また、あるIT関連企業の幹部は「削除作業は手間がかかる上、検索ソフトを提供している企業の利益にはまったくつながらない。裁判などで外部による明確な基準が出来上がって責任追及されることを避けるため、問題が指摘されれば個別に対応してきたのだろう」と指摘する。
5月のEU判決で注目を「忘れられる権利」だが、ネットという環境から外に目を向ければ決して珍しいことではない。
作家、柳美里さんの小説「石に泳ぐ魚」をめぐり、在日韓国人女性が「小説のモデルにされ、プライバシーを侵害された」として、柳さんと出版元に出版差し止めなどを求めた裁判がある。この訴訟では最高裁が14年、差し止めと損害賠償を命じた2審判決を支持して、柳さん側の敗訴が確定している。
最高裁は判決で、「小説の公表により、公的立場にない原告の女性の名誉やプライバシー、名誉感情が侵害されたもので、出版されることなどによって回復困難な損害を受けるおそれがある」と指摘。出版差し止めと賠償を認めた2審判決に違法はなく、表現の自由を保障する憲法にも違反しないとの判断を示した。
判決は「ここまでの表現は、差し止めに値する」という一般的要件は示されずに、柳さんの作品を個別判断するにとどめているものの、表現の自由とプライバシー侵害を考える上で、大きな存在感を示している訴訟だ。
この判決はいわば、アナログ時代の「忘れられる権利」を認めた判例と解釈することもできる。ただ、著作物は、作者や出版元の特定が容易だが、ネットは検索結果などのそれぞれのページについて、責任の所在が曖昧とされてきたため、問題を難しくしてきた。
柳さんの作品に対する最高裁判決は、文学など芸術作品の表現について「萎縮させる可能性がある」との批判も出た。実際に柳さんも判決後、一部を直した“改訂版”を再出版した。
それでは、グーグルに対する決定は影響がないのか。
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