5兆元規模の信託投資が返ってくるか
問題は、不動産バブルが崩壊したあとに中国経済がどうなるのかであるが、現在、全国の不動産投資のGDPに対する貢献度が16%にも達しているから、バブル崩壊に伴う不動産投資の激減は当然、GDPの大いなる損失、すなわち経済成長のさらなる減速に繋がるにちがいない。しかも、バブル崩壊のなかで多くの富裕層・中産階級が財産を失った結果、成長を支える内需はますます冷え込み、経済の凋落によりいっそうの拍車をかけることとなろう。しかし問題の深刻さは、それだけのものにはとどまらないのである。不動産バブルの崩壊に伴って、その次にやって来るのはすなわち全国規模の金融危機の発生なのである。
今年3月26日、中国新華通信社傘下の『経済参考報』は、中国の金融事情に関する記事の1つを掲載した。金融市場で大きなシェアを占める「信託商品」は、今年から来年にかけて返済期のピークに達し、約5兆元(約82兆円)程度の貸し出しが返済期限を迎えることになるという。
ここでいう「信託商品」とは、正規の金融機関以外の信託会社が個人から資金を預かって企業や開発プロジェクトに投資するものであるが、高い利回りと引き換えに元金の保証はまったくないリスクの高い金融商品だ。中国の悪名高いシャドーバンキング(影の銀行)の中核的存在はまさにこれである。
問題は、返済期を迎えるこの5兆元規模の信託投資がちゃんと返ってくるかどうかである。申銀万国証券研究所という国内大手研究機関が出した数字では、全国の信託投資の約52%が不動産開発業に投じられているという。じつはそれこそが、信託投資自体だけでなく、中国経済全体にとっての致命傷となる問題なのである。
前述において克明に記したように、いまの中国で、信託投資の半分以上が注ぎ込まれている不動産開発業自体は、まさに風前の灯火となっているからである。バブルが崩壊して多くの不動産開発業者が倒産に追い込まれたり深刻な資金難に陥ったりすると、信託会社が彼らに貸し出している超大規模の信託投資が踏み倒されるのは必至のことである。9月19日付の『中国経営報』の関連記事によると、中国河北省の邯鄲市ではいま、「金世紀地産」などの多数の不動産開発社の経営者たちが、約100億元(約1800億円)以上の「信託投資」負債を踏み倒して続々と夜逃げしていったという。邯鄲で起きているようなことは今後、全国的に広がっていくこととなろう。
前述のように、信託投資の不動産業への貸し出しはその融資総額の約半分にも達しているから、今後において広がる不動産開発企業の破産あるいは債務不履行は、そのまま信託投資の破綻を意味するものである。そしてそれはやがて、信託投資をコアとする「影の銀行」全体の破綻を招くこととなろう。
しかし融資規模が中国の国内総生産の4割以上にも相当する「影の銀行」が破綻でもすれば、経済全体の破綻はもはや避けられない。いまでは、中国経済はただでさえ失速している最中であるが、今後において、不動産バブルの崩壊とそれに伴う金融の破綻という2つの致命的な追い打ちをいっせいにかけられると、中国経済は確実に「死期」を迎えることとなろう。
じつは今年4月あたりから、中国政府は一部銀行の預金準備率引き下げや、鉄道・公共住宅建設プロジェクト、地方政府による不動産規制緩和など、あの手この手を使って破綻しかけている経済を何とか救おうとしていた。だが全体の趨勢から見れば、政府の必死の努力はほとんど無駄に終わってしまい、死に体の中国経済に妙薬なしということである。
肝心の命綱を失った韓国経済
中国経済がこういう状況となると、中国に進出している日本企業と日本経済がかなりの影響を受けることになるだろうが、おそらく日本以上に深刻な影響を受けて、中国経済の破綻と共倒れする危険性のもっとも高い国はやはり韓国であろう。今年の4月3日、韓国銀行は、昨年の韓国経済の対外依存度が105%となって3年連続100%を超えていると発表して世界を唖然とさせたが、じつは韓国最大の輸出国はまさに中国であり、対中輸出が毎年、韓国の対外輸出全体の25%以上を占めていることはよく知られている。ということは要するに、韓国経済の運命は完全に対中国の輸出によって左右されており、中国の景気のよし悪しは韓国経済の生死を決める最大の要素となっているのである。しかしいま、中国経済の高度成長は終焉してしまい、今後はバブルの崩壊と金融の破綻によって破滅への道を辿ることになるのは前述のとおりであるが、そのことの意味するところは要するに、韓国経済はその肝心の命綱を失ってしまい、中国経済の破綻の道連れになることであろう。
実際、中国の景気が徹底的に悪化して外国からの輸入が急速に冷え込んでいるなかで、韓国の対中国輸出はすでに低迷し始めている。今年9月2日、韓国の『朝鮮日報』は、「韓国の対中輸出が4カ月連続で前年割れした」と報じて韓国経済の先行きに不安を示したが、記事によると、韓国産業通商資源部の発表した数字では、韓国の8月の対中輸出は、前年同月比3.8%減少し、今年5月から4カ月連続で、前年同月を下回ったという。
つまり、韓国の対中輸出が減り始めたのは今年5月からのことであるが、じつはそれ以来、韓国経済は直ちに多大な影響を受けているようである。9月4日に韓国銀行が発表した第2四半期(4―6月)の国民所得統計では、名目でGDPが前期比0.4%減だったようで、金融危機当時の2008年第4四半期(10―12月)に記録した2.2%減以来、5年半ぶりのマイナスとなっているのである。おそらく今後、不動産バブルの崩壊と金融の破綻に伴って中国経済が破綻という名の「地獄」へ落ちていくと、韓国経済も道連れにされるようなかたちで、底なしの奈落へと転落していくのであろう。
中国にしても韓国にしても、本当は彼らにとって、いまや無意味な反日に熱を上げているどころではないのである。
プロフィール
石 平(せき・へい)拓殖大学客員教授1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。1988年来日、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。著書『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。
■Voice 2014年11月号【総力特集】さよなら朝日、ストップ増税
「権力は腐敗するから批判する」のがジャーナリズム。しかし、『朝日新聞』は「安倍政権は保守的だから批判する」のではないか。「原発はけしからん」から、東京電力を貶めようとする。常にオピニオンがあって、それに都合のよい事実(ファクト)のみを寄せ集め、記事として発信する。社会をよい方向に導いていこうとの気負いかもしれないが、傍から見ていると読者を洗脳しているようにしか思えない。偏差値エリートの多い新聞社ゆえ、啓蒙的で「上から目線」は避けられないのか。
最近、もう一つ許せないのが消費税増税論議だ。財政再建がわが国の喫緊の課題であることは承知しているが、景気を殺してまで急ぐ必要があるのか。橋本龍太郎政権と同じ道を辿るのではないかと心配になる。一般会計は膨らみ続けているが、歳出カットの話は聞かない。増税の前にやるべきことはあるはずだ。
そこで、今月号の総力特集は、「さよなら朝日、ストップ増税」と題し、各方面の識者に深く論じていただいた。
第二特集は、ウォン高に苦しむ韓国企業の現状を分析した「崖っぷちの韓国」。巻頭インタビューでは、いま最も注目を集めるノンフィクション作家の門田隆将氏に、これからのメディアのあり方を問うた。
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