韓国の朴槿恵大統領への名誉毀損(きそん)で、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が在宅起訴された問題で、「国益を損ねる」との懸念が韓国内で広がっている。言論の自由や人権の問題で、自国の国際的イメージが著しく失われることを心配したものだ。“大統領の名誉”を守るために下した外国記者への処分が、皮肉にも、外から見た韓国の印象を失墜させている。(ソウル 名村隆寛)
■まずいことに…
ソウル中央地検が加藤前支局長を出頭させ、事情聴取を始めた8月の時点で、すでに韓国では「当局はやり過ぎだ」のと意見が一部の新聞メディアに出ていた。市民団体の告発を受けたものとはいえ、外国人記者への“異例の措置”だったからだ。
知人の韓国外務省OBは、当初から「(韓国にとって)まずいことにならなければいいが…」と問題の外部(海外)への拡散、さらには外交問題化をしきりに気にしていた。
10月2日に行われた3回目の事情聴取まで、日本のほか、欧米など各国メディアが韓国当局の措置に批判や懸念を示す報道を展開。日本新聞協会編集委員会が「強い懸念」を、日本ペンクラブは「深く憂う」とする声明を発表した。さらには、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が韓国当局に対し、起訴しないよう求める声明を出した。
韓国内部での“静かな懸念”は現実となった。こうした中、検察は8日、加藤前支局長の在宅起訴に踏み切ったわけだ。
起訴処分について韓国メディアでは否定的な見解が目立った。
「大統領の名誉を守ろうとし、国家の名誉を失墜させてしまう」(京郷新聞)。「(韓国に)実益はない。韓国は言論弾圧国となった。起訴は(韓国にとっての)負けだ」(東亜日報)。「(起訴処分は)外交的損失で国の恥。朴大統領が自ら収拾すべきだ」(ハンギョレ紙)などとの見方だ。
国会でも、「韓国が言論の自由のない国であることを世界に広めてしまった。不必要な行為だ」「韓国の国益を損ねてしまった」と非難の声が起きた。
「韓国政府の中でも憂慮の声が出ている」(京郷新聞)のは事実で、多くを語らなくとも、「やってしまった」「まずい」と本音を漏らす政府関係者もいる。