解散、課題置き去り 秘密法、選挙戦に紛れ施行
安倍晋三首相が衆院解散を決断したことで、年内を目標としていた北朝鮮による拉致被害者らの再調査初回報告がさらに遅れる公算が大きくなった。一方、政府は国の機密を漏らした公務員らに刑事罰を科す特定秘密保護法を予定通り12月10日に施行する方針。「大義がない」と批判される解散の陰で、重要課題である拉致問題の解決は遅れ、秘密保護法は選挙戦に紛れてスタートしそうだ。
拉致再調査をめぐって政府は10月下旬、代表団を北朝鮮・平壌に派遣。当初は「夏の終わりから秋の初め」としていた初回報告の時期について正式合意はできなかったが、菅義偉官房長官は「常識的には年内」との見方を示していた。
解散が迫る中、政権内では「北朝鮮は当然、日本の状況を見ている。普通に考えれば(年内報告は)なくなる」(政府筋)との見方が広がる。13日には超党派の「拉致救出議員連盟」(平沼赳夫会長)が総会を開いたが、議連幹部は「大義なき解散によって、拉致という最重大課題が滞る恐れがある。年内の初回報告は難しいだろう」と語った。
拉致被害者家族会などは同日、政府に初回報告の期限を年末にするよう申し入れた。家族会の飯塚繁雄代表は「解散になれば、拉致をはじめ山積する課題への取り組みが止まる。拉致も1カ月間、動かないことが予想される」と懸念した。
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政府は閣議で、秘密保護法施行日を12月10日とする政令を決定。衆院選は「12月2日公示、14日投開票」か「12月9日公示、21日投開票」が有力とされる。いずれも施行日は選挙戦の最中となるが、政府高官は「施行日と解散は関係ない。粛々とやる」と明言する。
ただし、国会にチェック機関として設置する「情報監視審査会」のメンバー構成や、専従スタッフの調査権限などはまだ決まらず、宙に浮いた状態だ。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「マスコミや世間の関心が選挙に向けられる。こうした状況で法が施行されれば、社会の監視の目が弱まる懸念は拭えない」と指摘する。
=2014/11/14付 西日本新聞朝刊=