公立小学校の35人学級制を、財政再建のために40人学級制に変更する―。財務省がそんな計画を目論んでいる。政府内では下村博文・文部科学大臣がその方針に反発しているが、財務省は一体何を考えているのだろうか。
学校では、1クラスの生徒数は少ないほうがいいというのは、何となくみんなが感じていることだろう。生徒数が多ければ、先生の目が届かなくなり、生徒のほうも先生からみられていないと学習に身が入らない。このようなことは常識だと思うが、財務省はそう考えないということか。
海外の事情はどうなっているのか、調べてみた。
OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の小学校の平均学級規模は、28・0人(OECD平均21・6人)と、韓国、チリに次いで3番目に多い。主要国の学級規模の基準を見ると、イギリスは第1~2学年で30人上限、フランスは平均で17~20人、アメリカとドイツは州によって異なるが、アメリカは第1~3学年で24人上限、ドイツは1~4学年で標準24人となっている。日本より海外のほうが学級生徒数が少ないことがわかる。
学級規模と学習効果の関係については、海外でかなりまとまった研究の蓄積がある。学級規模の縮小が学力テスト得点の向上、積極的な授業参加態度、退学の減少など、何らかの効果ありとするものが多い。
もちろん、親の立場から見れば、学級規模は小さければ小さいほどいい。しかし、小さくなるほどにカネがかかるので、先進国の基準は20~30人程度となっている。
財務省は、各省庁や族議員の無理な予算要求を抑えるために、国際比較や研究成果をしばしば使う。しかし、この「40人学級化」では、そうしたまともな資料を無視して、「35人」でも「40人」でも違いはあまりないという感覚的な言い方しかしない。
これでは、文科省と議論しても財務省に勝ち目はない。しかも、財務省の言う通りに「40人学級化」しても、年間カットできる予算額は100億円程度だ。文科省予算の中では比較的大きな金額であるが、100兆円の一般会計からみれば、0・01%にしかすぎず、誤差の範囲程度だ。
それにもかかわらず、財務省がこうしたことを持ち出すのは、それ自体ではなく別の目的があるからだ。しかも、なぜ今のタイミングなのか。
学級規模については、教育政策の基本的な方向を定めるので、法改正をともなう。当然、それを変更するときには、いろいろな手順を踏んで、予算編成の前に行うのが通例だ。今回は法改正などの議論ではなく、予算編成中に財務省がいきなりタマを投げつけた感じだ。
ずばり言おう。財務省のいう「40人学級化」は財政危機を煽るためのものだ。消費再増税が景気の低迷で危うくなりそうなので、消費再増税しないと「40人学級化」になるぞという脅しである。財務省は「すべての道は消費増税に通ず」と考えているので、油断も隙もあったものでない。
というわけで、「40人学級化」を騒げば騒ぐほど、財務省の思惑通りということになる。多くの大マスコミも消費再増税に賛成なので、財務省に媚びてこの話題をことさらにクローズアップしているようだ。
正しい態度は、「40人学級化」のような根幹政策の変更なら、もっと前からきちんとした手順を踏まえてから言え、と財務省を一蹴することだ。
『週刊現代』2014年11月22日配信より
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