能性も秘めている。
 宮城県美里町は昨年12月、50キロワット以上の高圧電力の調達先を東北電から切り替えた。競争入札を経て町が選んだのは、原発を持たない新電力だった。
 町を踏み切らせたのは、月40万円以上という電気料の差額だけではなかった。相沢清一町長は「町は脱原発を掲げている。原発に依存する会社の電気は使いたくなかった」と説明する。
 東北電が女川原発を置く宮城県内では、美里町を含む10市町の議会が脱原発を求める意見書を可決。岩手、山形両県の複数の地方議会も同様の意思を表明している。今後、電力の調達で美里町に同調する自治体が出ても不思議ではない。

<600億円失う恐れ>
 原子力災害に直面する福島では、原発への逆風がより鮮明だ。
 河北新報社が9、10月に福島県民200人に実施したアンケートでは、6割近くが「同じ料金なら、原発に依存しない電力会社から電気を購入したい」と回答。4人に1人は「(契約先の変更で)10%以上値上がりしても構わない」との考えを示した。
 電気の購入先を各家庭が選択できる電力自由化が2016年に迫っている。仮に消費者がアンケート通りの行動に走れば、東北電は福島だけで年間600億円分の売り上げを失う計算となる。
 福島の事故は宮城など周辺県でも深刻な放射能汚染を引き起こした。風評被害は東北全域に及ぶ。住民の原発不信は広く、根深い。
 「(顧客離れの)リスクはあり得る」。ことし9月に行われた東北電の定例記者会見。海輪誠社長は原発維持に伴う負の影響を認めざるを得なかった。(原子力問題取材班)

[新電力] 正式名称は特定規模電気事業者。電気事業法改正に伴い、2000年から大口需要家向けに参入が可能になった。大手電力の送電網を使い、自社工場の自家発電の余剰分などを契約先に供給する。ことし10月末までに約400社が経済産業省に届け出ており、電力小売りが完全自由化される16年に向けてさらに増える見込み。既存の大手電力会社は一般電気事業者と呼ばれる。


2014年11月15日土曜日

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