1904年
昨年は殆どが戦争に費やされた。史実より一年も早く始められた戦争は、規模が最初の予想より拡大したが何とか終結の目処が立った。
まだイラン王国とトルコ共和国はロシア軍と戦闘を継続中だが、それも今月の中旬に予定されている講和会議が纏まれば戦争も終わる。
東方ユダヤ共和国に派遣した陸軍師団に被害は出ていたが、全体を見れば日本の被害は軽微だと言えるだろう。
だが、亡くなった兵士の家族にとっては悲しむべき事態だ。その為、残された家族が生活に困らないような支援が国から行われていた。
主戦論に傾いた某新聞社は満州や中央シベリアを占領するべきだとか主張したが、
酷寒の地に越冬する装備がどれくらい必要かという質問に答えられずに、恥をかいていたくらいだ。
あまり国民が熱くなり過ぎても困るとして、日総新聞は新年早々だが冷静な記事を掲載していた。
『昨年は李氏朝鮮の奇襲を受けて、我が国が宣戦を布告。その後に李氏朝鮮はロシアに併合されて、清国とフランスが参戦してきました。
そして東方ユダヤ共和国で、苦しい防衛戦が続きました。
概算ですが、李氏朝鮮の民兵が約四十万人、清国軍が約二十万人、ロシア軍が約十五万人失われるという激戦でした。
負傷者を加えればさらに被害総数が増えると推測されています。
東方ユダヤ共和国軍の被害が約五万人、我が国が派遣した陸軍兵士の約三千人が亡くなっています。
その苦しい防衛戦は、ロシア軍が満州に撤退した事で終わりました。
東方ユダヤ共和国軍は朝鮮半島を北上し、平安道を除く全てを占領下に置いています。
平安道を占拠しないのは、関係が良くなかったとはいえ李氏朝鮮に配慮した為だと、東方ユダヤ共和国政府は発表しています。
占領した地域で保護した民間人は、人道的見地から全て李氏朝鮮の支配する平安道に送還しています。
激しい防衛戦の中、我が軍は樺太(サハリン)、カムチャッカ半島、チュコート半島、アナディール高原、ユガギール高原に兵を進め、
占領して恒久基地の建設を進めてきました。現在、その恒久基地で約一個師団の兵士が越冬しています。
空ではロシアの三百隻の大飛行船団を撃破して、海でもフランス東洋艦隊、ウラジオストック艦隊、旅順艦隊を撃破しました。
しかし、相手は大国ロシアです。講和会議は今月中に行われる予定ですが、まだどう決着がつくかは不明です。
国民の皆様は、慌てずに落ち着いて続報をお待ち下さい』
史実の日露戦争では勝ったはずなのに賠償金を得られなかった為、日比谷焼打事件を始めとして各地で暴動が発生した。
その為に、勝ったと言っても被害があり、国民が浮かれないような報道が行われていた。
東方ユダヤ共和国は朝鮮八道のうち、李氏朝鮮が残る平安道以外の七道を支配下に置いていた。
そして彼らの高い自尊心を傷つける事の無いように、保護した住民は平安道に送り届けるフォローを行っていた。
尚、李氏朝鮮の元国王の高宗は、何度も東方ユダヤ共和国に使者を送った。だが、併合されたので李氏朝鮮に交渉権は無い。
その為に交渉はロシア政府と行うと回答した為、元国王の高宗の望みが叶う事は無かった。
『国際法規上は我が国は清国と交戦状態にありますが、現在は戦闘は行われておりません。
東方ユダヤ共和国に侵攻してきた陸軍部隊が約二十万人の被害を出して撤退し、我が国が清国の沿岸施設や黄河と長江の
上流にある施設を破壊した被害は約三万人と推測されています。
チベットは四川の西部地域から青海省、新疆省、甘粛省を支配下に置いた事を清国に通告し、我が国と正式に国交を結びました。
モンゴルも正式に独立国である事を宣言して、我が国と国交を結んでいます。
さらに雲南省の回族や他の少数民族を中心にした独立運動が発生して、雲南省を中心に貴州省と広西省、四川省と広東省の一部の
地域が独立を表明しました。我が国もそうですが、イギリスを含む主要国は『雲南共和国』の独立を承認しました。
さらにイギリスが広東省と江西省、湖南省の占領を、アメリカが江蘇省と安徽省を、ドイツが山東省と河南省の占領を進めています。
中国大陸の分断が少数民族や列強の手で進められていますが、清国はこれに何の対応も出来ていません。
この件に関して日本政府は、清国内部に進出しないと宣言した為に不干渉を貫くと発表しています』
満州はロシアに占領され、チベットとモンゴルと雲南共和国の独立、列強の占領地拡大で、清国は領土を大幅に減らしていた。
日本は清国内部に関与しないと発表を行ったが、嘘では無い。支援や勧告を行ったが、実際に戦っているのは現地の人や列強だ。
さすがに三度も戦争を行えば十分だろう。四度目の戦争が起きないように、日本は徹底的に中国の分断政策を進めていた。
その結果、清王朝の威信はさらに低下し、残っている領土でも国民の暴動が多発していた。
尚、『雲南横断鉄道』の噂は各地に広まり、その経済的恩恵に与れる地域の人々の期待を膨らませていた。
『独立運動が起きていたベトナムとカンボジアですが、駐留していたフランス軍をようやく制圧して、全土を支配下に置いた模様です。
ベトナムには淡月光の工場がありますが、フランス軍によって閉鎖されていました。工場再開にはまだ時間が掛かる模様です。
日本政府はベトナムとカンボジアの独立を承認し、近代化への協力を行うと表明しています。
尚、フランス軍の捕虜は、東洋艦隊と同じく済州島の収容所で保護されています』
フランス東洋艦隊が敗北した後に発生したベトナムとカンボジアの独立運動は、やっと目的を達成していた。
後は急ぐ事無く、時間を掛けて両国の近代化を進めれば良い。
カンボジアはベトナムやタイ王国の圧迫を過去に受けた経緯もあり、隣国関係があまり良好では無いが、それでも搾取が無くなり
独立ができたと現地は喜びに沸いていた。日本が全面的に支援を約束した事もあり、現地で独立政府の準備が進められていた。
ベトナムの場合、以前から淡月光の関係で民間ベースの関係があった。その為に日本主導で近代化する事に異存は無かった。
そしてベトナムでも、独立政府の準備が進められていた。
『【出雲】は先月末にエチオピア帝国とリビアとイタリア王国との講和会議を行い、出雲条約を結びました。
これによりイタリア王国との戦争は終結し、エチオピア帝国とリビアの復興が進む事になります。
【出雲】の人口は少ないままですが、イラン王国、トルコ共和国、サウジアラビア王国、ドデカネス諸島の開発など目白押しです。
現在『中東横断鉄道』の建設を進めている事もあり、人材不足の面からエチオピア帝国とリビアの復興はイタリア王国に依頼しました。
敗戦国に復興を依頼するのは異例の事ですが、日本と【出雲】は因縁に囚われずに協調を基本にして繁栄を望むと発表しました。
この度のイタリア王国への対応については、諸外国から賞賛の声が寄せられています。
マダガスカルではフランスからの独立運動が激化しており、イラン王国とトルコ共和国は依然としてロシア軍と戦闘を続けています。
こちらも講和会議の決着が待たれています』
まだ戦闘が続いている地域はあるが、講和会議によって決着がつくと考えられており、楽観視されていた。
今回の戦争で【出雲】はイラン王国とトルコ共和国に支援を行い、リビアとエチオピア帝国への補給物資の供与を行った。
さらに【出雲】艦隊は、イタリア主力艦隊、バルチック艦隊、フランス主力艦隊、黒海艦隊を撃破する輝かしい戦果を上げていた。
それに戦時中だと言うのに、『中東横断鉄道』の建設は中断される事無く行われている。(ドデカネス諸島の開発は中断)
欧米の大国に匹敵する【出雲】の工業力に、世界の注目は集まっていた。
【出雲】艦隊を指揮した沖田提督は東郷提督と並び、不敗の提督として名声を得て【出雲】の威信向上に繋がっていた。
そして日本と【出雲】が、ロシア、フランス、イタリア相手に快勝した事は、各地の搾取に悩む植民地の住民の希望となっていた。
何と言っても有色人種国家がキリスト教圏の欧米諸国に勝利したのは初めての事だ。
今までは支配者である欧米諸国に反抗はしても、勝てるなど考えられなかった。だが、日本と【出雲】の勝利が可能性を示していた。
イラン王国とトルコ共和国の戦闘も優勢に進んでおり、両国の世論に好影響を与えていた。
マダガスカルの独立運動も激化しており、世界は【出雲】で行われる講和会議に注目していた。
そして講和会議の前に、世界各国から【出雲】を見学に訪れる人が激増していた。
出雲条約によって、鹵獲された艦艇や捕虜が返還される事を知らされたイタリア国民は歓喜に沸いた。
巨額の賠償金を請求されずにリビアやエチオピアの開発を要請された事もあって、国民意識が変わっていく契機になっていた。
『日本政府は現在締結されている日英同盟の改定協議を、【出雲】の講和会議の後に行うと正式に発表しました。
まだ対ロシア戦は終了していませんが、今後の世界に対する影響もあり、諸外国の注目を集めています』
イギリスはボーア戦争の痛手があり、今回の対ロシア戦では情報提供するだけに止まっていた。
しかし、世界の多くを支配する大帝国である事に間違いは無い。
そのイギリスは史実と同じく日英同盟をさらに進化させて、日本の技術の取り込みを図ろうと考えていた。
清国の植民地に関する問題や、『雲南横断鉄道』と『中東横断鉄道』に食い込みたいという思惑もある。
日本もイギリスに要求したい事は山ほどある。この後、第一次世界大戦の準備を進めなくてはならない。
こうして、日英同盟の改定協議も世界の注目を集めていた。
『理化学研究所で進められているスカンジナビア半島とヤンマイエン島のオーロラ観測施設は昨年に完成し、既に運用に入っています。
どちらも常駐職員を派遣していますが、ヤンマイエン島については食料は全て運び込んでいます。
その為、港湾施設の拡張や屋内農園による食料自給施設を建設すると、北垣代表は発表しました。
ヤンマイエン島に他には定住者は無く、日本による施設の拡張を進めていく方針です」
ヤンマイエン島の施設の拡張は、日本の対欧州政策に関わってくる。
現在の日本に欧州に近い拠点は無く、現在はどこも領有していないヤンマイエン島を得られれば戦略の幅が出てくる。
さらに緯度が高いスヴァールバル諸島にも施設を建設して、事前工作を進めている。今のところは研究目的施設だけで十分だ。
しかし、中央シベリアの東側の領土を得て北極海航路が使用できるとなると、欧州に対して影響力を行使できる可能性がある。
第一次世界大戦の事前準備だ。大兵力を派遣する気など毛頭ない。
しかし、航空戦力や海上戦力、潜水艦戦力の基地として、北欧方面に睨みを利かせられる。
平和な時は貿易の拠点としても使える。北欧諸国との交流を深めながらも、日本の秘かな動きは進められていた。
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日総新聞は日本の全国紙となり、世界に記事を配信するまで成長していた。
その落ち着いた報道姿勢は政治家や軍人、経営層などの人達に受け入れられ、日本の動向を知る必需品と考えられていた。
だが、公共マナーの向上や言葉遣いを丁寧になどの啓蒙活動を行っていたので、新聞に真実ではなく刺激を求める人の評判は悪かった。
日総新聞は多くの読者を抱えた結果、完全に黒字化していた。そして無料配布を行っているところもある。
日本各地の学校の職員用や大学の食堂などには無料で配布して、国民意識の啓蒙を進めていた。
理化学研究所が運営する日本総合大学の食堂にも置いてある。その食堂で各国の留学生が食事をしながら会話をしていた。
「俺は南米のペルーから来たけど、最初は怖かったんだ。ほら、日本が戦争に負けて占領されたら俺はどうなるんだって不安でさ。
でも、日本は全然被害を受けなくて、あのロシアや清国、フランスとイタリアにまで勝ってしまうんだからな。
国にいた時は、日本がここまで発展しているとは思っていなかった。これから勉強に頑張らなくちゃな」
「あたしはハワイ王国から来たのよ。日本がロシアと戦争するって話を聞いた時には驚いたわ。
国の母さんは直ぐに帰れって電話を掛けて来たくらいだもの。でも、諦めずに待って良かったわ。あの時に帰ったら後悔したものね」
「俺は東方ユダヤ共和国から来たんだ。ロシアと清国が攻めて来たと知った時は、国に戻って軍に入ろうかと真剣に悩んだよ。
でも、木村教授に絶対に大丈夫だからって言われたんだ。
やっと建国できたばかりの祖国を失う訳にはいかないって反論したけど、日本は必ず勝つと断言してくれた。
大きな被害は出したけど、やっと侵略者を追い返す事ができたし、今は朝鮮半島の大部分を占領している。
これで移住して来る人達も、さらに増えるだろう。木村教授を信用して、本当に良かったと思っているよ」
「僕はフィリピンから来たんだ。日本が参戦してすぐにフランスが宣戦布告をしてきたろう。
祖国が占領されてしまうんじゃ無いかって不安だった。でも東郷提督がフランス東洋艦隊を撃破してくれたんだ。
日本からの支援で国も少しずつ開発が進んでいる。僕はここで勉強して、国の開発に尽くす事が夢なんだ」
「それは俺も同じだ。俺の祖国のインドネシアも、フランスの占領目標だったんだからな。
オランダの搾取からやっと独立できたんだ。日本とタイ王国の支援で国は段々と豊かになってきている。
日本が参戦すると発表した後に、大量の支援物資を祖国は日本に提供したんだ。今までの恩返しのつもりさ」
「それはあたしの国もそうよ。フランスに負けた時に、日本は支援の手を差し伸べてくれたわ。
あたしの国も食料や資源をいっぱい日本に提供したのよ。
コーラート台地を日本人が汗水垂らして開発してくれた恩義は忘れる事は無いわ。工業製品が作れるようになったのも日本のお陰ね。
あたしは日本人老夫婦がいる孤児院にいたんだけど、日本総合工業の奨学金制度を使って留学してきたの。
ここで頑張って勉強して、国に戻ったら先生になるのが夢なのよ」
「へえ。あなたも日本人老夫婦の孤児院から来て、奨学金制度を使っているの。あたしはベトナムから来たんだけど同じね。
あたしは孤児院を運営している伊賀さんに飛行船のチケットを手配して貰って、紹介状を持って日本に来たのよ。
最初は不安だったけど、紹介状の威力は凄かったわ。あっと言う間に住居の手配と入学手続きを済ませてくれたの。
生活資金として月々のお手当も貰っているし、本当に有難かったわ」
アジア系の留学生の話は盛り上がっていたが、それを少々苦い気持ちで聞いていた留学生もいた。
躊躇いながら、金髪碧眼の留学生は口を開いた。
「……俺はフランスから来たんだ。最初に言っておくけど、フランス政府のやった事を俺は認めていないからな!
俺も日本人老夫婦の運営する孤児院で育ったんだ。十年間もそこで育てられて、日本の事を教えられてさ。
今じゃお茶も淹れられるし、剣道だって甲賀さんのお墨付きを貰っているんだ。漬物を作れるし、納豆も大好きだ。
奨学金を貰っているのは俺も同じさ。俺は日本が大好きで、今回の事ではフランス政府に怒っているんだ!
御願いだから、フランス人全員が日本を攻めたかったとは思わないでくれ!」
「それは分かるわよ。言い辛かったけど、あたしはロシアから来たのよ。皆と同じく日本人老夫婦に孤児院で育てられたわ。
まだ小さい時に、冬の寒い日に風魔さんの布団で寝た時は暖かかったし、嬉しかった。寂しいって泣いた時は優しく慰めてくれた。
日本の事を色々と教わって興味を持って、日本に行きたいと話したのよ。
そうしたら淡月光の輸送船に乗れるように手配して、奨学金まで手配してくれたのよ。今のあたしがあるのは風魔さんのお陰だわ。
着物の着付けができるぐらいに日本が好きなのよ! だからロシア人全員が敵だとは思わないで欲しいの!」
「気持ちは分かるな。俺はイタリアから来た。皆と同じく日本人老夫婦の孤児院にいたんだ。
根来さんて言ってさ、躾は厳しかったけど寂しい時は一緒に寝てくれた優しい人達だ。
俺も根来さんの教育で日本に興味を持って、留学してきた。最初は金が無いから無理だって言ったのに、奨学金を手配してくれたよ。
それなのにイタリアは【出雲】とエチオピアとリビアに攻め込んで、しかも負けてしまった。
負けたらどんな事を要求されても仕方無かったけど、エチオピアとリビアの開発をする条件で許してくれた。
あの出雲条約の内容を知った時、嬉しくて泣き出してしまったよ。俺はここで勉強して、祖国に戻って橋渡し役になる事が夢なんだ!」
「なんだよ。ここの留学生は日本人老夫婦の孤児院にいた人間が異常に多いんじゃ無いのか。
かくゆう俺もそうなんだけどさ。俺はスペインから来たんだ。今回、リビアの開発には俺の国も関わるそうだ。
もし、卒業できて国に戻ったら、ひょっとしてリビアで会うかもしれないな」
「そうだな。その時は宜しくな!」
まだ日本は戦争状態にあったが、国内は平常を保っていた。
民需品が不足する事も無く、大学の運営も通常通りに行われている。留学生の受け入れも通常通りに続けていた。
そして各国の孤児院で優秀さを認められた子供が、奨学金を使って日本総合大学に留学するようになっていた。
単発的なものでは無い。孤児院の運営が続く限り、各国の優秀な孤児が日本に留学してくるシステムだ。
日本の文化に親しみ、日本で教育を受けた彼らは、祖国に戻ったら優秀な人材として活用されるだろう。
まだ平然と人種差別が行われている時代だが、彼らは最初から偏見を持つ事が無い。そのように小さい頃から教育を受けている。
そして日本との掛け橋の役を果たしてくれる。陣内の長期計画の一つは、やっと成果を出しつつあった。
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横浜には多くの外国人商人の館がある。商機を求めたり、情報交換を目的に数ヶ国の商人が集まっていた。
集まった商人の目的は、例年の日総新聞の記事の分析だ。これにより今年一年間の概略目標が決まると言っても過言では無い。
それほど日総新聞の記事は読者の信頼を得ていた。まあ、新聞に面白みや刺激を求める読者からは敬遠されていたが。
キリスト教徒はクリスマスがメインで、新年のイベントを行う習慣はあまり無い。
しかし、日本の慣習に染まりつつあった商人は、新年会を開きながら日総新聞の記事について話し合っていた。
「新年早々に集まって昼間から酒を飲むのも、たまには良いものだな。日本人はこれを慣習としてきたのか。もっと早く知りたかったよ」
「おいおい、酔っ払うのは後にしろ! まったくアル中は困る。酒を飲むなら分析が終わってからにしろ!」
「分かっているよ。まったく落ち着きの無い奴だな。イラン王国やトルコ共和国の戦闘は続いているが、アジア方面の戦火は収まった。
講和会議も開かれる事だし、戦争も終わるさ。今のうちから復興用物資の買占めを行った方が良いだろうな」
「講和会議が本当に纏まるか? ロシアはイランとトルコと戦争中だし、朝鮮半島の大部分を失った。
中央シベリアの東側の広大な領土が日本に占領されているんだ。この上、満州の撤退を呑むと思うか!?」
「結局、飛行船の爆撃でシベリア鉄道が破壊されて、欧州とアジアの流通が遮断されているんだ。
満州に大軍を派遣したは良いが、手薄な欧州をつかれて格下のイランとトルコに負け続けている。
そして満州で大軍を抱えているのは良いが、物資不足で満足に動けない。ここは講和するしか無い!」
「日本がどんな提案をしてくるかだな。イタリアの例もある。こればかりは会議の結果待ちだ。
ロシアが満州に固執しているのを、どう諦めさせるかがポイントだな」
「東方ユダヤ共和国は旧李氏朝鮮の領土の大部分を占領した。従来の領土の倍以上になった訳だ。
ユダヤ人としては、ホクホク顔だな。これでさらに欧州から移住してくるユダヤ人が増えるだろう」
「清国とフランスも関わってくるから複雑になったんだ! チベットとモンゴルの独立宣言と雲南共和国の建国、列強の各地の植民地化。
まったく清国はボロボロだな。ロシアとの密約で、東方ユダヤ共和国と日本に戦争を仕掛けた報いか。
ベトナムとカンボジアの件もある。本当に日本から目を離せないな」
「ベトナムとカンボジアは日本の保護国になるだろう。今までのやり方から見て、現地の意向を重視した政策を採る可能性は高い。
そして南太平洋のフランスの植民地は全て日本軍によって占領されている。
これでフランスはアジアから叩き出され、日本の勢力範囲が一気に拡大するという事か」
「広州湾一帯に残っているが、どうなるか分からんな。ジブチとマダガスカルは失うだろう。
後は賠償金がどうなるかだ。イタリアと同じく、奪われた土地の開発の義務付けなら面白いんだがな」
「さあな。講和会議は【出雲】で行われる。今回の【出雲】が見せた実力は信じ難いものだ。
あんな小さな領土で出来る事じゃ無い。俺は三日後には【出雲】に行って、現地を視察してくる」
「陸戦は基本的に現地軍にやらせて、空と海からの攻撃に限定したとは言え、あの軍事力と工業力は信じられない。
戦争中なのに、『中東横断鉄道』の建設が進められていたんだぞ! イランの石油採掘も予定通りだと聞く。
【出雲】の工業力は底なしなのか!?」
「それを確認する為に【出雲】に行ってくるんだ。土産話を楽しみにしておけよ。苦労して飛行船のチケットを入手したんだからな」
世界の商人にとって、今回はイレギュラー続きだった。
色々な商品の輸出が止まるだろうと予測して事前に買い占めたが、結局は輸出は止まらずに大損した。
軍需品を売り込もうとしたら間に合っていると言われ、溜めこんだ民需品を高値で売りさばけない。
これも日本の民需生産があまり変わらなかった為だ。戦費調達の外債を発行するかと思ったが、それさえも無しだった。
海外のユダヤ人の多額の寄付が日本に集まったと聞いているが、資金調達もしないで戦争を行うなど普通はあり得ない。
そのうちに、日本と【出雲】は空と海で大戦果を上げて、陸では占領地を増やしている。
小さい海外領土だった【出雲】が、大国相手に互角以上の戦いを行った事もある。
その秘密を探ろうと、世界各国の目は【出雲】に向けられていた。
「【出雲】に行ったら『中東横断鉄道』の利権やイランの石油利権に食い込めないかを確認してくる。
既にバクー油田はイラン王国が占拠しているし、これからイランの石油が大きな影響力を持つだろうからな。
イギリスが日英同盟の改定協議を申し込んだと聞くが、雲南地方や中東方面の利権も絡んでくる。先に手を打った方が良いからな」
「そういや例のカムイ級の戦艦だがな。列強各国は対抗できる戦艦の設計に着手したらしい。
高く飛べる飛行船も、長距離魚雷もそうだ。イギリスは日英同盟の改定協議で、技術情報を得るつもりなんだろう。
そうなると、他の列強が黙ってはいないぞ。イタリアも【出雲】と関係を深めている」
「そのうちに建艦競争が始まるか。そうなると、資源が高騰するだろう。今のうちに買占めしておくか」
「ロスチャイルドを筆頭に、ユダヤ資本も動いているからな。まあ頑張ってみるんだな。
イランやトルコで政変が起きたから、利権が得られるチャンスかと思ったが、今回の戦争騒ぎで国内は纏まった。
【出雲】の影響が強過ぎるから、直接は無理だ。やはり食い込むなら【出雲】を通してからだな」
「ちょっと待て! みんなは【出雲】に目を捕らわれているが、俺はヤンマイエン島の事が気になる。
作物の栽培が出来ない寒冷地だが、日本はオーロラ研究施設の運用を始めて、今度は港湾施設と屋内農場の建設だ。
欧州へ進出する前触れじゃ無いのか? 中央シベリアの東側の広大な領土を日本が得れば、北極海を経由して進出できるぞ」
「……可能性は十分にある。ちょっと待て! 日本がヤンマイエン島に進出したのは二年前で、李氏朝鮮との戦争は始まっていなかった!
まさか、その当時から北極海経由の進出を考えていたって言うのか!? そんな事が……まさか巫女の神託か!?」
「その可能性はあるだろうな。まったく日本の巫女の力はどこまで及ぶのかな? 一応、知り合いの軍関係者に話しておくよ」
何か不思議な事が日本に絡んで発生すると、巫女の神託では無いかと疑う風潮が広まっていた。
そうなるように巫女の神託を積極的に活用してきたが、最近は行き過ぎたと思われる事も出てきた。
そろそろ打ち止めにする事も検討している天照機関だった。
それと、ロシアの補給拠点を次々に襲撃した黒装束の忍者にも、諸外国は注目していた。
今までも工作部隊はあったが、これほど大掛かりに破壊工作を行った専門部隊は存在していなかった。
その為、日本の忍者の戦果を知った各国は、破壊工作専門の部隊の創設を検討し始めていた。
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フランスは講和の道を模索しており、清国は国内の革命や列強の占領地拡大の為に日本と講和を考える余裕さえ無かった。
ロシアは抗戦の構えを崩していなかったが、それでも首都が日本の大飛行船団に襲来されるに至って、やっと講和の道筋が見えてきた。
まだ戦闘が続いているイランとトルコにしても、無制限の戦争拡大は望んでいない。
そろそろ目標が達成できる目処もついた事から、講和に異存は無かった。
こうして講和会議が開催される事になったが、ロシアは慣例を破って皇帝の弟のミハイル大公が出席すると発表した。
通常、このような講和会議には臣下の高官が出席するものだ。皇族が出席するなど、通常はありえない。
しかし、ニコライ二世は【出雲】を視察し、直接日本の真意を見極めたい理由からミハイル大公の派遣を決定した。
こうなると、他の各国も皇族に準じる人間を出さざるを得ない。
フランスは共和制なので、王族は存在しない。その為に、大統領であるエミール・ルーベが参加する事が決まった。
清国には光緒帝と最高権力者の西太后が居るが、二人とも国外に出た事は無く【出雲】に行く事を嫌がった。
この為に、皇族で重臣の慶親王の参加が決定した。
日本は皇太子殿下が陣内と共に参加する事が決定した。陣内は【出雲】の代表という立場だ。
尚、東方ユダヤ共和国とイラン王国とトルコ共和国は全権を日本に委任している。
あまりに参加者が多いと会議が纏まらず、それを気遣ったのが理由だった。日本と【出雲】を信頼している事もあった。
船旅だと移動に時間が掛かり過ぎる。その為に【出雲】への移動は、日総航空がVIP仕様の豪華飛行船を用意した。
ロシアとフランスは日本の飛行船に乗る事を簡単に承諾した。ここまで来て、日本が小細工をするとは考えなかった為だ。
しかし、清国は激しく拒否した。日本の飛行船に乗ろうものなら、何をされるか分かったものではないと警戒したからだ。
その為、講和会議に出席しないのなら、完全に滅亡するまで攻撃を行うと脅して、飛行船に乗船させた経緯があった。
他国の皇族や大統領が来て、歓迎もしないで会議を行うような非礼はしない。
招いた三ヶ国の代表は到着した日に歓迎パーティに出席した後、用意された館で身体を休めた。
到着した翌日、講和会議の前に是非とも【出雲】の施設を見学したいという要望がミハイル大公からあり、案内する事になった。
全員が同時では問題がある為に、ミハイル大公は皇太子殿下が案内を、フランス代表は【出雲】の皇室選任者である山下が案内を、
清国の慶親王は陣内が案内する事になった。
案内ルートはイタリア代表の時と同じ、一般の見学コースだ。
【出雲】艦隊を筆頭に、飛行船部隊の整備を行う巨大な飛行場、大型クレーンを装備した巨大な港湾施設、
それと沿岸部一帯に広がる巨大な工場地帯、巨大造船所もある。武器弾薬や色々な民生品を造る工場施設もある。
十階建てぐらいの大きな鉄筋コンクリートのマンションが、軒を並べている様子は圧巻だ。
欧米のどこを探しても、これほど密集した都市を見る事は出来ない。清国の慶親王は国外の様子に疎くて、口を開けたままだった。
それらを説明しながら、それぞれのグループは話し合っていた。
「初めて飛行船に乗りましたが、空から見る地上の景色は絶景でしたよ。短かったですが、楽しい空の旅でした。
それはそうと、貴国の飛行船団がサンクトペテルブルク(ロシアの首都)を爆撃しなかった事は、改めて感謝させていただきます。
それで陛下の机にあった手紙に書かれていた事は本当の事なのですかな? 日本は何を考えているのですか?」
「あの手紙の内容は本当ですよ。それが我々の意志です。貴国にとって損もあるが、得もある。
不本意な事はあるでしょうが、それは我慢していただきたい」
「……あの条件通りなら国内にも説明はつき、賠償金も出せなくは無い金額です。
貧乏籤を引くのは清国ですか。それが貴国の考えなのですね?」
「我が国は三度も清国と戦いました。さすがに四回目は御免被りたいと考えています。
外洋への出口を塞いで彼らの行動範囲を渤海に限定し、沿岸部を他の列強で支配して貰って包囲網を構築しました。
これを機に、彼らとの戦争自体が起きないようにするつもりです。それが東アジアの平和になると信じています」
「……分かりました。日本は僅か十数年で何も無かったこの地に、これだけの国を創り上げた訳ですな。
我が国は日本の国力を読み違えたという事か。撮らせていただいた写真は、帰国後に陛下にお見せして宜しいですな?」
「勿論です。この見学コースは一般へも解放しています。見られて困る事はありません」
「……大した自信ですな。良いでしょう。我が国は貴国への考え方を改めます。
それはそうと、講和会議後に殿下と陣内氏と話をしたいのですが宜しいですか?」
「義兄、いえ、陣内とですか。分かりました。調整しておきましょう。
それはそうと鹵獲した艦艇と捕虜は無条件に返還しますが、捕虜の処罰は無しの条件は良いですか?」
「……我が国は戦う相手を間違ったようですな。敵国の捕虜にまで気遣いをしていただくとは。貴国の厚意に感謝します」
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「こ、これが【出雲】か。十数年前には何も無かった地に、これ程の都市を建設したのか!? これが日本の実力だと言うのか!?」
「最初は数百人で土地の整地から始めました。私は最初から赴任していましたが、苦労の連続でしたよ。
お陰で頭もだいぶ薄くなってしまいました。まあ、その努力の成果はあったと思っています」
「……明治維新の時は、我が国は貴国に技術指導を行った。何人かは日本に永住した者もいる。
それが僅か三十年で逆転してしまったのか。いえ、愚痴を言って申し訳ありません。
そう言えば二年前にはマルティニーク島のプレー火山の噴火を事前に連絡していただき、多くの市民を救う事が出来ました。
遅ればせながら感謝させていただきます」
「……その回答が我が国への宣戦布告だと思っていましたが?」
「とんでもない! 我が国は恩を仇で返すような事はしません! たしかに今回の宣戦布告は申し訳なく感じています。
しかし、我が国は露仏同盟を結んでいた為に、このような結果になったのです。我が国の事情も考慮していただきたい!」
「我が国の事情も考慮していただきたかったのですがね。ロシアと清国に続いて、貴国が宣戦布告をしてきた時は、
日本国内はパニックになりかけたのですよ。それでも貴国に復活の機会を持って貰うつもりでしたが」
「……出来ればベトナムとカンボジアの復興と、『雲南横断鉄道』に入れていただきたいのですが?
それと我が国の財政も厳しく、賠償金もできれば減額を御願いしたいのです」
「貴国には広州湾一帯の権益は残すつもりなのですよ。それと鹵獲した艦艇と捕虜は無条件で返還します。それで不満なのですか?
ならば、マダガスカルの復興は無しにして、賠償金を倍にさせて貰いますが宜しいでしょうな!?
【出雲】には貴国のアフリカ植民地を占領維持する力はありません。しかし、貴国の艦隊や施設を尽く破壊する力はあります!
我が国は貴国の現状を考えたから広州湾の権利を残し、マダガスカルの復興に加わるように提案したのです! 嫌ならお帰り下さい!」
「ま、待って下さい! 失礼を言って申し訳ありませんでした! 事前に提案があった内容で進めさせて下さい!」
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「こ、これが【出雲】なのか!? こんな小さい領土で、工業力は我が国も凌いでいるというのか!?
嘗ては我が国から教えを乞うた日本は、ここまでの技術を身に付けたと言うのか!?」
「失礼。我が国が中国から教えを受けた事はありますが、千年以上も昔の事です。それに今の清国ではありません。唐と隋の時代です。
お間違えの無いようにして下さい。我が国が清国から教えを受けた事は一度もありません」
「……失礼した。事前に貴国の提案は確認したが、日本は本気なのか!? 日本は本気で我が国を滅ぼそうとしているのか!?」
「我々は積極的に貴国を滅ぼそうとはしていません! 貴国は自らの愚かさで滅びようとしているのです!
何故、近代化政策を早く始めなかったのですか!? その為に、列強は貴国に侵略を行ったのですよ!
朝鮮でも愚かな中華主義に囚われて、面子を守る為に開国を許可しなかった。
挙句の果てに、貴国に武器を供与していた我が国に、義和団の乱の時は宣戦布告をしましたね。まさに自殺行為です!
通商を通じて信用を積み重ねていけば、我が国が貴国の工業化を支援した可能性もあるのですよ。
貴国は自分からチャンスを潰したのです! 今回もロシアに唆されて、宣戦布告をしてきたのは貴国ではありませんか!?」
「そ、それは……最高権力者の判断なのだ。仕方無かった事なのだ!」
「ならば何故、その最高権力者が講和会議に出てきていないのですか!? 北京議定書の時も最高権力者は逃げていましたね!
最高権力者が責任を取らずに隠れた時点で、貴国の言い分を聞く気はありません!
貴国にはまだまだ使える人材が多く居るにも関わらず、彼らを採用して国力増強に努めていないではありませんか。
正直言って、我々が提示した条件は貴国にとって厳しい内容でしょう。しかし領土は残りますから。再起のチャンスはあります。
しかし今回の講和会議に出席しないなら、列強の貴国への侵略はさらに強まります! 我が国はそれを全面的に支援します!
その場合、貴国の滅亡は確定する! それでも良いなら、さっそく帰国の為の飛行船を準備させます。
残った領土で屈辱にまみれながらも近代化を進めるか、中華主義に囚われて完全に滅亡するかは貴国の自由です!」
「何処も協力してくれなくて、我が国だけで近代化が進められるはずが無い! 日本は協力してくれないのか!?
隣国だろう! 同じアジアの人間なんだ! 協力するのは当然だろう!」
「他力本願の国に発展はありません! 我が国が貴国の近代化を支援しないのは信用していないからです!
その証拠に地方の有力者は我が国から武器を輸入していたのに、宣戦布告後はその武器や兵力を貴国政府に提供しましたね。
勝ち馬に乗ろうとしたのでしょうが、これは裏切り行為です。貴国が近代化して、その牙を我が国に向けないと保証できますか?
それに本気で近代化をしようとするなら、横暴で無能な最高権力者の西太后を真っ先に処刑するべきでは無いですか!?」
「!! そんな事をしたら、国内がさらに混乱する! 出来る筈が無いだろう! それは内政干渉だぞ!」
「ええ。だから我が国は貴国に近代化の支援をしないです。本気で改革しようとする気が感じられませんからね!
それに人に物を頼むときは、頭を下げるものです。上から目線で言われて、協力すると思っているのですか?
さて、施設の案内はこれぐらいですね。明日の講和会議に出るも、帰国するのもあなたの自由です。
我々は悪しき中華主義に染まっていませんので、貴国に内政干渉する気はありません。貴国の意思を尊重しますよ。
帰国する場合は飛行船を用意させますので、早く決めていただきたい」
「…………」
陣内は講和会議を長引かせるつもりは無く、事前に調停案を各国に提示していた。(ロシアの場合、皇帝の机の上の手紙に記載)
当然、受け入れられる国もあれば、抵抗する国もある。これが外交なので、当然の事だ。
全ての参加国が納得する条件など普通は有り得ない。どの国も自国の利益は確保し、他国の富や権益を欲しいと思うのは当然の事だ。
誰かが得をして、誰かが損をする。まれに参加国全てが納得する条件の成立が可能な場合もあるが、それは一般的では無い。
こうして講和会議の前の事前交渉は終わり、明日に四ヶ国が参加する講和会議が行われる。
日本は東方ユダヤ共和国とイランとトルコの全権を委任されている。
一国の都合だけで、ましてや感情だけで左右される訳にはいかなかった。
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翌日、四ヶ国による講和会議が始められた。かなり紛糾したが事前の交渉もあり、その日のうちに参加者全員が合意した。
そして出雲議定書が調印された。決められた内容は以下の通りだ。
1項.領土に関して
・ ロシア帝国はイラン王国に対し、トルクメニスタンとアゼルバイジャンを割譲する。
尚、イラン王国はトルクメニスタンとアゼルバイジャンを独立させて、保護国にする事を宣言する。
バクー油田から産出される原油については、五年間はロシアに無償提供するが、それ以降は有償供給とする。
・ ロシア帝国はグルジアとクリミアの独立を承認し、両国がトルコ共和国の保護国になる事を承認する。
・ フランスはジブチを【出雲】に割譲する。現地の権益も全て【出雲】所有になる事を承認する。
・ フランスはマダガスカルの独立を承認し、【出雲】の保護国になる事を承認する。
尚、マダガスカルの復興について、フランスは自己負担で実行する事とする。フランスの利権は現地政府の所有するものとする。
・ フランスはベトナムとカンボジアの独立を承認し、日本の保護国になる事を承認する。
現地のフランス利権は全て現地政府の所有するものとする。尚、ベトナムとカンボジアの独立をロシアと清国は承認する。
・ フランスの清国の広州湾一帯の権益は従来通りとする。
・ フランスはニューカレドニアとフランス領ポリネシア、ウォリス・フツナを日本に割譲する事とする。
・ 清国はチベット政府の宣言した国境を認め、チベットと対等な外交関係を結ぶ事とする。
・ 清国はモンゴル政府の宣言した国境を認め、モンゴルと対等な外交関係を結ぶ事とする。
・ 清国は雲南共和国の独立を認め、日本の保護国である事を承認する。尚、ロシアとフランスもこれを承認する。
・ 清国は広東省(雲南共和国の所有領土は除く)と江西省、湖南省のイギリス帝国の領有を承認する。
・ 清国は江蘇省と安徽省のアメリカ合衆国の領有を承認する。
・ 清国は山東省と河南省のドイツ帝国の領有を承認する。
・ 清国は満州全域をロシア帝国に割譲する。
・ 清国は福建省と浙江省(杭州以南)の不割譲宣言を維持する。
・ ロシア帝国は現在東方ユダヤ共和国が占拠している平安道以外の旧李氏朝鮮の領土を、東方ユダヤ共和国に割譲する。
・ ロシア帝国は日本からの要請に従い、李氏朝鮮の併合を解消して独立国に戻す事とする。但し、領土は平安道のみとする。
そして不可侵条約を締結して、二度と李氏朝鮮に干渉しない事を宣言する。
尚、李氏朝鮮が抱えていた従来の債務は引き続き、李氏朝鮮が返済する事とする。
・ ロシア帝国は樺太(サハリン)、カムチャッカ、コリャーク、チュコト、マガダン、レナ川より東部のサハ、ハバロフスクの
北部一帯を日本に割譲する事とする。(シャンタル諸島も含まれる)
尚、日本は中央シベリア高原とアルダン高原の開発権を所有し、その利益の半分をロシア帝国に提供する義務を負う。
樺太(サハリン)の対岸一帯とシホテ・アリニ山脈一帯は非武装地域とし、日本も開発権を持つ事とする。
満州の開発についても日本が協力する事を宣言する。
イラン王国とトルコ共和国に報いる為にも、両国が攻め込んだ地の解放は必須だった。
フランスはアジアの権益の大部分を奪われ、さらにジブチとマダガスカルを失った。
しかし、アフリカの植民地は残り、マダガスカルも復興に関与する事でメリットがあると見込まれていた。
清国は三度も戦争を行った事もあり、徹底的に勢力を削ぐ事に力を注いだ。
特に満州全域をロシアに割譲する事に清国は強く抵抗した。発祥の地という事もあり、思い入れも深いのだろう。
しかし、イラン王国とトルコ共和国、東方ユダヤ共和国、日本に領土を奪われただけではロシアは絶対に納得しない。
だからこそ、豊かな資源と肥沃な大地を有する満州をロシアの領土とした。(清国の勢力を削ぐ目的も含めて)
その立地条件から、満州だけでも開発が進めば立派な大国になれる条件を備えている。
冬季は厳しいが、それでもシベリアから比べれば遥かに良い。それに農業収穫も失われる領土に比べれば雲泥の差だ。
だからこそ、満州の地を追われると思ったロシアは講和に応じる姿勢を見せなかった。
講和に応じたのは、日本がロシアの満州支配を認めるという一文があったからだ。
イラン王国とトルコ共和国、東方ユダヤ共和国、日本に領土を奪われたが、満州を獲得できればメリットは十分にある。
東方ユダヤ共和国に割譲する領土は最初からの予定通りだ。これについては何処からも文句は出なかった。
李氏朝鮮の独立を日本が要求した事は怪訝に思われたが、これも何処からも異論は上がらなかった。
そして日本は北方の広大な領土を獲得した。寒冷地で住むには不自由な場所だが、資源は豊富にある。
さらに中央シベリアとアルダン高原、樺太(サハリン)の対岸一帯とシホテ・アリニ山脈の開発権を獲得した意味は大きい。
寒冷地で人手による開発は困難だが、機械を使った開発なら順調に進むだろう。
その利益の半分はロシアに提供しなくては為らないが、逆に言えば利益によってロシアの誘導が可能になる。
ロシア革命の時に全てを奪われる可能性は十分にある。その為に容易に撤退できるように慎重に進めるつもりだった。
最後に、満州開発に日本が協力する事により、ロシア帝国との関係を改善するつもりだ。
史実でも日露戦争の後は、日本とロシア帝国の関係は改善された。
今回も史実と同じ様な方策を採り、ロシア革命に対する事前工作を進める計画だった。
ロシア帝国はポグロム(反ユダヤ主義)を採用している事から、東方ユダヤ共和国との関係は悪い。
その為に、日本はロシア帝国と東方ユダヤ共和国との間に入り、調停に苦労する事になる。
2.賠償金について
・ ロシア帝国は日本に対して賠償金二億円を支払う事とする。
これには東方ユダヤ共和国、トルコ共和国、イラン王国への賠償金も含まれる。
・ フランスは日本に対して賠償金三億円を支払う事とする。
・ 清国は日本に対して賠償金三億円と二億円相当の資源を支払う事とする。
これには東方ユダヤ共和国への賠償金も含まれる。
・ ロシアが李氏朝鮮の併合を解消した事で、李氏朝鮮は東方ユダヤ共和国に攻め込んだ戦争責任が発生する。
しかし、多額の債務を抱えて賠償金の支払いは出来ないと判断される為に、領土区分を了承するなら賠償金の請求は行わない。
ロシアは戦争で被害を受けた各施設の復興や、失われた軍の再建に膨大な費用が掛かる。
これからの外交関係も見込んで、敢えて賠償金の金額を低めに設定していた。
血の日曜日事件もあって、民衆の心はロシア皇帝から離れている。
既にロシア内部で革命の息吹が芽生えている現在、その動きを加速させる行為は避けたいと考えていた。
フランスは微罰の意味もあり、賠償金を増やしていた。ベトナムとカンボジアの開発費用も含めている。
清国については賠償金を払い終えるまで清王朝が存続するかは不明だ。既に天照機関では清王朝の滅亡は既定のものと考えられていた。
これで日本は計八億円の賠償金と二億円相当の資源を受け取る。
五年から十年の年賦だ。それをイラン王国とトルコ共和国に各一億円ずつ支払い、東方ユダヤ共和国に二億円を支払う。
残りは雲南共和国の近代化支援資金や『雲南横断鉄道』の建設資金、ベトナムとカンボジアの近代化支援資金などに使われる。
日本の北方領土の開発や、中央シベリア高原とアルダン高原の地下資源開発、一部は満州の開発にも回される。
東方ユダヤ共和国とイラン王国、トルコ共和国の全権を委任され、保護国への支援義務を持っている日本は大きな責任を抱えていた。
尚、李氏朝鮮の併合は解消されたが、今までの債務は変わらない。
ロシアに併合されたから、債務もロシアが負担するべきだと言いそうなので、賠償金の負担で李氏朝鮮に脅しを掛けた。
つまり、今までの債務を負担しないのなら、平安道の領有さえも認めないと暗に脅していた。
欠席裁判の為に李氏朝鮮の発言権はまったく無い。史実では日本が莫大な借金を肩代わりして、膨大な資金を朝鮮半島に投入して
教育改革やインフラ整備、衛生改革を行ったが、今回はそのような奇特な国は無い。
膨大な借金の負担は変わらずに従来以上の厳しい環境が待っているが、李氏朝鮮に他の選択肢は与えられなかった。
3.捕虜の扱いについて
・ 今回の戦争に参加した全ての国は、相手国の捕虜全員を速やかに返還させる。
尚、捕虜に対して如何なる罰も与えない事とし、受入国は捕虜となった将兵を差別をしない事を宣言する。
・ 日本が鹵獲したロシア帝国とフランスの艦艇は、速やかに返還する。
4.その他
・ ロシア帝国は、日本、東方ユダヤ共和国、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、イラン王国、グルジア、クリミア、
トルコ共和国と不可侵条約を締結する。さらに、ロシア帝国は日本と経済協力協定を締結する。
・ フランスは日本の指定する各国と不平等条約がある場合、これを改正する。
また、フランスは日本と経済協力協定を締結する。
・ 清国は日本、東方ユダヤ共和国、チベット、モンゴル、雲南共和国と不可侵条約を結ぶ。
出雲議定書と呼ばれる今回の講和会議により、日本の領土は一気に拡大した。
レナ川の東側の広大な領土を手に入れて、南太平洋のフランスの領土やジブチまでも獲得したのだ。
北極圏に進出できるようになった為、北欧との貿易拡大や影響力の拡大も可能になる。
マラッカ海峡やホルムズ海峡に引き続き、ジブチを得た事で紅海の出入り口を抑えた。
これで欧州とアジアやインドとの重要航路に、大きな影響力を発揮する事が可能になった。
それと同時に、日本の関係国には不平等条約の改正が行われ、経済交流がさらに活発化していった。
この出雲議定書は世界に大きな衝撃を与えていた。
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余談だが、マダガスカルからキリスト教宣教師を全て引き上げる事になった。ベトナムとカンボジアも同じだ。
イタリアの時の脅迫もあって、今回はローマ教皇庁からクレームが来る事は無かった。
それでもローマ教皇庁が屈辱に感じた事に違いは無い。
その為に、古くからの占星術や聖遺骸の有効活用の努力に、一層の拍車が掛かっていた。
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講和会議の翌日、フランス大統領と清国の慶親王は、肩を落として帰国していった。
そして残ったロシアのミハイル大公は、皇太子殿下と陣内と三人で会議室に集まった。
「やっと講和会議が終わって、肩の荷が下りました。昨日もパーティを開いていただいて、感謝しております。
さて、今回の件で貴国が我がロシアに示した条件は、かなり配慮されていると考えています。
日本は我々を徹底的に敗戦に追い込む事が出来たが、それをしなかった。何故です?
陛下からも日本の真意を確かめてくるように言われています。ここは忌憚無い話を聞かせていただきたい」
「殿下から話しますか? それとも自分から話しましょうか?」
「……義兄上から話して下さい」
「日本を発展させた影の立役者。人嫌いで知られる日本総合工業の代表のあなたが、殿下から義兄上と呼ばれるとはどういう事ですか?
いや、失礼。少々、詮索が過ぎましたな。では理由をお聞かせ下さい」
「ここで話す事はニコライ二世陛下にのみ話し、他には他言無用に願います。宜しいですか?」
「勿論です。それはお約束します」
「まず最初に言っておきます。日本は無用な戦いを望んではいませんが、資源は欲しています。
現在はタイ王国やインドネシアからの資源輸入で、国内需要の大半を賄っています。
最近は清国からの輸入が途絶えた代わりに、ハワイを経由した南米の資源の輸入が増えました。
出雲議定書で北方の広大な領土と、中央シベリア高原とアルダン高原の開発権を得た事から、自前の資源開発が可能になりました。
我が国は人口や宗教の関係もあり、他者との争いは好みません。ですが、今の時代は否応無く戦いに巻き込まれます。
最初は清国相手に、次は貴国相手の戦争になりました。清国とフランス、さらにはイタリアまで加わるとは予想外の事でしたが。
ここまでが前置きです。我が国は中国大陸に進出する気はありません。資源は魅力ですが、人が多くて自然と争いになりますからね。
そして問題となるのは清国、いえ中国に住む人達の意識です。彼らは中華主義という自己中心的な考えがあります。
今は力が無くて大人しいですが、これが力をつけてくると態度を豹変させます。李氏朝鮮も同じようなものです。
中華主義に染まった人達は、自分達が世界の中心だと考えますので、非常に面子を重視します。
そして面子を潰されて敵と認識すると、子孫にまで思いを伝えて先祖の怨みを晴らす方向で動きます。
仇敵が死んでも怨みを忘れずに、死者が眠る墓を暴いて遺体に鞭打った事例もあるくらいです。まあ、全員とは言いませんがね。
良い言い方をすれば情に厚いのでしょうが、我々としては長期的な友好関係を築けないと結論しています。
だったら今のうちから他の協力を得て、彼らの力が大きくならないように抑えようと計画しました。
現地の少数民族やイギリス、アメリカ、ドイツ、そして貴国。我々は直接戦わずに、利をもって各国を誘導した訳です」
「……中華主義か。では日本は長期的な視野に立ち、中国を抑える為に我々の満州支配を認めたと?
それは例の巫女の神託ですかな?」
「それについてのコメントは控えさせて貰います。何と言っても日本の皇室の最高機密ですからね。
ロシアは広大な領土を失いますが、満州が手に入れば何とか為るでしょう。それで我慢していただきたい。
それ以上のものを欲しがられて、さらなる南下政策を採る場合は再び我が国と激突する事になるでしょうが。
貴国の良識に期待したいですな」
「難しい事を言われる。この帝国主義全盛の時代に、あるものだけで我慢しろと? 欲しいものがあれば、力ずくで奪うのが常識だ。
それを我がロシアに期待されては困る」
「それは分かっています。他の列強が我慢しないのに、貴国にだけ忍耐を強いるのは失礼だと思っています。
ですが、我が国の近隣で騒ぎを起こして欲しくは無いという事です。
広大な満州の地を得たのですよ。開拓を進めれば作物の収穫もかなり見込めて、地下資源も豊富にある。
それに旅順要塞は貴国の所有のままですから、不凍港も手に入って渤海と黄海を自由に航行できる。
満州を開発していけば、ロシアの国力は増す一方です。ですから、この飴でアジア方面は矛を納めていただきたい。
資源に関しては中央シベリア高原とアルダン高原、満州の開発が進めば、今まで以上のものが手に入ります。
そしてバクー油田から産出される石油は五年間は無償供給を約束し、その期間内に満州やシベリアで油田を発見する事も約束しますよ」
「……バクー油田は五年間は無償供給で、期限切れになる前にシベリアと満州で油田を発見するか。
陛下への手紙にも書かれていたが、本当に可能なのか?」
「企業秘密もありますので、詳しい事は言えません。今までの実績を信用してもらうしか無いですね。
それと、清国と不可侵条約を結ぶ必要はありません。ですが、近い将来は攻め込んでくる可能性は十分にある。
その為に、ある程度は軍を満州に配置しておくべきでしょうね」
「……良いでしょう。あなたを信用します。我がロシアは大国であり、その方針は簡単に変えられない。
他の有色人種やユダヤ人への対応も変わらない。しかし、日本の力は認めざるを得ないし、敵への配慮は称賛に値する。
日本は対等に付き合える国だと認識しました。これからは協力を御願いする」
バクー油田を失うのはロシアにとって相当な痛手だ。無償供給は五年間のみで、それ以降は有償購入になる。
今まで無料で手に入った石油を、わざわざ代金を支払って購入する事になるから不満を持つのも当然だ。
だから満州の大慶油田や遼河油田を日本によって開発して、ロシアの不満を宥めるつもりだった。
そのロシアの民衆は既に皇帝から心が離れ、革命の準備段階に入っていた。
それでもロシア皇帝ニコライ二世は、専制政治を改める気は無い。寧ろ、再建の為に積極的に進めるつもりだ。
その為、革命が起こっても日本の利権が残るように、ロシアへの工作が秘かに進められていた。
尚、李氏朝鮮は併合を解消して独立させるが、不干渉の方針を採るように要請していた。
ミハイル大公は李氏朝鮮は眼中には無かったが、日本からの要請という事で承諾していた。
さらに満州にいる奴隷も彼らの祖国に帰して、以後は関係を絶つように陣内は要請した。
関係を深めると将来的に大きな問題になると陣内は説明したが、ミハイル大公は理解できなかった。
それでも大した問題では無いと、あっさりと承諾していた。
これで李氏朝鮮は日本海から完全に切り離されて、国境を接するのは東方ユダヤ共和国とロシア帝国の二国になる。
残された領土は平安道のみで、そこに過剰とも言える約400万人の人口を抱える事になった。
後世で優秀な民族だと主張していた彼らなら何とかなるだろうと、天照機関は李氏朝鮮の切り離し工作を進めていた。
事大主義を信奉する彼らだ。隣国の東方ユダヤ共和国とロシア帝国に無視されたら、他の列強と渤海経由で関係を深めていくだろう。
その事は最初から織り込み済みで、他者を巻き込んだ反撃をしようとした時こそ、徹底的に将来の禍根を根元から断つ事を考えていた。
その時に備え、彼らの生活状況や風習・文化レベルなどの膨大な証拠映像を、東方ユダヤ共和国と協力して集めていた。
最後に、陣内はロシア帝国、いやロシア皇帝一族にとって興味深い話を切り出した。
「そうそう、ちょっとお聞きしたい事がありました。子会社の理化学研究所が血友病の研究を行ってまして、まだ治療薬は出来ては
いませんが、症状を緩和する錠剤を開発したのです。日本の発病者は少なくて、出来るだけ多くの人の臨床データを取りたいのです。
ですから、もし貴国で血友病に悩んでいる人がいましたら紹介を御願いしたいと思いまして。
何せ『王家の病』と言われている難病です。心当たりがありましたら連絡をいただきたい」
「血友病の症状を緩和する錠剤だと!? それは本当なのか!?」
「ええ。日本の発病者で現在確認できているのは八人だけ。継続的に服用する必要がありますが、現在のところ副作用は出ていません。
ですから、出来るだけ多くの臨床データが欲しいのです。ああ、たしかサンプルを少し持っていました。持って帰りますか?」
「頼む! もし効果が出るようなら、追加で頼みたいが大丈夫か!?」
「ええ。製造するのにちょっと手間が掛かりますが、少数なら常に在庫があります。まだ量産は考えていませんけどね。
これから友好関係を築くロシア皇室の要望は、極力叶えるように努力しますよ。
ドイツからも要望はあったのですが、優先してお渡しします」
イギリスのヴィクトリア女王の子孫が血友病患者の代表としてあげられる。
その為にイギリス、ドイツ、スペイン、ロシアの各王室で血友病患者が多発した。
史実ではニコライ二世の皇太子アレクセイの血友病の治療の為に、怪僧ラスプーチンがのさばり、ロシア革命に繋がったとされている。
現在妊娠中のアレクサンドラ皇后のお腹の子は八月に出産され、皇太子アレクセイとなる。
そして皇太子アレクセイの姉四人も、潜在的な血友病の保因者だ。まさに王家の病と言われる所以だ。
血友病の症状緩和薬は一般販売はしないで、友好関係を維持している国だけに秘かに提供する。
専制政治を行っている各国において、王族の意向は重要だ。血友病を欲しがる家族の為なら、ある程度の無理な頼みも通るだろう。
史実のデータを分析し、敵の弱点を突く。非情の策を陣内は秘かに進めていた。
この血友病の症状緩和薬はイギリスやドイツにも秘かに輸出され、大きく歴史に影響を与えていった。
(2013.11.03 初版)
(2014. 3.30 改訂一版)