揺らぐ「安価な発電」/第14部・東北電の難路(4)競争
<関電が火発計画>
仙台市宮城野区の仙台港エリアで今秋、石炭火力発電所の新設計画がにわかに持ち上がった。関西電力と大手商社それぞれの子会社の共同事業とみられている。
関電が東北に発電プラントを設置した実績はない。同社は「計画の公表段階にない」と説明を拒むが、業界では電力小売りの自由化をにらんだ動きと受け止められている。
建設が見込まれる土地の対岸では、東北電力の新仙台火力発電所が稼働している。東北電関係者は「東日本進出の足掛かりにするのでは」と動向に神経をとがらせる。
これまで大手電力がシェア争いを演じることはほとんどなかった。迫り来る競争時代は各社に新たな戦略を求めるだけでなく、原発の優位性をも揺るがそうとしている。
<収入下振れ懸念>
ことし8月、原子力の在り方を検討する経済産業省の小委員会が興味深い資料をまとめた。
「投資が回収できなくなるリスクが顕在化」「計画より早い廃炉で多額の損失が発生」。原発を持たない事業者が数多く新規参入すると想定される自由化後をにらみ、課題を列挙した。
原発への巨額投資は長期稼働が前提となる。自由化による価格競争で販売収入が下振れすれば、収支計画は大幅な見直しを強いられかねない。
「既存施設はきっちり運用するが、新増設には(収益を確保できる)制度が必要」。東北電の海輪誠社長は公的な価格安定策に期待を寄せる。
電力各社の懸念に応えるように、経産省小委員会は既に一つの方向性を示している。「原発で発生した電気は一定価格で販売する」。事実上の収入保証だ。
だが、売り上げを確保したにせよ大きな課題が残る。国内で使用済み核燃料の再処理、最終処分などに必要な費用は政府試算で19兆円に迫る。東北電は再処理費として現状1000億円規模の積み立てを行っているものの、十分とは言い難い。
<「経営の重荷に」>
安定収入や再処理を支える費用は最終的に消費者につけ回しされる。東北大大学院の長谷川公一教授(環境社会学)は「再処理費を含む原発の発電コストは決して安くない。事故リスクを勘案すれば経営の重荷になる可能性もある」と指摘する。
そもそも電力各社が出資する日本原燃(青森県六ケ所村)の再処理工場は、稼働時期が見通せない。最終処分に至っては候補地すら定まっていないのが実情だ。
東京電力福島第1原発の事故を受け、国は原発の寿命を原則40年と定めた。長期稼働の前提が崩れる中、「安価な発電手段」という原子力の輝きは確実に色あせている。
「東北電は原発から身軽になり、首都圏などに攻め込むべきではないか」。自由化の潮流を踏まえ、長谷川教授は大胆な経営戦略を提言した。
[電力自由化] 電力小売市場にさまざまな事業者の参入を認める規制緩和措置。従来は大手電力が地域ごとに独占してきた。2000年から段階的に市場開放が進み、現在は工場や店舗など契約電力50キロワット以上の分野が対象となっている。16年をめどに家庭部門も含めて全面自由化される。
2014年11月13日木曜日