八尺様 ラスト
翌朝。
気だるく重たい上半身を起こしながら、順平は頭をポリポリと掻いた。
――痛っ……!
頭痛が酷く、吐き気も相当なレベルだ。
そしてどこか……体が浮き上がるような……ふわりと浮遊感を感じる。
順平はそれを風邪に似たような症状だと自己診断した。
けれど、下戸では無い大人であれば、誰しも一度がその経験があるだろう……あの症状に近い。
それはつまり、今の彼の症状は、重度の二日酔いのソレに近いと言う事だ。
ステータスプレートを取り出し、順平は苦笑する。
・HP 1262/1755
・MP 180
・攻撃力 255 (サブ武器併用時:245) 順平の基本値:5
・防御力 5
・回避率 3000
……たった一晩で、HPが3分の1近くも削られている。
――確かに、何度も何度も搾り取られた。
口で、股の中で、あるいは肛門で。
魅了の効果のせいかどうかは分からないが、明らかに人間の雄に許された精力の限界を超えた……情事だった。
深い、深いため息。
「全く……とんだところで初体験って奴だな」
そうして、順平は、自らの傍らで泡を吹き、痙攣する長身の女に視線を送った。
「今朝……ケロっとした表情で、なおも咥えこむ……お前を見た時、正直……お前には神経毒が通用しないんじゃないかって……冷や汗もんだったぜ?」
笑いながら、女の頭を撫でる。
そして。
そりゃあそうだろう、と順平は思う。
――ピクピクと痙攣している長身の女。
彼女は……ケルベロスさえも完全に沈黙させた毒物を、口で、中で、あるいは肛門で……その全てを美味しそうに受け止めたのだ。
そして、女は――白目を剥きながら、順平に疑問を問いかける様に声をかけた。
「……ぽ?」
そう、八尺様は確かに順平に魅了を仕掛けて、その効果は確かに現れた。
だからこそ、彼女は全ての警戒を解いて情事に及んだのだが……そこで順平は彼女に憐憫の微笑を送った。
「汎用状態耐性だよ。仮にこれが、耐性では無く、無効であれば……お前もあるいは、俺への警戒を解かなかったのかもしれねーな」
『つまり……?』とでも言いたげに、女は床にはいつくばりながら、首を傾げた。
「敢えて……お前に食われてやったんだよ。デカ女」
そうして、順平は拳銃を取り出し、女に向かって零距離射撃を行った。
パン、パン、パン、パン、パン。
乾いた音が幾重にも重なり、周囲は硝煙の香りに満たされる。
「銃は効かねえか……」
ダメージを与えられた形跡がない事から、順平は溜息をついた。
そして、懐からケルベロスの犬歯を取り出した。
――属性:神殺し。
順平は、何故に長身の女にダメージが通らないかは理解している。
で……あれば……。
と、力任せに、八尺様の頬に犬歯を突き付けた。
けれど、ダメージは通せない。
ほんの……うっすらと、血の雫が微量に流れる程度にしか傷をつける事は出来ない。
「牙は通らない……と。いや、正確に言うと……通らない事は無い。ただ……クソみたいに固い」
で、あれば……と順平は醜悪に笑った。
「内部から攻めた方が都合は良いな」
「ぽ……ぽ……」
順平の言葉。
その意味を理解して、鳴き声を上げる女。
それに対し、順平はケルベロスの犬歯を見せつけながら、こう言った。
「遠慮すんなって。好きなんだろ? 昨晩は酷かったよな? 知ってるぜ? 突っ込まれるのが……好きだってことはな。なら、本当に遠慮すんなって!」
そして、続けた。
「お前の望む通り、好きなだけほじくりまわしてやるよ。体中の穴と言う穴を……なっ!」
そうして、順平は――ケルベロスの犬歯を、彼女の穴と言う穴に突き刺し始めた。
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
舞い散る血液、飛び散る肉片。
そこで、順平は、頬に血化粧を行ったまま、心底嬉しそうに――笑いながら叫んだ。
「はい、遠路はるばるよくぞ来てくださいました八尺様……って事で――」
そして、続けた。
「――経験値、ごちそうさんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、順平は長身の女の解体を始めた。
見えた範囲内では、有効なスキルは無かった、そうであれば、あるいは彼女に期待できるのドロップアイテムかもしない。
それだけを目当てに、光り輝く四散する彼女のカードを拾い集める。
そして、一枚一枚を吟味し、そして確認する。
「ハハハ……フハハハっ!!!」
そこで、順平は、とあるカードを確認し、笑い始めた。
・神の祝福:八尺様
神の加護により、全ステータスに+100の補正。
その他、固有スキルである、デス・ストーカー(超級)のスキルを得る事が出来る。
ただし、代償として、デス・ストーカーを使用した際は、一晩の間……淫夢に悩まされる。
※ 特殊カードであり、スキルでは無い。
「オーケー……この代償は……確かに、多少は疲れるだろう……それは実践済みだ。で……それでも……疲れる程度だ。代償としては、ほとんど気にすることは無い」
そうして、彼は八尺様のカードを取り込んだ。
そして、スキルスロットを使わずに得る事が出来たスキル……デス・ストーカーを発動させる。
――スキル:デス・ストーカー(超級)
狙った獲物は逃がさない。
自らの記憶と同一視できる対象。
その対象を、一定の範囲内に置いて知覚・認識・把握し、ホーミングミサイルよろしく、常に追い続ける事が出来る。
良し、と順平は思う。
これで……とりあえず……一連の復讐に必要な材料は揃った訳だ。
試しに、デス・ストーカーのスキルを作動せる。
彼の知る由も無い事だが、彼の右目が、黒色から金色に変わり、いわゆる――オッドアイに変質する。
理屈では無く、鑑定スキルの影響でも無く、それは体で、あるいは脳で感じられた。
今、この瞬間……半径……数十キロの範囲内。
そこに木戸、紀子、その取り巻きがいたとする。
その場合、確実に奴等を補足できる。
理屈でも、推測でも無く、ただ、それをそこにある事実として――順平は認識した。
……これはいわば、高性能のレーダーだと考えればいいだろう。
と、そこで彼は異変に気付いた。
自らの眼球……右目が移す画像がおかしい。
何と言うか……ノイズが混じっていると言うか、何というか。
例えば、眼鏡をかければ、眼鏡そのものに、絵が描かれていたかのような。
彼が狼狽したのにも理由があるし、それは無理のない事だった。
――網膜に映ったその映像。それは、3頭身の、アニメのようなキャラクターだった。
白いワンピースに、フチの長い帽子。
そして……妙に長い手足。
でも、それはアニメのキャラのようで……年の頃には10歳未満にしか見えない。
「八尺……様?」
恥ずかしげに頬を染めたそれは、コクリと頷いた。
「なん……で?」
脳裏に、あの音が響く。
「ぽっ……ぽっ……」
ただ、恥ずかしげに、彼女には首を左右に振った。
そして、先ほど……殺されたはずの彼女に、順平は『もしや……と』背中に冷や汗をかいた。
更に、スキルについて鑑定を進める。
スキル:デスストーカー(超級)
使用すると、その日の晩に淫夢にうなされる。
――ひょっとしてこいつ……。
そして、思う。
――最初から、これを狙って……? 次元を超えて……更に……肉体を超えて……俺と……一緒に、一つになる為に? あの特殊カードを……取り込ませる……為に? 全ては……この為、その為だけに……?
網膜に映る映像では、デフォルメされた八尺様は微かに微笑を携え、こちらに向けて小首を傾げているだけだった。
「…………」
しばしの沈黙。
幾ばくかの逡巡。
網膜に映る女を眺めながら、順平は思わず呟いてしまった。
「もう、害は無いんだよな?」
女は頷き、順平も続けた。
「……その姿だと……意外に……可愛いじゃねーか?」
その言葉を受けて、3頭身の女はその頬を真っ赤に染めて、そして……しばし驚いたように固まった。
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