1911年

 健全な身体を育成する為と団体行動の規律を普及させる目的で、日本国内で色々なスポーツの導入が行われていた。

 その中の一つにスキーがある。史実では本年に、テオドール・エードラー・フォン・レルヒが新潟県の陸軍歩兵連隊の青年将校に

 教えたのが日本におけるスキーの歴史の始まりだ。

 今回、陣内の手配により、史実より早く寒冷地帯の冬季行軍の技術の一つとして広まっていった。

 一部の部隊は雪上で高速移動が可能なスノーモービルを導入しているが、全ての部隊に行き渡るには費用が不足している。

 あまり経費が掛からずに導入できるスキーは、北方の軍においては必須の技量になっていた。

 そして軍にスキーが普及するのと並行して、渋沢の尽力もあってスキー場が国内の各地に建設されて、国民の娯楽の一つになっていた。


 カムチャッカ半島の開発は一部を除いて、あまり進められていない。中央シベリア高原やアルダン高原の開発を優先している為だ。

 ただレスナヤにある研究都市は例外で、多くの研究者が家族を連れて移住してきており、商業設備や娯楽施設も充実している。

 そして付近にあるスキー場は、レスナヤの研究都市に赴任してきた研究者の家族にとって憩いの場になっていた。


「うわー! また転んじゃったよ! 何時になったら上手く滑れるんだ!?」

「ストックの使い方が甘いんだ。まあ、努力してみるんだな。このスキー場は初心者向きで傾斜が緩い。

 スピードはあまり出ないから、練習コースには適しているんだ。一年以内には中級者コースに行けたら良いな」

「絶対に頑張って中級者コースに行ってやる!」


「あら、奥さんはお上手ね。ご主人から教わったのかしら?」

「ええ。主人は軍でスキーを教えているから、暇な時に教わったのよ。このスピード感が良いわよね」

「ちょっとしたスリルを味わえるものね。日常生活じゃ無理だもの。あたしも時間が空いたら、このスキー場に来るようになったわ」

「季節が限られているとは言え、内地より長い間にスキーが出来るものね。他にも娯楽はあるけど、身体を動かすスキーが気に入ったわ」


 研究都市には色々な娯楽施設はあるが、多くは室内施設になる。寒冷地帯であり、施設の大部分を地下に建設している為だ。

 その為に屋外で身体を動かせるスキーは、レスナヤの研究都市の住民にとって手軽に楽しめる娯楽として流行していた。


 陣内の所有する別荘の一つはレスナヤにある。定期的な視察の時に使用する目的だ。

 そして子供の要望もあって、スキーを楽しみに年に数回はレスナヤの研究都市を家族連れで訪れるようになっていた。

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 イタリアは出雲条約によって、リビアを開発する義務を負っていた。(史実ではリビアを巡ってオスマン帝国と戦争を行った年)

 当初は国内の雇用確保や建設資材の発注程度のメリットしか考えられていなかった。

 しかしリビアで油田が発見された事で、格安な価格の石油や他の鉱物資源が輸入され、イタリアの国内経済を大きく刺激していた。

 リビアもイタリアによってインフラが徐々に整備されて、国内の開発が進んだ事から国民の生活も改善されてきている。

 戦争を行った両国だが、お互いに恩恵がある事から政治や経済を含めて、交流が深まっていた。


 スペインも同じだ。スペインはリビアの開発義務は負ってはいないが、【出雲】からの要請でリビアの開発に関わっていた。

 こちらも格安資源が国内に流れ込み、スペインとリビアの関係は深まっていた。

 地図を見ると、イタリアとスペインとリビアは地中海を挟んだ隣国とも言える。

 お互いが発展して行くにはリビアの安全を保障して、地中海の航路の安全を守る事が必要だという認識が深まっていった。


 イタリアは戦争に負けたが、リビアからの経済的恩恵によって軍の再建は順調に進んでいる。

 スペインも1898年にアメリカとの米西戦争でかなりの被害を受けたが、時間が経過しているので軍の再建は済んでいる。

 問題はリビアだ。国民の生活が徐々に改善されているとは言え、列強の侵略を防ぐ軍隊を整えるには時間も資金も不足している。

 しかし、リビアが他の列強に侵略されるとイタリアとスペインは、格安資源の輸入が無くなるというデメリットが生じる。

 これらの理由から、【出雲】からの提案でイタリアとスペインとリビアの三ヶ国間で『地中海 防衛条約』が結ばれた。

 敵の侵略を受けた場合、地中海に限定して相互に支援を行う条約で主にリビアの防衛を目的にしている。

 イタリアとスペインの立場では、リビアの資源を格安で輸入できる特権を失う訳にはいかない。

 リビアにしても自費で満足な国防軍が整えられないなら、他に支援を頼むしか無い。お互いにメリットがある条約だった。


 ここで問題になったのは、リビアの以前の宗主国であるトルコ共和国(前身はオスマン帝国)と【出雲】だ。

 トルコは旧宗主国という立場から、リビアの一部の権益は所有している。しかし、国内開発に忙しいのでリビアにまで手が回らない。

 以前の宗主国としてはリビア防衛を目的とする『地中海 防衛条約』に加わった方が良いのだが、国力を考えるとそこまでの実力は無い。

 保護国として得たグルジアとクリミアの開発に責任があるし、バルカン半島もきな臭くなっているので、それに対応しなくては為らない。

 ドイツとの関係を深めつつあるギリシャとの関係も、徐々に悪化している。

 リビアとの関係はそこそこあるが、トルコが防衛条約に加盟した場合は色々な問題が生じる可能性がある。

 万が一、トルコとギリシャが戦争状態になった時に、イタリアとスペインも巻き込む可能性を指摘されたので、

 最終的に『地中海 防衛条約』に加わる事を断念した経緯があった。

 【出雲】はペルシャ湾の奥に本体があって、地中海ではドデカネス諸島しか関わる事は出来ない。

 どうしても主力は中東方面を向いている為に、正式に『地中海 防衛条約』に加わる事は断念していた。

 しかし、現在のリビア情勢を作り上げたのは間違いなく【出雲】であり、その責任から逃げるつもりは無い。

 その為に、ドデカネス諸島の駐留戦力だけは『地中海 防衛条約』に加わって、地中海の安全確保に尽力する事が決定された。


 尚、この『地中海 防衛条約』はイギリスとフランス、ドイツの批判を浴びていた。

 イギリスはエジプトを保護国としており、クレタ島を有する事から地中海に進出している。

 【出雲】が含まれているので可能性は低いが、自国の勢力の防衛計画に影響があるかも知れない。

 フランスの国土の一部は地中海に面しており、リビアの隣であるアルジェリアを領有している。

 隙あらばリビアへの進出を狙っていたフランスにとって、拙い事態なのは間違い無い。

 ドイツは地中海の奥にある中東のヨルダン、シリア、イラク(南部は除く)を支配している。

 特にドイツにとってイタリアは三国同盟の一角であり、『地中海 防衛条約』にイタリアが加わったとなると想定が狂ってくる。

 この三国からしてみれば、イタリアとスペインとリビアが条約を通じて同盟を結ぶとなると、自国の動きが制限される可能性もあって

 問題になると考えられた。その為に『地中海 防衛条約』が正式に発表されると、様々な圧力を掛けようとしていた。

 結局、日本と【出雲】が間に入り、侵略された時だけの相互支援を行うだけだと何とかイギリスとフランス、ドイツを納得させていた。

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 何とかリビア防衛の為に『地中海 防衛条約』を成立させた【出雲】は、次は中東地域の安全確保に向けて動き出した。

 対象範囲は『中東横断鉄道』で連結される各国だ。サウジアラビア王国、【出雲】、イラン王国、トルコ共和国が範囲になる。

 こちらも『地中海 防衛条約』と同じく、敵から侵略された場合に相互支援を行う条約だ。

 これには保護国は含まれない。条約に加盟する四ヶ国が敵の侵略を受けた場合に、相互に軍を派遣して侵略軍に対応する事になる。

 トルコ共和国の陸軍の数は多いが、空と海の戦力はまだ乏しい。イラン王国も同じだ。

 サウジアラビアに到っては、最低限の国防軍はあるが、陸軍も含めて列強の侵略から防衛する力は無い。

 【出雲】は人口が少ない事から、空と海の戦力は整っているが陸軍の数は圧倒的に少ない。

 これらの要因から、相互に欠けている部分を補填する為に『中東防衛条約』が四ヶ国間で締結された。


 こちらについては、ドイツから強い批判が出ていた。

 ドイツの支配地であるヨルダン、シリア、イラク(南部は除く)と複数の条約加盟国が国境を接しているので、利害関係が直接絡む。

 ロシアについては保護国は対象外に為っている事もあって、批判は出ていない。

 ドイツの批判については、攻めなければ条約は発動しないと強硬な態度で臨み、【出雲】は態度を変える事は無かった。

 民間の交易停止や血友病の症状の緩和薬の提供停止を盾に、何とかドイツの批判をかわしていた。

 これも予定される第一次世界大戦の時に、日本と【出雲】の関係国の安全を守る事が目的だった。


 尚、エチオピア帝国と【出雲】は、個別に相互の攻守同盟を結んでいる。

 対イタリア戦を戦い抜いて勝利した事で、関係がより深まっていた。

 マダガスカルは【出雲】の保護国なので、【出雲】が全面的に国土防衛に責任を持っている。

 地中海に続いて中東でも、日本と【出雲】の主導によって防衛条約が結ばれた事は、世界の多くの人達に衝撃を与えていた。

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 この時代では、強い国が理不尽とも言える理由で弱小国に攻め入って、占領・支配する事は良くある事だ。

 しかし、まったく関係が無い国にいきなり攻める事は少ない。事前に経済進出を行って現地に地盤を築き、権益を拡大させる。

 その後に他国との利害関係を調整しながら、金を掛けて軍を派遣しても占領すれば利益があると見込まれた時が戦争の危機になる。

 これらの状況を弱小国が回避する手段としては大国の庇護下に入って、ある程度の利益を大国に提供する見返りに守って貰う事だろう。

 それらの事が常識である時代に、『地中海 防衛条約』と『中東防衛条約』が結ばれた事は世界の多くの人達を驚かせていた。


「イタリアとスペインは、リビアの地下資源を格安で輸入できる権利を守る為に『地中海 防衛条約』を締結したか。

 【出雲】の目があるから強引な事は諦めて、真っ当な経済手段で利益を出す事をイタリアは選択した。

 後世で賢明な判断と評価されるか、不甲斐無い国と評価されるかは結果次第だ。

 そして『中東防衛条約』は別の観点から見ると、弱者同盟だと言える。トルコとイランの陸軍と【出雲】の空と海の戦力に期待したんだ。

 お互いの足りないところを補っている。サウジアラビアはおまけみたいなもんだな。【出雲】はかなり考えたみたいだ」

「攻め入った場合は条約の除外対象になって、攻められた時にしか発動しない条約だ。

 こうなると『環ロシア大戦』で示された【出雲】の実力を恐れて、列強はリビアと中東には手を出し難く為るだろうな」

「どうかな? 日本と【出雲】は表面だっては戦力の拡大を行ってはいない。

 もっとも『環ロシア大戦』の時は戦力を隠していた訳だから、日本と【出雲】の発表を鵜呑みには出来ないがな。

 そして列強はカムイ級を上回る戦艦を建造して配備し、飛行船も大部隊の配備を進めている。

 相対的に日本と【出雲】の戦力価値は低下した。それを補うのが今回の条約の真の目的かも知れん」

「【出雲】は空と海の戦力は充実しているが、人口が少ないから陸軍は少数だからな。その補填の意味か。

 条約加盟国が侵略側に回る可能性は元々少ないし、攻める側の列強が困った事になった訳だ」

「そうだな。これらの動きが全て日本と【出雲】の主導で行われたのが注目に値する。

 言い方を変えれば、日本と【出雲】は勢力圏の確保に必死に為っているという事だろう。囲い込みを始めたんだ。

 噂では東アジアでも同じ様な防衛条約を結ぶ動きもあるらしいが、事前に察知したアメリカが強硬に反対しているらしい」

「東アジアか。どこの国が条約に加わるかで変わってくるが、まだまだ戦争をしてでも勢力を拡大したい国にとっては迷惑な条約だからな。

 戦争を仕掛けた途端、他の条約参加国の援軍とも戦わなくては為らなくなる。これも立派な弱者同盟だ。

 ところで、日本が声をかけた東アジアの防衛条約の対象の国は何処なんだ?」

「日本を筆頭にハワイ王国、東方ユダヤ共和国、タイ王国、チベット、雲南共和国、フィリピン、南フィリピン、インドネシア、

 ベトナム、カンボジアの十一ヶ国だ。モンゴルはロシアとの関係が深まっているから除外したらしい。清国と大韓帝国は蚊帳の外だな。

 ハワイ王国と東方ユダヤ共和国とタイ王国は現状で日本と軍事同盟を結んでいるし、雲南共和国とベトナム、カンボジアは日本の保護国だ。

 今回は条約参加国の陸戦兵力の柔軟運用と、チベットとフィリピン、インドネシアの防衛の為の兵力派遣の口実作りだ」


 日本は全十一ヶ国を纏めて、『西太平洋防衛条約』を締結させようと計画していた。

 しかし南フィリピンに声を掛けたところ、アメリカに『西太平洋防衛条約』の事を通報されてしまった。

 南フィリピンはアメリカの影響が強く、声を掛ければアメリカに筒抜けになるのは最初から分かっていた。

 しかし、日本の立場では最初から南フィリピンを最初から除外する訳にもいかなかった。

 そしてアメリカはアジアの勢力拡大を考えている事から、全十一ヶ国の東アジアの防衛条約など認められる筈も無い。

 イギリスやドイツなどの強い反対もあり、『西太平洋防衛条約』の締結は難航していた。


「南フィリピン以外の国は、基本的に『西太平洋防衛条約』に賛成の立場だ。

 これ以上の領土拡張を考えなければ、相互防衛が期待できるんだからな。軍事費の削減にも繋がる。

 しかしアメリカの影響が強い南フィリピンは、地域の混乱の種になると懸念を表明している。

 ロシアは無関心だな。清国は防衛条約に入れろと騒ぎ出した。大韓帝国は痛烈に批判している。各国とも色々な反応だ」

「侵略した場合には適応されずに侵略を受けた時に発動する防衛条約は、現状維持を目的とするなら地域の安定になる筈なんだがな。

 領土拡張目的の戦争を考えている国にすれば、攻め難くなるから厄介な条約なのは間違いは無い。

 さて、イギリスとドイツの非難はあまり強くは無いが、アメリカはかなり強硬に反対している。日本がどう対応するかだな」

「アメリカの脅迫に屈して東アジアの防衛条約を諦めるか、アメリカとの対立を深めても防衛条約を結ぶかだ。

 どちらにしてもアメリカの触手が、今まで以上にアジアに伸びるのは間違い無いだろう。

 最近のアメリカと日本は比較的に関係は良好だったんだが、やはり自国の国益を重視するのは当然だからな」

「他国との友好関係を重視するあまり、自国の国益を損なうのは愚か者のする事だ。

 二十年前の日本ならともかく、今の日本でそんな馬鹿な事をするとは思えない。さて、どうなるか見物させて貰うか」


 地中海防衛条約や中東防衛条約、それに西太平洋防衛条約にしても当事者で無ければ高みの見物が出来る。

 しかし、利害が直接絡む場合は、当然だろうが真剣になる。アメリカはその国の一つだ。

 アメリカ政府内で真剣な議論が交わされていた。


「我々は清国については日本と良好な関係にあるが、フィリピンやインドネシアへの進出を諦めた訳では無い!

 他国と協力してでも、絶対に『西太平洋防衛条約』は潰すんだ! あの条約が成立すると、我が国の戦略は建て直しを迫られる!」

「し、しかし日本は強硬な態度を崩していません。侵略するのでは無く、お互いに侵略された場合の共同防衛条約を結んで何が悪いのだと、

 積極的に世界中に発信しています。そして南フィリピンを除外して、『西太平洋防衛条約』を締結させる行動を取っています」

「南フィリピンは我が国の影響下にありますが、『西太平洋防衛条約』が自国を除外して締結させる動きを知って少々狼狽してます。

 何とかしないと、南フィリピンにおける我が国の影響力の低下に繋がります」

「それと日本と対立を深めると、艦船の燃料補給の中継基地として使用している太平洋の日本の施設が、使えなくなる可能性もあります。

 その場合は、清国の植民地の維持に深刻な影響が出ますし、日本からの製品や部品の輸入が途切れる可能性もあります。。

 巫女の神託の件で関係が改善しつつある状態でしたが、このままでは我が国の外交戦略に重大な支障が出てしまいます!」

「うぬぬ! 空と海において日本を凌駕する戦力を整えたと言うのに、我が国は日本を屈服させられないと言うのか!?

 日本以外の国など碌な戦力を持っていない烏合の衆だぞ! 今の合衆国の戦力なら十ヶ国全てを相手にしても勝利できる!」

「一度に十ヶ国を同時に相手取って戦争など無茶過ぎます! 外交上、得策とは言えませんし、何より名分がありません。

 国内のユダヤ人も反発するでしょうし、最悪の場合は政権が倒れますぞ!」


 表面的には巫女の神託の件の謝罪をアメリカがした事で、日本との外交関係は改善していた。

 日本との関係を良くする事でアメリカ側の実利もあった訳だが、その影にはアメリカ国内のユダヤ人の圧力もあった。

 アメリカ国内のユダヤ人の数は少ないが、大部分が知識層であり富裕層でもある。

 数は少ないが、ユダヤ人はアメリカの社会に大きな影響力を持っていた。(移民が進んだ為、史実よりは影響力は低い)

 ユダヤ人の影響力に期待して東方ユダヤ共和国を立ち上げた訳だから、天照機関の長期計画は効果を上げていたと言えるだろう。

 しかし、現状に不満を持つ人間もいる。政府高官の一人は現状を打破するべく、突拍子も無い案を言い出した。


「……日本に良いように誘導されてしまったな。東方ユダヤ共和国を建国させたから、国内のユダヤ人は日本に好意的だ。

 しかし、我が国が太平洋とアジアに進出する時の壁として、日本は我々の進路を塞いでいる。

 日本を下して我が国が太平洋と中国に進出するには、まずは国内の掃除を行わなくてはならないな」

「掃除だと!? ……国内のユダヤ人を排斥しようと言うのか!? 彼らの人数は少ないが、国内に強固な勢力を築いている。

 マスコミに強い影響力を持ち、経済界にも彼らの勢力が広がっている。我が国のオピニオンリーダーの役を果たしているんだ。

 世界中に居るユダヤ人のネットワークも彼らを支えている! そのユダヤ人を排斥すると言うのか!? 国内が大混乱するぞ!」

「東方ユダヤ共和国の建国の経緯と地理的な要因から、日本人とユダヤ人を切り離すのは困難だと考えるべきだ。

 工場施設や資源と食料、エネルギー資源の輸入の多くを、ユダヤ人は日本に依存している。軍に関してもな。

 領土を与えてくれた恩義もあるから、ユダヤ人が日本人を積極的に裏切る可能性は低い。

 だったら合衆国のユダヤ人を切り捨てれば良い。成功したユダヤ人を妬んで、後釜に座りたいと考えている輩は多いんだ。

 そいつ等を唆せばユダヤ人との闘争が起きるだろうが、上手く誘導できればユダヤ人の資産の没収も可能になるかも知れん。

 何より国内のユダヤ人を排斥しないと、意思統一が出来ない。これは合衆国の未来の為だ!」

「ちょっと待て! 日本と戦う事を前提にしているが、日本と戦う事は巫女の神託も得られずに様々なデメリットが生じてしまう!

 何とか日本に干渉して、我々の有利な方向に向ける事を考えた方が良くは無いか!?

 経済的にも日本とは良好な関係を築いている事もあるし、一部の分野は日本からの輸入に頼っている業種もあるんだ。

 それに正面戦力の拡大を日本を行ってはいないが、『環ロシア大戦』の時のように隠し玉を持っている可能性もあるんだぞ!」


 史実と違って、日本からアメリカへの移民は進んでおらず、日本人の排斥運動に繋がる事は無い。

 淡月光や各企業の販売店が進出しており、現地の雇用に貢献しているくらいだ。

 一部には広大な農地開拓に取り組んでいる移民者も居るが、そちらは問題にはなっていない。

 依存を避ける為に、アメリカから日本への資源の輸入はあまり多くは無い。

 製品や部品については、日本からアメリカへの輸出がかなりのウエイトを占めていた。

 つまり、経済関係においては日米はそれなりの相互関係を築いていた。

 軍事的にはアメリカの戦力は日本を凌駕しているが、日本は戦力秘匿の前科があって、それを警戒する人間も多い。

 これらの理由からアメリカ政府内部においても、日本との全面対立を躊躇う声は多かった。

 しかしアメリカの国益を追求する時、どうしても邪魔になるのが日本の存在だった。


「巫女は病床に臥せっていて、まだ復活したという話は聞いていない。だったら当てにするべきでは無い。

 それに日本が譲歩しなければ、最終的に合衆国の国益の為に関係が悪化するのは仕方の無い事だ。

 最終的な合衆国の国益を守る為に、邪魔なユダヤ人を排斥するのは当然の事だろう。まあ、今すぐという訳では無い。

 十年以上も掛かる長期計画になるだろうが、計画を進めなければ何時までも結果は出ないんだぞ」

「合衆国在住のユダヤ人を排斥か。確かに困難だが、成功報酬も大きい。……我々の手先となって動く都合の良い駒の当てはあるのか?」

「最近の移民者の殆どが生活苦に悩んでいるから対象になる。その中でも特に有望なのが、大韓帝国の人間だ。

 領土をユダヤ人に奪われて、今じゃ僅かな領土しか無くて苦しんでいる。プライドもズタズタにされたろうしな。

 何より大韓帝国の皇帝になった李承晩は、我が国に留学していた時から日本人とユダヤ人の非難を繰り返していた。

 日本人とユダヤ人に対する怨みは尋常なものじゃ無い。頑張って動いてくれるだろう」

「……しかし情報部からの報告では、あの『東アジア紀行』や『朝鮮紀行』に書かれていたのは事実だとある。

 そんな奴らを使って大丈夫なのか? 裏切られる危険性があるだろうし、そんな奴らがユダヤ人に対抗できるとは思えん」

「奴らは強者に従う事大主義を身に付けている。最初からこちらが上だと分からせれば、大人しく従うと情報部の報告にある。

 「ごねた者勝ち」とか「大きな声を出せば優遇される」のが一般常識としてあるが、情けを掛けずに最初から厳しく扱えば良い。

 我々を裏切ったら、徹底的な報復をすると最初から脅かせば大丈夫さ。失敗すれば切り捨てるだけだ。

 それに頭を使ってユダヤ人に対抗させる訳じゃ無い。奴らは弱者に容赦なく攻撃できる性質を持っている。

 汚れ仕事には適任だろう。合衆国政府としては、公式にユダヤ人の排斥を行う事は出来ないからな」


 合衆国に根を張ったユダヤ人組織を排斥するのは容易な事では無い。

 しかし、成功すればユダヤ人組織が持っていた莫大な権益が手に入る。それに日本と戦う方向に国内の意思を統一できる。

 民主主義国家と言えども、利益の為にインディアンの虐殺を行った彼らだ。

 キリスト教と関係が悪いユダヤ人の排斥に、あまり罪悪感は湧かない。

 成功すれば世界中のユダヤ人ネットワークが敵に回るだろうが、別の生贄を用意しておけば良い。それが大韓帝国だった。

 合衆国政府としては直接は関与せずに、当て馬を使ってユダヤ人を排斥できれば得られる成果も大きいだろうと判断された。


「なるほど、裏工作の専用で使うという訳か。だが、奴らに接触する伝はあるのか? いきなりだと、向こうも警戒するだろう。

 確か皇帝になった李承晩が、こちらの大学に留学していたな。その時の友人関係を探ってみるか」

「大学での李承晩の成績は酷くて、自己中心的な性格だったから友人はいなかったらしい。そちらは探すだけ無駄さ。

 それより国内のバルナート財閥という小さな財閥が、李承晩の留学中に資金援助していた。

 その李承晩が皇帝になったもんだから、今は甘い汁を吸って急成長だ。江蘇省と安徽省の風俗施設の件は知っているだろう。

 あれはバルナート財閥のダミー会社が運営している。従業員は李承晩が国内から強制的に集めた若い女だ。

 現地に派遣した我が国の兵士も、かなり世話になっていると見えて、中々の売り上げらしい。

 ドイツの支配地にも風俗施設を運営しているからな。最近では好都合な事に、李承晩が派遣した若い男を傭兵として訓練している」

「バルナート財閥か。聞かない名前だが、李承晩に資金援助するという賭けに勝って急成長中か。

 それにしても人身売買に絡んだ財閥か。傭兵を訓練している事と良い、汚れ仕事をやらせるには相応しい相手だ。

 良いだろう。情報部に指示して、そのバルナート財閥と接触しろ! くれぐれも、こちらの素性は知られるな!

 こちらからの資金援助をちらつかせて、何とか我々の命令に従うように筋書きを作れ!

 何なら、そのバルナート財閥に何らかの便宜を図っても良い。直ぐに手配させろ!」


 バルナート財閥はアメリカの大手資本グループから比較すると、かなり小さい資本グループだ。

 活動範囲こそ広いが、大手の独占に悩みながらも、何とか業績を維持している。

 だが、大韓帝国との伝を持っているという事から、政府の要人からの注目を集めだしていた。

 そして、アメリカ政府の後ろ盾を得て、バルナート財閥は急成長を遂げていく事になっていく。

 それは転生者であるエドウィン・バルナートが、歴史の表舞台に出て行く契機にもなっていた。


 尚、アメリカは日本を蹴落とす為に、日英同盟の改定を求めてイギリスに圧力を掛け始めていた。

 現状の日英同盟は完全な攻守同盟であり、もしアメリカが日本と戦争を行った場合は、イギリスは日本を助ける為に参戦する義務がある。

 この日英同盟の対象について、アメリカを対象外とする交渉を進めていた。

 イギリスは世界に覇を唱える世界帝国だが、急成長を遂げているアメリカとの完全対立は望んでいない。

 その為に、イギリスは水面下で日本と交渉を行っていた。

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 ドイツ帝国は統一が遅れたので、植民地獲得競争に出遅れていた。

 その為に、皇帝ヴィルヘルム二世は、現時点で強烈な拡張政策を採っている。

 その結果が、オスマン帝国の領土だったヨルダン、シリア、イラク(南部は除く)の独立工作であり、清国では山東省と河南省の支配だ。

 カムイショックを受けて、ドイツでもカムイ級を上回る戦艦の建造と配備は進み、同時に大飛行船団の整備も行っている。

 次の戦争で有効と思われている新兵器の開発も順調に進んで、外交面でも成果を出しつつあった。

 国内の工業力も右肩上がりでドイツは目覚しい発展を遂げており、真の意味でドイツは強国と言えた。


 そんなドイツにとって、『地中海 防衛条約』と『中東防衛条約』、日本が主体で進めている『西太平洋防衛条約』は大きな問題だ。

 皇帝ヴィルヘルム二世は、最近は目覚しい成果を上げている甥のヴァルデマール・フォン・プロイセンに相談していた。


「地中海と中東で相互防衛条約が成立してしまった。これから勢力を拡大しようと考えていたので、少々拙い。

 我がドイツは強国だが、同時に多数の国と戦うと足元を掬われる可能性もある。

 そこに来て、今度は東アジアで日本を中心にした防衛条約が結ばれようとしている。ヴァルデマールはどう考える」

「地中海と中東で防衛条約が結ばれましたが、これに対抗するには些か骨が折れます。まあ、戦争をしなければ済む話ですが。

 向こうから我々の支配地に攻め入る可能性は低いですから、ヨルダン、シリア、イラクは支配の強化を続けていけば良いでしょう。

 幸いにも油田が発見された地域もあるので、開発を進めていけば我がドイツの利益になります。

 地中海の制海権の確保は難しいかも知れませんが、資源輸送ルートを確保する為にもバルカン半島への影響力の確保は必須です。

 ロシアがバルカン半島の工作を進めていますが、我々はギリシャを味方につけました。

 今後も外交工作を行って、ロシアの勢力の切り崩しを進めます。今のところは、防衛条約に加わった国と交戦するのは得策とは思えません。

 問題はアジアですね。ロシアとモンゴル、清国と大韓帝国は最初から条約対象外というのがポイントです。

 つまり、清国では領土拡張の支障は無いという事です。しかし、それ以外は防衛条約で固められてしまう。

 『西太平洋防衛条約』の締結を阻止できれば良いのですが、それは日本との直接対立を生んでしまいます。

 様々な工業製品や部品、それに血友病の症状緩和薬を日本から輸入している事を考えると、日本との対立を深める事は拙いですね」

「……ふむ。ほんの二十年前は発展途上国だった日本が、ここまで成長するとはな。我がドイツが日本と戦うのを躊躇するとは嘆かわしい。

 しかし、我がドイツの国力に比して植民地が少ないのも事実だ。何としても拡大させなくては為らん!

 その為の最大の障害がイギリスなのだが、日英同盟が邪魔をしている。

 情報部から報告があったが、日英同盟の対象から自国を除外するように、アメリカがイギリスに圧力を加えているらしい。

 これを上手く使えないものか?」

「日英同盟の対象から、我がドイツを外させるのはどうでしょう? それが出来れば、懸念は消えます。イギリスは渋るでしょうがね。

 ……私を日本に派遣して下さい。日本の政府高官と会って、何とか我がドイツの有利なように話をしてきます。

 成功確立は低いでしょうが、今後も日本との交渉は必要になります。最初の顔合わせ程度になるかも知れませんが」

「……お前を日本に派遣だと? ……良いだろう。新兵器の開発は順調に進んでいるし、ギリシャを引き入れたお前の手腕に期待する。

 顔合わせと言わずに、きちんと結果を出して来い!」


(これで堂々と日本に行ける。転生者と会えるかは分からないが、まずは日本政府とのパイプを作らなくては。

 それにしても、此処まで成長した我がドイツが日本の動向を気にするように仕組まれるとは。

 日本から輸入している製品や部品の代替品を国内で生産できるように指導してきたから、仮に輸入が途絶えても何とかなる。

 コストや品質で劣るが、工場が停止するような事態には為らないからな。問題は血友病の症状の緩和薬だ。

 これはまだ国内で生産できないから、日本からの輸入に頼らざるを得ない。これは痛い。

 イギリスと日本の離間が出来れば良いのだが、何とか我がドイツが生き延びられるように上手く行かせたいものだ)


 血友病患者のヴァルデマールの最終目的は生き延びる事だ。ドイツの皇帝一族に連なる彼は、ドイツ帝国と運命を共にしている。

 ドイツ帝国の存続こそが、ヴァルデマールが生き延びる条件だ。

 飛行船、飛行機、戦艦、潜水艦、機関銃、戦車、新戦術、暗号技術など、次の戦争で勝利する為の開発は順調に進んでいる。

 そのドイツにしても、未来の技術を使っているらしい日本の動向は無視できなかった。

 その事実を伯父である皇帝ヴィルヘルム二世にも話せずに、ヴァルデマールは孤独に日本への対応策を考えていた。

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 イギリスは世界に覇を唱える世界帝国であり、各地に多くの植民地を持っている。

 しかし現状に満足する事無く、まだまだ拡張する方針を採っている。それは帝国主義全盛の時代では、当然の考えだった。

 そのイギリスにしても『地中海 防衛条約』と『中東防衛条約』、そして日本が主体で進めている『西太平洋防衛条約』は問題だった。


「地中海の防衛条約はリビアの防衛が目的だから、我々の利害に絡む事は少ないだろう。

 攻める事は除外して、攻められた場合の相互防衛が目的だからな。我々がリビアを攻める事が無ければ、影響は無い。

 エジプトとマルタ、クレタ島を確保していれば、我々の手で地中海の制海権は確保できる。

 万が一の場合は、ドデカネス諸島の【出雲】艦隊も当てにできるからな。『地中海 防衛条約』は認めるしかあるまい。

 中東防衛条約は正直言って痛かった。【出雲】と正面きって戦う訳にはいかないが、将来は切り崩しを考えていたんだ。

 日本は中東を現状で固定して、守りに入った。

 そして問題は『西太平洋防衛条約』だ。一部を除いて日本との関係が深い国だから、元より我々が攻め入る事は出来ないが、

 他の地域でも相互防衛条約が出来て守りを固められると厄介だ。どうしたものかな」

「アメリカが『西太平洋防衛条約』に対して強硬に反対している。日本はアメリカとの関係を悪化させてでも、条約の締結を行うつもりだ。

 南フィリピンを除いてな。東アジアでアメリカと日本の関係が悪化するのは、正直言って好ましく無いんだがな」

「『西太平洋防衛条約』には清国と大韓帝国は含まれていない。言い方を変えれば、其処は我々の自由にして良いと日本は暗に言っている。

 日本の勢力下に手を出せば痛い目に遭うが、それに含まれない地域には一切関知しないとな。これをどう受け取るかだ」

「我々の進出を清国と大韓帝国ならば認めるという訳か。それ以外には手を出すなか。アメリカが焦る訳だ。

 日英同盟の対象からアメリカを外すように強い圧力が掛かっている。最近のアメリカの国力増強は顕著だから、無視する訳にも行かん」

「昔は植民地人だった輩が我らに圧力を掛けるとは、偉そうになったものだ。まったく新参者は礼儀を知らないから困る。

 最近はドイツもそうだが、新興国の国力が増大して相対的に我が国の国力が低下している。栄光あるイギリス帝国が情けない事だ!」

「だからこそ栄光を失わない為に、さらなる植民地が我々に必要なのだ! 確かに清国なら豊富な地下資源を有して人口も多い。

 インドから多くの住民を送り込んで、相対的に中国人の比率を減らして治安維持の安定に成功している。

 やはり清国で湖北省を得る方法を考えた方が良いだろう」

「湖北省はアメリカとドイツも狙っているんだ。この状態で争うのは拙い。もう少し様子を見るべきだろう。

 それと重大な情報が入って来た。アメリカは日英同盟の対象から自国を対象外にするように我が国に圧力を掛けているが、

 ドイツは日英同盟の対象から自国を外すように日本に働き掛けをしているとの情報だ。これが事実なら、かなり拙い」


 ヴァルデマールが日本政府と直接交渉する前に、ドイツを日英同盟の対象外にする提案をするという情報は秘かに流れた。

 これはヴァルデマールが流させた噂だ。しかし現実味と信憑性があって、容易く信じられる噂でもあった。

 嫌らしいのは、日本の立場を尊重してドイツが提案を行うという付随情報もあった事だ。

 日英同盟の発動対象からドイツを外す事は、ドイツの国益になる。

 しかし、アメリカを対象外にしようとしているイギリスへの報復手段として、日本に提案するという形を取っていた。


「日英同盟の対象からドイツを外すだと!? そんな事をしては日英同盟の意味が無い!

 今ではドイツは我が国の最大の仮想敵国なんだぞ! そんな事は断じて認められん!」

「日本にしてみれば、アメリカを日英同盟の対象から外す事は認められないと言い出すだろう。

 ドイツの国益を表面には出さずに、日本の国益を尊重するように見せ掛けたドイツの外交策略だ。してやられたよ。

 我々がアメリカを対象外にするように言い出せば、日本はドイツを対象外にするように言って来るだろうな」

「ならば、アメリカだけを同盟の対象外にして、ドイツの事は却下すれば良いだけだ。日本が抗議しても無視すれば良い!

 既に我が国の軍事力は質でも量でも日本を上回っているから、日本も嫌とは言えんだろう。何も慌てる事は無い!」

「馬鹿を言うな! 今の日本を怒らして、同盟破棄どころか敵に回ったら、どうなると思っているんだ!?

 代替品の国内生産は行えているが、コストと品質の問題でまだ日本から色々な製品や部品の輸入をしている。

 その輸入が停止したら、産業界からクレームの嵐だ。それと清国の支配地の維持に日本の力を借りている事もある。

 中東やアジアで日本と対立する事になったら、様々な障害が出る事が考えられる。

 マラッカ海峡が封鎖されたら、アジアに行けなくなるぞ! ジブチの近海を封鎖されたら、インドとの交易が停止に追い込まれる!

 ましてや血友病の症状緩和薬の輸入が途絶えたら、王室から何と言われると思っているんだ!

 こんな状態で我が国の提案だけを呑めと日本に強引に迫れば、どんな結果になるか分かっているのか!? 責任を取れるのか!?」

「す、済まん。そうだったな。マラッカ海峡とジブチ、血友病の件があったのを忘れていた。許して欲しい」

「アメリカの要求を無視するのも拙いし、ドイツを同盟の対象外にする事も拙い。どうするかを全員で考えて欲しい」

「直ぐに結論が出るものでも無い。話は少し変わるが、ドイツの皇室の人間が日本を訪問するそうだな。

 ドイツに対抗する意味でも、我が国の王室の誰かを訪問させた方が良いのでは無いか?」

「効果は不明だが、ドイツへの牽制には為るだろう。早速、王室に報告して指示を仰ぐとしよう」


 この時期になるとイギリスやドイツ、アメリカの戦艦や飛行船などの正面戦力は、日本を上回っていた。

 植民地から収奪した資金と工業力に物を言わせて、常識を度外視した勢いで軍拡に勤しんだ結果だ。まさに大国の底力だろう。

 それでも高度技術品や一部の特殊部品、又は薬剤関係は日本からの輸入に頼っている面もあって、敵対関係になるのは及び腰だった。

 工業関連ならば国内で何とかなるレベルにはなっていたが、一部の医療関係では日本の優位は揺らがなかった。

 欧州の王室は血友病の治療の為に日本の力を欲していた。

 尚、イギリス王室に連なる人が日本に派遣される時に、兵器開発で多大な協力を行ったチャーリー・ブレッドも同行する事となった。

 日本の現状を視察したチャーリーから、また別の良案が出るのを期待しての事だ。

 そのチャーリーは強引にお気に入りのメイドを同伴させて日本に行く事にしていたが、それが思わぬハプニングを生む事になっていく。

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 ドイツの使者とイギリスの使者はどちらも皇族に連なる人だったが、日本への訪問日程が重なる事は無かった。

 対応は全て日本政府が行い、天照機関のメンバーは事後報告を受けただけだ。(陛下は会っているが、内密な話は一切無かった)

 もっとも、二人の使者とも巫女と陣内との会談を望んだが、実現する事は無かった。

 そして報告を受けた天照機関は、ドイツとイギリスの対応について協議を行っていた。


「日英同盟の対象からアメリカを外すのは史実通りだが、ドイツが自分のところも対象外にするように申し入れてくるとはな。

 自国の利益になる筈なのに、イギリスを牽制する為にドイツも対象外にするのはどうかと言ってきたのは、強かだな。

 ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世の甥のヴァルデマール・フォン・プロイセンか。侮れないな」

「ああ。話術も巧みで思わず頷きそうになったと職員も言っていた。それと、巫女や陣内に会わせて欲しいとも言っていたな。

 これはイギリスの使者も同じだ。食えぬ若者という印象は変わらぬが、我々の技術を求めているのは間違いは無い」

「陽炎機関とハインリッヒ商会の第五次の報告では、あのヴァルデマールがギリシャをドイツ陣営に取り込んだとあります。

 有能なのは間違い無いですね。転生者の可能性があります」

「あの若者が転生者だと!? それは事実なのか!?」

「確証はありません。彼の行動は史実には無かった。ならば、転生者の可能性があるかも知れないと思っただけです」

「その事は保留にしよう。彼の提案は意外だったが、日本にとってもメリットはある。

 イギリスを牽制する事にも使えるし、日英同盟の改定交渉の時の札の一つとさせて貰おう。

 そのイギリスはドイツを牽制する為に王族を使者として送り込んできたが、目新しいものは無かったのだな?」

「国内の工廠や海軍基地を視察しただけで、後は陛下と御歓談したぐらいだ。特に目立った動きは無い。通常の親善訪問の範疇だ。

 ああ、随員のチャーリーとか言う貴族が女連れで遊園地に行ったと報告があったくらいか」

「そのチャーリーという青年は貴族ですが、イギリスの新兵器開発に関わっているという情報があります。

 今回の来日でも、軍工廠の見学を希望していました。それと遊園地の【天照W】のアトラクションに強く反応しました。

 こちらも転生者である可能性が高いですね。もっとも、連れていた女性は彼の家のメイドで、彼に怯えていました。

 虐待をしている可能性もある事から、人格的に問題がある可能性があります。要注意ですね」

「ふむ。転生者の可能性がある人間が二人も来日したか。二人とも立場があるから、こちらから話を切り出す訳にも行かんな。

 こちらは様子見としよう。陽炎機関には二人を重点的に監視するように指示を出しておく」


 アメリカが自国を日英同盟の対象外にするように働きかけをした為に、ドイツとイギリスが動き始めた。

 その結果、転生者の可能性が高い二人が来日した。まだ確証は無いが、十分に注意する必要があるだろう。

 未来の技術の一部と知識はあるが、天照基地を失った事で多くの力を失った事は事実だ。油断できないと気を引き締めた。


「話を戻すが、ドイツを日英同盟の対象外にする件はどう考える?」

「イギリスを牽制する良い手段だし、実際にしても構わないだろう。イギリスがアメリカを選ぶか、同盟国である我が国を選ぶかだ。

 それに対ドイツ戦の参戦義務が無いだけで、戦えなくなる訳でも無い。義務が無いのに参戦すれば、イギリスに貸しを作る事になる。

 ドイツが我々とのパイプを作りたいと意思表示してきたからには、それに応えた方が良い」

「良いだろう。イギリスがアメリカを日英同盟の対象外にするように要求して来たら、こちらはドイツを対象外にするよう提案する。

 後は交渉者の手腕に任せよう。それにしてもアメリカが動いたという事は、我が国を仮想敵国として見ているという事だ。

 いよいよ、史実通りの流れになってきたな」

「ドイツも史実と同じくモロッコでアガディール事件を起こしている。バルカン半島もきな臭い雰囲気だ。

 いよいよ戦乱が迫ってきた。こちらの準備も急がせないとな」

「そして中国で辛亥革命が発生する予定だ。早まるかと思ったが、何とか本年まで持ち堪えたな。

 しかし現地の不満は爆発寸前だ。本年中に起きるのは間違い無いだろう」


 その時、電話で中国で辛亥革命の発端となる事件が発生したと伝えられてきた。

 史実では南京だったが、今回は西安で発生した。勿論、孫文の主導の下でだ。

 これが清王朝の滅亡に繋がり、数十年も続く中国混乱の発端となる。

 ただ、チベットとモンゴル、雲南共和国、イギリスとアメリカとドイツの支配地にはあまり影響が無いだろうと考えられた。

 既に清国との国境線には軍隊が駐留して、清国からの侵入を防いでいる。

 寧ろ、イギリスはインドから人を送り込み、アメリカとドイツは国内の貧困層を現地に送り込んだ結果、

 今まで住んでいた住民が追い出されて清国の領土に逃げ込むという現象が発生していた。

 国境を固める軍の武装も清国軍を遥かに上回っている事もあり、辛亥革命の影響は史実より狭い範囲になりそうだった。


「史実では孫文は南京で臨時政府を樹立して、その後で袁世凱に譲った訳だが、今の南京はアメリカの支配下だからな。

 孫文は西安で蜂起したか。数十年に渡って中国の混乱が続く訳だが、我々は一切の介入を行わない」

「中国に介入すれば、泥沼に入り込むだけだ。我々は他に行うべき事が山ほどある。中国の将来は中国に住む人に担って貰おう。

 もっとも、外に目を向けさせない為に、分断工作は静かに進める」

「かなり先の話だ。しばらくは放置して構わないだろう。孫文が逃げ出して来たら、匿うぐらいの事はしても良い。

 しかし、それだけだ。孫文の口車に乗せられて、中国に介入する事を考えないように厳しく国内を取り締まる必要がある」

「そちらは新聞社とラジオ放送を使って、大々的に報道しますよ。

 孫文の同志の一部を引き込んでありますが、しばらくは情勢を見ます。布石が利いてくるのは数年後ですからね」


 中国の混乱がチベットや雲南共和国に及ばなければ、日本は一切の介入をする気は無かった。

 尚、福建省と浙江省(杭州以南)は生活が比較的安定している事から、辛亥革命に巻き込まれる事は無いと推測された。

 イギリスとアメリカの支配地がある為に、領土が飛び地化している為だ。

 孫文も福建省と浙江省に行って革命に参加するよう呼びかけたが、今の安定した生活を捨てる事を嫌った住民の反対にあっていた。

 こうして現在の清国が領有している河北、山西、陝西、湖北、四川、重慶に混乱が及んだが、福建と浙江は平和な時が過ぎていた。


「アメリカは今でも『西太平洋防衛条約』に強硬に反対しているが、南フィリピン以外の国の了承は取る事ができた。

 現在は細かい調整を進めており、来年には締結できる見込みだ。南フィリピンは除外してな。

 南フィリピンは仲間外れにされる事に動揺しているようだが、アメリカの勢力が強いから除外するのは最初の予定通りだ」

「信義的に南フィリピンを最初から仲間外れにする訳にはいかなかったからな。

 アメリカに通報されて、大きな問題になるのも想定済みだ。最初からの予想通りの結果になった訳だ」

「最終的にアメリカとは一度は雌雄を決する必要があるからな。

 こちらから能動的に動く訳にもいかないし、アジア地域の防備を固める意味でも『西太平洋防衛条約』に期待しよう。

 何しろ、我が国の陸軍の数は少なく、陸戦は期待できないからな」

「そう嫌味を言うな。多くの兵を保有するだけで、莫大な維持費が必要になる。それを同盟国や友好国で分担するだけだ。

 費用対効果の意味でも有効だし、世界恐慌が起きた時の経済ブロックにも為り得る。

 それに将来の国連の前身機関としての世界レベルの協議機関に発展させる目論見もあるんだ。

 地中海と中東で成功した防衛条約を、東アジアで実現させて何が悪い!?」

「誰も悪いとは言っていないぞ。もうちょっと軍に金を回して欲しいと思っただけだ。

 何しろ、広大な領土を少数の兵で守らなくては為らないんだ。軍の苦労も分かって欲しい」

「軍の状況は定期的に新聞社で報道されているし、軍が頑張ってくれているから領土も増えて安全が守られていると国民は知っている。

 この世界では自分達の安全を守ってくれる兵士を、人殺しだと罵倒する馬鹿は居ない。もし、居たとしても周囲から村八分にされる。

 別に個人の思想を縛るつもりは無いから、極端な非戦論者や平和主義者は二年後に建国される予定の新国家に移民して貰うさ」

「人口が少ない島の住民を移住させて、そこに平和主義者を入植させる。そして非武装中立を理念とした永世中立国を建国する。

 国交は結ぶが、日本から軍は派遣しない。非武装中立を理念とした人達だけで建国されるのだからな。

 その国が成長するかどうかと、安全確保をどうするかは彼らの力量次第だ。我々は彼らの理想とする地を提供するだけさ」

「それとゼロリスク幻想に囚われている人達だな。現実はリスクがゼロのものなど有り得ない。

 普通なら、使うメリットと事故の場合のデメリットを天秤に掛けるんだが、危険度が少しでもあれば騒ぎ立てる輩がいる。

 彼らは自らの安心を得ると同時に、発展の機会を逃す訳だ。

 だからフィジーの理想郷には、事故が起きる危険な車も飛行機も使わない方針にしておこう。

 爆発事故が起きる可能性がある火力発電所も禁止だ。出力は低いが安全な風力発電で生活して貰おうか。それと極端な平等主義者もだな」

「……生きるだけの電力なら何とかなるが、産業を維持する電力は無理だな。まあ、建国した後は彼らの自由に任せよう。

 我々は移民者が生活できる最低限のインフラ整備は行うが、後は彼らの努力次第だ。

 結果は見えているような気がするが、彼らが選んだ道だ。我々は彼らの明るい未来を祈るとしようか」


 アメリカの反対はあったが、南フィリピンを除外して全十ヶ国を対象にした『西太平洋防衛条約』の締結交渉は進められていた。

 参加国は日本、ハワイ王国、東方ユダヤ共和国、タイ王国、チベット、雲南共和国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、カンボジアだ。

 地域の相互防衛を目的にしているが、それ以外にも隠された目的もあるので、アメリカの反対があっても防衛条約は締結される。


 フィジーのある島の住民を本島に移住させて、空になった島に新しい国家を建国させる計画が進められていた。

 世界には色々な国があって、色々な考え方がある。非戦論者や平和主義者は、どんな国も一定の数はいる。

 彼らは戦う事を拒否して、全てを話し合いで解決するべきだと考えている。

 そんな彼らにとって、侵略行為が平然と行われる帝国主義全盛の時代では、どんな国でも生きていくのは苦痛に感じるだろう。

 だったら非武装中立を理念にした永世中立国家を建国して、一切の戦いを拒む主義者を移民させようという計画だ。

 日本だけでは無い。『西太平洋防衛条約』の条約参加国の住民なら、移民できる資格を持つ。

 永世中立国なので、日本を含む何処の国とも同盟を結ぶ事は無い。そして非武装なので、軍も持たない。

 それが非戦論者や平和主義者の理想だ。彼らの理想郷を建国する準備は、着々と進められていた。

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 夏に第三次日英同盟が締結された。今回の改訂内容で、アメリカとドイツを交戦相手国の対象外に定めていた。

 今回の改訂に関して、イギリスと日本は熾烈な主張合戦を繰り広げた。

 イギリスとしてはアメリカとの対立を望まないが、ドイツと戦う時に日本の支援が無いと困る。

 日本としてはイギリスの都合ばかり聞いて、肝心な時にイギリスの支援が無いのでは日英同盟の意味が無い。寧ろ、お荷物になる。

 お互いの主張は譲らなかった。史実であれば交渉下手な日本は簡単に折れたろうが、今回は違う。

 言うべきものは、しっかりと発言するという外交官の教育が浸透していた為に、会議の席上で激論が交わされた。


 結局、日本は自由意志でドイツと戦う可能性を示唆して、イギリスの譲歩を勝ち取った。

 現時点で日本とイギリスは同盟を結んでいる事で相互恩恵を受けており、二国間の関係を御破算にする訳にもいかなかった。

 日本としてもイギリスを支援する為の欧州へ派兵する名目が立ち、イギリスも日本の兵力を当てにできる事から双方が納得した。

 口約束になるが、今までの日本の行動から口に出した事を反故するとは考えられなかった。

 この第三次日英同盟が締結された事で、第一次世界大戦で大きな変化が出る事になっていく。


 第三次日英同盟の内容を知ったアメリカとドイツは、目論み通りに行った事で秘かに祝杯をあげていた。

 そしてアメリカは徐々にアジアへの進出を強めて日本との対立を深め、ドイツは以前の通りに世界各地で勢力拡大に務めていた。

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 メキシコの混乱は続いていた。昨年にメキシコで革命騒ぎが発生して国内は大混乱をしており、まだ収束の糸口さえ無い。

 そんな状況で、今年は農民派のサパタが蜂起した。

 日本は元から関与しない方針だ。欧米は自らの権益を守れるなら、積極的に介入する気は無かった。

 まだ軍備が完全に整っていない事もあり、競争相手の顔色を伺っていた。

 寧ろ、メキシコ国内の混乱に乗じて、自らの権益の拡大を行っている組織もあった。

 こうしてメキシコ革命は終わる気配をまったく見せず、清国と同じく混乱の渦に巻き込まれていく。

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 十二月は北半球では冬だが、南半球では夏だ。

 そしてノルウェーのロアール・アムンセンは一年以上の月日を掛けて人類初の南極点到達を達成し、極寒の地で感慨に耽っていた。

 最初は北極点を目指していたが、アメリカに先を越されたので急遽、目的地を南極点に変更した。

 自分より先行していたイギリスのスコット隊の存在は知っていたが、何とか彼らより先に南極点に到達したのだ。感慨にも耽るだろう。

 自国の旗を立てて、南極点到達の証拠は残した。後は無事に帰るだけだ。

 そんな満足感を感じていたアムンセンの五人のチームは、聞きなれない音を聞いて顔を見合わせていた。


「この音は何だ!? ブリザードじゃ無いぞ! 何だかエンジンのような音が近づいてくる!?」

「エンジンだと!? こんな極寒の地で内燃機関なんか使える筈が無い! 我々のように犬ぞりを使うしか移動手段は無い筈だ!」

「し、しかし、間違いなく此方に近づいてくる! おい、支度をしろ! 何が近づいてくるか確かめるんだ!」


 幸いにも雪嵐は吹いておらず、遠方まで見渡せる。

 テントで休んでいた五人は、慌てて支度をしてテントを出て、近づいてくる物体を見て絶句していた。

 それは全長が十メートル以上もある巨大な車両だった。無限軌道を使って、荒地を平然として走行している。

 全体が装甲で覆われており、車体の側面には大きな日の丸が描かれていた。


「日の丸が描かれていると言う事は、あれは日本の車両なのか!? 日本はあんな物を開発していたのか!?

 日本が東オングル島に『明治基地』を建設したのは知っているが、あんなものまで配備していたのか!?」

「ちょっと待て! あんなものがあるなら、何で此処に何も無かったんだ!? あれがあれば簡単に南極点に来れただろう!

 そうなれば南極点の一番乗りは日本のものだった筈だ! どういう事なんだ!?」

「配備したてという事じゃ無いだろうな。彼らに聞くのが一番早い!」


 やがて日の丸が描かれた車両は、アムンセン一行の近くに来ると停止した。

 そして側面の扉が開いて、防寒具に身を包んだ白瀬中尉が出てきてアムンセン一行に挨拶した。


「自分は日本から派遣された南極探査隊の隊長を務める白瀬です。あなた方が人類初の南極点到達の偉業を成し遂げた事に敬意を表します!」

「……ありがとう。しかし、ちょっと疑問があるんだ。この車両があるなら、君達は簡単に南極点到達の一番乗りが出来た筈だ。

 我々の事を祝福してくれるのは嬉しいが、何故君達は南極点に国旗を立てなかったんだ!? 教えてくれ!」

「我々は南極の気候と地質調査が目的ですので、南極点到達の一番乗りは任務に入っていないのですよ。

 今回はあなた方とイギリスのスコット隊が南極点を目指しているのは知ってまして、上からは何かあったら支援しろと命令を受けました。

 それで様子を見に来た訳です。何か食料などでお困りの事はありますか? あまり量は多くはありませんが、少しならお分けは出来ます」

「食料か。帰りの分が少し不足気味だから分けてくれると助かるが、君達の分は良いのか? この南極では食料調達は困難だろう」

「スコット隊の分は残しておかないと拙いですけど、少しぐらいなら大丈夫ですよ。頑張って帰還して下さい」

「……日本隊の厚意に感謝する」


 アムンセン一行に食料を渡した後、白瀬は思い出したように南極点に日本の国旗を掲げて、その場を去っていった。

 その様子をアムンセン一行は呆然とした表情で見つめていた。


「数人が乗り込んでいたな。燃料タンクもかなりでかく、あれで長距離走行が可能なのか。何て車だ!?

 あんなものがあれば苦労して南極点到達をしなくても済む! 俺達の苦労は何だったんだ!?」

「口を慎め! 南極点到達の一番乗りは間違いなく我々なんだ! それに日本は我々に食糧を分けてくれたんだ!

 感謝をするのが当然で、文句を言う筋合いじゃ無い!」

「し、しかし日本は態と南極点到達の一番乗りの名誉を我々に譲ったんですよ! これは侮辱じゃ無いですか!?」

「日本は独自の考え方を持った国だ。ヤンマイエン島を領有して、我が国とも経済交流はあるんだ。無用心な発言は止めておけ。

 それに我々が名誉と考えた事でも、日本人は名誉と思わなかったんだろう。

 だから我々が南極点に国旗を立てた後に、彼らは日本の国旗を立てたんだ。してやられたな」

「我々の様子を確認した後はイギリス隊の様子を見に行くと言っていたな。まったく、日本の掌の上で踊らされている気分だぜ。

 まあ良い。我々が南極点の一番乗りをしたのは事実だし、日本も証明してくれるだろう。これで出資者も納得する。

 後は無事に帰還するだけだ! まだまだ気を抜くんじゃ無いぞ!」


 この後、アムンセンは祖国に戻り、南極点到達の一番乗りをした事を正式に発表した。

 そして南極点で日本隊と会った事は話したが、雪上を走行した車両の事は一切話さなかった。

 それを話すと自分達の行為が汚される気がした為だし、容易に信じて貰えないのも事実だ。

 公式の場で日本隊から食料を受け取った事に感謝の意を表したが、同時に日本隊を変わり者だと皮肉る事も忘れてはいなかった。

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(あとがき)

 加筆するつもりでしたが、時間が取れないのでこのまま投稿します。

 それとリアルが忙し過ぎて、新規の執筆が進んでいません。執筆が進むまでは、投稿を控える事にします。

(2014. 7. 6 初版)


 管理人の感想
 アメリカ合衆国に巨大な死亡フラグが立ったような気がします(汗)。
 日本はいろいろあっても順調ですが、世界は次のステージに向けて動き出しているようで……。
 しかし転生者が世界に与える影響も少しずつ大きくなっていますね。こちらもどんなバタフライ効果をもたらすことやら。