イタリアのエチオピア派遣艦隊とフランスのジブチ駐留艦隊は、【出雲】艦隊がケシム島を出撃した報を受けて出撃していた。
迎撃ポイントはソコトラ島沖だ。【出雲】艦隊は、この時代の標準戦艦を上回る『神威級』を擁しているとはいえ、数は少ない。
ラーラク島の要塞砲の支援が無いなら、物量で圧倒できると考えていた。
この時代はレーダーなど無く、索敵は目視確認が主な手段だ。そして先行させている通報艦から、【出雲】艦隊発見の報が届けられた。
「やっと【出雲】艦隊を見つけたか。敵の編成は予想通りなのか?」
「はい。戦艦二隻、装甲巡洋艦二隻、軽巡洋艦四隻、小型艦多数と連絡が入りました。
敵艦隊は直進コースを取っている報告が入った後、通報艦とは連絡が取れません。撃沈されたようです」
「ふむ。飛行船部隊はリビアとエチオピアへの物資輸送で、【出雲】艦隊に付いてくる様子は無いな。好都合だ。
こうなると、【出雲】艦隊の最新鋭艦を是非とも鹵獲したいものだ」
「……鹵獲ですか? 日本人が簡単に降伏するとも思えませんが?」
「それは分かっているが、我々の勝利は疑いようが無い。『敵艦隊発見! 我が艦隊に直進してくる模様です!』 ほう。いよいよか。
まだ射程に入るまでは時間があるな。……よし、【出雲】艦隊に降伏を勧告したまえ!」
「降伏勧告ですか!? ……分かりました。【出雲】艦隊に降伏を勧告します」
混成艦隊は戦艦十隻を擁している。単艦では『神威級』に劣るが、数は五倍にもなる。
イタリア艦隊の司令官は自軍の勝利を疑ってはいなかった。その為、余裕を持って【出雲】艦隊に降伏を勧告する事にした。
その様子は乗船している各国の観戦武官によって、詳細に記録にとられていた。
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『神威級』に電子機器は装備されていない。レーダーやミサイル系の武装も無い。あくまでこの時代の標準的な装備しか無かった。
後々で改装する予定だが、今は諸外国の疑惑の視線を向けられるのを避ける為だ。唯一あるのは、無線通信機だろう。
その無線通信機によって衛星軌道上からの監視データを受信して、敵艦隊への直進コースを取っていた。
既に別働隊は位置についている。【出雲】艦隊の主力が砲撃戦を始めると同時に、別働隊は作戦を開始する。
内心の焦りを抑えながら、徐々に敵艦隊に接近している旗艦『神威』に敵艦隊からの通信が入ってきた。
「沖田司令。敵艦隊より入電! 降伏を勧告してきました!」
「降伏勧告だと!? ふっ。数で勝っているから勝つと考えたか。まあ、彼らの常識からすればあり得る事だろうな。
しかし、時代は変わりつつある。それをしっかりと覚えて貰おうか。返信は不要だ。
(俺はまだ二十代だぞ! 後から義兄さんから何か言われるだろうが、あんな偉そうな台詞なんか恥ずかしくて言えるか!)
第四種弾頭(散弾)を装填! 目標は敵先頭の戦艦! それと別働隊に連絡! 我が艦隊の砲撃の後に雷撃を敢行せよ!」
散弾では大きな被害を与える事はできないが、範囲攻撃できる事から、命中率も徹甲弾と比較すると高い。
まずは敵艦隊の出鼻を挫く事が優先と、『神威級』一番艦『神威』と二番艦『北鎮』の砲撃が始まった。
そして同時に、別働隊も動き始めた。
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「降伏を勧告してやったのに、返信すら無いとは礼儀を知らんのか!? 機関全開! 最大戦速で【出雲】艦隊に突撃だ!」
「【出雲】艦隊の発砲煙を確認! 我が艦隊の射程外ですが、【出雲】艦隊は砲撃を開始した模様です!」
「こんな遠くて当たるはずが無い! 構わん! 突撃しろ!」
出来れば最新鋭戦艦を無傷で鹵獲したいと考えていた司令官だったが、無視されたので激怒していた。
こうなれば【出雲】艦隊を殲滅してやると意気込んだ司令官だったが、出鼻を挫かれる報告が入ってきた。
「先頭の艦に被弾を確認! 艦橋に被弾です! 砲塔は無事ですが、指揮系統に乱れが生じています!」
「くうう! こうなったら我が方の射程に入るまで、最大戦速だ! 射程内に入れば、たこ殴りにしてくれる!」
『こちら観測所です! 右舷方向に敵の小艦隊と思われる艦影を確認! こっ、これは!?
高速な五十以上の航跡を確認! 雷撃です! 至急、回避を!』
「何だと!? あんな遠距離から雷撃を仕掛けたというのか!?
くっ! すぐに魚雷の回避行動を取れ! 日本海軍の魚雷ごときに当たってたまるか!」
「日本は射程が長い魚雷を実用化していたのか!? しかも五十本の一斉雷撃だと!?
回避を急げ! 可能な限り、主力艦の損害を少なくするんだ! 魚雷で艦隊戦に負けるなど、絶対に認められん!!」
イタリアとフランスの混成艦隊は、【出雲】艦隊の砲撃を受けたが損害は軽微だ。砲撃戦に支障は無い。
しかし【出雲】艦隊は、今までの常識を覆すような遠距離から雷撃を仕掛けてきた。しかも五十以上の一斉雷撃など前例が無い。
砲撃戦に注意を払わせ、その隙に雷撃を行う戦術かと推察し、何とか被害を抑えようと艦隊は一斉に魚雷回避の行動に入った。
全艦が無事に魚雷を回避できると考えた将兵はいなかった。
だが、過半数は魚雷を回避できるだろうと思われた時、混成艦隊の将兵の前に信じられない光景が広がっていた。
魚雷を無事に回避したはずの各艦までが、水柱をあげて被害を受けていた。
「ヴァレーゼの右舷に被弾! 速度が低下! 艦が傾いています!」
「ジュゼッペ・ガリバルディ轟沈!」
「カイオ・ドゥイリオ被弾! 機関部が被弾した模様で、炎上中!」
「エンリコ・ダンドロは浸水の為に速度低下! 艦の傾斜が酷く、戦闘不能!」
「レパントも被弾! 速度は落ちましたが、戦闘は可能です!」
「駆逐艦を含む小型艦艇は約二割が轟沈! 残存艦艇も大きな被害を受けています! この状態では砲撃戦は不可能です!」
「馬鹿な!? 魚雷を回避した筈の艦まで、何故被害を受けているんだ!? 何故だっ!?」
「【出雲】艦隊が急速接近中! 発砲煙を確認! 敵艦隊は砲撃を再開した模様!」
今回使用した秘匿兵器は第二種タイプと呼ばれる、誘導機能付の無航跡魚雷だった。
通常の第一種タイプの魚雷は航跡を残す為に発見が容易な為、併用する事で無航跡魚雷の存在を曖昧にしていた。
その誘導機能付の無航跡魚雷も火薬の量を減らして、足止め程度の被害が出るようにしている。
まだまだ戦艦主力の時代が続く為に、やはり戦艦で仕留めた形を取りたかった為もある。
護衛艦十隻が敵艦隊の右舷方向から第一種魚雷の攻撃を試みた同時期、誘導機能付の無航跡魚雷を装備した駆逐艦十隻が、
敵艦隊の右後方から雷撃を仕掛けた。そして無航跡の為に存在に気づかれないまま、イタリアとフランスの混成艦隊に大打撃を与えた。
浸水しても左右のバランスが取れている艦はまだ戦える。しかし、浸水の為にバランスを崩した艦は反撃すらできない。
別働隊の魚雷奇襲を受けた混成艦隊は、約二割の艦船が一瞬で轟沈し、残った艦船も多数が機関に被害を受けたり浸水の状況にある。
こうなると高速移動は不可能で、良い標的に過ぎなくなる。
こうして【出雲】艦隊の降伏勧告を無視した戦闘の結果、イタリアとフランスの混成艦隊は壊滅していった。
今回の【出雲】艦隊に乗り込んでいた観戦武官を出した国は、七ヶ国になる。
ハワイ王国、東方ユダヤ共和国、イギリス帝国、タイ王国、イラン王国、トルコ共和国、エチオピア帝国の観戦武官が、
この戦闘を見届けた。その中のトルコ共和国の観戦武官は、身体を震わせながらも感動に浸っていた。
(海戦が始まって、僅か五時間で決着がつくとは予想もしていなかった。寧ろ、劣勢で逃げ帰る事を考えていたくらいだからな。
戦艦十隻を擁したイタリアとフランスの混成艦隊は、魚雷で機動力と戦闘力を削がれた後は標的に成り下がってしまった。
逃げ帰ったのは装甲巡洋艦が一隻と駆逐艦三隻、水雷艇が八隻だけ。鹵獲したのは戦艦四隻と装甲巡洋艦五隻、駆逐艦三隻の大戦果だ。
この海戦の戦訓は魚雷だ。長距離魚雷は敵艦隊の足止めに有効な手段という事だな。
そして止めは戦艦の砲撃か。やはり最後は戦艦が見せ場を作るんだ。
それにしても海戦が終わった後は、敵の遭難者の救助に当たっている。やはり海軍士官たるもの、堂々とありたいものだ。
これでエチオピアの勝利は間違いなく、リビアの防衛も大丈夫だろう。
こうなると、【出雲】が提案していた例の作戦に参加するメリットは十分にある。本国に早速伝えねば!
イランとの因縁はあるが、この作戦が成功すれば解消するし、国威高揚にもなる! 絶対に成功させる!)
乗り込んだ観戦武官や取材記者によって、ソコトラ島沖海戦の顛末は世界中に報道された。
そして若き名提督として沖田の名前は、フランス東洋艦隊を撃破した東郷と同じく世界中に知れ渡った。
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鹵獲したイタリアとフランスの艦艇は、護衛をつけてケシム島の海軍基地に向かわせた。
イタリアとフランスの海軍士官は、捕虜になったが丁重な扱いを受けている。
日本食と日本文化に馴染んでもらうと言う理由と、講和後には両国と関係を修復するつもりがあるからだ。
補給を済ませた後、【出雲】艦隊は二手に分かれて、一つはソマリア沿岸のイタリア軍施設を、一つはフランス領ジブチに向かった。
どちらもエチオピア軍の支援の為だ。イタリア軍の施設を破壊して補給を絶てば、エチオピア帝国の勝利は確定する。
ジブチについてはエチオピア帝国軍を派遣して貰い、海と陸からフランス駐留軍を攻める。
そしてジブチを落とせば、【出雲】からの海上輸送路が復活できる。
その次はエリトリアのイタリア施設を落として、スエズ運河を経由してリビア防衛の為にイタリア本国に襲撃を掛けるつもりだった。
こうしてエチオピア帝国に協力して、攻め込んできたイタリア植民地を逆に奪う反攻作戦が開始された。
ロシアのバルチック艦隊とフランスの植民地艦隊がアフリカ大陸を迂回して、マダガスカルに集結しようとしている事は知っている。
まだ時間的な余裕はある。その時間を利用して、イタリアに徹底的な被害を与えるつもりだった。
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圧倒的な優位にあったイタリアとフランスの混成艦隊に、【出雲】艦隊が勝利した事は世界に大きな衝撃を与えていた。
戦力的に約五倍にもなる大艦隊を長距離魚雷を大量使用して足止めして、機動力と戦闘力を削いだ後に戦艦の砲撃で仕留めた事は、
戦艦の機動力と防衛力の重要さを知らしめると同時に、長距離魚雷の有益さを諸外国に示した。
又、初撃で散弾を使用して指揮系統を混乱させた事や、大口径砲の威力について等の貴重な戦訓が目白押しな海戦だった。
その後、エチオピア帝国はイタリア王国軍を押し返し始め、さらにはジブチを占拠した事で戦いの趨勢が決まった。
ジブチはエチオピア帝国軍の管理下に置かれ、【出雲】からは続々と補給物資が海上輸送路を使って運び込まれてきた。
将来的にはジブチは【出雲】の管理下に置かれる事を、エチオピア帝国は承諾していた。
アフリカで激しい戦闘が行われている時、アジアでも激しい戦闘が行われていた。
旧李氏朝鮮の民兵組織は追加徴集した人間を含めて、約三十万人が鉄条網と機関銃の為に失われた。
負傷者の数を合わせると、被害総数は四十万人を楽に超える。
清国の陸軍も東方ユダヤ共和国の陣地を突破する事はできずに、残存兵数が十二万を割り込んだ時点で壊走していた。
清国軍が拠点としていた漢城や水原一帯は、清国軍の略奪もあって、住民は北部に逃げ出している。
その荒れた無人の地に進出してきたのがロシア陸軍だ。
現在、日本の飛行船は樺太(サハリン)やカムチャッカ半島、オホーツク海沿岸のロシア軍の施設の空爆を主に行っており、
朝鮮半島で動いている日本の飛行船は十隻だけで、残りは東方ユダヤ共和国の飛行船だけだ。
絶好のチャンスだとして、ロシアは大量の兵士と物資、武器を運び込み、東方ユダヤ共和国軍と激しい戦闘を繰り広げていた。
李氏朝鮮の民兵や清国軍との戦闘では被害の少なかった東方ユダヤ共和国の国防軍は、ロシアを相手に徐々に被害を増やしていた。
ロシアが本格的な攻撃を仕掛けてきた為、訓練目的の各地の防衛隊の派遣を中止し、日本陸軍は第五、第六師団を現地に派遣した。
日本は東方ユダヤ共和国に支援物資の補給は行っていたが、貴重な航空戦力である飛行船部隊は北方の侵攻に振り向けていた。
樺太(サハリン)やカムチャッカ半島、チュコート半島、アナディール高原、ユガギール高原の支配権を得るには短期間で落として、
恒久基地を建設する必要がある。その為に、航空戦力を一時的に北方に集中させていた。
そして衛星軌道上からの偵察情報に従って、片っ端からロシア軍の施設を潰していった。
同時に大量の建設資材と大型重機を満載した輸送船は占領地に物資を届け、急いで恒久基地の建設が進められていった。
そしてロシアにさらに打撃を与えるべく、アムール川を遡って小型艦艇によるハバロフスクの軍施設の攻撃も行われていた。
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季節は梅雨に入り掛けていた。アフリカではまだエチオピア周辺とリビアで激しい戦闘が行われている。
フランス領のジブチは速攻で落としたが、まだエリトリアとソマリアのイタリア軍は健在だ。
もっとも、補給路を【出雲】艦隊に絶たれた為に、既に戦線はエチオピア国内からエリトリアとソマリアへと移っていた。
この状況が続けば、エリトリアとソマリアはエチオピアに占領されるだろう。
現在のイタリア派遣軍の被害は約五万人。最初に派遣した人員が十五万人である事を考えると、甚大な被害だ。
壊滅的被害と言って良いが、逃げる手段さえイタリア軍には無い。その為に、必死の抵抗が続いていた。
リビアの戦況も芳しくは無い。【出雲】艦隊はエリトリアの沿岸施設の破壊に手間取り、地中海にはまだ進出していなかった。
エリトリアとソマリアが落とされる恐怖を感じたイタリア政府は、せめてリビアだけでも確保しようと追加で十万の兵士を派遣した。
バルチック艦隊とフランス艦隊に備える為、【出雲】艦隊はケシム島に戻って整備と修理を行っている。
アフリカについてはエチオピアは優勢で、リビアが劣勢になっていた。
清国では雲南省を中心にした独立運動が発生して、周囲の貴州省と広西省、広東省の南西部と四川省の南部にまで広がっていた。
さらには日本軍の河川砲艦と小型艦艇によって黄河と長江の上流域までを砲撃、それにイギリスとアメリカ、ドイツが現地の有力者を
扇動して占領地を拡大した為に、清国は大混乱になっていた。その為、雲南省一帯に鎮圧部隊を派遣したくても出来ない。
東方ユダヤ共和国に派遣した約三十万の兵士の大半が失われ、残った兵士もまともに使えない。
各地の兵も日本の河川砲艦の攻撃を受けたので、大きな被害を受けている。だが、今の清国に打てる手は無かった。
東方ユダヤ共和国は大きな被害を出しながらも、ロシア陸軍の猛攻に耐えていた。そしてロシア陸軍の被害も甚大なものになっていた。
この頃になると樺太(サハリン)やカムチャッカ方面の空爆を行っていた飛行船も朝鮮半島に戻り、ロシア軍の空爆に加わっていた。
ロシア軍は正直言って、東方ユダヤ共和国の陣地を攻めあぐねていた。
膨大な弾薬と大量の大砲を持ち込んだが、飛行船の空爆で多数が失われ、どうしても防衛陣地を突破できない。
史実の第一次世界大戦と同じく、防衛陣地と機関銃が戦闘様式を変えていた。
それでもロシア軍は粘り強かった。バルチック艦隊とフランス艦隊が援軍に来てくれると思っているからこそ、劣勢に耐えていた。
一方、樺太(サハリン)やカムチャッカ半島、チュコート半島、アナディール高原、ユガギール高原でロシア軍は一方的に叩かれた。
遠隔地という事もあり、援軍の派遣は容易では無い。大部隊の派遣は不可能と言っても良い。そもそも飛行船に対抗できる武器が無い。
援軍を向かわせたが途中で飛行船の空爆に遭って、物資不足で撤退に追い込まれた。
その為、満州総督府は日本軍に反撃する事を一時的に諦め、東方ユダヤ共和国の攻略に全力を注いでいた。
ロシア帝国の皇帝ニコライ二世は今までの戦況を聞いて激怒していた。
膨大な資金を投入して戦争の準備を整えてきたのに、まったく日本に通用せずに逆に侵攻を受ける始末だ。
欧州各地の兵を送り込み、何としても東方ユダヤ共和国を落として樺太(サハリン)やカムチャッカを取り戻さなくては為らない。
今までロシアは攻める立場であり、攻められた事は少ない。それが新興国である日本に、ここまでされて黙っている訳にもいかない。
欧州方面が弱体化するが、それよりアジア方面での戦果をニコライ二世は求めていた。そうでなくてはロシアの面子が保たれない。
バルチック艦隊にも檄が飛び、一刻も早く東方ユダヤ共和国と日本を殲滅するように厳命が下った。
現在のロシアの兵力の大半は、シベリア鉄道を使ってアジアに派遣されて、欧州は手薄になっている。
こうして天照機関は、やっと条件が整ったと判断して、対ロシア戦争の第二段階の作戦を発動させた。
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横浜には欧米の商人の住む館が多い。今回の戦争で一儲けを考えていた商人だが、当てが外れた者も多かった。
ある商館に各国の商人が集まって、情報交換を行っていた。
「この戦争が始まった時は、ロシアと清国、フランス相手じゃ日本の負けは確実だと思っていたけど、こんな結果になるとはな。
まだ決着がついた訳じゃ無いけど、大勢は揺るがないだろう」
「まだバルチック艦隊とフランス艦隊は残っているが、新型戦艦と長距離魚雷を持つ日本海軍に勝てる見込みは少ないだろうな。
それでも面子があるから、講和できない。まったく大国の面子は扱い難くて困る」
「イタリアも自分達から宣戦布告した手前、講和を自分からは言い出せないんだろう。
このままだと、エリトリアとソマリアは失われて、リビアを得るどころか、逆に領土を失う羽目になる。
シチリア島でも奪われるか、莫大な賠償金を吹っかけられるかと顔を青くしているんじゃ無いのか」
「それを言ったらフランスも一緒だな。アジア方面の大部分の領土を失って、要衝のジブチを占拠されたんだ。
このまま講和になったら莫大な賠償金を要求されて、アジアの植民地を失う。泣きっ面に蜂とはこの事だ。
イタリアもそうだが、フランスの国内世論は日本と何故開戦したのか、追及が始まった。どうなるか見ものだよ」
「ロシアや清国は専制国家なだけあって、国内世論は抑えられている。
だけど清国の雲南省周辺では独立騒ぎが起きるし、イギリスとアメリカ、ドイツは占領地の拡大に夢中になっている。
正式に日本の側に立って参戦した訳じゃ無いけど、現地の有力者を取り込んで勢力を拡大させている。
日本の河川砲艦や小型艇が大型河川の上流まで遡って、清国の施設に砲撃しているから資源の搬出もできやしない。
このままじゃあ、本当に清国は滅亡してしまうぞ」
「雲南地方の独立騒ぎは日本の差し金という噂がある。イギリスやアメリカ、ドイツの占領地拡大も、日本から唆されたとも聞いている。
日本は本気で清国を滅ぼす気かも知れん。北京議定書で賠償金を減額したのに、清国から宣戦布告をしたから激怒しているんだろう」
「日本はサハリンやカムチャッカ半島に侵攻した。俺達の常識では寒くて、碌な価値も無い場所にだ。日本は何を考えているんだろうな。
態々近くの中国大陸が隙だらけであるのに、態々寒いところに行くなんてさ。俺には理解できないよ」
「日本が欲しているのは地下資源だけかも知れん。アラスカで金鉱脈が見つかっただろう。
シベリアの奥地にも資源があると考えたんじゃ無いのか?」
「それにしても冬は酷寒の地だぞ。俺なら頼まれたって嫌だよ」
強国相手に鮮やかな勝利を収めた日本に、商人達は感嘆していた。だが、日本の真意や戦略は理解できない。
その為に、秘かに政府高官や官吏に探りを入れ始めていた。
「アジア各国からの資源の輸入は大きく増えたが、民生品の輸出は以前とあまり変わらない。
戦争しているっていうのに、日本はどうしてしまったんだ!?」
「軍需品を生産しているのは、今まで清国に武器を輸出していた工場だ。清国への輸出が止まった分、軍需品の生産に切り替えただけだ。
確かにタイ王国やインドネシアからの資源の輸入は増えているらしいが、南シナ海の航行の安全は守られている。
清国からの資源の輸入が止まっても、打撃にならないという事だ。備蓄も大量にあったと判断するべきだろう」
「臨時の外債を発行せずに、戦争を遂行している。ユダヤ人の寄付が集まっているらしいが、日本はそこまで金を溜め込んでいたのか?
今まで散々輸出してきたから、結構金も溜め込んでいるのかもな」
「国内だけじゃ無い。フィリピンやインドネシア、ペルー、イラン王国、トルコ共和国への支援もあまり変化が無い。
確かに一部の民生分野で生産が落ちたり、支援の規模を縮小しているが、大まかには変わらない。
言い換えると、日本は本気じゃ無くて片手間にロシアと清国、フランスと戦争をしている事になる。
これはある意味、恐ろしい事じゃ無いか? 空と海の限定戦争を行っているとはいえ、尋常じゃ無い」
「ロシアとフランス相手にあっさりと空と海で完勝した事と言い、確かに普通じゃ無い。
あの新型戦艦を秘かに建造して、今まで隠しておいたのも驚きだ。ひょっとすると、これも例の巫女の神託のお陰なのか?」
「……可能性はあるな。以前の分析では巫女の神託は不正確という結果だが、それも偽装かも知れん。
本国に報告しておくとしよう。今の日本を侮る国があるとは思えないが、敵対するには危険過ぎる国だ」
「噂だけど、例のカムイショックで列強は日本の戦艦に注目して、秘かに日本海軍に接触を始めているそうだ。
イタリア艦隊に大打撃を与えた長距離魚雷もある。今は敵対するより、良好な関係を築いて情報を引き出そうと動いている」
フランス東洋艦隊に続き、イタリア主力艦隊をも撃破した『神威級』は、史実のドレッドノート以上の衝撃を列強に与えていた。
それにイタリア艦隊に大打撃を与えた長距離魚雷もだ。
こうして列強の強烈な視線は日本に向けられ、様々な影響が出ていた。
そしてもう一つ、実行が危ぶまれていた対ロシアの第二段階作戦は発動され、世界を驚愕させる。
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ロシア皇帝ニコライ二世の厳命で、士気が低いロシア軍の反攻が始まろうとしていた。
その状況を受けて、天照機関の緊急会合が行われていた。
「バルチック艦隊とフランス艦隊はマダガスカルを出撃したが、迎撃準備は万全だろうな?」
「我々が彼らの出撃を察知した事を、彼らは知らないでしょう。マダガスカルにはドゴール商会の手配で、陽炎機関を潜入させています。
そこから得た情報では、彼らはリアウ諸島の要塞を恐れてマラッカ海峡は通過せずに、迂回路のスンダ海峡を使うつもりらしいですね。
勿論、そこまで行かせるつもりは無く、既にケシム島から【出雲】艦隊は出撃しています。インド洋で決着をつけます」
「ふむ。バルチック艦隊とフランス艦隊を撃滅すれば、一安心だ。その後はマダガスカルの解放を行うのだな。その準備は?」
「陽炎機関が動いています。フランスの植民地ですが、フランス軍を撃破すれば自然と独立に持ち込めると報告があります。
その後は【出雲】の支援で近代化すれば良い。ゆっくりとした支援になりますが、搾取は無いので現地も協力してくれるでしょう」
「エリトリアとソマリアの占領も、時間の問題か。我々はジブチを得られれば十分だ。そうなればエチオピアの防衛戦も終わる。
そしてマダガスカルが終われば、リビアの本格的な防衛だ。イタリア本土の攻撃も視野に入れるべきだな」
「いよいよ欧州に進出か。いや、イタリアの領土を得ようと考えている訳では無いが、遠くまで手が伸びたなと思ってな」
「まったくだ。エーゲ海のドデカネス諸島でさえ遠いと感じるんだ。これ以上の拡大は無理だ」
「やるなら支援程度に止めるべきだろう。本格的な戦闘は現地に任せるに限る。大兵力を派兵しても、負担が大きいだけで旨味が無い。
苦労して出費が嵩むだけだからな」
「フランスとイタリアの最終結論が出ていない。マダガスカルを解放するまでは良いが、イタリアをどうするかは各自で少し考えよう。
苦しい防衛戦を戦っているリビアの手前、簡単に手打ちに出来ないのが辛いところだ」
「エチオピアはエリトリアとソマリアという褒美があるが、リビアに何のメリットも無いのではクレームがつくからな。困ったものだ。
それはそうと、清国への工作の報告を聞こう。こちらも手を抜いて良い訳では無いぞ」
日本はまだまだ国力は低い。一部の未来の技術を使える分野は優位を保っているが、それ以外の面ではまだまだ列強に追いつけない。
その為、強引な工作や本格的行動は、現地の協力を得る必要があった。
特に清国に関しては自らの手を汚さずに、現地の不満分子を煽って工作を進める事を基本方針に据えていた。
「イギリスとアメリカ、ドイツは我々の提案通りに、清国内の占領地の拡大を強引に進めています。
その為に清国は雲南方面に鎮圧部隊を送れずに、独立運動は順調に進んでいます。
独立を目指す彼らは清国の官吏を追放して、回族や少数民族が平和に暮らせる国家建設を目標に掲げています。
長きに渡って搾取された彼らの独立の熱意は高いです。無事に成功するでしょう」
「イギリスとアメリカ、ドイツの占領地が拡大するのは良いが、福建省と浙江省(杭州以南)はどうする?
清国が不割譲を宣言した事で、あそこは我々の領分だと認識されているから列強が進出しない。まさか手付かずのままか?」
「イギリスが広東省と江西省、湖南省を占領して、アメリカが江蘇省と安徽省の占領を進めれば、自然と切り離された状態になります。
工作は進めておきますが、具体的な行動に入るのは戦後の状況を見てからでも良いでしょう。
何と言っても、今の清国の我が国に対する感情は最悪ですからね。ここで無理やり独立させても、碌な結果にはなりません」
「それも一理ある。どうしても福建省と浙江省(杭州以南)が欲しいという訳では無く、事前防衛の意味が大きいだけだ。
ここは状況を見るのに限る。それより雲南方面の独立運動の成功が最優先だ。そこで広東省の南西の雷州半島が手に入れば良い。
そうなれば、雷州半島から広西省、貴州、雲南、四川を経由してチベットに至る鉄道が建設できる。『雲南横断鉄道』だな。
これが完成すれば、完全に中国の南部と西部地域は、中央と分離が可能になる」
「そうなれば、イギリスも一枚噛ませろと言ってくるだろう。我々の力だけで中国分割は無理だ。
列強の力を借りて出来るのなら、それで良い。列強の欲を刺激すれば、上手くコントロールする事ができる」
「チベットも力を蓄えつつある。四川の西部地域から青海省、新疆省、甘粛省を管理させる。
少数民族や回族が多いが、そこは調和を基本に統治して貰えれば良い。それとモンゴルへの工作も順調だ。
これだけでも史実の中国の半分以上を削る事が出来たな」
中国大陸の資源は魅力的だ。しかし中華主義と共存が出来ない事は、史実から分かりきった事だった。
最初は低姿勢で友好を前面に出しても、力をつければ自分達が世界の中心だと思っている中華主義が台頭してくる。
だからこそ、列強や現地の不満分子を扇動して、史実の『大中華帝国』が成立しないように事前に手を打った。
国土を分割すれば国力は下がり、そして隣国との対立に国力が費やされる。海洋に進出する余裕は無くなるだろう。
環境汚染問題の事前防止の意味もあった。その為なら、列強の進出は歓迎すべき事だと天照機関のメンバーは考えていた。
「最後はロシアだ。東方ユダヤ共和国の防衛戦は厳しいものがあるが、日本から陸軍二個師団を派遣して防衛任務に就かせている。
飛行船の空爆もあり、何とかロシア軍の猛攻に耐えている。バルチック艦隊が敗れれば、ロシア軍の士気は一気に下がろう。
それが反撃の契機になる。東方ユダヤ共和国は我々との約束を守って、秘匿兵器はまだ使用していない。
我々は彼らの信頼に答える義務があるだろうな」
「ああ。バルチック艦隊が敗北した時点で、シベリア鉄道を破壊する。それでアジアと欧州を分断する。
ロシアの欧州の兵力がアジアに向けられた今こそ、行動を起こす時だ。
ヤクーツクに向かっている部隊は空爆で潰して、東方ユダヤ共和国に攻め込んでいるロシア軍を撤退に追い込む!」
「ロシア軍の撤退に応じて、東方ユダヤ共和国の国防軍は追撃を開始する。そして新たな領土を占拠する。
幸いと言っては何だが、李氏朝鮮は併合して消滅した。占領予定地の人口も激減したから、占拠は容易だ。
これで東方ユダヤ共和国に報いる事ができて、我が国は李氏朝鮮を完全に切り離せる。長い計画だったな」
「ああ。公害問題や拉致問題、将来に渡る文化的な問題や歴史認識問題も未然に防止できる。
我々が関わると、彼らの自尊心を傷つけて怨まれる。ならば接点を最初から持たない事が、双方の為だからな。
後は北方方面の侵攻が無事に終わる事が前提になる」
「既に樺太(サハリン)の占領は完了して、恒久基地の建設を進めています。カムチャッカ半島とマガダンも同じです。
現地のロシア軍を殲滅する為に、現在は四個師団を派遣していますが、冬季に駐留させるのは一個師団が限界です。
現在はレナ川近隣の掃討戦を行っており、それが完了すればチェルスキー山脈の地下に、自分が秘密基地を建設します」
「チェルスキー山脈を抑えれば、自動的にユガギール高原とアナディール高原は手に入る。例のロボットを使うのだろう。
地下施設が完成すれば、酷寒の地でも生活は可能になる。穴倉生活は気が滅入る事もあるだろうが、是非とも進めたい」
「あそこは地下資源の宝庫だからな。【出雲】と同じく室内農園を多く造れば、自給自足も可能になる。
元々が人口も少ない事だし、日本人の生活圏の拡大には絶好の場所だろう。我々も俗物なので、きちんと戦利品は貰わないとな」
「地下鉄建設用のドリル装備の採掘機を多数用意しました。樺太(サハリン)縦断鉄道もそうですが、カムチャッカ縦断地下鉄や、
マガダンからチェルスキー山脈の縦断地下鉄の建設も将来は考えています。
苦労は多いでしょうが、先住民との争いも少なくて生活圏が拡大できる。長い計画もやっと実現です」
中国大陸は資源も多いが人口も多い。そこに進出するとなると、当然だが先に住んでいた住民と問題が発生する。
ならば開発や生活の苦労はあっても、人口の少ない酷寒の地に生活圏の拡大を求めた。
今の技術では問題も多くて、満足な生活はできない。しかし、未来の技術を使えば何とかなる。
絶対に他国が真似できないような事も、今の日本なら実現可能だ。
こうして陣内がこの地にやってきてから計画していた『北方拡大計画』は、実現しようとしていた。
その為に必要な設備の多くは、天照基地の織姫の手によって次々に生産されていた。
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史実では本年の十二月にライト兄弟がライトフライヤー号によって、有人動力飛行に成功した。人類史の輝ける功績の一つだろう。
そして今回は日本総合工業が供給している様々な部品により技術革新が早まった為か、夏に初飛行が行われた。
海外事業部が秘かに運営するトルーマン商会の資金援助があった事も影響している。
その記念すべき人類の初飛行は、兄弟二人と地元の海難救助所員が一人、そしてトルーマン商会の立会人の四人で行われた。
無事に成功して、証拠としてビデオ撮影も行われた。
しかし先進的な研究は最初は理解されないのも世の理の一つだ。
アメリカ陸軍や科学者は『機械が飛ぶことは科学的に不可能』との新聞発表を行い、ライト兄弟を激しく批判していた。
陽炎機関が秘かに運営するテキサス新聞は人類史上の快挙と褒め称えたが、それに追随する新聞社は無かった。
史実では、その記念すべきライトフライヤー号も海外に流出してしまったほどだった。(後年にアメリカに戻されている)
今回、トルーマン商会の口利きで、ライト兄弟が東方ユダヤ共和国に移住するのは『環ロシア大戦』終結後の事だった。
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ロシアのバルチック艦隊とフランス艦隊は、マダガスカルで整備と補給を終えた後に出撃した。
当初の目標は、マラッカ海峡の要衝であるリアウ諸島要塞の攻略だった。
しかし、多数をもって【出雲】艦隊に戦いを挑んだイタリア艦隊が、あっさりと完敗すると考え方を変えていた。
リアウ諸島要塞には、日本の第一遊撃艦隊が駐留している。【出雲】艦隊とほぼ同数だ。
バルチック艦隊とフランス艦隊を合わせればイタリア艦隊の約二倍になるが、それでも要塞砲と第一遊撃艦隊に勝てる自信は無かった。
その為にマラッカ海峡を避けて、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡を抜けて旅順に入港しようと目論んでいた。
それでも日本の連合艦隊に勝てる自信は無い。無いが皇帝の厳命もあり、苦戦続きのロシア陸軍の期待を背負っている。
男には負けると分かっていても戦わなくてはならない場合があると言われるが、まさに今がその時かも知れない。
士気も低く、艦隊内部のトラブルが続出していたが、何とか規律を維持してインド洋を東に航行していた。
そのバルチック艦隊とフランス艦隊は衛星軌道上の監視システムで捕捉され、出撃した【出雲】艦隊に位置を連絡されていた。
この時代、レーダーは無くて敵艦隊の位置を掴むのに大変な苦労をする事を考えれば、情報の重要さが分かる。
無闇に損害を多くする事を嫌った沖田は、夜戦で仕留める事にしていた。
夜間であれば雷撃も見えなくても不自然では無い。既に遭難者救助の為に、シムルー島の第23警備艦隊がこちらに向かっている。
そして、深夜をゆっくりと航行しているバルチック艦隊とフランス艦隊に雷撃戦を仕掛けた。
警戒態勢だったが、遠距離から忍び寄る誘導機能付の無航跡魚雷を見つけられず、戦艦十九隻を擁する大艦隊の大半が浸水した。
浸水して船体のバランスを崩しては、戦いに参加する事さえ出来はしない。
そして接近した【出雲】艦隊の砲撃によって約三割の艦艇が沈み、その後の降伏勧告を呑まざるを得ない状況に追い込まれた。
碌な反撃も出来ずに嬲り殺されるよりはと、捕虜の道を選んでいた。
結局、バルチック艦隊とフランス艦隊は約三割の艦艇が沈み、逃げられたのは二割だけで、その他は鹵獲された。
海に投げ出された遭難者はシムルー島の第23警備艦隊によって救助され、鹵獲された艦隊と共に済州島に向かった。
済州島の捕虜収容所の待遇が良い事は、取材記者によって知られている。その為に、捕虜が反抗的な態度を取る事は無かった。
こうして、一国どころか数ヶ国相手にも堂々と戦える戦力を持ったバルチック艦隊とフランス艦隊は壊滅した。
その様子は【出雲】艦隊に乗り込んでいる観戦武官と取材記者によって、見届けられていた。
ちなみに、乗り込んでいた観戦武官を出した国は以前と同じく七ヶ国だ。
ハワイ王国、東方ユダヤ共和国、イギリス帝国、タイ王国、イラン王国、トルコ共和国、エチオピア帝国だ。
彼らによって、脅威と看做されていたバルチック艦隊とフランス艦隊の壊滅は世界中に知れ渡った。
今までの常識を覆されたイラン王国の観戦武官は、身体を震わせながら興奮していた。
(まさかロシアのバルチック艦隊とフランスの主力艦隊が、こんなにあっさりと壊滅するとは想像すらしていなかった!
イタリア艦隊に完勝した事から、勝つとは思っていたけど、殆ど被害を受けていないじゃ無いか! 日本艦隊の夜戦能力は驚異的だ!
これで日本と【出雲】の勝利は確実なものになった! アジアでも大きく戦局は動くだろう!
欧州方面のロシア軍が引き抜かれている今がチャンスだ! さっそく、本国に例の作戦を実行するように要請しなくては!)
夜戦という事もあって、【出雲】艦隊はあまり被害を受ける事無く、勝利した。
史実の日本海海戦は日露戦争の趨勢を決定づけ、日本の国力を世界に示した。
それまでは、白人国家に有色人種国家が勝利するなど考えられなかった。
アジアの小国が世界を支配する西欧の国家に勝利した一大エポック的な出来事だった。
この件があったからこそ、史実では民族独立活動が活発化した。欧米が支配していた世界秩序の崩壊の契機とも言えるだろう。
今回はフランス艦隊も加わって、規模を拡大して行われた。戦果は史実の日本海海戦を上回った。
ただ、飛行船の開発を行った等の今までの日本の実績もあって、史実の日本海海戦程のインパクトは無かった。
この事により日本軍は夜戦が強いという評判が広まり、司令官の沖田の不敗伝説が創られていった。
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イタリア王国は苦境に陥っていた。リビア攻略は地理的な要因もあって、苦戦はしているが占領地を増やしている。
しかし、制海権を【出雲】に奪われた為にエリトリアとソマリアへの補給が絶たれ、現地軍は押し返され始めていた。
植民地を拡大する目論見だったのが、逆に失う事態に陥っていた。
増援を派遣しようにも主力艦隊が壊滅した為に、護衛無しで派遣できない。既に紅海の制海権は【出雲】のものになっている。
エリトリアとソマリアの沿岸施設は、【出雲】艦隊の砲撃で徹底的に破壊された。
補給を絶たれた軍隊の末路は惨めなものだ。エチオピア侵攻軍は、その運命を辿ろうとしていた。
「主力艦隊が敗れた事で、制海権は【出雲】に握られた。補給路が絶たれたから、次の補給が出来るかも不明だ。
そしてバルチック艦隊とフランス艦隊を撃破した【出雲】艦隊が地中海に進出すれば、本国までも攻撃されてしまうぞ!」
「まさか【出雲】艦隊がここまで強かったなんて、誰も想像していなかった。
港は全て破壊されて、逃げ帰る船も無い。このままじゃあ、全滅しか無い!」
「逃げ帰ろうにも、ここはアフリカだ。我々が逃げられるはずも無い。まったく、どうしろって言うんだ!?
攻撃を受けなくても、食料が尽きてしまえば餓死の運命が待っているんだ!」
「本国に戦況報告はされている。それでどう判断を下すかだ。我々は軍人だ。本国の命令に最後まで従う」
「その前に俺は一人の人間だ。やっぱり死にたく無い! 本国の奴らは前線に来て、俺達の苦労を知れば良いんだ!」
【出雲】艦隊がバルチック艦隊とフランス艦隊に完勝した情報が伝わると、エチオピア侵攻軍はパニック状態になっていた。
余勢で【出雲】艦隊が紅海を経由して地中海に進出すれば、イタリアに迎撃する戦力は無い。
このままではエリトリアとソマリアは失われ、エチオピア侵攻軍は全滅する。
リビア侵攻軍も補給を絶たれれば、全滅の憂き目に遭ってしまう。さらにイタリア本土への攻撃もあり得る。
こうしてイタリア王国は【出雲】とエチオピア帝国、リビアとの停戦の仲介を、イギリスに依頼していた。
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フランス共和政府は市民の強い批判を浴びて、苦境に陥っていた。
アジアに派遣した東洋艦隊が敗れ、広州湾の施設が破壊されて、植民地だったベトナムとカンボジアは独立してしまった。
南太平洋にあったニューカレドニアとフランス領ポリネシア、ウォリス・フツナは日本軍によって占拠されている。
さらにイギリスが広東省と江西省、湖南省の支配を拡大する動きを加速させ、雲南省を中心に貴州省、広西省に独立運動が拡大した
為に、フランスのアジア権益の大部分を失う羽目に陥った。
こればかりでは無い。アフリカの紅海の要衝のジブチをエチオピア帝国に占領され、フランス主力艦隊が【出雲】艦隊によって壊滅。
さらにマダガスカル島の軍施設を【出雲】艦隊に攻撃されて、現地で独立運動が激化していた。
このままではマダガスカルが失われるのは時間の問題だ。相次ぐ失態に、フランス共和政府は市民に激しく糾弾されていた。
「東洋艦隊が壊滅して、ジブチ駐留艦隊に続いて主力艦隊も失った。アジア権益どころか、ジブチとマダガスカルまで失おうとしている。
軍備の再建には膨大な資金が必要になるだろう。こうなると、我々が次の選挙で勝つ事は無理だろうな」
「……こんな大敗をしてアジアの権益を失ったのではな。だが、まだアフリカ植民地は健在で、それの維持に必要な艦隊は健在だ。
問題は日本との戦争をどう終わらせるかだ。ロシアが勝てる見込みがあれば良いが、それも無理だろう」
「日本から火山噴火の事前勧告を受けた恩があるのに、宣戦を布告した。
そして日本からの輸入が停止した事で、ご婦人や産業界からも大きな批判が出ている。
我々の失脚は時間の問題だな。しかし、尻拭いをせずに放り出す訳にもいかない。やはり講和の糸口を探るしか無いだろうな」
「……ロシアと清国に便乗して宣戦布告をしたんだ。日本の我が国の印象は最悪だろう。
しかし、これ以上の植民地を失う訳にもいかん。何とか頭を下げて事態を収めなくてはな」
主力艦隊が敗北した事は大きな衝撃だが、まだ残存艦艇は揃っており、アフリカの植民地支配は維持できる。
アジア一帯とジブチ、マダガスカルを失う事は確かに痛いが、これ以上の植民地を失う事になれば、さらに事態が悪化する。
日本や【出雲】と戦おうにも、今のフランスでは力不足は歴然としている。
このままで行けばフランス本国が【出雲】艦隊の攻撃を受ける可能性もあり、その場合の勝敗は誰の目にも明らかだ。
こうしてフランス共和政府は、日本との講和の道を探っていった。
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バルチック艦隊とフランス艦隊の敗北の報はロシアの満州総督府にも伝えられ、大きな衝撃を与えていた。
東方ユダヤ共和国への侵攻軍の被害は増加し、苦戦を強いられている。
樺太(サハリン)やカムチャッカ、マカダンは日本の侵攻を受けているが、海軍が壊滅した為に取り戻す目処さえも立ってはいない。
ヤクーツクの要塞は飛行船の空襲によって破壊されて、日本軍が新たな要塞建設を始めたとの連絡が入ってきている。
現在、欧州方面から兵を引き抜いてヤクーツクに向かわせているが、飛行船の爆撃もあって進軍速度は遅い。
シベリア鉄道と東進鉄道が破壊されたので、軍の移動と補給にも大きな支障が出ていた。
それでも皇帝は諦めてはいない。東方ユダヤ共和国と日本を下せと、厳命が下っていた。
満州総督府の上層部のメンバーは、溜息をつきながら事態打開の糸口を見つけ出そうとしていた。
「東方ユダヤ共和国軍は気化弾を複合的に使用したエリア攻撃を行い始めた。お陰で派遣軍の被害はうなぎ上りだ。
バルチック艦隊の壊滅も知れ渡って、現地の士気は最低だ。このままじゃあ、壊走もありえる。どうすりゃ良いんだ!?」
「東方ユダヤ共和国に、それなりの被害を与えたが、結局は防衛陣地を突破できなかった。
まったく、現地の奴らが情けないのか、ユダヤ人が上手だったのか。我が軍の権威も落ちたな」
「欧州からの増援兵力は、シベリア鉄道と東進鉄道が破壊された事で動きが鈍い。
ヤクーツクの奪還に向けて出発した部隊も、飛行船の爆撃を受けて食料不足でクラスノヤルスクに引き返す始末だ。
東方ユダヤ共和国への増援を送ろうにも、食料輸送さえ滞りだした。こりゃあ、マジでやばいぞ!」
「こちらを朝鮮半島に引き付けておいて、日本はサハリンとカムチャッカ、コリャーク、マガダン、チュコトの占領を進めている。
現地に秘かに派遣した諜報員の報告では、ヤクーツクとサハリン、マガダンでは既に恒久基地の建設が進められているらしい。
カムチャッカは遠過ぎて、諜報員の派遣は出来なかったが同じと考えて良いだろう。日本にしてやられたな」
バルチック艦隊の壊滅で士気が落ちたロシア軍に対し、東方ユダヤ共和国軍と日本軍は本格的な反攻を始めていた。
その切り札は気化弾だ。特殊な砲で撃ち出される複数の気化弾は円形に分散し、その内側の酸素を一気に奪って爆発する。
一瞬で広範囲の敵を殲滅する秘匿兵器だ。それを大量に使い始めた。
既にロシアの優位は陸軍の兵士の数だけになっている。ここでロシア軍を押し返して、東方ユダヤ共和国の占領地を拡大する。
同盟国である東方ユダヤ共和国に、苦戦を強いるだけでは無い。ちゃんと領土拡大という利益も用意していた。
暗い雰囲気の満州総督府に、現地から凶報が入ってきた。
「日本は大量の飛行船を投入して、後方の物資集積所を焼き払うだけじゃ無く、前線の部隊にまで攻撃を仕掛けてきただと!?」
「そればかりではありません! 黒装束のおかしな格好の兵士を使って、要所要所に爆破攻撃を加えてきています!
東方ユダヤ共和国軍と日本軍は前進を開始し、戦線は崩壊して兵士は逃亡を始めています!」
「くっ! バルチック艦隊が負けて士気が落ちているこの時を狙って、奴らは攻勢を仕掛けてきたのか!
仕方あるまい! 戦線を立て直す! 全部隊に後退命令を出して、平壌まで……いや平壌では駄目だ。簡単に突破されてしまう!
奉天(現在の瀋陽市)だ! 奉天まで後退して戦線を立て直す!
そこまで奴らが進出してくるなら、逆にこちらが奴らの補給路を攻撃する事もできる! 直ぐに現地に連絡しろ!」
「ちょっと待って下さい! 平壌には併合したとはいえ、旧李氏朝鮮の王族がいます。どうするのですか!?」
「構うな! 我が軍を立て直すのが最優先だ! 奴らに構っている余裕は無い! 急げ!!」
この結果、ロシア軍は奉天まで後退した。
平壌付近は鉄道も無くて補給物資の輸送に不向きだが、奉天ならばハルビンからの補給も鉄道を使って行える。
東方ユダヤ共和国軍や日本軍が奉天まで攻め込んでくれば、まだ温存してある旅順要塞の兵士によって後方撹乱もできる。
東方ユダヤ共和国軍と日本軍は、ゆっくりと進軍していた。
略奪を恐れた為に、漢城付近に民間人は殆どいない。居たとしても、ロシア軍相手の慰安婦ぐらいだった。
占領地の民間人を保護して北部(平安道)に送り返す段取りをつけながら、東方ユダヤ共和国軍と日本軍は前進を始めた。
目的は京畿道、江原道、黄海道、咸鏡道の占拠だ。そこの住民を保護する名目で、李氏朝鮮の勢力が残っている平安道に送り届けた。
新たに占拠した領土は、現在の東方ユダヤ共和国の領土より広い。
そして李氏朝鮮の支配領土は、完全に日本海から切り離された。(ロシアが併合したので予定と異なったが、問題は無い)
日本にも東方ユダヤ共和国にもメリットがあるとして、当初から計画された内容だった。
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李氏朝鮮は併合される前に、ロシアの命令で首都を漢城から平壌に移していた。
遷都の事前準備を行う余裕は無く、戦場になる漢城から慌てて逃げ出したと言い換えても良いだろう。
その平壌には李氏朝鮮の王族と支配階級の両班が集まり、一応の国家組織は維持されていた。
しかし、民兵組織の壊滅に続いて清国陸軍が進軍してきた事で、戦場の近くの京畿道と江原道が徹底的な略奪に遭って、
住民は北方の黄海道、咸鏡道、平安道に逃げ出していた。
その結果、広くは無い北方の領土に多くの住民が安全を求めて逃げ込んだ為に、食料不足が深刻化していた。
元々、民兵や清国軍の略奪から逃げ出した事もあって、碌な物資は持ってはいない。
そしてロシア軍による略奪も行われた事から、黄海道と咸鏡道からも住民は逃げ出して平安道に集中する事態になっていた。
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北海道に膨大な建設資材や建設用の重機、それに様々な機材や食料などが集積されていた。
これも以前から計画していた北方占領作戦の為だった。
占領地と北海道の集積基地の間を大型輸送船がひっきり無しに往復して、大量の物資を現地に運び込んでいる。
又、不足気味な物資の補充も、本州から来る輸送船が頻繁に運び込んでいる。
現在、樺太(サハリン)全土の占拠は終了し、残存しているロシア軍の施設を利用した恒久基地建設は順調に進められている。
ロシア軍の捕虜は済州島に移送し、民間人はロシアに送り届けている。
カムチャッカ半島は元々碌な施設は無かったが、それでも広大な為に占領に手間取っている。
しかし、拠点構築をするのが優先だと、ペトロパブロフスク・カムチャッカ、パラナ、アナディルに基地建設を進めていた。
マガダンも同じだ。ヤクーツクの支配を進める為に、オホーツク海に面したウリヤに橋頭堡を築き、物資を陸路で運び込んでいる。
衛星軌道上から監視して、各地に残存部隊がいれば飛行船の空爆で根こそぎ排除している。
そしてチェルスキー山脈に秘密基地を建設しようと、大型輸送機で採掘ロボットと建設用ロボットを送り込み、
地下空間の掘削と基地建設を秘かに始めていた。
現在、北方に派遣されているのは陸軍四個師団だ。しかし、四個師団を収容する恒久基地の建設は、短期間では正直言って無理だ。
その為に、約三千人を収容できる規模の恒久基地を、ペトロパブロフスク・カムチャッカ、アナディル、マガダン、ヤクーツクの
四箇所に建設中だ。
冬が来る前に恒久基地を建設して、三個師団を撤退させる必要がある。そして一個師団だけが現地で越冬する。
厳しい冬を越すには断熱効果がある住居、暖房器具とその燃料、発電機、食料などの大量の物資が必要になる。
それらを早急に準備しなくてはと、四個師団の兵士は焦りながらも作業を進めていた。
尚、越冬中に刺激が無くてストレスを溜められて、トラブルの元になっても困る。
日本軍が大軍を遠隔地に長期派遣するのは初めてなので、それに対応するノウハウは無い。
その為に陣内は知恵を絞り、ゲームやラジオ受信機、漫画本(十八禁仕様を含む)などの色々な娯楽用品も大量に用意していた。
尚、特殊樹脂で作られた女性の形の某商品(ダ○チワ○フ)の存在は、帝国陸軍の機密として一般に知られる事は無かった。
占領したての場所に女性を派遣させる訳にもいかず、さりとて人間の本能を無視する訳にもいかない。
列強の軍隊の慰安婦に関する実態は、第三国の新聞社を使って詳細な記録をとってある。
しかし後世の批判を恐れて、情けない方法を採る帝国陸軍を批判できる人間がいるのかは分からなかった。
シベリアもそうだが、現在日本が占拠した広大な地域には豊かな地下資源が眠っている。
入植地としては不適格かも知れないが、領土に組み入れる事で大きな効果が見込まれていた。
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頼みの綱だったバルチック艦隊が敗北し、東方ユダヤ共和国への侵攻軍が退却したという報はニコライ二世に伝えられた。
しかもサハリンやカムチャッカ半島、チュコート半島、アナディール高原、ユガギール高原までも日本軍に占領されている報告は
ニコライ二世を激怒させていた。いかに寒冷地の価値が少ない土地であっても、他人に奪われるとなると怒って当然の事だろう。
しかし今のロシアに空と海の戦力は無い。ゼロでは無いが、黒海艦隊は動かせずに、他も周辺地域への睨みがあって動かす事は無理だ。
優勢にあったはずの陸軍も、飛行船からの空爆で敗退の憂き目に遭っている。
ヤクーツク奪還の軍は、補給が続かずに逃げ帰る始末だ。シベリア鉄道は破壊されて、欧州とアジアの往来が遮断されてしまった。
戦術的に手詰まりなのは確かだ。しかし、ニコライ二世は諦めなかった。
ここまで一方的な敗北を受け入れる事など出来ない! 新たに得た満州の地からの撤退など、断じて認められない!
まだ満州の開発は始まったばかりだが、豊かな地下資源と広大な穀倉地域はロシアの将来を保障してくれるものだ。
満州の地だけでも、大国になれる要素は十分にある。その地をみすみす失う事などニコライ二世にとって許容できる事では無かった。
(確かに飛行船と言い、戦艦と言い、日本の技術に負けてしまった。しかし、まだまだ国力は我がロシアの方が圧倒的に優勢だ。
新たな飛行船を開発し、日本のカムイ級に対抗する戦艦を整備させる。長距離魚雷もだな。
時間が掛かるのが問題だが、満州を失う訳にはいかん。問題は東方ユダヤ共和国と日本の進軍をどう止めるかだ。
清国は崩壊寸前で、フランスも逃げ腰になっている。ドイツは日本の勧告を受けて、清国の植民地を拡大して中東の開発を進めている。
アメリカも植民地の支配を進めるので手一杯か。日本と戦いそうな国は他には無いのか!?
我がロシアの東部の広大な地域を占領しているのも認められん! 何とか対抗する手立ては無いものなのか!?)
ニコライ二世が現在の苦境を打開しようと考えていると、顔を青褪めた侍従が慌てて部屋に入ってきた。
「へ、陛下! 大事件です! たった今、報告が入ってきました!」
「大事件だと!? また日本が何かをしたのか!?」
「い、いえ、今度は黒海とカスピ海周辺です!
イラン王国が我が国に宣戦布告を行って、トルクメニスタンとアゼルバイジャンに侵攻を始めました! バクー油田が狙われています!
それと黒海艦隊が【出雲】艦隊の奇襲を受けて全滅しました!
トルコ共和国も我が国に宣戦布告を行いまして、グルジアとクリミアの独立勢力を支援すると声明を出しました!
現在、欧州方面から大量の兵士がアジアに派遣されており、兵力が少なくなっています。
現地は防戦中ですが、至急の増援を求めています!」
侍従の慌てた報告を聞いて、ニコライ二世は絶句していた。今までロシアは攻める側だった。
攻められた事が無いとは言わないが、領土を失う事など殆ど無かった。
それが今や、東部の広大な領土を日本に占領され、さらには足元にイラン王国とトルコ共和国が攻め入っている。
何かが違う! ニコライ二世は動転して、頭を抱えて椅子に蹲っていた。
余談だが、ソビエト連邦の独裁者のスターリンはグルジアの生まれだ。
しかし、この時は故郷を離れて軍に勤務しており、将来の問題にはならないとして作戦は発動された。
(2013.10.20 初版)
(2013.11.03 改訂一版)
(2014. 3.23 改訂二版)