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異世界迷宮探索者 ~成り上がりダンジョンシーカー~ 作者:サカモト666

八尺様  ラスト

 翌朝。
 気だるく重たい上半身を起こしながら、順平は頭をポリポリと掻いた。



 ――痛っ……!



 頭痛が酷く、吐き気も相当なレベルだ。
 そしてどこか……体が浮き上がるような……ふわりと浮遊感を感じる。

 順平はそれを風邪に似たような症状だと自己診断した。
 けれど、下戸では無い大人であれば、誰しも一度がその経験があるだろう……あの症状に近い。

 それはつまり、今の彼の症状は、重度の二日酔いのソレに近いと言う事だ。


 ステータスプレートを取り出し、順平は苦笑する。


・HP   1262/1755
・MP    180
・攻撃力   255 (サブ武器併用時:245) 順平の基本値:5
・防御力     5
・回避率  3000






 ……たった一晩で、HPが3分の1近くも削られている。

 ――確かに、何度も何度も搾り取られた。

 口で、股の中で、あるいは肛門で。

 魅了の効果のせいかどうかは分からないが、明らかに人間の雄に許された精力の限界を超えた……情事だった。

 深い、深いため息。

「全く……とんだところで初体験って奴だな」

 そうして、順平は、自らの傍らで泡を吹き、痙攣する長身の女に視線を送った。

「今朝……ケロっとした表情で、なおも咥えこむ……お前を見た時、正直……お前には神経毒が通用しないんじゃないかって……冷や汗もんだったぜ?」

 笑いながら、女の頭を撫でる。

 そして。
 そりゃあそうだろう、と順平は思う。


 ――ピクピクと痙攣している長身の女。


 彼女は……ケルベロスさえも完全に沈黙させた毒物を、口で、中で、あるいは肛門で……その全てを美味しそうに受け止めたのだ。

 そして、女は――白目を剥きながら、順平に疑問を問いかける様に声をかけた。

「……ぽ?」

 そう、八尺様は確かに順平に魅了を仕掛けて、その効果は確かに現れた。

 だからこそ、彼女は全ての警戒を解いて情事に及んだのだが……そこで順平は彼女に憐憫の微笑を送った。

「汎用状態耐性だよ。仮にこれが、耐性では無く、無効であれば……お前もあるいは、俺への警戒を解かなかったのかもしれねーな」

『つまり……?』とでも言いたげに、女は床にはいつくばりながら、首を傾げた。

「敢えて……お前に食われてやったんだよ。デカ女」

 そうして、順平は拳銃を取り出し、女に向かって零距離射撃を行った。

 パン、パン、パン、パン、パン。

 乾いた音が幾重にも重なり、周囲は硝煙の香りに満たされる。

「銃は効かねえか……」

 ダメージを与えられた形跡がない事から、順平は溜息をついた。

 そして、懐からケルベロスの犬歯を取り出した。

 ――属性:神殺し。

 順平は、何故に長身の女にダメージが通らないかは理解している。

 で……あれば……。

 と、力任せに、八尺様の頬に犬歯を突き付けた。

 けれど、ダメージは通せない。

 ほんの……うっすらと、血の雫が微量に流れる程度にしか傷をつける事は出来ない。

「牙は通らない……と。いや、正確に言うと……通らない事は無い。ただ……クソみたいに固い」

 で、あれば……と順平は醜悪に笑った。

「内部から攻めた方が都合は良いな」

「ぽ……ぽ……」

 順平の言葉。
 その意味を理解して、鳴き声を上げる女。
 それに対し、順平はケルベロスの犬歯を見せつけながら、こう言った。


「遠慮すんなって。好きなんだろ? 昨晩は酷かったよな? 知ってるぜ? 突っ込まれるのが……好きだってことはな。なら、本当に遠慮すんなって!」

 そして、続けた。

「お前の望む通り、好きなだけほじくりまわしてやるよ。体中の穴と言う穴を……なっ!」


 そうして、順平は――ケルベロスの犬歯を、彼女の穴と言う穴に突き刺し始めた。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 舞い散る血液、飛び散る肉片。

 そこで、順平は、頬に血化粧を行ったまま、心底嬉しそうに――笑いながら叫んだ。

「はい、遠路はるばるよくぞ来てくださいました八尺様……って事で――」

 そして、続けた。

「――経験値、ごちそうさんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」









 そして、順平は長身の女の解体を始めた。
 見えた範囲内では、有効なスキルは無かった、そうであれば、あるいは彼女に期待できるのドロップアイテムかもしない。

 それだけを目当てに、光り輝く四散する彼女のカードを拾い集める。

 そして、一枚一枚を吟味し、そして確認する。

「ハハハ……フハハハっ!!!」

 そこで、順平は、とあるカードを確認し、笑い始めた。



・神の祝福:八尺様

 神の加護により、全ステータスに+100の補正。
 その他、固有スキルである、デス・ストーカー(超級)のスキルを得る事が出来る。
 ただし、代償として、デス・ストーカーを使用した際は、一晩の間……淫夢に悩まされる。


 ※ 特殊カードであり、スキルでは無い。




「オーケー……この代償は……確かに、多少は疲れるだろう……それは実践済みだ。で……それでも……疲れる程度だ。代償としては、ほとんど気にすることは無い」

 そうして、彼は八尺様のカードを取り込んだ。

 そして、スキルスロットを使わずに得る事が出来たスキル……デス・ストーカーを発動させる。





 ――スキル:デス・ストーカー(超級)

 狙った獲物は逃がさない。
 自らの記憶と同一視できる対象。
 その対象を、一定の範囲内に置いて知覚・認識・把握し、ホーミングミサイルよろしく、常に追い続ける事が出来る。




 良し、と順平は思う。
 これで……とりあえず……一連の復讐に必要な材料は揃った訳だ。




 試しに、デス・ストーカーのスキルを作動せる。
 彼の知る由も無い事だが、彼の右目が、黒色から金色に変わり、いわゆる――オッドアイに変質する。

 理屈では無く、鑑定スキルの影響でも無く、それは体で、あるいは脳で感じられた。

 今、この瞬間……半径……数十キロの範囲内。
 そこに木戸、紀子、その取り巻きがいたとする。

 その場合、確実に奴等を補足できる。

 理屈でも、推測でも無く、ただ、それをそこにある事実として――順平は認識した。

 ……これはいわば、高性能のレーダーだと考えればいいだろう。






 と、そこで彼は異変に気付いた。
 自らの眼球……右目が移す画像がおかしい。

 何と言うか……ノイズが混じっていると言うか、何というか。
 例えば、眼鏡をかければ、眼鏡そのものに、絵が描かれていたかのような。

 彼が狼狽したのにも理由があるし、それは無理のない事だった。


 ――網膜に映ったその映像。それは、3頭身の、アニメのようなキャラクターだった。


 白いワンピースに、フチの長い帽子。
 そして……妙に長い手足。

 でも、それはアニメのキャラのようで……年の頃には10歳未満にしか見えない。

「八尺……様?」

 恥ずかしげに頬を染めたそれは、コクリと頷いた。

「なん……で?」

 脳裏に、あの音が響く。

「ぽっ……ぽっ……」

 ただ、恥ずかしげに、彼女には首を左右に振った。

 そして、先ほど……殺されたはずの彼女に、順平は『もしや……と』背中に冷や汗をかいた。



 更に、スキルについて鑑定を進める。




 スキル:デスストーカー(超級)
 使用すると、その日の晩に淫夢にうなされる。




 ――ひょっとしてこいつ……。

 そして、思う。

 ――最初から、これを狙って……? 次元を超えて……更に……肉体を超えて……俺と……一緒に、一つになる為に? あの特殊カードを……取り込ませる……為に? 全ては……この為、その為だけに……?

 網膜に映る映像では、デフォルメされた八尺様は微かに微笑を携え、こちらに向けて小首を傾げているだけだった。


「…………」

 しばしの沈黙。
 幾ばくかの逡巡。
 網膜に映る女を眺めながら、順平は思わず呟いてしまった。

「もう、害は無いんだよな?」

 女は頷き、順平も続けた。

「……その姿だと……意外に……可愛いじゃねーか?」

 その言葉を受けて、3頭身の女はその頬を真っ赤に染めて、そして……しばし驚いたように固まった。







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