1909年

 列強は国内開発や軍備増強に努めると同時に、植民地の支配を強めていた。

 そんな中、1898年の米西戦争からキューバに駐留していた米軍が撤退していった。

 これもアメリカが支配を強めた結果であり、キューバを放棄した訳では無い。

 パナマ運河の建設を進めながらも、アメリカは周辺国家に支配の手を伸ばしていった。


 世界各地で小競り合いは無数に発生しているが、大国を巻き込んだ大きな戦争は今のところは起きていない。

 これも各国が軍備拡張が終了していないと、積極的な行動を控えたからだ。

 しかし、次の戦争を見越して軍備拡張を行っている。それは嵐の前の静けさと呼べる状況だった。

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 ロシア帝国は『環ロシア大戦』で失った大飛行船部隊と海軍の再建を急いでいた。

 その資金は重税で賄われていた為に、ロシア国民の不満は皇帝に向けられていた。

 もっとも、今のロシア帝国には満州があり、豊かな穀倉地帯と油田は大きな富を同時に齎していた。

 それに日本が中央シベリア高原とアルダン高原で採掘した地下資源の半分はロシアのもので、それはかなりの収益になっている。

 その為に、ロシアの再軍備は順調に進んでいた。尚、血友病の症状の緩和薬がある為に、ラスプーチンの暗躍は無い。

 これらの事により、欧州から満州に移住する人達は年々増えていたが、欧州方面の国民の不満は増える一方だった。


「今日も満州に移住する農民が居るのか。土地が余っていて労働力が不足しているのは分かるが、このままだと欧州との格差が発生するぞ」

「仕方あるまい。満州は新たに得た領土で、豊かな穀倉地帯なんだ。それに油田を始めとして、地下資源も豊富だ。

 中央シベリア高原とアルダン高原からは、何もしなくても日本が地下資源を掘り出して半分を貢いでくれる。

 どうしても、欧州方面より満州方面に開発の重点は移ってしまう。開発を進める為に、一時的に税を軽減したから尚更だ」

「人手不足だからって満州方面の待遇を良くして、欧州方面の税を重くしたら拙いだろう。

 それで無くても国民の不満は溜まっているんだ。何とかしないと絶対に拙いぞ」

「そうは言っても、皇帝陛下の命令だからな。日本に支払う賠償金や再軍備の資金も必要だ。

 日本が中央シベリア高原とアルダン高原から地下資源を掘り出してくれているから助かっているが、それだけでは不足している。

 満州の油田も順調に操業されているから、どうしても満州を重点的に開発を進めているんだ」

「バクー油田の石油は有償になったからな。今までは好きなだけ使えたが、金を払わなくてはいけなくなってしまった。

 まあ、満州の発展が軌道に乗れば、そこからの利益で国内は上手く回りだすさ。それまでの我慢だ」


 しわ寄せが弱者である国民に向かうのは、どの国も同じ事だ。それにロシアには満州があった。

 もうちょっと我慢して満州の開発を続ければ、豊かな地域に為れるだろうと思われていた。

 だから、この時点で満州を優遇して、開発を進めさせていた。


「イギリスと協商関係関係を結び、日本とも協定を結んだから、今の外交関係は順調だ。

 この状態を上手く使って失われた軍備を取り戻さない事には、積極的な外交は行えない」

「イギリスもそうだが、フランス、ドイツ、アメリカも熱心に軍備を整えている。我が国が遅れを取る訳にはいかない。

 不思議なのは日本だ。中央シベリア高原とアルダン高原の開発を熱心に進めている割には、レナ川の東側の地域の開発を進めていない。

 雲南共和国やベトナム、カンボジア、マダガスカルなどの開発を進める一方で、軍備拡張は進めていない。信じられるか?」

「カムチャッカ半島に巨大な研究都市を建設して、色々な新技術の開発を進めている噂がある。

 あまり日本を見縊らない方が良いぞ。この前の戦争みたいに、後で痛いしっぺ返しが来るからな」

「そんな事は分かっているよ。同じ間違いをするなんて、馬鹿呼ばわりされるからな。

 あと数年我慢すれば展望は開けてくる。そのぐらいは我慢できるさ」


 不思議な事だが『環ロシア大戦』の敗北後、ロシア帝国の外交状況はかなり改善されていた。

 グレートゲームを繰り広げてきたイギリスと関係を改善して、『環ロシア大戦』の主敵だった日本とも経済協力協定を結んでいた。

 今のロシア帝国には戦争を行う体力が無いのも事実だが、それでも隣国と友好関係にあるというのは大きなメリットだろう。

 しかも、中央シベリア高原とアルダン高原からは地下資源が届けられ、満州の油田は大量の原油を産出し始めた。

 農業生産も順調で、これから開拓を進める地域も広大だ。時間と共に、満州の発展が期待されていた。

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 開発が進んで生活が楽になって喜ぶ住民も居れば、明日の我が身も考えられない程、生活に苦しんでいる住民も居る。

 それは現地の政府や支配者が、どんな施政を行っているかに大きく左右される。

 そして清国の場合、二歳の皇帝を頂点に抱いて混乱が続き、住民は重税に苦しんでいた。

 賠償金の支払いもさる事ながら、欧米の軍隊による進出もあって各地で紛争が相次いだ。

 各地で蜂起する住民も多く、それを鎮圧するのに多くの資金と労力を費やしていた。

 こうなると、国の発展どころでは無く、衰退が始まっていた。

 民心は既に清王朝から離れており、不満を持つ人達は清王朝の打倒のチャンスを伺って力を溜めていた。

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 日総航空の所有する飛行船は、主に国内各地と同盟国、友好国間だけの定期航路で運行されていた。

 ヘリウムを国内で産出したアメリカは大飛行船団を建造して、日本が進出していない欧州などの定期航路の運行を開始していた。

 その中には清国の植民地への航路もある。こうしてアメリカは日本とは関係が薄い地域の飛行船航路の独占を始めていた。

 その飛行船が積むのは主に人間と緊急度が高い物資だ。積載量に制限はあるが、それでも船に比べると圧倒的に短時間で目的地に到着する。

 需要が増えない訳が無い。飛行機の開発が進められているとは言え、まだ飛行距離も短く積載量など無いに等しい。

 こうして、飛行機の開発が進められる傍らで、飛行船は空路を使える唯一の交通手段として欧米に普及し始めていた。


「豪華客船の船旅も良いが、こうして空を飛ぶ旅も良いものだな。何と言っても時間が節約できるのが有難い。上空から眺める景色も絶景だ」

「今までは日本と関係が深い場所にしか、飛行船航路が無かったからな。こうして欧米間の航路ができると何かと便利だ。

 我が国も飛行船を多数建造して、航空会社を設立して欲しいものだよ」

「希少資源のヘリウムは日本とアメリカが独占しているからな。

 特にアメリカは国力に物を言わせて、あっという間に日本の飛行船団を上回る大飛行船団を造ってしまった。

 その恩恵を俺達は受けているという訳だ」

「しかし、空を飛ぶって怖く無いか? もし事故って墜落したら大惨事だぞ。俺は時間が掛かっても船旅を選ぶよ」

「心配性だな。今のところは日本もアメリカも無事故だぞ。

 ああ、アメリカの方でエンジントラブルがあって離陸が遅れたくらいで、墜落事故なんて有り得ないと思うぜ」

「各国で飛行機の開発が進められていると言うけど、まだまだ試作の域を出ないからな。

 飛行船の方が運用も安定していて、荷物も積めるから安心だよ」

「速度の面では飛行機の方が良いかも知れんが、まだまだ飛行船の方が貨物輸送にメリットがある。

 飛行機が何処まで発展するかは分からないけど、飛行船が無くなる事は無いだろうよ」


 欧米各国は空を自由に飛べる飛行機のメリットは十分に理解しながらも、飛行船の滞空時間や積載量に多くの魅力を感じていた。

 その為にアメリカ以外の列強も飛行船団の拡大に努めていたが、やはり危険な水素ガスを使用している為に民間で運用される事は無かった。

 こうしてアメリカは大飛行船団の整備を進めて、他の列強を遥かに上回る数を揃えていた。

 それは経済を十分に刺激して、アメリカの国内経済を活性化させると同時に、南米や他の植民地支配を強める結果になっていった。


 余談だが、ドーバー海峡を飛行機によって横断する快挙が成し遂げられ、欧米の飛行機開発競争も熱くなっていた。

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 東方ユダヤ共和国や欧米の各国が実用飛行機の開発に熱心に取り組んでいた頃、日本は少し変わった方針を採っていた。

 他国の飛行機と比べると優秀な部類に入るが、早期に廃れる筈の低性能な飛行機を大量に生産して、各地の軍基地に配備を始めた。

 理由は幾つかある。

 その一つは航空基地の建設を急いで進める事だった。今の飛行機の実用性は低くても、いずれは改良されて問題は無くなる。

 大量のパイロットを育成する事と、各地の航空基地の整備を進める目的で配備を進めた。

 勝浦工場や各地の主要な軍基地にはパイロット養成学校が設立されて、大量のパイロットの育成が行われている。

 ゆくゆくは民間への普及も視野に入れた方針だった。

 そして使い難い機体であっても、偵察任務には使用できるとして軍での運用が始まっていた。

 尚、水面から離発着できる飛行艇の開発も進められていたが、一般公開はまだ先送りされていた。

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 アメリカ国籍を持つエドウィン・バルナートは、鉱山開発で発展しているバルナート財閥の一人息子だ。

 数年前から親に強く懇願して、事業の一部門の経営を行っていた。

 親としては、失敗しても構わない小さい部門だ。子供の社会勉強程度に考えていたのだろう。

 それでもエドウィンは成功への第一歩として、事業を成長させるつもりで本気で取り組んでいた。


 その一つが以前から支援を行っていた、李承晩を介した事業の拡大だった。

 李承晩が送ってきた若い女性を、バルナート財閥の名前が出ないようにダミー会社で慰安婦として雇っている。

 清国のアメリカの植民地(江蘇省と安徽省)には多くのアメリカ兵が派遣されているので、かなりの収益を上げていた。

 ドイツの植民地(山東省と河南省)にも同じく進出している。そちらの稼ぎも大きい。

 本業である鉱山開発も行っており、風俗施設の運営で稼いだ資金を元手に投資を行って急成長していた。


(李承晩から支援の追加要請が引っ切り無しに来ているが、多くの慰安婦を送り込んでくれたから少しは支援額を増やしてやろうか。

 それにしても李承晩は貪欲だな。現地の状況を考えれば仕方の無い事かも知れんが、要求が底無しだ。

 まあ、こちらが強い態度で拒否すれば良いだけの事だし、慰安婦の稼ぎに応じた支援ぐらいは良いだろう。

 未来では人道的に許されない事でも、この時代なら平気で行える。

 中古の設備機械や武器の代わりに、格安で使える慰安婦が手に入ると思えば安いものだ。

 それにしても、中国にはビジネスチャンスが多いから上手くいけば、うちの財閥を大きくできる。それに日本にも近いからな。

 日本の巫女と会うのは無理でも、表に出ている日本総合工業の陣内総帥なら可能かも知れない。転生者なのだろうか?

 上手く日本の持つ未来の技術を導入できれば、さらにビジネスチャンスが広がる。それは後の楽しみだ。

 それにしても俺以外の転生者は本当に居るんだろうな。是非とも会ってみたいものだ。

 アメリカではそれらしき人物は居なかったな。まあ、転生者かと聞ける筈も無いから、埋もれている可能性もある。

 もっとも今は転生者を探すより、事業を拡大させて地盤を築く事が優先だ)


 江蘇省と安徽省にアメリカの大手企業の進出は進んでいる。

 とは言え、まだまだ新興勢力であるバルナート財閥が進出する余地は十分にある。

 今のところは転生者というメリットを生かせていないが、将来の希望は持っているエドウィン・バルナートだった。

 尚、エドウィンは今のところは日本に対して警戒はしているが、憎しみは抱いていない。条件さえ合えば、手を組む事も考えている。

 それが今後にどう影響してくるかは、誰も予想できなかった。

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 大韓帝国の首都は平壌にあったが『環ロシア大戦』の時に急いで遷都したので、事前の用意が出来てはいなかった。

 その後も資金不足や混乱があって新築する余裕は無く、皇帝の住む宮殿は間に合わせのものを継続して使用せざるを得なかった。

 その為に宮殿は帝国を名乗る割には、老朽化が進んでいている。それに外交を結んでいる国が少ない為に、訪問客も少ない。

 皇帝を守る警護の者達も少なく、通常は寂しい雰囲気が漂っている宮殿は大混乱していた。


「皇帝の暗殺は成功したぞ! 他の者達は抵抗を止めろ!」

「安重根! 貴様が皇帝陛下を!? 何故だ!? 貴様は両班だろう! その貴様が皇帝陛下に弓を引いたというのか!?」

「今の皇帝で国が良くなると思っているのか!? 革命を起こして国を変えなければ、我が民族は滅んでしまうんだ!

 それが分からない輩は純宗の下に送ってやる! 既に先帝のところにも手は及んでいる! 今日を境に皇帝一族は滅亡する!」

「……分かった。この国の為なのだな?」

「そうだ。我々が必ずこの国を立て直して見せる!」


 現在、大韓帝国と国交を結んでいる国は少なく、どの国も一方的に資源を買い叩いていくだけだ。

 働き手と領土が大幅に減ったので、第一次産業の生産量も減少傾向を示しており、それに伴って人口も減り続けている。

 状況を改善させる妙手など無く、大韓帝国の衰退死が王宮内でも囁かれる有様だった。

 そんな中、支配する地域の発展に成功した李承晩が多くの支持を取り付けて、皇帝純宗に反旗を翻した。

 こうして大韓帝国の名は続くが、支配者は総入れ替えになってしまった。

 史実で伊藤博文を哈爾浜駅で暗殺した安重根が、大韓帝国の行く末を案じて二代目皇帝である純宗を暗殺したのは皮肉だろう。

 先帝も含めた李氏一族は完全に根絶やしにされ、大韓帝国が続く限り安重根の名は残る事になった。

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 皇帝の地位に就いた李承晩の動きは素早かった。

 信用が無い事から諸外国との関係改善には手を付けずに、まずは国内改革に取り組む姿勢を打ち出した。

 強権を持って国民の不衛生な生活習慣を改めさせ、衛生環境や風習の改善、それと工業の普及に取り組みだした。

 それと識字率の向上の為に、ハングル語の普及も進められた。

 現在の大韓帝国に余裕は無く財政的にも困難だったが、進めなければ何時までも改善できないとして強制的に行われていった。

 外部勢力が行えば弾圧と非難されるが、皇帝の命令ならば正当化される。

 前皇帝一族の財産を没収した事で若干の資金的な余裕が出来た事と、エドウィンのところに送り込んだ慰安婦の稼ぎにより

 何とか為せた事だった。


 王朝交代が発生しても対外的な債務は変わらない。その為に、以前の李氏王朝の債務は李承晩に引き継がれた。

 このままでは大韓帝国の発展は無理と判断した李承晩は、様々な改革案を出している金恨玉を諸外国との関係改善と支援の引き出しの為に

 清国の北京に送り出していた。

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 カムチャッカ半島のレスナヤの研究都市の上空で、飛行機の飛行訓練が行われていた。

 この周囲は関係者以外は居ないので、機密を守るのには適している。轟音を響かせても他に知られる心配は無い。

 それを中央棟の最上階の大会議室で見物していた天照機関のメンバーは、大きな溜息をつきながら協議を始めていた。


「これからは航空機の時代だ。やがては速度と大きさを増して、遂にはジェットエンジンに切り替わるか。

 まったく、時代の流れというのは恐ろしいものだな。陣内が来るまでは、人間が自由に空を飛べるなどと思いもしなかった」

「そうだな。しかし、時代の流れに付いていかなければ、敗北して国が失われる。石に齧り付いても遅れを取る訳にはいかぬ。

 今のところは各地に航空基地の建設と配備が進められて、パイロットの養成も順調に進んでいる。

 飛行船の運用も順調だ。アメリカに規模で負けているが、我が国にとっての重要航路は押さえている。そう悲観する事は無い」

「技術革新の波が高まっているとはいえ、飛行船はまだ二十年は使えるだろう。国内の配備は抑えてあるし、それで十分だ。

 欧米各国の飛行機開発競争と飛行船建造競争は激化しているが、我が国は効率良く開発を行えるから一歩先んじている」

「飛行機に取り付ける武装の開発も進んでいる。各国は後続距離と上昇速度の競争を行っているが、制空権を取るには武装は必要だからな。

 実用飛行機の開発は、大局的な目で進める事が必要だ。そして上空のあの飛行機のように、大空を制する者が勝利者になる」


 天照機関のメンバーは開発中の飛行機が見たい為に、飛行船に乗って避暑を兼ねて極秘裏に研究都市に来ていた。

 列強の各国は海軍の拡張もさる事ながら、航空戦力の拡充にも余念が無い。飛行船より速く飛行できる飛行機への期待は大きい。

 研究都市の上空を飛んでいる飛行機は、その一つの回答になる。試作の飛行機の試験運用を見て、各メンバーとも満足していた。


「次の戦争で飛行船に引導が渡される事になるだろう。もっとも、安全な地域での空輸の仕事はまだ当面は続くだろうがな。

 陣内は列強に飛行船を何隻売ったのだ?」

「最初にイギリスとロシアに売ったものと同じ仕様の飛行船を、全部で八十隻売りました。

 もっとも、アメリカでヘリウムが産出した事から相場は急落しました。利益は出ていますが、以前ほどの暴利は貪れません。

 どの国も軍に配備して、民間で使用している国は無いですね」

「賞味期限切れ間近の商品を、高値で売りつけたと言うのか。まったく、強かな商人だな。まあ、そうなるように仕向けた訳だが。

 飛行船もそうだが、飛行機の配備もパイロット育成も順調に進んでいるから良いだろう。

 海軍にしても、列強は『神威級』を上回る戦艦を次々に就役させているが、魚雷や潜水艦を使った戦術でカバーは可能だ。

 我が国は【出雲】艦隊を含めて、十隻の神威級があれば今は何とかなる。後は同盟国や友好国の軍備拡張に協力する方が経済的に良い」

「錬度というものもある。烏合の衆を集めても、戦果は望めん。やはり一定の自国の戦力は維持する必要がある。

 同盟国や友好国の戦力を期待するのは良いが、期待し過ぎても問題になるのを忘れるな」

「海軍工廠で『神威級』を含む多数の艦艇を建造して、同盟国や友好国に販売をしているからな。

 お陰で熟練工も増えて、連日賑わっている。経済効果もまずまずだからな。それに継続的な顧客を確保した事になる」

「ハワイ王国、東方ユダヤ共和国、タイ王国、フィリピン、インドネシア、イラン王国、トルコ共和国、エチオピア帝国か。

 今後とも良いお客様だからな。継続供給するとメンテナンスの仕事も入ってくる。海軍の交流も進むし、願っても無い事だ」

「軍備は今のところは大丈夫だな。各国の経済力も徐々に上がって来ている。

 特に『雲南横断鉄道』と『中東横断鉄道』の約半分が完成して、操業を開始した事から経済効果も出始めているからな」

「イギリスやドイツ、アメリカも植民地から富を吸い上げて、同じように経済発展を続けている。

 フランスとロシアも同じようなものだ。特に二国は海軍が壊滅したから、国内で重税に苦しんでいる国民も多い。

 さて、本日の議題である清国と大韓帝国だが、動きはどうだ?」


 非定期の天照機関の会合が行われた理由は、二歳の皇帝の清国の動きとクーデターが発生した大韓帝国について協議する為だ。

 清国の動きはまだ良い。史実に沿った動きであり想定内のものだ。しかし、大韓帝国のクーデターは予想外の事だった。

 領土を大幅に削って、歴史の表舞台から退場願った大韓帝国が復活するとは思わなかったが、要注意内容と捉えられていた。


「出雲議定書で領土を大幅に削られた清国の勢いは、まだまだ戻らないでしょう。史実に沿えば、二年後に辛亥革命が発生します。

 清国の国民の不満はかなり蓄積されているようですから、今回は早まる可能性は高いと思われます。

 イギリスやアメリカ、ドイツの植民地の支配はやや穏やかですので、そちらの住民がどう動くかも不明です。

 大韓帝国ですが、クーデターを成功させた後は国内改革に取り組んでおり、諸外国との関係を見直す為に使者を北京に派遣しています。

 ちょっと予想外の出来事で、現在は陽炎機関のメンバーが北京に派遣された使者の動きを調査しています。

 それに東方ユダヤ共和国の『モサド』は、大韓帝国の国内情勢の情報収集を進めています」

「史実で伊藤を暗殺した人間が、二代目皇帝の純宗を暗殺したのは皮肉だな。史実では伊藤を暗殺した事が、朝鮮併合に繋がった。

 しかも新しい皇帝に就いたのは、史実では強烈な反日政策を採った李承晩だ。

 既に日本海とは切り離したから李承晩ラインは実現不可能だろうが、我々を敵視しているのは同じだ。

 今回はどうなる事やら。予断を許さないな」

「大韓帝国の国内改革の内容ですが、衛生面の改善や悪習の廃絶、識字率の向上、設備導入による工業化など比較的にまともな物です。

 李承晩はアメリカに留学経験がありますので、ある程度の普通の常識を持っていると判断して良いでしょう。

 念の為に、使者以外にも大韓帝国の内部状況を確認した方が良いでしょう。東方ユダヤ共和国に情報提供を依頼しますか」

「うむ。それは手配しておこう。それにしても、辛亥革命と第一次世界大戦は近い。油断せずに準備は怠るな」

「以前に紹介した協力的な転生者は、来年には留学を終えて祖国に戻ります。

 彼らを支援して、ドイツには地下組織を作り、トルコ共和国とタイ王国については防衛力強化の仕事に就いて貰います。

 現状で打てる手はそんなところです。後は第一次世界大戦の準備を優先させます。

 辛亥革命の対応の為に雲南共和国とチベットを支援して国防を強化させますが、それ以外は列強に期待しています」

「イギリス帝国の没落の始まりと、アメリカの台頭を促す世界大戦だ。覇権国家の交代の契機になるから要注意だな。

 我が国にしても舵取りを失敗すれば、全てを失う。心して準備を進めてくれ!」


 未来の事を知り技術というアドバンテージを日本は持っているが、天照基地が消滅したので多くの戦力を失っていた。

 まだ他の列強に比べて有利な点は幾つもあるが、それに胡坐をかいていると、とんでもない失態を犯す危険性もある。

 細心な采配と大胆な戦略が天照機関に求められていた。

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 イギリスは覇権国家として他を圧倒する軍備を持つ事が求められており、現在は『神威級』に対抗できる戦艦の建造や

 大飛行船部隊の整備、それと飛行機の開発などに取り組んでいた。当然、多くの資金を必要とする。

 それはアフリカやインド、アジアの植民地からの富の収奪や、世界各国に散らばる様々な利権からの富で賄っていた。

 そんなイギリスが力を入れていたのは、インドと中国だ。どちらも人口が多くて地下資源も豊富な有望な地だ。

 インドはイギリスの独占状態だが、中国の場合は少々事情が異なる。

 日本の保護国である雲南共和国やアメリカの植民地と境界を接している。日本はまだ同盟国だから良いだろう。

 しかし、イギリスとアメリカの間には、独立戦争を行ったなどの複雑な経緯もあって、油断できないと考えられていた。

 そんなイギリスの植民地でも『雲南横断鉄道』に連結する鉄道建設も進められており、イギリスは清国の領土の恒常支配を確たるものに

 しようと画策していた。

 それ以外にもアフリカとインドの支配を強めながらも、全世界に渡っての影響力を維持していた。

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 フランスは『環ロシア大戦』でアジアの大部分の植民地と、紅海の要衝であるジブチ、それとマダガスカルを失った。

 しかも東洋艦隊と主力艦隊の大半を失うというおまけまで付いて来ていた。

 日本に鹵獲された艦艇は返還されたが、既に旧式艦と化していたので主力としては使えない。

 何としても『神威級』に対抗できる戦艦を揃えなければならず、植民地を失った痛手に耐えながらも軍備の拡充を進めていた。

 そんなフランスでもアフリカの植民地は残っていた。そこからの富の収奪と国民への重税で何とかやり繰りをしていた。

 マダガスカルの開発を義務付けられていたが、負担もあったがメリットもあった。

 政府はマダガスカルの開発費の支出に悩んだが、国民の雇用の確保にはなり、地下資源の輸入も進められていた。

 マダガスカルの開発が進むにつれて、日本と【出雲】との関係も良好になってきている。

 イギリスとロシアと三国協商関係を結んでいる事もあり、フランスは再建の道を歩んでいた。

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 ドイツ帝国は建国が他の列強より遅れた為に、その国力に比べると海外領土は少ない。

 ヴィルヘルム二世はそれを不満に感じて、積極的な進出方針を採っていたが、同時に危機感も感じていた。

 日本の『神威級』戦艦と飛行船団に対抗する手段を持つ必要性を痛感して、その整備を進めさせていたが、外交でも問題が多かった。

 イギリスとフランス、ロシアという周辺の強大国が三国協商を結んで、ドイツ包囲網を形成されてしまった。

 中東やアジアに植民地を持って国力は右肩上がりのドイツだが、やはり包囲されると警戒心も出てくる。

 そんなドイツは軍備拡張を進めながらも周辺国との積極外交を展開して、三国協商の突破を狙っていた。

 そのドイツにおいて異色な動きをしていたのが、ヴァルデマール・フォン・プロイセンだ。

 与えられた権限を使って、様々な軍の改革を行って兵器開発を進める一方で、未来で学んだ心理学を応用して外交交渉にも参加している。

 その結果、史実と異なる結果が出てくるのは、しばらく先の事だった。

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 イタリアは【出雲】と戦って、主力艦隊を失うという大きな被害を受けていた。

 その後で鹵獲された戦艦が返還されてきたが、旧式艦となっていたので軍備拡張を迫られていた。

 そんなイタリアは、リビアとエチオピアの開発を義務付けられていた。資材費と労務費はイタリア持ちだが、悪い事ばかりでは無かった。

 国民の雇用の確保と、リビアとエチオピアの資源と食糧が大量に流れ込んできたので、イタリア経済を大きく刺激していた。

 特にリビアの石油は多くの恩恵を齎していた。それはリビアでの開発競争相手のスペインも同じだった。

 リビア開発を通じてスペインとの関係も徐々に改善されていき、三ヶ国貿易は年々増加の一途を辿っていた。

 その結果、イタリアとスペインの経済も順調に伸びていき、地中海の安定に大きく寄与する事になっていった。

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 日本国内で電化が進んで、裕福な家庭では冷蔵庫や洗濯機、ラジオなどを持つに至った。十数年前と比べると、生活の質は雲泥の差だ。

 経済が上向きなのが実感できて、これからも良くなって来るという見込みがあると働く意欲が湧いてくる。

 施政者にとって重要な役目は、国民に誇りと希望を与える事だろう。誇りと希望があれば、ある程度の逆境にも耐えられる。

 そして日本は日清戦争に続いて環ロシア大戦に勝利した事で、国民の大部分は誇りと希望を持っていた。


「十数年前と比べると、生活が格段に良くなったのが実感できるな。電気のお蔭で楽が出来て、夜も明るい生活が送れるようになった。

 ラジオを聞くと、日本の国内だけじゃなく世界の様子まで瞬時に分かる。本当に以前は考えもしなかった事が、実現できるんだからな」

「娯楽もだいぶ様変わりしたよ。ラジオもそうだが、写真集や出版物も多くなった。漫画本は子供だけじゃなく、大人も読んでいる。

 三流紙だが、新聞も面白くなってきている。

 食料品も豊富に出回るようになって、地方の特産品や海外の料理が手軽に味わえるようになったのは嬉しいよ」

「文学や音楽、芸術関係にも政府は力を入れているからな。文化的に豊かな生活が出来るようになったのは良い事だよ。

 台湾は芸術都市としてかなり有名になって、日本各地の色々な伝統芸能もラジオで紹介されるようになった。

 全体を重視して息苦しい面はあるけど、自由はそこそこはある。

 日本の不利になるような言論への弾圧はあるけど、戦争に負ければ国が無くなるかもしれないんだ。

 今の生活を守る為なら、多少の不便は我慢するさ。だけど、お前は三流新聞を読んでいるのか。少しは体面を考えろよ」

「それくらいは良いだろう。政府は団結を重視する教育方針を採っているが、芸術や科学の分野では自由な発想を奨励している。

 ある意味、二律背反な方針だが、今のところは上手くやっている。それにしても日本文化をアピールする為の展覧会か。

 本当に日本文化は世界に広まっているんだな。少し、誇らしい気持ちだよ」

「無理強いはしていないぞ。本当に優れた文化が世界に広まるのは当然の事だろう。

 そして日本文化を受け入れてくれた国に親しみが湧くのも当然の事だ。そんな国とは末永い友好を期待するよ」


 淡月光の各国の支店の地道な宣伝、各国の日本人老夫婦が運営する孤児院から巣立った子供、日本から各国に移住して行った人、

 義和団の乱の時に保護された人達、環ロシア大戦の時の捕虜、そして地道な交流などによって日本文化は徐々に世界に浸透していった。

 とは言っても、全世界にでは無い。今のところはアジア全域と中東各国、南米の一部、エチオピアとリビア、スペイン、イギリス、

 フランス、ロシア、イタリアと言った日本と関わりが深い国にその傾向があるというだけだ。


 文化は無理に普及させても意味が無い。そうなったら必ず反発はある。

 良いものならば、自然と受け入れられるだろうと積極的な宣伝は控えていた。

 此処にきて日本文化の良さが各地に認められてきた結果だろう。日本各地の特産品の輸出が徐々に伸びている。

 それは日本国内の地方経済の活性化に繋がっていた。

 そして今回、要請があった各国で日本文化をアピールする展覧会が開催された。

 尚、日本は一方的な文化の浸透を計画していた訳では無い。

 友好関係がある各国に日本人街を建設する一方で、日本にも各国の文化を受け入れる外国人街を建設して文化融合を試みていた。


 余談だが、大韓帝国の皇帝である李承晩は日本が各国で展覧会を開催する事を知り、部下である金恨玉の進言を受けて第三国経由で

 日本の展覧会に大韓帝国の文化を紹介する為のブースを準備しろと迫った。

 その理由は日本文化の源は朝鮮半島だから、大韓帝国の文化も紹介するべきという身勝手なものだ。

 日本は大韓帝国と国交は無く、李承晩の『大韓帝国の大韓帝国による大韓帝国の為の歴史』という妄言を聞く気は無い。

 結局、大韓帝国が日本の展覧会に乗じて、自国の文化紹介をする機会は与えられなかった。

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 アメリカは『環ロシア大戦』に直接関わる事は無かったが、清国にあった植民地を大きく拡大して勢力を伸ばしていた。

 それに加え、国内でヘリウムが産出した事から多くの飛行船を建造して、軍用と民間用に大量に配備していた。

 『神威級』に対抗する戦艦の整備を進める傍らで、大飛行船団を整備する事で欧米間の空路を独占した。

 西部に広大な封鎖地域があるが、それでもアメリカの領有する土地は広大だ。

 多くの人口に加えて、豊富な地下資源を持つアメリカは物流も押さえる事で、さらに国力を増大させていた。


 そんなアメリカでも懸念はある。今まで所有していた戦艦をいきなり旧式艦にしてくれた『神威級』を建造した日本だ。

 それ以外にも日本は高性能な飛行船を所有して、ロシア、清国、フランス、イタリアに次々に勝利を収め、北方の広大な地を得た。

 そんな日本はアメリカにとって警戒するべき相手に見えていた。

 清国への進出をフォローされた事で幾分は緩和されたが、日本の位置が清国への進出を目論むアメリカにとって盾に見えている。

 しかもハワイを使えない為に、未だに日本のマリアナ諸島で補給を行っている船舶もある。

 ハワイ王国の付近を航行すると『バハムート』の襲撃がある為、どうしても迂回航路を取らざるを得ない。

 そんな事もあって、アメリカは南フィリピンや清国の植民地の支配を強化する一方で、中継港を欲していた。


 だが、サンフランシスコ大地震や大型隕石の落下を、事前に日本がアメリカに勧告した事が微妙に外交に影響を与えていた。

 巫女の曖昧な神託で経済的被害は史実よりも多かったが、死傷者は史実より大幅に減少した。

 隕石にしても、極秘裏に調査部隊の編成を進めていた拠点が多くの人員と共に失われたが、アメリカが助かった面もあったのは事実だ。

 巫女の機嫌を損ねて海外の天災の事前勧告が少なくなった為に、他の諸外国から怨まれていた事もある。

 アメリカも日本に含むものはあるが、助けられた事実も否定できずに、微妙な関係になっていた。

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 東方ユダヤ共和国は日清戦争の後に建国され、その時の領土は朝鮮八道のうちの南部の三道(全羅道、慶尚道、忠清道)に過ぎなかった。

 しかし、出雲議定書により残りの四道を自らの領土として、その勢力を大幅に増やしていた。

 人口は既に500万人を突破しており、大韓帝国の人口を上回っていた。

 まだまだ開発するべき土地は多くて、収容許容人口にも余裕はある。

 戦争に勝って領土が増えたので、世界各地からの移民も順調に進んでいる。国境を接するのはロシア帝国と大韓帝国だ。

 そしてロシア帝国と問題が起きた時の仲介役を期待して、山が多い領土の一部(咸鏡北道)を日本に譲っていた。

 人口が増えたので陸軍は『環ロシア大戦』の時より増強されて、海軍も日本から二隻の『神威級』を導入して増強していた。

 飛行船もそうだが、優秀な人材を多く抱えている事から熱心に飛行機の研究開発にも取り組んでいる。

 東方ユダヤ共和国は確たる地盤を築き上げ、科学技術立国としての道を歩み始めていた。

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 ハワイ王国は欧米各国との国交を断絶していて、国交があるのは日本とその関係国だけだった。

 そんな理由から、ハワイ王国は欧米の主要国と比較すると発展しているとは言い難い。

 それでもハワイ王国の国民は平和を感じられて、不自由なく生活できている。

 工業化もある程度は進められていて、ペルーの工業化の支援を行った程だ。

 南米と日本を繋ぐ輸送航路の中継基地として、それなりの発展を遂げていた。

 人口は少なく、大国とは呼べない。それでも神の恩恵を受けていると信じられている事から、欧米の侵略に遭う事は無い。

 何より、国民に誇りと希望がある。それに日本を通じて世界の標準技術や色々な情報なども、タイムラグ無しで入ってきている。

 海軍は日本から一隻の『神威級』を導入して、周辺海域の安全を守るようになっていた。

 こうして、ハワイ王国の住民は外の喧騒にあまり関わる事なく、平和な時を生きていた。

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 ペルーは南米にあり、日本とハワイ王国からの支援が始まって約十年が経過している。

 工業化は順調に進んでおり、現地に日本人街も建設されて民間交流が深まっていた。

 そして現地の人達を多く雇用して技術移転に務めた結果、ペルーの各地にも工場地帯が建設されていた。

 まだまだ高い技術製品を生産できる状態には無い。しかし、自国で多く消費するものなどの国産化が進み、

 地下資源をハワイ王国や日本に輸出するなどして、貿易収支の改善に寄与していた。

 農業開発も進んでおり、現地の人達の生活レベルを大きく改善していた。そして……


「な、何だあの地上の絵は!? あんなものが、このナスカの地にあったのか!?

 地上からは分からないだろうが、空から見ると判別できるだと!? いったい、何時の時代に造られたんだ!?」

「この周辺はインカ帝国の支配地でした。我々も飛行船で周囲を空から見て、初めて気が付きました。

 この前に案内したマチュ・ピチュの山頂の遺跡もそうです。インカ帝国はスペインに滅ぼされましたが、高度な文明を持っていました。

 平和な生活が続いて争う事が少なかったから、武力の整備をしてこなかったからでしょうね。

 そしてインカ帝国の遺跡は数多くあります。この前はアメリカの探検隊が遺跡に乗り込んで、全滅したという話も聞いています。

 そうだとすると、遺跡を荒らされそうになって眠っているインカ帝国の神々が怒った可能性も否定できません」

「なんだと!? ハワイやオーストラリア、インディアンと鯨に続いて、インカ帝国の神が目覚めるというのか!?」

「断定は出来ません。我々はアメリカの探検隊がインカ帝国の遺跡に踏み入って全滅したとか聞いていません。

 我々日本としては、インカ帝国の遺跡を荒らすつもりはありませんから、そちらの御自由です。

 ですが、万が一の時は災厄はそちらに降り掛かる事は承知しておいて下さい」

「…………」


 ペルーにはマチュ・ピチュというインカ帝国時代の山頂の遺跡がある。(史実では1911年にアメリカの探検家によって発見)

 それ以外にもナスカの地上絵もある。(史実では1939年の考古学者によって発見)

 この時期のペルーはアメリカを筆頭に列強が進出してきており、それらの各国の研究者や探検家の注目の的だった。

 そして遺跡荒らしも横行していた。映画でもあるように、欧米の人達が中南米の遺跡を捜索し財宝を得るのは金持ちへの近道だ。

 罪悪感など無く、自分の利益を最優先している。だが、現地の人達から見れば先祖の遺産を荒らされるのも同じだ。

 だから、陣内の意を受けた日本総合工業の現地職員は、飛行船を使ってマチュ・ピチュとナスカの地上絵を公開した。

 そして同時に陽炎機関に頼んで、インカ帝国の遺跡から財宝を盗もうと考えている探検家の処分を行った。

 インカ帝国の財宝はペルーの現地の人に還元されるべきもので、見つけたからと言って勝手に持ち出して良いものでは無い。

 陣内は資金集めの為に世界各地の隠し財宝を秘かに採掘した。

 しかしエジプトの王家の財宝は手を付けずに勝浦工場で保管されている。何時かは現地に返すつもりだ。

 それ以外は沈没船のサルベージが主な財宝だ。インカ帝国を含めて、他の遺跡には一切手を出していない。

 そしてインカ帝国の遺跡を荒らすと太古の神々が復活するかも知れないと、各国に思わせる事でペルーへの干渉を軽減させるつもりだ。


 現在のペルーは順調に発展している。後は時間を掛けて開発を続けていけば、経済的にも自立できる。

 アメリカの経済植民地になる恐れもあったので、アメリカの干渉を抑える事と、欲に駆られた冒険家を掣肘する為に仕組まれた計画だった。

 そして日本総合工業からの連絡によって、マチュ・ピチュとナスカの地上絵はペルー政府の管理下に置かれた。

 日本総合工業からの資金援助もあって現地の保存が進められ、観光資源としてペルーに貢献していった。

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 タイ王国に日本が支援を始めて約十六年が経過していた。

 農業開発と工業化は順調に進んでおり、タイ王国は立派な地域大国と呼べる存在になっていた。

 そのタイ王国はインドネシアやベトナム、カンボジアの支援を行っている。

 日本とは軍事同盟を結んでおり、陸軍は日本製の武器を大量に導入していた。

 海軍にしても日本から二隻の『神威級』を導入して、チャーン島に常駐する日本の警備艦隊と定期的に合同演習していた。

 カンボジアとは過去の軋轢もあって、関係が順調であるとは言い難い。

 しかし、日本の仲介もあって周辺国との友好は維持して、平和な時を過ごしていた。

 主に日本からは電気製品や設備機器などを輸入して、タイ王国からは食料や地下資源を輸出している。

 他にも交易国は多く、タイ王国は順調に発展していた。

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 フィリピンの近代化も進んで来ていた。

 日本寄りのフィリピン政府とアメリカ寄りの南フィリピンで、民族は分断されていたが両国間の関係は悪くは無い。

 国内に日本人街やユダヤ人街が数多くあり、主に農業国として発展を始めていた。


 インドネシアも順調に開発が進んでいた。

 豊富な地下資源を有効に活用して国内産業の育成を行い、資源を日本や東方ユダヤ共和国に輸出している。

 まだまだ開発の手が及んでいない地域は多いが、搾取に遭う事は無いので、ゆっくりと開発は進められていた。

 日本とタイ王国との関係を深めながら、インドネシアは発展を続けていた。


 ベトナムとカンボジアの開発が始まったのは、出雲議定書の後でまだ日は浅い。

 それでもフランスの搾取から解放された為に、住民の表情は明るい。

 将来は農業大国を期待されており、そちらに重点が置かれて開発が進められていた。

 それとアンコールワットなどの古代遺跡の保存にも重点が置かれている。

 日本の保護国である事から、今のところは欧米各国の侵略の手は伸びてこない。二国は久々に訪れた平穏な時を過ごしていた。

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 雲南共和国は回族を中心に他の少数民族も含めて建国された国家だ。

 名目上は迫害されていた回族や他の少数民族を保護する為だが、真の目的は『大中華帝国』の出現を未然に防ぐ事にある。

 その目的で建国された為、イギリスとアメリカ、ドイツの植民地が奪い返されても、雲南共和国とチベットは断固として死守する。

 出雲議定書で清国から得た賠償金の大半を、雲南共和国の開発と『雲南横断鉄道』の建設に投じている。

 鉄道は既に約半分が完成しており、一部は運行を始めていた。その結果、輸送効率が上がって地域の経済発展の原動力になりつつある。

 この鉄道は雲南共和国を経由して、チベットに到達する。その経済恩恵がチベットにまで及べば、真の目的は達成するだろう。

 雲南共和国は豊富な地下資源を有しており、それらは雷州半島の日本の施設に運び込まれていく。

 それ以外にも農業開発や国軍整備など、通常の国家としての体制の整備が急いで行われていた。

 雲南共和国は今は日本の保護国になっているが、目処が立った時は日本と友好条約を結んで自立する予定だ。


 チベットは元々が独立国だったが、産業基盤は弱かった。その為に日本の支援で工業化が進められた。

 広大な領土を持つが、大部分を山岳地帯が占めているので農業基盤も弱い。しかし、雲南共和国を凌ぐ地下資源の宝庫でもある。

 雲南共和国の農業開発が順調に進んでいるので、豊富な食料が大量にチベットに運び込まれていた。

 そのチベットもウィグルを含む多くの少数民族を抱えている。

 問題は多いが、中国分断という真の目的を達成させる為に日本は多くの支援を行って、チベットを纏めさせてきていた。

 山岳地帯が多いが、清国との国境付近に国軍を置いて防衛体制は充実させていた。


 モンゴルもチベットと同時期に清国との関係を清算していた。その位置の為に、どうしても日本からの支援の手は伸び難い。

 その為に日本よりはロシア寄りの立場を取っていた。

 あまり工業化は進んでいないが、清国の混乱を避ける為に、ロシアと日本から武器を輸入して軍備を整えている。

 ある程度、世界の情勢が落ち着けばモンゴルの開発が進められるだろうが、それはまだ先の事だった。

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 イラン王国の産業は【出雲】の支援を受けて強化され、石油が発見されたので国内経済は改善されていた。

 それに加えて出雲議定書により過去に奪われた地を、保護国として自国の勢力下に取り込んだ事が国民の意識を高揚させていた。

 日英同盟の改定時の条件により、イギリスがイランの国内利権を返還した事も大きく影響して【出雲】との関係を深めていた。

 ペルシャ湾の入口のケシム島には【出雲】海軍基地がある為に、海軍は重視せずに陸軍重視の方針だ。

 一応、ロシアとの関係は改善はされていたが、それでも国境や保護国には陸軍を派遣して治安維持に努めていた。

 国内で『中東横断鉄道』の一部が開通して、既に経済効果が出始めている。

 その為にイラン王国は陸路でも【出雲】との関係を深めていった。


 トルコ共和国は旧オスマン帝国の頃からの【出雲】の支援により、国内産業が強化されていた。

 過去にロシア帝国に奪われた地を保護国として取り戻した事が、鬱憤を溜めていた国民に多くの喜びを齎した。

 日英同盟の改定時の条件で、キプロス問題を解決してくれた日本に大きな感謝をしている。

 バルカン半島やグルジア方面、シリア方面に陸軍を配備する一方で、トルコ黒海艦隊の創設に取り組んでいる。

 その象徴となるのは、【出雲】から購入した二隻の『神威級』戦艦だ。

 これを基軸に、エーゲ海方面や地中海方面艦隊の設立も進めていた。

 ロシアとの関係は改善されているが、【出雲】との協力体制を重視して体制の維持と国家発展に努めていた。

 トルコ共和国に建設されている『中東横断鉄道』も一部は開通して、現地の経済に大きな刺激を与えていた。

 まだ【出雲】とは鉄道で結ばれてはいないが、一部の操業だけでも効果が認められた。

 【出雲】と鉄道で結ばれた時の経済効果はどれ程のものになるのか、大きく期待されて建設工事は進められていた。


 サウジアラビアはアラビア半島の大半を領土としているが、建国してまだ七年の国だ。

 大部分を砂漠が占めており、満足な産業は無い貧しい国だ。しかし、【出雲】の支援で少しずつ変わりつつある。

 砂漠の緑化が積極的に進められて、農地も徐々に増加している。工業化も少しだが進みだした。

 これらの産業を支えているのは、【出雲】が用意した海水を飲み水に変える淡水化プラントだった。

 これが無くてはサウジアラビアの生活は成り立たないまでに、大きく依存していた。

 資金が無い為に、軍は陸軍しか存在していない。それも国境警備のレベルにしか過ぎず、海の脅威には【出雲】に頼らざるを得ない。

 まだ貧しい国だが【出雲】との友好を主軸にして、発展の道を歩み始めていた。


 エチオピア帝国は【出雲】領ジブチを経由した交易と、イタリアのインフラ整備支援を受けて発展を続けていた。

 一時期は戦争を行ったイタリアとの関係がギクシャクしていたが、インフラ整備の結果が出始めた事で外交関係は改善している。

 アフリカ唯一の独立国として、周辺に大きな影響力を持つに至った。

 イタリアの領土だったエリトリアとソマリアを得た事で、紅海とインド洋に面した領土を持った。

 【出雲】から艦艇を購入し、さらに教官を招いて海軍の創設に取り組んでいた。

 国力が上がると同時に、陸軍の増強も行われている。主敵だったイタリアを下したとはいえ、まだ騒乱の時代だ。

 今のところは自らが攻め入る事はしていないが、国を守るという意思は揺らぐ事は無かった。


 マダガスカルはフランスの植民地だったが、出雲議定書により【出雲】の保護国になっていた。

 そして【出雲】とフランスの支援により、農地の開拓が進んでインフラ整備や工場の設立などが進んでいた。

 国民の生活レベルも向上して、今のところは【出雲】とフランスと良好な外交関係を築いている。

 将来の自立を考慮して国軍の整備が進められているが、まだ陸軍中心の構成だ。

 海軍の整備はまだまだ後になるだろうと考えられている。

 希少な地下資源を有する事から、日本総合工業を筆頭に【出雲】の各企業の進出が行われていた。

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 今の日本は各地に海外領土を持っている。

 旧フランス領ポリネシアとウォリス・フツナは、出雲議定書でフランスから領有権は日本に移っていた。

 とは言え、今の日本にあまり重要で無い地域を大々的に開発する余裕は無い。

 その為に管理の為の人員は派遣したが、基本的には先住民重視の方針を採って、ゆっくりとした開発を現地の人達と協力して進めていた。


 ニューカレドニアも同じ経緯で日本の管理下に入っていた。

 少し違うのは、ニューカレドニアはオーストラリアとニュージーランドの監視に好都合という理由から、海軍基地が置かれていた事だ。

 『白鯨』によって周囲の海は閉鎖されている為に、不用意に民間船が入り込まないように定期的に見回っている。

 こちらも急がすに現地の住民の意向を重視しながら、ゆっくりとした開発が進められていた。


 フィジーとニューヘブリディーズ諸島はイギリスから譲り受けて日本の領土になった。

 気候は温暖で風土病はあるが、比較的住み易い地だ。

 現地の人の為に管理する人材と医療チームを送り込み、自治領として運営されていた。

 そしてフィジーでは一部の住民を移動させて、無人となった島に非武装の永世中立国を建国する準備が進められていた。


 ロシアから得たレナ川より東の広大な領土は、各地に監視所や観測所などを設置した以外はカムチャッカの研究都市を除いては開発は

 進められてはいない。これも、中央シベリア高原やアルダン高原、満州などの開発を優先させたからだ。

 ロシア革命の前にできるだけ早く、ロシアへの影響力を確保する事を目的に資源開発が進められていた。

 自国の領土なら後でゆっくりと開発を行えば良いと考えられていた。


 朝鮮半島の咸鏡北道は東方ユダヤ共和国から、ロシアとの問題が発生した時の仲介を務める条件で譲られた地だ。

 陸軍の小さな駐屯地と小規模な街、それと鉱山開発の街がある以外は開発は進められてはいなかった。


 ヤンマイエン島はノルウェー海にあるが、日本の領土として国際的に認められている。

 オーロラ観測所と試験的な寒冷地用の農業プラント、それに大型の港湾施設や修理工場、それに物資保管用の倉庫がある。

 本来の使用目的はオーロラ観測だが、欧州との交易の中継地点としても活用が始まっていた。

 ある程度の食料の生産は可能になり、少人数であれば生活できる基盤は完成していた。

 艦船の修理ドックもあって、季節は限定されているが北極海航路を使用した交易船が出入りするようになっていた。

 尚、同じ海域にあるスヴァールバル諸島は国際条約によって各国に開放されている。

 その為に日本はスヴァールバル諸島で地下資源の開発も行っていた。

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 【出雲】はペルシャ湾の奥にあり、中東の中央部に位置している。

 当初は小さな領土しか無かったが、クエート市やバスラ州方面、さらには西と南に領土を拡張した事で立派な国と呼べるまで成長していた。

 周辺から流れ込んできた人達や、日本や同盟国、友好国から移民して来た人達によって、人口は既に百万人を超えている。

 最初に入植した人達の子供も成長して、既に労働者と為っている人も居る。

 居住域の面積制限もあり、高層建築などの集合住宅が推奨されている。

 欧米に匹敵する工場群があり、それが【出雲】の産業と周辺国の近代化を支えている。

 陸軍の部隊はまだ少数だが、海軍は列強に肩を並べる威容を誇っていた。

 皇室直轄領という事もあって日本本国とは若干は異なる制度になり、即断する事を尊重する気風が流行っている。

 『中東横断鉄道』の起点でもあり、【出雲】は中東全域に大きな影響力を持つに至った。

 ジブチを領土にする事とエーゲ海のドデカネス諸島に拠点を持った事で、インド洋、紅海、エーゲ海、地中海にまで進出を始めていた。

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 陣内に長年協力してきた渋沢老は七十歳になり、財界からの引退を表明して六十一の会社役員を辞任した。

 その後、呼び出された陣内は渋沢の自宅で、二人きりで話していた。


「本当に引退してしまうのですか? 実務は辛いでしょうが、相談には乗っていただきたかったのですが?」

「陣内君に最初に会ったのは二十年前か。あっという間の事だったな。その間に日本は劇的に良い方向に変化を遂げた。

 まだ四十代の陣内君は頑張って貰うが、やはり七十を超えると身体が辛くてな。後は優秀な部下に任せてある。

 陣内君の相談には乗るが、実務は勘弁してくれ」

「……そうですか。分かりました。長年に渡る御協力に感謝します」

「何を言う。感謝するのは此方だ。陣内君が居なかった事を考えると、寒気を感じるくらいだ。

 これからは、隠居生活を送りながら日本の発展する様子を見させて貰うよ」


 赤ん坊は成長し、子供になる。子供は成長して、大人になる。大人はやがて老いていく。それは自然の摂理だ。

 身体改造を受けて、この時代の平均寿命を超える寿命を持つ陣内とて、二十年の月日は平等に過ぎていた。

 腹が少し出てきて、髪に白いものも若干混じってきた。まだまだ働けるだろうが、若手の育成にも気を使おうと考える陣内だった。

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 陣内に協力する事を約束して、日本総合大学に留学中の転生者は石原莞爾、ソンティ、アドルフ・ヒトラー、サリーの四人だ。

 リリアンは祖国で勉強と仕事をしており、アドルフの帰国の時に一緒に行く事が決まっていた。(嫁入り修行は前世で済んでいる)

 両親は反対したが、陣内が秘かに話した事もあって祖父のハリーが許可を出していた。

 来年の卒業を控えて、四人の転生者は大学のある個室で話し合っていた。


「来年で卒業か。まあ、それなりの知識は身に付けたな。後は未来の知識とどうやってリンクさせて上手く活用するかだ。

 俺はドデカネス諸島の【出雲】の工場への赴任が決まった。そこで工場生産管理を実地で学んでから、軍に入る。

 前線に出る事は無く、後方から支援する役目だよ」

「ボクはタイに戻ってチャーン島の日本総合工業の工場に勤務する。そこで勉強をしてから、タイ王国軍に入る。

 同じような進路だな。陣内さんの口利きで、あまり下積みをしないで管理職の仕事を学ぶ予定さ」

「二人は堅実な道で良いよな。俺は姓を変えて、それからハインリッヒ商会に入社する。

 リリアンが一緒に来てくれるから良いけど、これからが大変だよ」

「あの名前は強烈過ぎるからね。それにしても将来は総統になるのか?」

「馬鹿を言え! そんな恥ずかしい事が出来るか!? 俺は裏方でドイツの経済を支えて、第二次世界大戦が起きないようにする事が目標さ。

 貧困から戦争をするなんて嫌だからな。何事も平和が一番さ」

「あたし達以外に転生者が居るんだろうけど、あの名前を知ったら絶対に接触してくるでしょうしね。

 それにしても奥さん同伴で帰国なんて、凄いじゃ無い。結婚式はどうするの?」

「まだ二十歳の若造なんだぞ。あっちで数年は待って貰うつもりだ。式には呼べないだろうから、最初に謝っておくよ」

「今だってリリアンは通い婚をしているようなものだしね。祝福しておくわ」

「そういうサリーはどうするんだ? 陣内さんと深い関係なんだろう?」

「そういう個人的な質問は止めて欲しいわね。あたしはインディアン居住区に戻るわ。そこで将来の体制造りを行う予定よ。

 陣内さんの子種を貰う約束をしているから、跡継ぎは心配無いわ」


 四人とも可能な範囲で陣内がバックアップして、其々の祖国の発展に尽力する予定だ。

 それは四人の希望でもあり、陣内にもメリットになる事でもある。

 トルコ共和国とタイ王国は既に地盤が出来ているので、それを守るだけで良い。

 しかし、ドイツは一度は破壊の洗礼を受けた後の再建が問題になる。状況の変化によっては、計画の頓挫も予想されていた。

 その為に、現時点からある程度の布石を打つべく、天照機関は準備を進めていた。


「日本は大きく成長したから、列強でも日本を軽視できなくなってきている。

 しかし、日本は軍備拡張をあまり進めていないから、数年で他の列強は日本を上回る戦力を整える。

 その時が危険だと他の留学生が話していたけど、どう思う?」

「陣内さんの奥の手はまだ幾つもあるだろうけど、それは知られていないから表面上はそう見えるんだろうな。

 それにしても今度は世界大戦か。どうやって巻き込まれずに上手く切り抜けるかで、運命が変わってくるだろうな」

「トルコは史実の第一次世界大戦では敗戦国になって、大きく領土を失ったが今回は違う。

 参戦するかは分からないけど、敗戦側に為る事は無いだろうから一安心だよ」

「それはタイ王国も同じだな。アジアに戦渦が及ぶ事は少ないだろうから、安心して国の開発を進められる」

「良いよな。ドイツは負ける事が分かっているんだ。でも、戦争をやるんだろうな。

 俺の仕事は出来るだけ死者を減らして、戦後の再建を早く進ませる準備をする事だ」

「皆は甘いわね。もう今の歴史は史実から乖離しているのよ。史実では安全だからと言っても、巻き込まれないとは言えない筈よ。

 それに史実では無かった事が起きる事も十分に有り得るって陣内さんも言ってたもの。用心はすべきよ」

「日本を上回る戦力を持った国が、攻め込んで来ないとも限らないという事だな。

 史実通りなら五年後だけど、早まる可能性もある。今のうちから準備を進めておいた方が良いって事だな」

「だから陣内さんは準備を進めているんじゃない。

 飛行船を大量に列強に用意させて、飛行機の優位性を戦争の時に強烈にアピールするつもりよ。

 その為に、開発と配備を少しずつ進めているんだもの。

 日本以外は戦艦もそうだけど、飛行船の戦果に目を奪われて、飛行船の大量配備を進めている。

 その弱点が一気に露呈するわね。潜水艦も用意するって言ってたし」

「史実でも膨大な被害が出たけど、今回も大きな戦いに為りそうだな。気を引き締めるか。まあ、その前に卒業を頑張らなくちゃな」


 まだ転生者は二十歳と若くて、責任ある部署を任せられない。ある程度は実績を積まないと、周囲が納得しない。

 あの沖田でさえ、二十代後半だった時に強引に司令の地位に就けた事で、周囲の反発があった。

 だからこそ、ある程度は下積みも経験する必要があった。

 そして責任ある部署を任せられれば、その時は未来の知識を併せて結果が出せるだろうと見込まれていた。

 今の日本は表面戦力の拡充を出来るだけ抑えて、資源開発や工業力の強化を積極的に進めている。

 それは他の列強の視線に立てば、日本が油断していると見られかねない状況だが、天照機関はその欺瞞工作を中止する気は無かった。

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(あとがき)

 四月から仕事の部署が変わりまして、先週末ぐらいから大忙しの状態です。

 今回は三話をまとめて投稿しましたが、次の投稿時期は自分でも予測できません。

 月に一回程度の投稿ペースになるかも知れませんので、予め連絡させていただきます。


(2014. 6. 1 初版)

管理人の感想
ヒトラー、隕石、韓国でのクーデターなどなど、イベントがてんこ盛りでした。
それに転生者たちも次第に大きくなり、色々と世界に影響が出てきました。
今後、転生者たちがさらに力をつけると、もっと大きな影響が出てきそうですね。