「反省も謝罪もひとかけらも感じられないまま、裁判が締めくくられた。これがオウムなんだと改めて思いました」。地下鉄サリン事件で、霞ケ関駅助役だった夫の一正さん(当時50)を亡くした高橋シズヱさん(64)は21日、判決後に東京・霞が関の司法クラブで記者会見し、悔しさをにじませた。
一連の事件の裁判を430回以上傍聴したという高橋さん。この日も最高裁第1小法廷の傍聴席の最前列で、遠藤被告の上告棄却の主文を聞き、裁判長が閉廷を告げると、立ち上がって深く一礼した。
裁判は終わっても、心にはわだかまりだけが残る。「責任のなすり合い、極刑逃れ。誰が本当の事を言っているのかいまだにわかりません」
裁判の終結が近づいた最近は、毎日のように事件を思い出した。「病院で『お父さん、お父さん』と泣いていた子どもたち、ひつぎの中の主人の姿。今でもあの時の感覚が忘れられない」と表情を曇らせた。判決確定前の20日、一正さんの墓前で「明日裁判が終わるよ」と報告したという。
事件後、高橋さんは被害者・遺族救済活動の先頭に立ち続けてきた。「被害者と遺族の違いで誤解が生じたり、遺族同士が傷つけ合う状況になったりした。服役囚や死刑囚は私たちの苦しみや怒りを想像することもできないはず」と言葉を振り絞るように話した。