地元振興も防災費も/第14部・東北電の難路(5)負担
<村の投資穴埋め>
青森県東通村の役場近くに7ヘクタールの更地が広がる。村が2012年のオープンを見込んでいた「地域産品直売所」の建設予定地だ。事業は同年3月に中断が決まり、今は雑草が生い茂る。
頓挫のきっかけは、東京電力福島第1原発事故だった。
村内には東北電力東通原発が立地し、東電も原発新設を計画している。直売所の事業費約16億円の大半を両社が折半する予定だったが、収支悪化で立ち消えとなった。
林春美副村長は「地域振興に欠かせない」と事業再開に意欲を示すものの、実現の見通しは立たない。代わりに村は12年5月、東北電から約6億円を受け取った。土地造成費など村の先行投資の穴埋めだった。
東北電は「村と培ってきた信頼関係を重視した」と説明。ともに支援するはずだった東電には分担を求めず、東北電が肩代わりする形となった。
<「予想以上の額」>
東北電はこれまで地元対策として原発周辺でさまざまな寄付、事業協力を重ねてきた。女川原発がある宮城県内でも旧牡鹿町(現石巻市)、女川町の町立病院の建設や設備導入に総額40億円近くを援助したことがある。
「援助は予想を上回る金額だった」。建設を推進した木村冨士男元牡鹿町長は振り返る。
豊富な資金で地域を潤し、原発への理解、協力を求める。東通村の事例は、地域と電力会社の関係が福島の事故後も変わっていないことを物語る。
従来の地域振興を目的とした資金提供に加え、東北電は今、自治体の防災コストの負担も迫られつつある。
青森県は「防災事業の財政需要が増した」として12、14年度に核燃料税の税率引き上げに踏み切った。念頭にある事業の一つが、むつ市と七戸町を結ぶ下北半島縦貫道(約68キロ)の整備促進だった。
<避難道整備図る>
下北半島には東通原発や核燃料サイクル施設が集中立地する。南北に走る2本の国道はいずれも幅員が狭く、非常時の混雑が懸念される。
縦貫道があれば円滑な住民避難が可能になるが、完成しているのは全線の3分の1程度。工事費確保に向け、県が頼ったのが電力会社だった。
再稼働の手続きが進む九州電力川内原発(鹿児島県)でも、避難バスや備蓄食糧などを九電が一部負担する方向で調整が進んでいる。
未曽有の原発事故が起きた今、地元自治体が事業者に防災費の負担を求めるのは当然の理屈とも言える。曖昧な地元振興などより、はるかに優先度は高い。
「原発が再稼働しなくても、施設内で保管されている使用済み燃料は残る」と宮城県庁の担当者は話す。原子力災害にいかに備え、安全を確保するのか。責任と負担の在り方を考え直す作業が求められているのは、停止中の原発も例外ではない。
2014年11月14日金曜日