ハワイ王国は完全に欧米の楔から解き放たれ、日本からの支援を受けて急速に発展していた。

 日本人の移住が進められているが、総人口は少なくて国土面積に制限がある為に、元々大国となる要素は無い。

 しかし、太平洋の要衝の地という利点を生かした中継貿易と、農作物の出荷、それとアジア方面からの観光地として栄え始めていた。

 小規模ながらも海軍が設立され、自国の安全は自分達で守るという意識が芽生えて、国民の一体感もある。

 海軍の艦艇は日本から供与された輸出仕様(一部の機能をダウン)の『夷隅級』と『高滝級』、『平沢級』を使用している。

 さらにハワイ王国の精神的支柱とも言える女神(ハウメア)の神殿が完成した事で、国民の意識は高揚していた。

 一時期は日本と連邦制を結ぶべきとの意見もあったが、女神の威光もあって話は立ち消えた。

 ハワイ王国の独自性を保った方が後々の為にも良いとの天照機関の判断もあり、軍事同盟を結んだ両国間の繋がりは深まる一方だった。


 ベトナムはフランスの植民地だが、日本の淡月光のアジア最大の工場がある為に史実ほどは搾取されずいた。

 淡月光の工場や資源と食料の輸出により、現地の経済は活性化されて、欧米の植民地としては他に類を見ない発展ぶりを見せていた。

 北部の丘陵地帯の開発も徐々に進みだし、地下資源の多くは日本に輸出されて現地の経済を潤している。

 そのベトナムの繁栄は支配者たるフランスの利益になる。ここ数年のベトナムから徴収できる税は右肩上がりだ。

 フランスと日本は微妙な関係だった。淡月光を始めとして、色々な商品の交易という面から民間交流は盛んだ。

 本国も日本から色々な医療機器や消費財、真空管や無線通信機を輸入していて、それなりの関係を築いている。

 しかしタイ王国とのパークナム事件では、日本が仲介した事によりフランスは史実のラオスの地域を諦めざるを得なかった。

 一方で、エチオピア帝国の支援については、工業化を進める事で方針は一致している。

 民間交流が深まる中、政府間交流も相手の真意を探りながら、ケースバイケースで協力している。

 フランス国内のユダヤ人の多くが東方ユダヤ共和国に移住をしている事もあって、日本に対する国内世論も複雑だった。

 数千人規模の若い女性と数百人規模の若い男が【出雲】に出稼ぎに行き、そして現地で結婚した者も多い。

 ベトナムの南部では日本の評判はさほどでも無いが、北部において日本への好感度はかなり高くなっていた。


 タイ王国はパークナム事件以降、急速に日本との関係を深めていった。

 あまり農作物の収穫が望めないコーラート台地を、日本の協力によって豊かな穀倉地帯に変えようと開発を進めていた。

 日本から持ち込んだ大型重機によって、貧しい地方として有名だったコーラート台地は、豊かな台地へと変貌しつつある。

 さらに一部の大型重機を使って、タイ王国の平野部を流れる河川の工事も行われていた。

 熱帯性気候に分類され湿潤な気候であるタイでは、様々な場所で季節的に激しい洪水が起きる。

 その為に、川底を掘り下げる工事やダムの建設、貯水池などの大掛かりな治水工事が行われ始めた。

 数年で終わるものでは無く、数十年は掛かるだろう。それでも洪水に悩まされてきた現地の人にとっては朗報だ。

 初期型の工作機械が次々に導入され、日本で研修を受けてきた技術者によって国内で稼動している。

 タイ王国の工業化が少しずつ進められて、簡単なものなら国内で生産できるまでに成長している。

 それらの工場は日本資本の支援を受けたが、運営は現地の資本で行われている。

 国内の豊富な資源や食料を輸出して、日本からは各種の機械や消費財を輸入している。

 日総航空の飛行船の定期便のルートに含まれている事もあって、官民の交流は進んでいた。

 日本に割譲したチャーン島(面積:約217km2)には巨大な港湾施設、倉庫群、工場群、住宅が建設され、日本からの移住も進んで

 リゾート地としても開発されている。小規模ながらも日本の艦隊が駐留して、周囲の安全に気を配っている。

 チャーン島の日本艦隊は、自国の護衛を担っていると考えているタイ王国の高官も多い。

 タイ王国内部には日本と軍事同盟を結ぶべきという意見もあったが、時期尚早として経済協力協定を結んだ。

 国内の開発がさらに進んだ時点で、軍事同盟を結んだ方が良いという意見もある。

 貧しい地方の人々で【出雲】に出稼ぎしている女性は一万人を超える。現地で結婚して身を固める女性も多い。

 同じく若い男の出稼ぎも進んでいる。こうして日本とタイ王国の関係は、官民共に深まっていた。


 日清戦争の時に李氏朝鮮の賠償として、朝鮮半島の南部を割譲させた。その地に建国されたのが東方ユダヤ共和国だ。

 日本が全面的に支援して建国され、世界各地から多くのユダヤ人が集まりつつある。現在進行形だ。

 ユダヤ人は放浪の民であり、祖国は二千年以上も前に失われた。その彼らに祖国となる土地を提供した。

 李氏朝鮮からは領土を奪われた怨みを向けられている日本だったが、ユダヤ人からは感謝の念を向けられていた。

 建国資金は彼らの世界ネットワークから集められたが、建設用資材の大半と建設用の重機は日本から供給された。

 当然、官民共に交流は深い。特に巨済島は両国の共同管理地区として、経済特区の扱いで発展を続けている。

 工場の一部は操業を開始したが、まだ多くの消費財は日本から輸入している。

 不足する食料の多くは日本国内、ベトナム、タイ王国、その他の近隣諸国から集まってきている。

 必要とされる資源はユダヤ独自で集めているものもあれば、日本から輸入している資源もある。

 特に石油関係は全量を勝浦工場からの出荷に依存している。(近隣に石油を供給できる国が無い為)

 東方ユダヤ共和国は日本にとって、ロシアと李氏朝鮮の防波堤の役割を担っている。(資材や機材の発注先としても期待されている)

 それと将来的には、中国のロビー活動と朝鮮の告げ口外交の対抗者としても期待されている。

 その為に、放浪の民である彼らに領土を譲った。必要な資材や兵器などの供給(有償)を惜しむ事は無かった。

 そしてヘリウムガスを使った飛行船や、ハワイ王国と同じ輸出仕様の『夷隅級』と『高滝級』、『平沢級』を持つに至った。

 特に『夷隅級』と『高滝級』、『平沢級』の優秀さは、各国の海軍に勤務していた移住したユダヤ人軍人も認めている。

 まだ人口は少ない。そして主眼は陸軍という事もあって、海軍の規模は小さいままだ。

 今も世界各国のユダヤ人が移住しつつあり、人口は増加の一途を辿っていた。

 史実の優秀な科学者も続々と集まってきており、将来が有望な国家と言えるだろう。


 オスマン帝国は広大な領土を持つ大国だが、技術革新が遅れた事から『欧羅巴の瀕死の病人』と陰口を言われていた。

 事実、バルカン半島の領土やギリシャも失い、ロシアにはクリミア半島を始めとして次々に領土を奪われてきた。

 欧州の列強から高価な兵器を購入したが、それを自国で満足に整備できない有様だった。

 そのオスマン帝国の改革の契機は、ペルシャ湾の奥の不毛な領土を日本に売却した事だった。

 当時の日本の評価は、小国で発展途上国に過ぎなかった。新商品を開発したが、全体では欧米に及ばないと考えられていた。

 その日本が不毛な土地を購入しても、大した事はできないだろうと思っていた。

 それでも資金不足で国内の改革が進まないので、日本の提示した金額に魅力を感じたから領土を売却した。

 ところが日本人は僅か数年で、不毛な土地に立派な工業都市を建設してしまった。

 全体の生産量はオスマン帝国には及ばない。しかし量では及ばずとも、質ではオスマン帝国を上回る工業力を持つに至った。

 それに【出雲】はまだまだ成長を続けていて、いずれは生産量でも抜かれるだろう。それはオスマン帝国にとって、大きな驚きだった。

 イスラム教に対しての配慮もあり、オスマン帝国は日本と経済交流を進めようと舵を切った。

 そして【出雲】で技術者は研修を受け、【出雲】で生産された各種の工作機械を使って国内の工業化を進めていった。

 まだ始めたばかりで、効果は直ぐに出るものでは無い。しかし、今まで出来なかった事が自国で出来るようになった意味は大きい。

 後は時間を掛けて国内の工業化を進めていけば、欧米にも対抗できるのでは無いかという意識が国民に芽生えてきた。

 このような事情もあって、オスマン帝国における日本の評判はすこぶる良い。

 【出雲】の資本進出が進むバスラ州一帯では依存度は高まる一方で、それを危惧する高官が居るほどだった。

 官の交流は汚職等の要因もあって進んでいるとは言えないが、民間交流は時間を追うごとに深まっていった。

 本年にクレタ島の独立を巡ってギリシャと戦争(希土戦争)が行われたが、工業化が進んでいたオスマン帝国の勝利で終わった。


 エチオピア帝国とイラン王国は、オスマン帝国と同じく日本の支援で国内の工業化を進める決定をしていた。

 イラン王国はこれからだが、エチオピア帝国の方は既に効果が出始めている。

 今のところ、日本との関係を深めた国は工業化が進められ、搾取にも遭っていないという評判が世界各国に広まっていった。

 そうなると我が国もと考える人間が増えてくる。だが、日本は無償でそれらの国々を支援した訳では無い。

 将来を考えて、日本にも利益があると判断したから支援している。その為に、現在の植民地の解放を求めた人達の扱いには困っていた。

 今の日本に、世界の列強全てを敵に回して戦える国力など無い。

 その為、支援を求める彼らの国の解放を行えるだけの力は無いと、引き取って貰う回数が大幅に増えていた。

 もっとも、断るだけでは禍根が残る。だから彼らが独力で自立した時は、喜んで支援させて貰うと付き加えていた。


 世界的に欧米各国は渋い顔で日本を見つめ、発展途上国の多くは日本を希望を込めた視線で見つめていた。

 そして複雑な視線で日本を見つめている国もあった。李氏朝鮮と清国だ。

 日清戦争の時に李氏朝鮮は宣戦布告もしないで、進駐してきた日本軍を攻撃して敵に回った。

 国王と王妃が清国寄りだったので当時は仕方ないと考えていたが、結局は宗主国の清国は日本に敗北した。

 そして半島の南部を日本に割譲させられ、国交を断絶させられた。

 日本と関係が深まる国々が徐々に発展しつつあるのを知ると、国王である高宗は後悔の念に囚われていた。

 しかし開明派だった日本寄りの人材は尽く処刑して、日本とのパイプは一切無い。

 それに今は形だけの宗主国である清国を見限り、ロシアに擦り寄っている真っ最中だ。

 東方ユダヤ共和国の存在は、日本と李氏朝鮮の関係を完全に断ち切った。今更、日本と関係を結ぶ事など出来はしない。

 自国の人口が徐々に減り、将来の展望はまったく無い。

 今の高宗にできるのは、自分達と関係を絶った日本を憎悪の視線で睨む事だけだった。


 清国の西太后は日本を複雑な視線で見つめていた。

 下関条約で船山群島、澎湖諸島、東沙群島、台湾、海南島を日本に奪われた。

 その代わりに日本は中国大陸の内陸部に進出しないと宣言し、それは確かに実行された。

 その当時は他の列強のように侵略してくると思っていたので、日本が内陸部の進出を行わないのは意外だった。

 朝鮮半島の南部を割譲させたにも関わらず、自国で領有せずにユダヤ人に渡したのも驚きだった。

 他の列強への面当てもあって、日本の方針を西太后は歓迎した。日本は我々の威光を恐れて、内陸部に進出しないのだと言った程だ。

 そして国内資源を日本に輸出する代わりに、日本から武器を輸入して国軍を強化した。

 下関条約によって清国は外洋への進出を阻まれたが、国内は守る事ができた。

 日本は内陸部に進出せず、沿岸部も通商だけに留めている。

 裏を返せば、日本は清国の工業化に協力しないと宣言したようなものだと西太后は感じていた。

 せめて沿岸部だけでも日本の工場が進出してくれれば良いが、下関条約を盾に首を縦に振る事は無かった。

 列強のように土足で入り込んでくる事は無いが、日本は通商を通じて中国の富を吸い上げていると西太后は思っていた。


 余談だが、チベットの工業化は秘かに進められ、その事を清国側の人間が知る事は無かった。

 雲南の方は回族を使った工作が進められていたが、まだ蜂起には至らずに清国政府は治安は維持されていると考えていた。

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 先月までは陣内の家族は沙織(二十六歳)と楓(三十一歳)、それと子供の真一(三歳)と香織(三歳)、真治(三歳)の六人だった。

 それが先月に楓が出産して、家族が一人増えていた。可愛い女の子で、名前は『美沙』と付けられた。

 先程まで楓が授乳していたが、満腹になったのか美沙はベビーベットですやすやと寝ている。


「可愛い! 楓母さん、後で美沙を抱いて良い?」

「こら、香織。まだ美沙ちゃんは首が据わっていないのよ。それまでは我慢しなさい」

「えーー、やだっ!」

「香織ちゃん、美沙を抱くのは三ヶ月は待ってね。そうしたら抱いても良いからね」

「美沙が大きくなったらいっぱい遊んであげるからね」

「うん。真一兄ちゃんと香織姉ちゃんとボクが美沙の面倒をみてあげるよ!」

「真一と香織と真治は良い子だな。美沙は三人の妹なんだから優しくしてあげるんだぞ」

「「「はーーい」」」

「真一と香織も手が掛からなくなったし、三人目が欲しくなったわね。真さん、良いでしょう?」


 陣内はそれなりに忙しかったが、それでも楓の出産には立ち会っていた。(そうしないと、一生悪口を言われかねないからだ)

 こういう時には、人嫌いで知られて対外的な仕事が少ない陣内の調整は楽だ。

 居間の美沙のベビーベットの側には、子供用の玩具が山ほどある。真一と香織と真治の遊び道具だ。

 陣内は三人の子供が産まれると分かった時点で、協力会社に指示して大量の子供用品や玩具を開発・販売させていた。

 それまでは手作りの少量しか出回っていなかった為、普通に売り出してもヒット商品になっていた。

 淡月光を経由して海外でも販売されて、需要は増加の一途を辿っていた。


「そう言えば三日後に皇居に呼ばれていてな、また三人を連れて行くけど大丈夫だよな」

「また三人を連れて行くんですか? あたしは構いませんけど、あちらが迷惑なんじゃありませんか?

 二ヶ月に一回ぐらいですよね。色々とお土産も頂いているし、申し訳なくて。

 この前は香織用にって、十二段の雛人形をいただいちゃって心苦しく思っているんですよ」

「……沙織は気にし過ぎなのよ。天照機関の人達はお年を召しているから、たまには子供と接したくなるものなのよ。

 子供達も楽しんでいるんだから良いじゃ無い」


(真一と香織は陛下の初孫だし、殿下にしてみれば可愛い甥と姪だしな。真治も可愛がってくれるし。

 遊ぶところはいっぱいあるし、将来の事を考えて皇居に慣れてもらうのも好都合だ。しかし陛下は強引だから困るよな。

 まったく十二段の雛人形を置いてある家なんて普通じゃ無いぞ! まったく限度というものを考えて欲しいんだが)

(三人が産まれた時は懐剣を三本も頂いたのよね。確かに三人とも遊べて嬉しそうなのは良いんだけど、貰ってばかりじゃ駄目よね。

 あたしの手料理をお土産に持っていって貰おうかしら)

(はあ。陛下と沙織の関係を言えないのは分かるけど、知ったあたしはどうなのよ。まったくこの話題は胃が痛くなるわね。

 まあ、真治も可愛がって貰えてるから、あたしとしては良いんだけど)


 陣内と沙織と楓の三人は、表立っては言えない事情がある。皇居の主の意向もあって、三人の子供を頻繁に皇居に連れて行っていた。

 子供達からすると、怖そうな小父さんでも優しく遊んでくれるし、広い庭で遊べる事から皇居に行く事は楽しい。

 美味しいお菓子も沢山出してくれる。そこら辺は親よりも激甘の祖父の意向だった。


「また小父さんと遊べるの? やった!」

「ねえ、お兄ちゃん。あそこに行ったらかくれんぼしようよ」

「ボクは美味しいお菓子が食べたい!」

「美沙がもうちょっと大きくなるまでは遠出できないからな。ロタ島と【出雲】に別荘を造ったけど、行く暇なんて無いよな」

「でも、ハワイ王国とチャーン島の別荘には行ったから良いじゃない。子供達も喜んでいたしね。

 真もあたしや沙織の水着姿に見惚れていたでしょ」

「あの時は現地の料理も美味しかったし、かなり楽しめましたよね。美沙ちゃんが大きくなったら、また行きましょうね」


 人間は仕事をしているとストレスが溜まる。そしてストレスを溜めすぎると対人関係が悪くなり、身体を壊す事もありえる。

 適度に発散させる必要がある。中には全然ストレスを感じない人もいるかも知れないが、絶対的少数に過ぎない。

 その為に勝浦工場の外郭部に公園や運動場、プールなどの娯楽施設を建設して、従業員や付近の住民に開放していた。

 そして自分専用の別荘とは別に、ハワイ王国、チャーン島、グアム、【出雲】に従業員が格安で使える施設も建設していた。

 希望者があれば社員価格で日総航空の飛行船のチケットが入手できて、現地の施設が使えるシステムだった。


「美沙が産まれたから、当分は淡月光には戻れないわね。

 順調に進んでいるから大丈夫と聞いているけど、産休の体制を整えた身としては、このまま引退するのは拙いわよね」

「そうですね。淡月光の今の社長さんも結婚が近いと聞いていますし、そのうちに妊娠したら産休を取りますよね。

 今のうちから次の社長を考えていた方が良いんじゃ無いですか。そうですよね、真さん」

「後釜候補は二人いるから、同時に妊娠しなけりゃ大丈夫さ。そのうちに美沙が大きくなれば、楓も淡月光に復帰できるだろう。

 今でも定期的に報告書に目は通しているんだろう。効率を考えれば男の社長にすれば楽なんだが、

 扱っている商品を考えたら、やはり女性の社長じゃ無いと色々と拙い事が出てくるからな」

「でも、サポートは男の人に入って貰わないと困るわよ。最初は八ヶ所だった海外支店も、今じゃ二十五ヶ所よ。

 しかも中東やアフリカ、南米までも進出しているんだから。しかも扱う品種は三倍以上も増えてるのよ。女だけじゃあ、絶対に無理よ」

「だから副社長に男を置いているんだ。頭が代わっても副社長がしっかりしていれば大丈夫だからな。

 美香(二十二歳)も子供が産まれて、由維(二十歳)も新婚ホヤホヤだから子供が産まれるのは時間の問題だろう。

 出産は女の一大イベントだから、その辺りのサポートはしっかり考えているさ」


 淡月光は女性専用用品を扱う会社だが、最近は赤ん坊や幼児向けの商品も扱うようになって、規模は年々拡大していた。

 性病の治療薬や避妊薬は日本からの輸出のみだが、それ以外の製品は基本的に現地生産で対応している。

 人手不足なので積極的に委託販売を進めているが、世界各地に進出した支店の数は最初の三倍以上の二十五店舗になっている。

 副次的な目的として女性の社会進出を進める事と、日本の文化を世界に広める事があり、それらは成功したと言えるだろう。

 日本総合工業を代表とする各日本企業の商品と相まって、日本の名前と文化は世界各地に広まっていた。

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 列強の植民地支配の状況は相変わらずだが、日本と関係を深めた国々は少しずつ良い方向に変化が出始めていた。

 そして日本も少しずつ変わっている。

 各地の主要都市を結ぶ道路や鉄道が建設され、大型クレーンが設置された港湾施設も整備が進んでいた。

 まだ石炭を燃料に使っている船舶は多いが、国内で建造される船舶は全て石油に切り替わっている。

 海外の船舶の大部分は石炭を使用しているので、港湾施設では給炭施設と給油施設が併用されていた。


 鉄道は国産の蒸気機関車やディーゼル機関車が大部分を占めて、一部には電車も走り始めている。

 道路も最初から大きめに建設されており、主要な国道は最大四車線まで拡張が可能なような造りになっている。

 県道や市道なども、下水管やガス管などの位置が予め決められて、修理工事が容易に出来る。

 送電線などのインフラも道路や鉄道に沿って造られ、交換工事がし易いような形になっていた。

 道路を走るのは一時期は馬車だけだったが、路線バスやバイク、それとバイクに筐体をつけた四輪駆動車が走るようになっていた。

 高性能な自動車を製造する事は可能だが、フォードの前に量産車を投入するのは拙いとして、簡素な四輪駆動車に留められていた。

 それでも従来から考えれば、革命に近い出来事だった。

 何しろ燃料さえ補給すれば、歩くより遥かに早い速度で移動できて、荷物も運べる。

 価格も抑えられた事で、国内に普及が進み出していた。

 問題は燃料補給と修理だが、農協を中心にした農作業車両用のガソリンスタンドと修理工場の存在が、車の普及を加速させた。

 各地に続々と発電所が建設されて、電気の普及も進んだ。洗濯機や冷蔵庫などの家電製品の普及と競争しているようなものだ。

 建設用の重機の大量使用で、各地のインフラ建設は以前では考えられなかった速度で進んでいる。

 残すべき自然と開発するべき土地は明確に区分されている。

 そして土地を有効に活用する為に、都市部では免震構造の高層ビルの建設が推奨されていた。公園などの公共施設も建設が進んでいる。


 これらの日本国内の改革の原動力となっているのは、日本総合工業の勝浦工場だ。

 日本の発展に寄与している会社は多いが、それでも勝浦工場が根源と言って間違い無い。

 海水から燃料を抽出して発電する核融合炉、それに微生物処理で生成される石油。それを精製して製造される各種の石油商品。

 年間の粗鋼生産量が約500万トンにもなる巨大製鉄所。各種の工作機械の製造工場。自動生産ライン設備を持った部品製造工場。

 見学用の三基の建造ドックと自動化が進んだ機密エリアの三基の建造ドック。それに飛行船の製造工場が巨大な敷地内に纏まっている。

 世界中を探しても勝浦工場に匹敵する工場は何処にも存在しない。未来の技術を惜しげもなくつぎ込んだ工場なので当然の事だ。

 強いて言えば、【出雲】の工場地帯が勝浦工場に準ずる能力を備えている。

 それでもまだ日本の国内総生産は列強には及ばない。列強の背中が見え出したところだ。

 数は力だ。如何に勝浦工場が優れた技術を持って最高の生産効率と量を誇っても、一つの工場だけでは限界がある。

 その現状を打破するべく建設されていたのが、北海道の日高工場や四国の伊予北条工場だ。

 勝浦工場には及ばないが、500万KW出力の核融合炉を持ち、火力発電所や水力発電所、風力発電所も併設している。

 日量:約5万バレルもの石油を生成・精製するプラントと、年間粗鋼生産量が300万トンの製鉄所、重化学コンビナート群、

 五万トンクラスの建造ドックを三基持つ造船所を併せ持つ複合巨大工場だ。

 災害時のリスク回避と地方の経済発展、国力増強などの色々な目的から建設された。織姫の分類上ではAクラスの工場になる。

 約三年の期間を掛けて建設された二工場が、やっと稼動を開始した。勝浦工場で経験を積んだ人材を送り込んである。

 しばらくはトラブルが続くだろうが、本格稼動した時の効果は大きいと予想されている。

 この二工場以外にも、九州の八幡製鉄所など他の工場も稼動を開始した。


 さらに織姫の分類上ではBクラスに分類される工場(石油精製、発電所、製鉄所、重化学コンビナート群)の建設が予定されている。

 用地は、択捉島、仙台、新潟、名古屋、鳥取、熊本、沖縄、台湾、海南島、ケシム島(イラン王国)に確保済みだ。

 ちなみに、グアムでは建設が既に開始されており、チャーン島(タイ王国)では建設が終わって稼動中だ。


 これらの内容は詳細はともかく、概略は一般公表されている。

 しかし、天照基地とロタ島(マリアナ諸島)は秘密裏に開発が進められていた。

 天照基地では防衛施設の拡充が行われており、ロタ島では表面上はリゾート地を装った秘密基地の建設が

 作業用ロボットの手によって秘かに進められていた。


 尚、アメリカのインディアンの街と、オーストラリアのアボリジニの街は順調に発展を遂げていたが、急な開発は行ってはいない。

 まずは彼らを文明生活に馴染ませるのが主眼であり、アメリカやイギリスに知られる訳にはいかないので、ひっそりと生活していた。

 迫害者が居ない故郷に帰り、彼らは自由を満喫しながら農耕や工場の運営に勤しんでいた。

 まだ人口が少ないから見つからないように生活できるが、数十年や百年以上の長期に渡って、存在を隠し通せるはずも無い。

 緊急避難的な処理で彼らを保護し、そして故郷に戻したが、長期的にどう定住させるかの方針は未だ定まってはいなかった。

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 日本の改革は豊富な資金をバックにした天照機関を中心に進められている。

 一応、皇室直属の特務機関として名前は知られているが、実際の活動内容の全貌を知る者は少ない。

 一般的には日本総合工業が、国内の改革全般に関わっていると国民には知られていた。

 財閥や渋沢系列の会社、それに独自資本の会社、様々な分野の会社に技術支援をして、その代わりに株式を取得している。

 国内の主要各社(主に生産分野)に絶大な影響力を持ち、最近では豊富な資金を背景に金融業への進出も行っている。

 財閥系企業は独自の方針で動いているが、それでも日本総合工業の基本方針に逆らえない。逆らえば潰されると知っている。

 設立して僅か八年の日本総合工業の影響力は、既に日本全土に及んでいた。独占禁止法があったなら、真っ先に対象になっただろう。

 海外の知名度が高い理化学研究所や淡月光、日総新聞(海外の愛読者が増えている為)の親会社というのも大きい。

 飛行船の製造を行い、スペイン王国からマリアナ諸島を民間企業が獲得したのは大きな驚きだった。(グアムは租借)

 先進国である欧州が領土と引き換えにしても欲しい製品を、国内の企業が開発したというのは多くの国民が快哉をあげた程だ。

 国内の生活レベルが徐々に向上しているのが実感できる。そして次々に領土を拡大して、友好国の数も増えている実績もある。

 陣内は人嫌いで滅多な事では人とは会わないと知られていたが、それでも一般国民の多くは陣内を心の中で賞賛していた。

 だが、全ての国民では無い。逆に陣内に敵意を持つ人達もいた。

 日本の発展から取り残されたように、ひっそりと生活している華族を中心に陣内への不満が高まっていた。


「日本総合工業は勝浦工場を中心に事業を展開して、急速に拡大している。

 今年は北海道の日高工場と四国の伊予北条工場の稼動を始め、海外ではチャーン島やロタ島、ケシム島の開発を進めている。

 まったく民間企業の癖に、領土を持つなんておかしいだろう!」

「グアムやサイパンを日本政府に貸し出しているそうじゃ無いか。普通なら国に寄贈すべきだろう!

 やはり傲慢で金儲けの事しか頭に無いんだ。そんな奴に日本を牛耳られてたまるか!」

「それにしても、我々の御先祖様の功績があってこその事だ。それを忘れて、自分の力だけで発展したと思い込んでいる。

 やはり我々の偉大さを理解できない輩は粗暴で困るな」

「我々が主催するパーティに招待しても、一度も来た事が無いのだぞ! 無礼千万も良いところだ!

 やはり制裁を加えなければ気が済まん!」

「我々と共同で事業を行おうと申し込んでも無視している。やはり我々の優秀さを理解できない野蛮人は困るよ。

 一度は説教をしてやらなくてはな。後で吊るし上げてやれば良い」

「噂では陛下が爵位を与えようとしたらしいが、断ったというじゃ無いか。

 庶民は喜んでいるようだが、我々の仲間入りを断ったのは侮辱したのと同じ事だ。必ず思い知らせてやる」

「しかし、実力派の政治家や軍の上層部との関係は親密だ。皇居に定期的に出向いて、陛下と親しく話し合っているそうだ。

 制裁を加えるのは良いが、下手にやるとこちらが潰される。以前にも敵対した政治家や新聞社が潰されたからな。用心した方が良い」

「どうせ袖の下を使って取り入ったに決まっている! 必ず証拠を見つけ出して暴いてやる!

 名声が地に落ちれば、陛下も陣内の事は見捨てるに決まっているさ!」


 華族と言っても色々だ。一般には資産家で裕福な生活を送っていると思われているが、事業に失敗すれば生活は苦しくなる。

 先見性や能力がある人間が富み、それらの能力に欠ける人間が貧しくなるのは、一般庶民であっても華族であっても同じ事だった。

 しかし、一般庶民が事業に失敗したらただの貧乏人になるが、華族の場合は爵位は残る。

 先祖の威光に縋り、プライドだけは一人前以上だから、普通の貧乏人より始末が悪い。

 そんな彼らも一時は陣内に近づいて甘い汁を啜ろうと考えた事があったが、相手にされなかった。

 そして零落れた華族は陣内を逆恨みして、大陸に進出を考えている勢力と協力して天照機関の反対勢力となっていた。

 全ての人を平等にと考える人もいるだろうが、能力差による格差の発生は止むを得ない。

 それを否定するのは、資本主義を否定する事になる。そして納得できない人達は、影で暗躍するしか方法は残されていなかった。

 成功している華族から見れば、彼らの動きは迷惑以外の何物でも無い。そして成功している華族の大部分は陣内と繋がっている。

 日本は表向きは成功を収めて、国全体のレベルが向上しているように見える。だが影では不満を持つ人も少数ながら増えていた。

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 日本は友好国の工業化に協力している事は多いが、農地開拓はタイ王国のコーラート台地とオスマン帝国のバスラ州ぐらいだ。

 もっとも、コーラート台地の大部分は現地政府の所有で、日本が所有する面積はほんの僅かに過ぎない。

 試験的な運用と現地の人達との交流が主目的なので問題は無い。タイ王国は地理的な条件もあって、食料供給国として期待されていた。

 ベトナムも同じだが、フランスの植民地なので大々的には開発できない。あくまで農作物を購入するだけだった。


 そしてオスマン帝国のバスラ州の広大な荒地を、【出雲】は購入していた。

 【出雲】に編入した訳では無く、オスマン帝国領土として開発の権利を購入したのだ。

 川から離れているので、水があまり無い広大な荒地に【出雲】から大型の重機を大量に持ち込んだ。

 農業用水路や溜め池を整備して、荒地を広大な農地に開拓していった。その開発速度は現地の人達から見れば驚異的だった。

 そして農業用地の開発は無事に成功を収めていた。

 【出雲】の領土に隣接するオスマン帝国の領土で収穫された作物は、全て【出雲】に運ばれて消費されていった。

 バスラ州にはいくつかの工場が進出して現地の人の雇用を支えており、既にバスラ州と【出雲】は切り離せない関係になっていた。

 史実では日本で開発された人工真珠の為にクエート市の人達は大打撃を受けたが、今回は【出雲】の工場に雇用されているので問題には

 なっていない。今のクエート市は古い街並みを残した観光都市になりつつある。

 今のところ、【出雲】とアラブ人の関係は良好と言えた。


 【出雲】の領土だが、北のオスマン帝国との境界ははっきりしている。しかし西や南方面の国境線は不明確のままだ。

 この中東では砂漠に何ら価値を見出せず、オアシスがある周辺に街並みを築いているからだ。砂漠に国境線を作る意味さえ無い。

 それを良いことに砂漠の緑化を徐々に進めながら、【出雲】の国境線は西と南に拡大していった。

 西はニサーブから途中のカイスーマを含んで、南はサッファニヤーまで国境線は延長されていた。


ウィル様作成の地図(中東版)


 砂漠や荒地に住民は殆どいない。居ても、住居と仕事を用意するからと言って【出雲】に住まわせて取り込んでいる。

 近隣国と言えば、リヤドにラシ−ド家が居るくらいだが、交流は全然無く、文句を言ってくる気配も無い。

 史実でサウジアラビアを建国したサウード王家に対し、【出雲】は手厚い保護を与えてリヤド奪還の協力をするつもりだ。

 【出雲】は中東の地にあり、出来るだけ周辺国とは協調路線を取りたいという事もあり、サウード王家への期待は大きい。

 イスラム教は厳格な宗教だが、抑えどころを間違わなければ異教徒であっても友好関係を築く事は可能だ。

 イラン王国、エチオピア帝国、インドネシアの北部アチェ王国。いずれもイスラム教の伝で関係を築き上げた。

 日本人独特の宗教観もあって、天照機関は宗教には比較的寛容で協調路線を取る事を選択していた。

 キリスト教も同じだ。押し付けがましい事をしなければ、対等に付き合うべきだと考えていた。

 しかし、世界文明を牽引してきた自負がある彼らと、対等に付き合う事は難しい。それを実感できる事件が清国で発生した。

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 史実通りに十一月一日に、清国の山東省の西部でドイツ人宣教師二人が殺される事件が発生した。

 ドイツはあまり海外植民地を持っておらず、この事件は清国に進出する絶好の機会であると皇帝のヴィルヘルム二世は判断した。

 そして清国政府の中央が事件の詳細を把握する前に、上海にいたドイツ東洋艦隊司令官フォン・ディーデリヒスに膠州湾占領を命じた。

 理由は『ドイツ人宣教師の保護』だった。


 言い方は悪いが、押しかけ布教を行った宣教師が殺されたから侵略するでは、誰もキリスト教の布教などしなくて良い。

 宣教師など帰ってくれと言いたくもなる。しかし、当時の清国の国力ではそれは主張できなかった。

 死んだ宣教師が本当に善人で中国人の為を思って布教したのか、中国の権益を目的に布教をしたのかは不明だ。

 しかし結果論から言えば、キリスト教の布教は侵略側の体の良い口実に使われた。

 貧しい人の救済を謳いながらも、侵略の口実にされるのであれば関係を持ちたくないと誰もが考えるだろう。

 押しかけた宣教師が罪を犯したのかも判明しないまま、公然とした侵略が行われた。

 こんな屁理屈がまかり通るのが帝国主義全盛時代だった。

 尚、この時にドイツ人宣教師を殺したのは、三年後の義和団の前身となる大刀会という組織だ。


 命令を受けたドイツ海兵隊は、長期航海途中の上陸と陸上訓練を口実に膠州湾に上陸した。

 そして戦闘をしないで清国兵士1000人以上に退去を命じた。

 清国側には日本から輸出された武器が行き渡っていたが、湾内にはドイツ東洋艦隊が居て艦砲を自分達に向けている。

 対人戦ならまだしも、清国にドイツ東洋艦隊を攻撃する武器は無く、渋々ながら清国側は撤退してドイツ海兵隊は湾岸全域を占領した。


 清国はドイツ海兵隊を撤退させようと無駄な交渉を続けた。

 しかし植民地を欲しがっていたドイツが、やっと得た領土を手放すはずも無い。

 翌年の三月に清国とドイツ帝国は独清条約を結び、膠州湾を99年間清国政府から租借することになる。


 後世で正義と呼ばれる理屈がまかり通るなら、ドイツの行動は暴挙と呼ばれて激しく非難されるだろう。

 だが、帝国主義全盛の今の時代、他の列強は同じような事を行って植民地を次々に獲得していった。

 ドイツを非難する事は、自らを非難する事になる。その為、公式に今回のドイツ帝国の行動を批判した国家は無かった。


 史実で日本が遼東半島を得た時、ロシアとフランスとドイツは遼東半島を清国に返すように干渉した。(三国干渉)

 正義感からでは無く、自らの利益を侵害されると考えたからだ。力があれば道理が引っ込む時代だ。

 清国は日本に秘かに支援を求めて来たが、日本は内陸部への進出をしないと宣言した事から丁重に断った。


 公式には日本は清国の内陸部に一切進出していない。内陸部の日本人は全て引き上げさせた。

 その一方でベトナムルートとタイ王国ルートから、回族(イスラム教徒)を使って雲南省方面で工作を活発化させていた。

 そして『雪山獅子旗』が描かれた飛行船の空輸によって武器や工作機械を次々に運び込み、チベットの近代化を進めていた。


 チベットはヒマラヤ山脈を含んだ広大な領土を有しているが、農業には適しておらず多くの人口を抱える事はできない。

 しかし豊かな鉱山資源を有している事から、他国からの侵略を次々に受けて内部の権力争いが続いていた。

 現在の権力者はダライ・ラマ十三世だが、九世から十二世までいずれも若死であり、権力闘争の末の毒殺である可能性が高い。

 十八世紀末には清国の保護領だったが、アヘン戦争の頃から清国の影響力が落ちてきた。

 そんな状態で1854年にはネパールに敗北して、二年後にはネパールの朝貢国になっている。

 清国のチベットに対する影響力はかなり小さくなっていたが、清国は未だにチベットの宗主国と考えていた為に、チベットの扱いを

 勝手に外国と約束したり、外国勢力を排除するチベットの行為に対して清国が賠償金を支払ったりしている。

 そして1888年。シッキムの扱いを巡ってチベットはイギリスと戦争になり、敗北した。

 二年後にチベットとイギリス領の国境が定められたが、これはイギリスと宗主国だと思っている清国の間で決められた。

 さらに国境付近のヤートンにイギリスが市場を作る権利も、清国側との交渉で決められた。そこにチベットの意思は入っていない。

 このような経緯もあってチベットは清国を宗主国とは思っていなかったが、諸外国は清国がチベットの宗主国だと認識していた。

 チベットは排他的で、キリスト教の布教を認めなかった。そしてイギリスに対抗しようと画策していた。

 史実ではイギリスに対抗しようとロシアに接近を図るのだが、その前に日本が接近してきた。

 そして日本の提案をダライ・ラマ十三世は受け入れた。

 他国の人間が入り込まないような奥地に飛行船の離発着場を設けて、そこを拠点にして武器や工作機械の搬入を行っていた。

 見返りはチベットの貴重な資源だ。あまり大量には運べないので、貴重な資源を優先して積み込んでいる。

 風力発電機も多く持ち込み、チベットの電化を進めている。地理的には日本と【出雲】から行くのもあまり変わりは無い。

 その為に、二ヶ所からチベットへの往復便が出されるようになっていた。

 史実ではロシアの南下を抑える為に、後年にイギリスはチベットに侵攻したが、日本が介入した為にチベットの歴史は変わった。

 尚、最初の頃は武器や工作機械が主な輸入品だったが、ある程度は普及すると様々な消費財がチベットに運び込まれていった。

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 現在の天照基地はロタ島(マリアナ諸島)とケシム島(イラン王国)に設置する各種の設備機器の製造に大忙しだったが、

 並行して艦船の建造も行っていた。そして第一期建造計画で予定された艦船が完成した。

 戦艦『神威級』一隻と、装甲巡洋艦『風沢級』が一隻、それと潜水艦『竜宮級』三隻だった。

 『神威級』と『風沢級』はドレッドノート(史実では1906年)の建造思想を取り入れた戦艦の為、デビューするには早過ぎる。

 その存在を知られると、列強に大きな衝撃を与えるのは確実だ。

 列強には対ロシア戦争までは知られる訳にはいかず、帝国海軍の秘密部隊による訓練だけが行われる。

 口では『神威級』と『風沢級』が出来るから安心しろと言われても、軍人とは現実的なもので実物を見るまでは信用しない。

 その為に一隻ずつが訓練用として、先行して建造された。

 天照基地に人を入れたくは無い為に、天照基地に近い南大東島に港湾施設や訓練施設を建設した。

 衛星軌道上からの監視の目があるので、近くに民間船や多国籍の船舶が近づけば、南大東島に隠れるつもりだ。

 対ロシア戦争までには最低でも六隻ずつは建造する計画である。

 そして既に訓練を開始して、運用できる状態まで持ち込んだのが三隻の潜水艦『竜宮級』だった。

 潜水艦は海中に潜み、その隠匿性から攻撃側の素性が判明しないという利点がある。

 そもそもまだ潜水艦は実用化されておらず、存在を知られる危険性は極度に少ない。

 当面の目標は来年にも発生するであろうアメリカとスペインの戦争に介入、その後のアメリカとフィリピンの戦争にも介入する計画だ。

 三隻が一つの艦隊として行動し、魚雷による艦隊攻撃の訓練を行っている。(機雷散布訓練も含む)

 最初の配備先は、マリアナ諸島のロタ島だ。

 現在のロタ島は表面上はリゾート地として開発されていたが、山や海底に秘密基地が急ピッチで建設されている。

 今年中には稼動できるようにする計画だ。

 消耗品はロタ島の内部で生産が可能で、将来的には潜水艦と航空機の基地として運用する計画もある。

 ちなみに第一潜水艦隊の乗組員は、睡眠教育を受けたインディアンだ。

 入植者から迫害を受けた怨みを忘れられない彼らに、戦いの場を陣内は用意した。それは日本の利益にも繋がる。

 陣内から何時かは怨みを忘れないと自滅すると常々言われているが、まだ時間も経っておらず彼らの怨みは残ったままだ。

 成果が出れば、今度は帝国海軍所属の潜水艦部隊を日本近海とチャーン島(タイ王国)とケシム島(イラン王国)に配備する。

 海軍でも一部の人間しか知らない『神威級』と潜水艦隊は、存在を知る人達からは大きな期待を寄せられていた。

 尚、列強への嫌がらせも兼ねて『白鯨』の配備も進められていた。

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 アメリカは原因不明の伝染病の為(内心はインディアンの神の祟りを恐れた為)に、広大な内陸部を完全に封鎖した。

 しかし、最初から国民全員が納得して、諦めた訳では無かった。

 命知らずの荒くれ者が監視網を潜り抜けて内陸部に進入していったが、誰も戻っては来なかった。

 そして三隻の飛行船が封鎖地域に侵入しようとして空中で大爆発を起こしてからは、無謀な事を考える人間は皆無になった。

 ミズーリ川の上空でトーテムポールが空で浮遊しているのを、多くの人達が目撃した事も影響している。


 ハワイの女神に破壊されたデトロイトとシカゴの復旧は終わり、東テキサス油田や鉱山の開発などでアメリカは活気を取り戻していた。

 しかし、以前と比べると内に篭る傾向が見られがちになっていた。

 それはアメリカの施政者にとって、好ましいものでは無い。封鎖地域は全国土の約三分の一にもなるが、残された国土も十分に広い。

 東方ユダヤ共和国に向かうユダヤ人が増えた為に、各国からの移住のペースは落ちたが、それでも毎年多くの人達が移住してきている。

 纏まりが無い国民を一つにするには目標を与える事が効果的だ。そう、海外に国民の目を向けさせれば活気は戻ってくる。

 そして海外の利権を得れれば、アメリカはさらに発展する。施政者はそう考えて、計画を遂行していた。


「内陸部の様子は相変わらずだな。我が国もカナダも同じだ。やはり封鎖は続けないと拙いか」

「ああ。トーテムポールがミズーリ川の上空で浮遊している目撃情報の件数は横這いだ。

 あまり刺激して、インディアンの神が本当に目覚めたら目も当てられない。我々が皆殺しにされるのは間違い無いからな」

「仕方あるまい。幸いにもテキサス州の資源開発が上手く行っているからな。それで当面は国民の視線を逸らせる。

 しかし、何時までも開発ラッシュは続かない。停滞する前に、国民の目を海外に向けなくてはな」

「上海に近い船山群島の一つの使用権を獲得して、そこに要塞を建設している。

 少々狭いのが癪に障るが、中国大陸への進出拠点には十分に使える。日本の建築会社があそこまでやり手だとは思わなかったがね」

「……入札した時も日本に莫大な金を支払い、要塞建設でも大金を日本に支払うのか。何でそこまで日本に都合が良くなるんだ!?」

「地理的な問題だから仕方無いだろう。最初に頼んだ時は、東方ユダヤ共和国の施設の建設で忙しいって全て断られたんだ。

 そこを相場の倍の金を提示する事で受けさせたんだよ! それともこちらから太平洋を渡って、資材と人員を送り込めと言うのか!?

 しかも大型の建設用重機は日本が独占しているんだ! 手作業で要塞建設しようものなら何年掛かるか分からないぞ!」

「……済まん。忘れてくれ。話を戻すが、植民地として有望なのは、広大な面積と多くの人口を抱える中国だ。

 ドイツが膠州湾全域を占拠した事だし、これ以上遅れれば我々の進出する余地は無くなる。急ぐ必要があるが、焦ってはいかん。

 まずは計画通りにスペインを下し、カリブ海にあるキューバとプエルトリコと、フィリピンを手に入れる。

 フィリピンを手に入れれば中国大陸への足掛かりになる。計画の準備は問題無いだろうな?」

「スペイン相手となると艦隊戦と上陸戦がメインになる。海軍も海兵隊も準備万全だよ。後は開戦の理由をどうするかだ」

「その工作も進めている。上手い具合に『アメリカ婦人を裸にするスペイン警察』という捏造記事を書いた記者がいて、

 我が国のスペインへの感情は極度に悪化している。海軍は予め太平洋艦隊を香港に待機させるようにな」

「それは分かっている。旧式艦しかないスペイン海軍など、我が艦隊に掛かれば一蹴できる。

 しかし、その後が問題だ。フィリピンを占領するには陸軍を送り込まなくてはならない。膨大な補給物資も必要だ。

 海軍艦艇だけなら何とかなるが、陸軍の補給をするとなると厄介だ。ハワイが領土だったら中継基地として使えたが、それも無理だし、

 他に中継基地として使えるところは無い。日本にはマリアナ諸島の使用権を申し込んで断られたのだろう?」

「途中で石炭を補給する必要がある。海軍艦艇と同じように、ウェーク島とマリアナ諸島の日本の施設で補給するしかあるまい。

 食料も一部は日本に頼むつもりだ。さすがに本国から持っていくのは遠過ぎる。武器や弾薬、薬ぐらいが精一杯だ」

「……また日本に注文するのか? 他に手段は無いのか?」

「フィリピンの周囲は他国の植民地が多いが、物資の生産機能を備えているところは無い。

 食料だけなら他に頼んでも良いが、他の消耗品は距離的に近い日本に頼まざるを得ない。

 特に感染症を予防するペニシリンは絶対に必要だが、まだ国産化に成功していない。供給できるのは日本だけだ。

 他にも日本から輸入しなくてはならない必需品は多いんだ。何ならお前が手配するか?」

「い、いや。それで良い。カリブ海方面の補給は近いから問題無いだろうしな。

 スペイン軍が一万人以上駐留しているが、現地の革命勢力を騙して協力させれば、スペイン軍も簡単に撃破できるだろう」

「そしてスペイン軍を撃破した後は、疲弊した革命勢力を我々が殲滅すればフィリピンは手に入る。

 多少、阿漕な気もするが、我がアメリカ合衆国に抗議してくる国など無いだろう。問題は無いさ」

「しかし気になる事もある。昨年にホセ・リサールという拘束していた革命家に、スペイン軍は逃げられてしまった。

 もし、そいつが生きているとなると、少し厄介だ。語学の天才だと言うし、何処から革命勢力に支援が来るかも知れん」

「ふん。どうせ足掻いたところで我がアメリカ陸軍の手に掛かれば一撃で殲滅してやる。

 インディアンを殺せなくなって、むずむずしている輩が多いんだ。たっぷりとストレス発散させて貰う」


 史実では、フィリピンを制圧するべく送られたアメリカ陸軍の将軍の半分以上は、インディアンの虐殺に関与していた。

 そしてフィリピンの反乱を抑えようと、アメリカ陸軍は60万人ものフィリピン人を虐殺した。

 今回の場合、どのような結果になるのか、未だ誰も分からない。

 部数を伸ばしたい為にイエロージャーナリズムに染まった新聞社は、キューバでのスペインの残虐行為を誇張して報道している。

 アメリカ政府が介入するまでも無く、新聞社が自らの利益の為に記事を捏造していた。

 インディアンの虐殺を殆ど報道しなかった新聞社は、大衆受けするとしてスペインを標的にして報道を繰り返していた。

 スペインとの戦争は国内の景気を刺激してアメリカを発展させるだろうと、選挙で選ばれた上院議員が明言した程だ。

 つまり、政府もそうだが多くの新聞社もスペインとの戦争を望んでいた。これが自由と民主主義を標榜するアメリカの実情だった。

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 史実で言われるフィリピン革命は、1896年の8月から始まっている。

 史実では、ホセ・リサールの逮捕で改革運動に見切りをつけたエミリオ・アギナルドが、

 今年の十一月にビアクナバト共和国を樹立するなど革命運動は激化していった。

 しかしシーボルト商会によって救出されたホセ・リサールにより、革命運動は史実より抑えられた。

 史実の事を教えた訳では無く、オランダ本国から大量の武器と弾薬、それに食料を供与するから自制しろと交渉した結果だ。

 フィリピン側としては、スペインから独立してもオランダの植民地になったのでは意味が無い。

 最初は断ろうとしたホセ・リサールを、オランダ政府の意向では無く、シーボルト商会の考えだと説得した。

 独立した時には、シーボルト商会に優先権を与えるという条件だ。それにホセ・リサールは乗った。

 シーボルト商会は日本の名前を出す訳にはいかず、あくまで民間企業の利益追求の為であるとフィリピン側に納得させた。

 本当の目的はスペイン軍と戦うのでは無く、その後に来るアメリカ軍に抵抗して貰う事だ。

 フィリピンの革命勢力を見殺しにはしない。十分な武器と弾薬を与えて、アメリカから独立して貰う事を考えている。

 ただ、その時は史実のベトナム戦争の再現として、アメリカ軍に甚大な被害を与えて貰いたいと考えている。

 みすみす60万人ものフィリピン人を死なせるつもりは無いが、それでも甚大な被害がフィリピン人にも出るだろう。

 だが、自ら血を流す事なく手に入った独立では、民族のプライドに傷がつく場合もある。

 価値あるもの(独立)を得るには代価が必要だ。独立の為の尊い犠牲と割り切っていた。

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 オスマン帝国やエチオピア帝国の工業化を見たイラン王国は、ケシム島とラーラク島を【出雲】に割譲して、国内の工業化を

 進める決定を下した。普通、戦争に負けない限りは自国の領土を他国に譲る事などありえない。

 しかしオスマン帝国やタイ王国は一部の領土を日本に譲り(販売し)、そこを拠点にして自国の工業化を進めていた事は知られていた。

 この当時のイラン王国は南はイギリスから、北はロシアからの圧迫を受けていた。

 国内の工業化を進めようにも資金は無く、国内の権益をイギリスに売り払うなど、かなり貧窮していた。

 それが一部の領土を譲る事で、国内の工業化が出来るのであればという考えからの決定だ。

 その決定を発表した時、意外とイラン国民は冷静だった。本土では無く、人口も少ない島だったのが大きな要因かも知れない。

 この時期、【出雲】の消費財はイラン王国にも出回っており、知名度が高かった事も影響してだろう。

 同じイスラム教徒であるオスマン帝国やエチオピア帝国との協調関係を築いている事から、他の侵略者とは違うと考えられていた。


 イラン王国の近代化を進める手順は、オスマン帝国やエチオピア帝国と同じだ。

 発電機を大量に導入して電化を進め、工作機械を多数導入して基礎工業力を強化する。必要な人材育成の研修は【出雲】で行う。

 【出雲】から数十名の技術者を派遣して、現地の人達への教育を並行して行う。同時に農地開拓を進めて、食料生産量を上げる。

 一度に多くの国を相手には出来ない手法だが、今のところはオスマン帝国とエチオピア帝国では成功を収めている。

 今のイランを支配しているのはガージャール朝であり、内憂外患に悩まされて二十世紀の初頭には革命が起きて倒れてしまう。

 その為に日本の基本方針はガージャール朝に入れ込む事は避けて、民間協力に留めるというものだ。

 イラン国民の好意を得られれば、後々がやり易くなる。そんな考えから、支援のレベルが決定された。

 発電機やその他の色々な設備を輸入する代わりに、イランからは地下資源が【出雲】に輸出されていった。

 イランで石油が発見されるのは史実の1901年の事であり、その前にイランとのパイプを深める事は日本の利益にも繋がる。

 未来を知っているから可能な、先行投資と言えるだろう。


 そして【出雲】はケシム島とラーラク島を急いで開発する事になった。

 まず今まで住んでいた人達に補償金を支払って、立ち退いて貰った。そして一気に開発する計画を立案した。

 ラーラク島には堅固な要塞を建設して、狭いホルムズ海峡全域を射程に収める巨大な要塞砲を複数設置する。

 まだレーダー施設は建設はできないので、高い監視塔も建設する。

 ケシム島は艦隊の駐留地、及び国内のBクラスに相当する工場群(発電所、製鉄所、重化学コンビナート群)を建設する。

 将来的には航空基地を建設する計画も立案され、その場所も決定している。

 ペルシャ湾を【出雲】の内海として、航行の安全を確保する意味も大きい。

 未だ中東で石油は発見されておらず、諸外国の注目度は低いが、数十年先にはかなり重要な拠点となる。

 工場を持つ事からイラン王国の工業化の支援にも役立つし、重要な交易先として末永く付き合うつもりだった。

 そして【出雲】から大量の建設資材と大型重機が運び込まれて、建設が始まっていた。

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 現在、日本の手は東南アジアや中東、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアと世界各地に広がっていた。

 表面部分だけの付き合いもあれば、友好関係を結んで交友を深めているところもある。

 そして世界各国に、日本総合工業の国土管理事業部の職員が頻繁に出張していた。

 国土管理事業部は日本の国土の自然保護や文化財保護を行う部署だが、同時に貴重な動植物のサンプルの保存の職務も担っていた。

 今は十九世紀の末であり、これから絶滅する動植物も多い。

 それが分かっているからこそ、今のうちにと世界各地の貴重な絶滅種の保護や、サンプルの入手を積極的に行っていた。

 多岐に渡る遺伝子情報の入手という意味もある。

 動植物の保護など考える暇があったら、自分達がまず生き延びる事を考えるという風潮が流行っている。

 まあ、そうしなければ生きていけないのは事実だ。だからこそ、誰も見向きもしない事を実践する事に意味が出てくる。

 鯨の保護をこの時代から訴えたりする事で、日本が環境保護に積極的だと認知される意味も大きい。

 今の時代には理解できない考えだろうが、主張した記録が残れば後々の布石にもなる。


 台湾や海南島を得た事によって、中国の沿岸漁業は壊滅した。(渤海や黄海では続いている)

 言い換えると、東シナ海や南シナ海の漁業は日本によって管理され、漁業資源の乱獲の危険は無くなった。

 広大な海洋領土を得た日本は、海底資源や漁業資源も視野にいれた長期戦略を進めていた。

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 日本が巫女の神託を本格的に導入していると判断した欧米の各国政府は、国内の占い師や秘密結社に接触を開始している。

 しかし胡散臭い人間ばかりで、今のところ成果を出せた国は無かった。

 だが、日本にだけ予言システムを使わせる訳にはいかないと、各国が諦める事も無かった。

 そんな各国に秘かに接触してくる組織があった。ローマ教皇庁だった。

 本拠地をハワイの女神に強襲されて、何も反撃が出来なかった。

 他の神を認めないのは狭量だと貶められ、多数の聖職者による児童への性的虐待が判明したので、ローマ教皇庁の威信は失墜していた。

 生活の一部と化している神への信仰は失われなかったが、それでも寄付金が激減してローマ教皇庁の財政を直撃していた。

 そのローマ教皇庁にとって、信者が多い欧米の各国がオカルトめいたものを探しているのは、渡りに船というものだった。

 そしてノストラダムスの予言や、神に纏わる奇跡を積極的にアピールし始めた。

 各国にしても民間の占い師や秘密結社で成果が出せないのであれば、内心で疑心を持ちながらも資金をローマ教皇庁に投入し始めた。

 キリスト教はその長い歴史の為に、聖骸布、聖槍(ロンギヌスの槍)、聖杯などの様々な聖遺物がある。

 科学を用いた検証でも、解明できない謎を持つものが多い。

 今まではそんなものに頼らなくても寄付金が集まり、教皇庁の上層部は贅沢な暮らしが出来た。

 しかし、権威が失墜した今では生活が徐々に苦しくなってきている。

 その為に聖遺物の有効活用や、神のお告げを活用しようと、ローマ教皇庁の模索が始まっていた。

 本当に善良な信者を巻き込んで、それは大きな影響を与える事になっていった。

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(あとがき)

 第三章の世界変動編(1897-1901)は、基本的に日本は戦争を行いませんが、各地で戦争が発生します。

 識別上、『神威級』と『竜宮級』の名前を出しましたが、詳細スペックは記載しません。(作者の勉強不足もあり、ボロが出ますので)

 『神威級』は後の分類では小型戦艦に入り、この上に二つの戦艦の艦種がある形になります。

 対艦ミサイルを装備した『神威級』なら……という事で簡単には廃艦せずに改修して、かなり長く使うつもりです。(貧乏性の為)

 『竜宮級』は誘導魚雷と誘導機雷(通常の機雷と誤認させる為のもの)がメイン武装になります。

 潜水艦がまだ実用化されていませんので、大部分が通常の機雷と誤認させる誘導機雷の使用がメインです。当分は派手な動きはありません。

 『白鯨』の活躍は、もうちょっと先の話です。まあ、嫌味を込めた小細工になります。

(2013. 6.16 初版)
(2014. 3. 9 改訂一版)





 管理人の感想
投稿、ありがとうございます。
中国と朝鮮は平常運転のようですね。まぁ彼らはそうそう簡単に変われないでしょうし。
アメリカはフィリピンを狙い、ロシアは南の不凍港確保に余念がない……次の戦乱は間近といったとことでしょうか。
しかし主人公がその気になったら、どんなピンチでも大した苦も無く切り抜けてくれそうと思うと……緊張感はないですね(苦笑)。
まぁこの世界最高の手品師である陣内さんの手品と、それに翻弄されるその他の人々を楽しむのがベストでしょうか。