書店の本棚に所狭しと並べられ、毎月入れ替わる書籍を、選んで買って一から読むよりも、面白い本の要約だけ摘まむ方が時間とお金の節約になる、という発想で、本のまとめサイトが昔から需要ある気がします。
自分も「本の要約サイト | flier(フライヤー)」に登録していて、本を買う参考にしたり、読んだ後の振り返りに活用してます。同様のサービスではブクペが有名ですが、それ以外にも個人サイトやブログ、メルマガが有料・無料でありますね。
こういう本のまとめサービス系、便利なのですが、著作権はどうなるんだろう?と仄かに気になってました。詳し過ぎる本のまとめだと「要約で内容分かったし買うのはいいや」があり得そうで。自分で読書案内ブログもしてますしねー。どこからが著作権の問題が発生するか?のラインを改めて知るのは必要だと。
そんなわけで暇な土曜日、少しだけ真面目に「本のまとめと著作権の関係」について調べて考えてみました〜ノ*゚▽゚)ノという記事です。
「本のまとめ」といっても具体的には、
- 「転載・引用」の手法をとる場合
- 「要約」(いわゆる「翻案」)の手法をとる場合
が考えられるので「転載・引用」「要約(翻案)」のパートに分けてます。引用型だと、キュレーションサイト「Naverまとめ」の本のまとめ。要約型は「flier」や「ブクペ」といったサービスをイメージしてます。
なお「著作権が問題になる場合」を調べたので、著作者が利用許諾してる/喜んでいる場合などは、そもそも発生しない問題と思われます(例えば前述のflierは「出版社に利用許諾を得、さらに、出版社編集者によるチェックを得て要約を提供」してます。)
素人がかじった程度の情報なので、詳しくはそれぞれの原典をご覧くださいませ。
転載・引用について
転載は、人の著作物をコピーして、他の場所で公開することです。基本的には著作者の許諾が必要で、無断転載が可能な場合は限られてます。
引用は転載の一種。著作権法では、著作者への許諾を求めてはいないため、合法的な無断転載とも言えるかと。
著作権の本丸、文化庁のページ(著作権なるほど質問箱)に、例外的な無断利用(引用・転載)が出来る場合の見解が示されてます。それによると、著作者から許諾を得ずに無断利用できるのは、
「行政の広報資料」等の転載(第32条第2項)
「新聞の論説」等の転載(第39条))
「政治上の演説」「裁判での陳述」の利用(第40条第1項)
である旨が示されてます。出所の明示や同一性保持の話などもありますが、やや逸れるので割愛。
「本のまとめ」に限って言えば、後段の転載は考える必要はなさそうなので引用についてだけ深堀して考えますノ*゚▽゚)ノ
「『公正な慣行』と言える『正当な範囲内』」の引用の仕方とは?ですが、こちらも上述の文化庁のページ(著作権なるほど質問箱)が詳しいです。
文化庁サイトでは、写真パロディ事件(第1次上告審 昭和55.3.28)といった判例の蓄積から、実務的な判断基準として、次の3点を上げています。
[1]主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること
[2]明瞭区分性:両者が明確に区分されていること
[3]必然性:なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性が該当します。
主従関係は、例えば、何十頁も本の内容を引用した上で「~と思いました。~を見習いたいです。」といった一言を添えたぐらいでは、引用と認められないということ。明瞭区分性は、引用箇所が鍵括弧「」などで明確に見分けがつくこと。必然性は、それを引用する目的がないと駄目ということ。
引用箇所の明確化は当然として、著作者の許諾を得ずに「引用」型の本のまとめサイトを合法的にやるには、主従関係と必然性の観点から、書評・レビュー的な「自分の考え」が必須になるのですね〜(゚ー゚*)ナットク!
photo by Tulane Public Relations
要約(翻案)について
要約について、同じく文化庁のページ(著作権なるほど質問箱)がわかりやすい。
要約は、著作物の内容をある程度概括できる程度にした著作物のことをいいますが、この要約を行う行為は、一般に翻案権(第27条)が働く行為とされており、著作権者の了解なしにはできません。ただし、ごく簡単に内容を紹介する程度の文書であれば、著作権者の了解は必要ないと考えられています。
また、要約の著作権法的に言い換えた*2「翻案」とは何か?を深堀すると、江差追分事件(第1次上告審 平成13.6.28)によれば、
言語の著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を 創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為
とのこと。判決の江差追分事件では、文字情報をテレビのナレーション(音声情報)に使用したのではないか、が裁判の発端となっています。同一媒体(文字⇒文字)だけでなく異種媒体(絵⇒文字)での翻案も著作権の対象となります。今風でいえば、ラノベでキャライラストを書いたりとか。パロディよりオマージュ要素が強いので、お目こぼし&歓迎も多そうですが。翻案権が働く場合、著作者の許諾を得る必要があります。ラノベのアニメ化、映画化を勝手にやっちゃ駄目、のイメージは湧きやすいですね。
前述の文化庁のページでは「ごく簡単に内容を紹介する程度」なら「著作権者の了解は必要ないと考えられている」としてますが、判例を見ると、この紹介の程度には大分余地がある印象です。例えば、
要約は、これに接する者に、原著作物を読まなくても原著作物に表現された思想、感情の主要な部分を認識させる内容を有しているものである
コムライン・ディリー・ニュース事件(東京地裁 平成6.2.18)
「現著作物を読まなくても主要な部分を認識させる」要約はダメ、となっています。文化庁の見解よりは少し緩やかな印象。
他には、「法廷日記」(id:aiben様)が以前取り上げてましたが、
「ビジネス書を原稿用紙10枚程度にまとめます」の宣伝文句で会員を集め、毎月本の要約文を電子メールで送る有料サービスを、著作者に無断で行った会社が、著作者二訴えられ最高裁まで争った裁判です。その会社名から「コメットハンター事件」判決とも言われ、これも本を読まなくても分かる翻案、と見なされ原告の著作者側の勝訴で終わってます。
判例ベースで考えると「○○に関する32の法則」中、4つの法則を抜粋して要約し感想を合わせて書く、みたいなやり方であれば問題ない、のかな?でも、2割が言いたいことで8割はその補完といわれるビジネス書で「2割の言いたいこと」を要約するのは本質的にはグレーな気もしますー・・・「買う意欲」は損なわれそう。
文化庁の見解と判例の中間地点「ごく簡単に内容を紹介する」から「現著作物を読まなくても主要な部分を認識させる」の間で、「要約」型の本のまとめサイトなんかは試行錯誤で頑張ってる訳ですね。
調べてみて思った。
いくつかの本のまとめサイト・メルマガを登録してみたのですが、著作者への利用許諾を事前に取って、著作権自体を問題にしないサイトが多い気がします。ノウハウがあるのですねー。更には、先日読んだ「なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門」(岡田斗司夫,福井健策)では、著作権法自体の時代遅れ感を、著作者自らが指摘していたり、デジタル時代を迎えての著作権のあり方も変わるのだろうなぁ。
一方で、個人ブログになると結構著作権の扱いは雑な印象です。本人やプロバイダーへの削除要請、裁判コストを考えれば、許諾を得ない全文要約の個人アフィリエイトブログがあったとしても、現実、訴えられることはほぼないと思いますけども。作品のファンが通報して、ブログの規約違反扱いでアカウント削除の方が現実的かなー?とか。
でも、なんで著作権法があるか?を考えれば、例え目先の利益があっても「してはならない」以前に「やらない」と思えますノ*゚▽゚)ノ あ、何だかルールというよりモラルの問題にまとめて終わってしまった・・・。そんな訳で、ブログで本を紹介する際は留意して書いていきたいな、という結論で〆です。長文お粗末でしたー。