八尺様 その5
――5年後。
山と森と田しかない、はっきり言ってしまえばド田舎の十字路。
「参ったな」
そう呟いたのは赤髪灼眼の少年だった。
見た所の年齢は12、3歳。中性的な顔立ちで、カーキー色の短パンにジャケット、そしてハンチング帽と言う出で立ちだ。
そこは群馬県の山奥の集落……神は深いため息をついていた。
「……あの世界に遊びに行こうと思っていたら……彼のレベルはまだ1000には届いていないじゃいないか」
しばし歩き、神はバス停へと辿り着いた。
別に、バスに乗るつもりも無いけれど……つまりは、彼の目的はバス停に備え付けられている、古ぼけたベンチだ。
「どっこいしょ」
溜息と共に、神は頭を抱え込んだ。
「あの世界に転移する為の中継地点としてここを選んだってのに……まさか……順平君がレベル1000に達していないとは……これは想定外。いや、正直、ボク、ノリノリだったんだよ? 狭間の迷宮に関与する気マンマンだったんだよ!?」
そして、彼はその場で叫んだ。
「あああああああああああああ! イライラするうううううううううううううううう!!!!!!!!!!」
そうして、彼はパチンと指先を鳴らした。
すると――微かに、地面が揺れた。
――何が起きていたのかを具体的に説明すると、地球の奥底、マントルに近い部分で、とある変異が起きていた。
その結果として……通常では地震の起きにくい地域、ロシアにおいて、マグニチュード7.8を超える地震が起きたのだが、それはまた別の話。
「良し、多少は気が紛れた」
そこで、神は顔面を蒼白とさせた。
「ロシア……あの国はテトリースと言う名作ゲームを作った国……しまった……」
がっくりとうなだれ、彼は傍らに置かれていた鞄から、駄菓子――美味い棒を取り出した。
「まあ……美味い棒のチーズ味があれば、それで良いか」
何でも無さそうに気を取り直した神は、そこで首を左方に向けて、そして頷いた。
――ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ。
いつのまにやら、神――否、少年の前には、2メートルを超える、長身の美女が立ちはだかっていた。
そして、少年に向けて、笑みを浮かべる。
それに応じて、少年も笑みを浮かべた。
そこで、長身の女は大きく頷いて、艶のある微笑を少年に送った。
そうして、少年を抱きすくめるべく、両手を差し出し――
――その両手の手首は、少年の両掌によって掴まれた。
「……ぽっ?」
軽く小首を傾げる女に、少年はクスリと笑う。
「あの世界基準では、魅了スキル……達人級と言った所か」
想定外の事態に、どう反応したものか……と長身の女は小首を傾げたまま、困ったような表情を作った。
そこで、少年は長身の女の手首を捻りあげた。
具体的にいうと――逆関節が完全に極まった。
苦痛に女は顔を歪め、少年は愉悦に顔を歪めた。
「……集合意識。都市伝説……その元ネタとされる妖魔の類だね」
「ぽっ……」
「そして、彼を追っている……か。これは面白そうだ。だが、このままでは……少し、狭間の迷宮に行くには……力が弱いね。これでは彼がレベル1000には達しない。いや、それ以前に、下手をすれば高ランク冒険者に打ち取られかねないレベルだ」
そして、少年は女の両手首から掌を外し、パンと手を叩いた。
「僕は、僕による、僕の為の演劇の舞台を整えているんだ……だから君に力を授けよう。君に対し、彼がどう対処すか……見物だしね。本番……復讐の前に、そこで彼が命を落としたとしても、それはそれで喜劇としては面白い」
「……ぽ?」
ポカンとした表情の女――八尺様に、少年は掌をかざした。
「遠慮する事は無いよ、これは元々は君の力だ。人間達の持つ集合的無意識――都市伝説の怪異となったキミへの、これは正当な評価。ボクは宙に漂うぼんやりとした、その集合的無意識に志向性を与え、それを元ネタのキミに還元したに過ぎない。創造神である僕は完全なる別格として……まあ、人間たちの思う神ってのは実在するんだよ。人間の作り出した神魔の数々……その大体は信仰心やあるいは伝承上の恐怖、ありとあらゆる人類と言う種としての、その集合的無意識に基づき――発生したモノだ。そして君も、それらとは規模は違えど、都市伝説の中に生きる化生の類でもあるんだ。つまり、下級とは言え――」
そして、続けた。
「――神の眷属となる資格がある。そして、神であれば……次元を渡る事も可能だ」
って事で……と神は、再度掌をパシンと叩いた。
「行ってらっしゃいっ!」
そうして、八尺様は突然に現れた、異世界へのゲートを潜ることになった。
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