季節は春。ハワイ王国のクーデターは未然に防がれ、ハワイの欧米の勢力は一掃された。天照機関の極秘作戦は成功した。

 陣内は勝浦工場に戻り、飛行船の追加建造と【出雲】の開発、それに協力会社との調整を進めながら、沙織と爛れた生活を送っていた。

 (楓との関係も続いているが、まだ沙織には知られていない。その関係を知るのは一部の人間だけだ)

 由維と美香の部屋はそのままだが、日総新聞に勤務し始めたので近くにアパートを借りて住み、週末だけ帰ってくるようになっていた。

 まだまだ忙しい日々が続いている陣内だが、沙織によって心の平安を得られたとみえて仕事に張り切っていた。


 そんな陣内だったが、国内は元より海外の状況も定期的に確認していた。

 地球の衛星軌道上には既に多数の監視衛星が配置されている。それらからの情報で、リアルタイムで各国の情報を把握していた。

 その監視衛星が欧州各国から多数の艦船が出航し、合流してから南米大陸のホーン岬を目掛けて航海しているのが確認された。

 欧州からその航路を取るなら、目的地はハワイ王国だと推測された。

 ローマ教皇庁が列強各国に、ハワイ王国への討伐軍の出撃を呼びかけた事は知っていた。

 その艦隊が出撃したと分かると、陣内は緊急の天照機関の会合を行いたいと要請していた。

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 欧州からハワイ王国の討伐艦隊が出撃した為、緊急の天照機関の会議が行われた。


「イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、オランダ、イタリア、スペイン、ポルトガルなど欧州の海軍国が艦隊を出してきたか」

「全力出撃では無い。総数で八十隻だ。一ヶ国辺りの出撃数は多くは無いし、出している艦艇も二線級だ。

 国内の動揺を抑えるのと、ローマ教皇庁への義理を果たすと言ったところか」

「だが、あの女神の破壊を見て、あの程度の艦隊で対抗できると思っているのか? 一蹴されるだけだぞ」

「アメリカの被災地の写真は出回っているが、実際に現地を見た訳では無いからな。何処かで信じたくないという気持ちがあるのだろう。

 自分達の信じる神が貶められたのだ。その気持ちは少しは理解できる」

「一神教の悲しいところだな。我々多神教のように他の神々を認める気持ちがあれば良いのだが。

 まあ、それが出来ないから神の許しを得たという免罪符で、アジアやアフリカの植民地支配を進めていられたのだろうな」

「今回はキリスト教に他者を認める気持ちを、強引にでも覚えて貰うつもりです。彼らへの強烈な教訓と一緒にね。

 高い勉強代になるでしょうが、後々の事も考えると彼らの意識を変えて貰わないと、こちらが困ります。

 末端や中堅は善良な人が多いですが、指導者となると違ってくる。

 その指導者だけ標的に出来れば良いのですが、物理的に無理ですからね。あの艦隊の将兵には、尊い犠牲になって貰います」

「彼らにしてみれば高い勉強代だろうが、それを知らぬまま死ぬ将兵が哀れだな。

 アメリカは艦隊を出さないのだろう。教訓を得た人間と、得ぬ人間の違いか」


 当然の事だが、天照機関はハワイ王国に出現した女神とその眷属『バハムート』の裏の事情を知っている。

 そして内心では、その破壊力に恐怖していた。何人かは世界征服を心の中で考えたが、実際の日本には力が無い。

 それに世界を滅ぼしても意味は無い。価値観を共有できるところと、共存共栄するのが最終的な目的だ。

 ハワイ王国を討伐する為に出撃した艦隊の運命は既に決まっていた。彼らは高い勉強代となって、海の藻屑になる運命にある。

 そして会議の出席者の興味は、現在のハワイ王国に向けられた。


「ハワイ王国から正式な申し込みがあった。ハワイ王国は欧米全てと国交断絶し、我が国だけと交易をする事になった。

 太平洋を横断する船舶の中継基地を独占的に使用できる訳だ。責任は重大だが、開発計画はどうなっている?」

「ハワイ王国へは日本総合工業は殆ど関わりません。協力会社が発電所や軽工業の工場の建設は行いますが、基本は農業と観光です。

 もっとも欧米からは観光客は絶対に来ないでしょうし、アジアから行けるようになるには十年以上は掛かるでしょう。

 農業用車両を含めた大々的な支援は財閥系企業から行います。ハワイ王国の海軍については、海軍に協力を御願いします」

「海軍だって、そんなに余裕がある訳では無いぞ。まあ、協力はさせて貰うがな」

「【出雲】の開発が軌道に乗って来ましたので、採掘用ロボットと建設用ロボットは天照基地に引き上げて、建設を進めます。

 二年以内には造船所が完成しますから、そうなれば帝国海軍とハワイ王国海軍の艦艇は天照基地より供給できます」

「分かった。価格についても協力を御願いする。以前のような激安価格だったら良いのだが」

「……努力します。ですが、あまり過大な期待はしないで下さい」

「ハワイ王国を我が国が支援する事になったが、来年の準備を疎かにされては困るぞ。あちらがメインだからな」

「安心して下さい。協力会社の生産する軍用トラックの生産と、勝浦工場の自走砲の生産は順調です。飛行船もです。

 今は其々の新兵器の訓練に務めて下さい」

「分かっている。それにしても飛行船の遊覧飛行は大した人気じゃないか。国内遊覧もそうだが、【出雲】便もある。

 道中のヒマラヤ山脈の景色は絶景で、予約が満杯と聞いているぞ」

「飛行船が安全な事を周知させる為に始めた遊覧飛行ですが、予想以上の人気に驚いていますよ。

 欧米の人間も団体で乗り込んできました。今頃は必死になって飛行船の開発に頑張っているでしょう。

 ですが所詮は飛行船。いくら数を揃えても脅威には為りません。ご安心下さい」


 日本の国内は住宅や道路、鉄道などの建設ラッシュに沸いていた。それが景気を上向かせている。

 色々な特殊車両やバイク、自家用車の普及も進み出した。それに伴い輸送効率も上がり、物流量が激増している。

 国内は要所の抑えどころを間違わなければ、順調に発展するだろうというところにまで来ていた。

 鉄や船の需要が急増して、勝浦工場では第二期の増設工事に取り掛かった。【出雲】の各施設の建設も順調に進んでいる。

 最近は海外工作に重点を置いている天照機関だった。

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 イギリス帝国の政府関係者は苦悩していた。

 ハワイの女神はアメリカに多大な物理的被害を与えたが、その発言内容はキリスト教世界に大きな精神的被害を与えていた。

 まあ、自らの信じる神を貶められては、確かに動揺するだろう。

 その対応の為に、ハワイ王国に討伐軍を出すべきだというローマ教皇庁の要請に各国が乗ってしまった。

 国内の動揺を抑える意味もあるのだろう。それは各国毎の事情だ。

 イギリスはプロテスタントの多い国柄で、カトリック総本山のローマ教皇庁との関係は良くは無い。

 だが、信じる神を否定されたのは同じだとして、結局はイギリスも討伐の艦隊を出撃させてしまった。


 さらにイギリスを悩ませている事があった。それはオーストラリアで未だに続いている襲撃事件だ。

 被害は既に現地の入植者の生活に支障が出始めるレベルになっているが、未だに犯人の特定は出来てはいない。

 それがまったく関係無いはずのハワイの土着の女神の言葉が、オーストラリアの現状を指し示しているとして大問題になっていた。

 即ち、オーストラリアで多発している犯人不明の襲撃事件は、現地の神が目覚めつつある兆候だという意見が大勢を占めた。

 イギリスから遥か離れた大陸だが、その大きさや資源は大いなる富になる。

 現地の先住民族を人間扱いせずに虐待して土地を奪ってきたが、その現地の神が目覚めればアメリカのように報復されるかも知れない。

 そう考えた一部の人達はオーストラリアから逃げ出して、ニュージーランドに移住を始めていた。

 このままでは、オーストラリアの維持が出来なくなる。

 しかし、もしハワイ王国の女神に討伐軍が勝利できれば、オーストラリアの件も何とかなるかも知れない。

 そう考えたイギリス帝国の政府関係者は、ハワイ王国の討伐軍に艦隊を出す事に同意してしまった。

 アメリカの被害状況は写真で知ってはいるが、それでも他人事だと思っている。

 そして自国だけで無く、他の国が出兵するから同調しただけだ。そして艦隊を出したイギリスは、後悔する事になる。

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 【出雲】の開発は日本総合工業を主軸にして行うが、財閥系を含む他の企業も進出する計画だった。

 だが、ハワイ王国が欧米と国交断絶して、日本とだけ交易する事を決めた事は日本の経済界に大きな反響を呼んでいた。

 【出雲】には資源があるが、かなり遠い。それに資源は長期間に渡って秘匿するので、短期で見ると利益は少ない。

 ハワイ王国も遠いが、まだ【出雲】よりは近い。そして気候は遥かに良くて、太平洋を横断する交易に大きなメリットになる。

 そういった理由から、財閥系の企業は【出雲】への進出を中断して、ハワイへの進出に切り替えていた。

 【出雲】は日本総合工業の開発が進んでから、再進出すれば良いと考えた節もあった。

 そんな状況の変化を受けて、財閥当主は密談を行っていた。


「史実ではハワイ王国は滅亡してアメリカに併合されたが、まさか女神が出てくるとは思わなかったぞ。

 これは陣内が介入したと考えるべきだろう」

「我々は百年程度先までの史実の事は教えて貰ったが、それには今回の女神が行った事が出来る技術は無かった。

 これはどういう事だ? 陣内はどこまで隠しているんだ?」

「それを我々に教える事は無いだろう。今回のアメリカに鉄槌を下した力があれば、世界征服も可能だ。

 だが、それをしないと言う事は何か意味があるはずだ。つまり支配より共栄を選んだという事だろう」

「あの横柄な奴らと共存共栄か。本当に実現できると思っているのか!? 絶対に甘い! 力があるなら奴らを服従させるべきだ!」

「陣内なら可能だろうが、我々では無理だ。まあ、時期を見たのかも知れない。

 それより神が出現した割には国内は平穏だな。キリスト教徒は大騒ぎだぞ」

「我が国は多神教だからな。他国の神がいても不思議じゃ無いさ。

 もっともハワイの神の存在を知った事で少々の混乱があったが、皇室の巫女が騒ぐ必要は無いとラジオで伝えたから騒ぎは収まった。

 地震を予知した実績は強烈だ。お蔭で神頼みする人間が多少は増えたがな」

「列強の植民地にも噂が広まりつつある。酷いところは生贄を神に捧げて、侵略者を追い出してくれと祈願したところもあるらしい。

 まったく天照機関はこの世に神秘主義を広めるつもりなのか? 時代と逆行しているぞ」


 ハワイに女神が出現したいう情報は、日本でも大々的に報道された。

 まだ迷信が残っている時代だが、誰もが心の中では本当は神などいないと考えていた。

 それが覆された。それは大きな衝撃だった。

 それでも日本には皇室の巫女が地震を予知した実績が広まった為、国内の動揺は最小限に抑えられていた。

 問題は列強の植民地になっているところだ。情報は出来る限り伏せられていたが、それでも拡散を防ぐ事は出来なかった。

 あっという間に広まり、苦しい生活に耐えかねた人々が古来の神の復活を祈る有様が各地で見られた。

 それを見た支配者(列強)は、さらに弾圧を行うと言った悪循環が世界各地で発生していた。


「それにしてもハワイ王国に日本の資本が大々的に入るか。あそこを抑えればアメリカや南米との交易が楽になる。

 日本総合工業が進出しない事が決定されたから、我々が進出する良い機会だ」

「政府からは現地の搾取は厳禁と予め通達はあったが、普通の商売をするだけでも利益は見込める。

 列強のように何もしないで利益を受けるような阿漕な真似はしないさ」

「列強の外交は、何もしないで口先だけで利益を得ようとするのが普通だからな。我々の常識とは違う。

 神の許しを得れば、何をやっても良いと考えるのだろう。真似をしたいが、我々では実力的に無理だし、良心が咎めるからな」

「そこら辺は日総新聞が報道しているから、国民も知っているさ。羨ましいと思う反面で、我々には馴染めん常識だ。

 それより問題は【出雲】だ。利益が出始めるのが先になるからと言って、ハワイ王国の開発に専念するとは虫が良過ぎないか?」

「我らは商人だ。陣内に【出雲】の開発に協力するとは言ったが、期限の約束はしていない。

 あそこで利益が出るのは最低でも十年は掛かるから、ハワイ王国の開発を先に進める方が利益になる。

 【出雲】の開発は、ハワイ王国で利益が出始めてからでも遅くは無いはずだ」

「我々の力を陣内も無視できまい。ハワイ王国に資源は無いが、貿易の中継地点や観光で大きな稼ぎとなる。

 日本の国策としてハワイ王国の開発に協力するのだから、我らが批判される道理は無い」


 日本の財閥当主は【出雲】の価値を見誤った訳では無い。

 油田の存在は長期に渡って秘匿すると連絡された事もあって、投資の回収はかなり先になると見込まれていた。

 それでも現地の開発を進めて、周囲の国との友好関係を築かなくてはならない。

 そんな大きな制約は、財閥の当主は重荷に感じた。その為に、手っ取り早いハワイ王国の開発を優先する事を決定していた。

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 ハワイ王国に女神が降臨してから数ヶ月が経過していた。

 欧米の帰化人や中国人の姿は消え、残ったのは古来から住んでいた人達と日本人だけだった。

 (中国人労働者は欧米の帰化人と一緒に退去していた)

 全土の七割を欧米の帰化人に買い占められていたが、一度はハワイ王室が全てを接収して、希望者に分け与えた。

 その大部分は農地だったが、農地に不適合と判断された土地や首都に近い工業団地に指定された土地は日本人に払い下げられた。

 それらの土地に、発電所や軽工業の工場を建設する計画だ。

 そして観光名所としても開発する計画もある。欧米の人達は女神を恐れて近寄らないだろうが、他のアジアの人達は違う。

 道端に痰を吐いたり、ゴミを捨てたり等のマナー違反をしなければ、アジアの人達を歓迎するつもりだ。


 ちなみに今までのハワイは輸出用のサトウキビの栽培が盛んだった。

 だが、主要な輸出先のアメリカの法律が変わった事で大打撃を受けた。日本にも砂糖の需要はあるが、アメリカには到底及ばない。

 そこで進められたのがオーストラリア原産のマカダミアナッツだ。これからの主な輸出の目玉になる。

 ハワイで消費される食料の他に、こういった輸出用の作物の栽培が開始されようとしていた。

 そしてハワイから輸出される商品は、全て日本企業が取り扱う事になっていた。

 さらに太平洋を横断する交易船(日本籍)の中継基地として、ハワイ王国の開発が進められていった。

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 ベトナムの沿岸部のハイフォンに、昨年から淡月光の工場の建設が進められていた。

 既に外回りの工事は終わり、今は内装や各種の設備の設置を進めている。

 その責任者は寺島浩介と妻の美雪。その二人は工場の一画に建設された住居で話をしていた。


「しかしベトナムは暑いな。これじゃ身体の調子が狂っちゃうぞ。家に帰れば空調があるから良いけど、工場の事務所にも設置したいな」

「ここは日本より赤道に近いから暑くて当然よ。

 現地の人は慣れているけど、あたし達みたいな来訪者にとっては生活し難いところよね。まあ、慣れるしか無いわよ」

「あんまし俺達が現地の人と違った生活をしていると、搾取していると思われかねんからな。まあ事務所は扇風機で我慢するか」

「工場にも扇風機は入れるのよね?」

「当然だが? 何か拙いのか?」

「いえ。それくらいは当然でしょうね。やっぱり現地の人達の福利厚生を考えないと、中々人が集まらないのよ。

 かなり設備を充実したと宣伝したら、結構集まりだしたわ。従業員には商品の割引サービスがあるっていうのが効いたかしら」

「最初は数百人規模から始めるけど、最終的には数千人まで増やす計画だ。まあ、淡月光の商品以外の生産も計画している。

 遠くて通えない娘の為に従業員の住居や慰安施設の建設も終わった。日本からは貴重な女医も呼んだ。

 これで作業員の募集が少なかったら、泣くしかなかったところだよ」

「もう、大の大人が何を泣き言を言ってるのよ!

 淡月光の名前が知られてなかったから、ハノイにショールームを設置して大きい看板を置いたのが効いたわね。

 既にリーダー格の女の子二十人の教育は進んでいて、他の一般の従業員もぼちぼち集まりだしているわ」

「へえ。順調で良いな。ところで可愛い女の子はいたか?」

「ええ。かなり……あなた! まさか現地の女の子に手を出そうって気じゃ無いでしょうね! あたしに不満があるの!?」

「い、いや、違うよ。単なる興味本位の質問だよ。お前に不満なんてあるわけ無いじゃないか!」

「……信じてあげるわ。アオザイをあたしに着るように頼んだのは誰? 二度とそんな事を言ったら、もう着てあげないから!」


 ……夫婦の趣味に口を出すのは野暮というものだ。本人同士が納得すれば、第三者が文句を言う筋合いでは無い。

 ちなみに美雪はチャイナスーツは既に持っており、タイの民族衣装も取り寄せていた。

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 ペンシルべニア油田は、女神の天罰を受けて大火災が発生した。約一週間程度で鎮火したが、地下の原油や天然ガスの大半は失われた。

 その為に油田は、採掘の価値は無しと判断されて破棄された。

 代わりに巨大油田である東テキサス油田の開発に加速度がつき、活況を呈していた。古い油田の破棄は致命傷にはならなかった。


 デトロイトとシカゴの瓦礫の撤去はまだ数割程度しか進んでいなかった。だが、撤去が終われば再建に移れる。

 莫大な費用と時間が掛かるだろうが、市民の被害が少なかった事から再建は比較的スムーズに進むと考えられていた。


 問題は市民の意識だ。異なる考え方を認めないのは狭量だと、自ら信じる神を批判された事で多くの市民が動揺していた。

 さらにインディアンの問題があった。

 もしインディアンの神が本当に目覚めたら、天罰が下って合衆国が全滅する可能性さえ真顔で議論されていた。

 政府当局は原因不明の伝染病で封鎖している内陸部を立ち入り厳禁地域として、閉鎖をより強化した。

 それ以外の地域に住んでいるインディアンへの迫害も少なくなった。そしてハワイの女神以降の災害は、今のところは無い。

 これなら何とかなるのでは無いかと、各市民は希望を感じられるようになっていた。

 そんな状況で、欧州各国からハワイ王国の討伐艦隊が出撃したとの情報が、アメリカ国内を駆け巡った。


 西海岸の船乗りの一部は女神の降臨を信じずにハワイ王国に向かったが、帰ってくる事は無かった。

 政府当局からは正式に、ハワイ王国への接近禁止が通達されている。

 ハワイの女神の脅威を肌身で感じた彼らは、八十隻という大艦隊であっても女神に対抗できるとは思えなかった。

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 【出雲】には今でも膨大な量の建設資材と諸々の物資が運び込まれ、開発が進められていた。

 ファイラカ島の港湾施設は稼動を開始し、諸外国からの物資の一時保管場所として機能していた。

 軍港として機能するにはまだ数年は掛かるだろう。沿岸部の開発が一段落した時点で、軍港施設の建設に入る計画だ。

 内陸部の工場地域の建設も進んでいる。一部の軽工業の工場は操業を開始し、【出雲】やバスラ方面に商品を供給し始めた。

 重化学コンビナート群は来年には稼動を開始する予定だ。その作業者用の住宅の建設も急ピッチで進められていた。


 この地に定住するには色々と問題がある。飲み水と食料だ。どちらも多くの人口を賄える量を確保できる自然環境では無い。

 そこで対策として行われたのが、海水の淡水化プラントだ。

 飲料水としては逆浸透式を使用し、工業用水や農作物、砂漠の緑化には蒸留式を使用している。

 既に淡水化プラントの増設工事に取り掛かっており、これが完成すれば約百万人の飲料水が確保できる。

 食料もただ荒地に種を撒くだけでは育たない。そこで昨年の実績から屋内式の農場が拡張された。

 昨年の約十倍の規模だ。屋内用の農場の建設には費用が掛かるが、蒸発した水を回収して再利用できるのでこの地に適している。

 砂漠の緑化はあまり進んでいない。理化学研究所で日々研究がされているが、昨年使用した品種は約八割が枯れてしまった。

 蒸留式の淡水化プラントで作られた水をスプリンクラー式で放水しているが、成功したのは極一部だ。

 この為、理化学研究所ではさらに乾燥に強い耐性を持つ品種の開発が進められていた。

 今のところは【出雲】の開発は順調と言って良いだろう。責任者の山下と田中は照りつける太陽の下で雑談をしていた。


「今年の種まきは終わったが、秋の収穫が成功すれば、一気に移住者を十万人まで増やせる。

 そして順次、農場を拡張していけば良い。今のうちから募集を掛けておくべきかな?」

「もうちょっと待つべきだろう。ハワイ王国への移住者の募集もあるし、南米にも移住の募集はある。

 かなり日本と気候が違う【出雲】に来ようって人間が、どれくらい居るかな?」

「轟天号の遊覧飛行で日本から【出雲】に来る人は激増している。募集を掛ければ集まると思うが?」

「途中のヒマラヤ山脈の絶景が日総新聞に掲載されたからだろう。それに此処は日本だから出国手続きや入国手続きは不要だ。

 そんな手軽さがあって遊覧飛行をした人達が多いだけさ。簡単に異国情緒が味わえるからな」

「クエート市なら態々入出国手続きは不要だからな。それにしてもクエート市は日本からの観光客で賑わっている。

 最近は無料の飲料水の要求量も増えて、少し困っているんだが」

「まだ人工真珠の生産は始まったばかりだが、数年後には軌道に乗る。そうしたら今のクエートは大打撃を受ける。

 今のうちに、日本からの観光客目当ての街にしていた方が良い。地元住民の恨みを買うのは得策じゃ無いからな」

「先を見通した先行投資というやつか。軽工業の工場で生産された商品がクエート市やバスラ方面にも出荷され始めた事から、

 クエート市の市民で此処で働きたいと言う人間も増えてきた。そろそろ受入を行うか?」

「そうだな。クエート市をこちらの経済圏に取り込み、併合できれば平穏なまま領土が拡張できる。

 そうしたらバスラ方面への進出も夢じゃ無い。もっとも礼拝所やらのイスラム教の施設を充実させる必要はあるだろう」

「周囲は殆どイスラム教だし、争う訳にもいかないしな。まあ、日本は元々多神教だし、他の宗教に比較的寛容だ。

 共存は十分に出来るだろう。イスラム教は一神教だが、比較的他者には寛容だ。多分、上手くいくさ」

「衣食足りて礼節を知るのは、万国共通の認識だ。あんまり経済格差があると、イスラム教でも過激になるさ。

 その辺はこちらから上手く支援して、彼らの生活レベルを上げれば良い。匙加減が重要だ」

「アラブ商人は強かだからな。中国人と良い勝負だ」

「この辺は情報過疎地域だからハワイに女神が出現した事は伝わっていないが、知った時のイスラムの人達はどんな反応を示すかな?」

「あれには俺も驚いたからな。でもアラーの思し召しと言って、素直に認めてくれるんじゃ無いのか」

「他者の意見も尊重する事が、信頼し合える前提だからな。そう願いたいよ」


 【出雲】の開発は着々と進んでいた。そしてやっと周辺地域に、現地生産商品の出荷が出来るところまで来ていた。

 クエート市は日本から【出雲】に観光にやってくる人達の巡回ルートに指定されていた。

 この事でクエート市も徐々に景気が上向いて、飲料水の一部を無償で供与するなどして友好関係を築き上げつつあった。

 こうして周辺国との友好関係を築きつつ、人口を増やす事が【出雲】の発展の鍵だった。

 ちなみに【出雲】の国境線は西と南方面は秘かに、だが着実に拡大されていた。そして周囲の国家は気がつく事は無かった。

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 かつて教皇は自らの領地(教皇領)を持ち、通常の国家と同じような行政権を持っていたが、最近のイタリア統一運動の中で失った。

 とは言え、ローマ教皇庁が全世界のカトリック教徒の総本山である事は間違い無い。

 だから其々の思惑が各国にあったとは言え、自分達が信じる神を貶めたハワイ王国を討伐すべきというローマ教皇庁の要請を承諾した。

 指揮系統を統一する事無く、ただハワイ王国を討伐する為に各国から集められた艦隊八十隻は、中世の十字軍の再来と呼べるだろう。

 各国毎に其々の思惑があって、危険な先陣は他国に任せて、危なくなれば被害が出る前に逃げ出すつもりの司令官も多かった。

 各艦隊の司令官等の上層部は、アメリカがハワイの女神の天罰で多大な被害を受けた事は知っている。

 だが信じられないという思いと、これだけの艦隊を揃えたならあるいはという甘い幻想を抱いていた。

 やはり実際に経験しないと、人間とは脅威を実感できない存在なのかも知れない。


 この当時の艦船の燃料は石炭であり、航続距離は短い。

 欧州を出発した混成艦隊は燃料の補給をしながら、南米大陸の最南端のホーン岬を目指していた。

 パナマ運河が開通していれば、そちらを使用しただろうが、史実で1914年に開通するもので、現在はその形も無い。

 その為に、ハワイに向かうのに南米大陸の最南端を経由して向かっていた。

 既に南半球に入り、かなり時化ている海域を八十隻もの艦隊は距離を取りながら航行していた。


「まだ目的地のハワイまでは遠いな。まったく何で俺達がこんなところまで来なくちゃ為らないんだ!?」

「ハワイに土着の神が出現してアメリカに天罰を食らわして、俺達の神を侮辱したんだって言ってたな。

 まったく神様なんて居る訳が無いだろうに、何をトチ狂ってこんなとこまで来なくちゃならないんだ!?

 幻覚でも見たんじゃ無いのか? こんな事を命令するなんて、上は何を考えているだか!?」

「何でもイタリア艦隊には、ローマ教皇庁のお偉いさんまで乗り込んでいるらしいぜ。

 イタリア統一運動で領地を失って発言力が低下したから、この機会に勢力を拡大しようって言うんだろう。まったく生臭坊主だな」

「中堅や下っ端は敬虔なクリスチャンなのに、上になると誰もが俗物になるんだ。

 やっぱり上になると美味しい思いが出来るんだろうな」

「おいおい、いくら夜だからと言っても言い過ぎは拙いぞ。誰かに聞かれて密告されると煩いからな」

「分かってるって。……あれ? 何か飛んでるぞ? いったい何だ!?」

「何処だよ? それに飛んでるって鳥しかいないだろう? もう寝ぼけたのか?」


 次の瞬間、夜空に青白い光が発生して、それが次々に八十隻の混成艦隊に降り注いだ。

 この時代には対空兵器は存在していない。それに夜という事もあって、上空の存在を視認する事さえ出来なかった。

 そして上空から降り注ぐ青白い光は、いともあっさりと各艦を貫通していく。

 船底に穴が開いて浸水して沈んでいく艦や、弾薬庫が誘爆して轟沈する艦もある。

 寝ている人間の方が多かったが、それらの人達は何が起きたのかも把握できないまま、海の底に消えていった。

 そして三十分後に海上に浮かんでいた艦船の数はゼロになった。かくして欧州から出撃した混成艦隊は全滅した。

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 ローマ教皇庁はハワイの女神ハウメアと五体の眷属『バハムート』の襲撃を受けていた。

 もっとも襲撃と言っても大規模なものでは無い。中央の広間の一部が破壊されただけだ。

 その広間の上空にハウメアの姿が浮かび上がり、周囲を五体の色が違ったドラゴンが不気味な叫び声を上げながら浮かんでいた。

 ハウメアと五体のドラゴンを見た教皇庁の人間は、全員が硬直していた。

 この教皇庁はキリスト教徒の総本山だ。

 その総本山が異教の神の襲撃を受けるなどと、何処の辞書にも無く、誰も考えた事が無いだろう。

 そして五体のドラゴンは足に掴んでいた混成艦隊の司令官の遺体を、上空から広間に投げ捨てた。


『その男達は我が大地を討伐しようと企んだ不埒者ゆえ、天罰を下した。だが、元は此処の長が企んだ事のようだな。

 異教徒だからと言って直ぐに排斥しようなどとは、器量が小さい輩の集団か。

 神に仕えると言いながらも、女子供を性的虐待する輩も居るようだ。魂が穢れているのがはっきり分かるぞ。

 我は無用の争いは好まぬゆえ、我らの大地を穢そうとした兵士のみを罰した。だが、首謀者を捨て置くわけにはゆかぬ。

 そこで問おう。我が大地を穢そうとした罪をどう償う?』

「こ、これは悪夢だ!? 悪夢に違い無い! おお神よ! 我らを見捨てるのですか!? 我らに救済を!!」

『……興醒めだな。この程度の輩が我が大地を穢し、我を討伐しようなどと考えたのか? 身の程知らずにも程がある!

 現実を見ずに己の世界に逃げ込むのはお前達の自由だ。だが己と違うものを信じる者達を排除しようとするなど傲慢だと知れ!

 お前達が自分達の世界に篭るなら、それも良かろう! 但し、我を含む他の神の領域に立ち入れば天罰が下ると心得よ!!』


 そう言うと上空の女神の姿は消え去り、五体の『バハムート』は教皇庁の建物に一撃を加えただけで立ち去った。

 幸いにもローマ教皇庁の被害はそれだけで済んだ。そして艦隊を出した各国にも、直接的な被害は出なかった。

 ハワイの女神ハウメアと五体の眷属『バハムート』が、カトリックの総本山を襲撃した事は多くの人達に目撃された。

 そしてローマ教皇庁は何も対抗できずに神の救済も無かった事は、各国に報じられて大きな衝撃を与えていた。

 さらに信者である児童を性的虐待していた一部の聖職者は、ハウメアに指摘された事で恐怖していた。

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 季節は梅雨。ハワイの女神ハウメアと五体の眷属『バハムート』がローマ教皇庁を強襲した事は世界に大きな衝撃を与えたが、

 一ヶ月も経過すると落ち着いてきた。最初はハワイ王国に近づく欧米の船舶があったが、全てが破壊されると近づく船も皆無になった。

 ハワイ王国に出入りしている船舶は、日の丸を掲げた船だけになっていた。

 アメリカの受けた被害は大きかったが、それ以上の天罰が無さそうだと知れ渡ると市民は活気を取り戻して復興に勤しんだ。

 もっとも、所有していたミッドウェー島を中継港として開発しようとしたところ、『バハムート』が現われたので大慌てで撤収し、

 領有権を放棄する破目になったが、アメリカ市民には大きな影響は出なかった。尚、ジョンストン島も同じく領有権を放棄した。


 世界に目を向けると、キリスト教の権威が全体的に低下していた。何と言っても総本山のローマ教皇庁が異教の神に強襲され、

 何も抵抗できずに警告を受けた事は、信じる神の存在に関して、多くの人達に疑念を抱かせるには十分だった。

 さらに調査の結果、信者である児童を性的虐待していた聖職者の存在が明らかになった事も大きく影響した。

 各国の信者は動揺はしたが、ハワイ王国へ干渉さえしなければ天罰は下らないと悟ると動揺も徐々に鎮まっていった。

 そして生活の一部となっている教義が廃れる事は無く、今まで通りの生活が続けられた。

 世界各地の植民地もあまり変化は出なかった。神が出現したのはハワイ王国だけであり、他の地域に神が降臨する事は無かった。

 その為、一時的には各地の植民地の収奪は押さえられたが、やはり実害は無いから何時しか以前と同じ状態に戻っていた。

 違うのはアメリカの内陸部(カナダの西部も含む)とオーストラリアだ。

 実際に降臨した神の言葉で、現地の神が目覚めつつあるというのは十分な警告になっていた。

 その為に現地での先住民に対する迫害は中断され、内陸部に入植しようとする者は皆無になっていた。


 陣内が考えて天照機関で承認された作戦だったが、最初に予想した程の効果は出ていない。

 あまり『バハムート』による被害を拡大したく無いという良心が邪魔した事と、人間の持つ強かさの結果だろう。

 それと一人の人間が考える事より、現実はさらに上回るという事実だ。素人の陣内の作戦が甘かったとも言える。

 それでも『ハワイ王国防衛作戦』は一定の成功を治め、その事に対する評価が天照機関で行われていた。


「ハワイ王国のクーデターを阻止して、アメリカに大きな警告を与えた。

 そして内陸部の工作が神の目覚めによるものだと誤解を与えたから、これ以上の内陸部へ入り込もうとする事は無くなるだろう。

 ミッドウェー諸島を放棄させた事で、対アメリカ工作は殆ど完璧と言える結果だ。オーストラリアについても計画通りの結果だ。

 だが、世界各地を見渡すと、予想した程の効果は出ていない。各地の植民地の搾取は以前と同じ状態に戻ってしまった」

「仕方あるまい。列強の混成艦隊を殲滅したが、本国には一切被害は出ていない。

 ローマ教皇庁の善良な信者を巻き添えにしたくは無いから、被害は建物の一部に留まっている。

 善良な信者である児童を性的虐待していた、腐れ聖職者を追放できたくらいだ。

 確かに各地の植民地搾取を出来るだけ抑えたい目的もあったが、人間は自分の身に危険が迫らないと考えを変えない。

 人間の持つ強かさを再認識させられた結果になったな」

「日本と直接利害関係があるところは完全に結果が出せたが、それ以外のところは期待外れという事か。

 あまり多用できる手段でも無いし、一定の成果が出せたから良しとしよう。陣内君、ご苦労だったな」

「ありがとうございます。ハワイ王国からは完全に欧米の勢力は撤退し、二度と立ち入る事は無いでしょう。

 ミッドウェー島とジョンストン島を放棄した事から、アメリカは太平洋の足掛かりを完全に失いました。

 国土の約三分の一を占める広大な内陸部を封鎖した事で、アメリカの国力増強に歯止めが掛けられました。

 出来れば太平洋への進出を諦めてくれれば良いのでしょうが、こればかりは様子を見るしかありません」

「ペンシルべニアの油田とデトロイト、シカゴを失った事で、アメリカの国力が低下している。

 これで彼らが考えを変えてくれれば良いのだがな。

 それはそうと、アメリカから建設用重機の注文が大量に来たそうだな。どうするのだ?」

「大型はまだ輸出するには問題がありますから、初期型の建設重機を輸出します。

 勿論、価格はかなり抑えて、あちらに恩を売っておきました。あまり利益は出ませんね。

 それと後々の為に、製造物責任は一切問わないという契約も結びました。アメリカの訴訟システムに巻き込まれたくは無いですから」

「……自分で破壊しておいて、その復興用重機を売るのか。何か詐欺のような気がしてくるぞ」

「それは言わない方が良い。アメリカの国力は確かに落ちたが、それでも我が国とは比較にならない大国だ。

 復興は時間の問題だろう。東テキサス油田の開発も進んでいるから、アメリカが国力を落すのは僅かな期間だけだろうな」

「そうだな。オーストラリアの方は、現地の組織はかなり警戒しているようだ。

 やはり現地の神が目覚めつつあると誤認してくれたのか?」

「今までの被害が大きい所為もあるのでしょうが、内陸部に入り込む数が激減しているとの報告が入っています。

 かなり効果は出たと思われます」


 今回の作戦は天照機関のメンバーだけが真実を知っている。

 陣内から睡眠教育を受けた人間なら推測できるだろうが、暗示によって口にする事は無い。

 この事が明るみに出たら日本はキリスト教圏の国家から激しく非難されて、総攻撃を受けるかも知れない。

 世界中から攻撃があっても撃退できる自信はあるが、世界から孤立するのは避けたいとは思っている。

 その為、二度と同じ方式は採らないと天照機関内で決定されていた。

 つまりハウメアは二度と姿を現さず、何かあっても眷属の『バハムート』だけが対応する事になっていた。


「国内と【出雲】は順調に推移しているが、此処にきてハワイ王国の開発が入ってきた。少々今の日本には荷が重い。

 財閥系の企業が積極的に動いているが、【出雲】には問題無いのか?」

「財閥にしてみれば、利益が上がるのに時間が掛かる遠い【出雲】より、比較的近くて短期間で利潤が出るハワイ王国を選ぶでしょうね。

 まあ財閥抜きでも、何とかします。それと幸いと言っては何ですが、【出雲】が皇室直轄領の為に人気は結構あります。

 今のところは移住者に不足は無いです。ハワイ王国への移住も進むでしょうから、日本は移住ラッシュになりますね」

「南米への移住も少しずつ進んでいるからな。そのうちに人口増加政策を考えなくてはならなくなるぞ」

「国内は良いが、【出雲】とハワイ王国の開発で精一杯だ。後は来年に向けての準備を進めるだけだろう。

 自走砲と飛行船、それと高性能無線機の手配を頼むぞ」

「ちょっと待って下さい。以前の会議で説明しましたが、来月にフランスがタイ王国を攻撃するパークナム事件が発生します。

 確かに今はタイ王国まで手を広げる余裕はありませんが、どう動くかは未定です。この会議で結論を出さなくてはなりません」

「そうだった。すまん、忘れていた。しかしタイ王国か。あまり能動的に動く余力が無い。どうしたものか?」

「放置しておけば、史実のラオスの誕生だ。タイ王国の苦難を見過ごすのも気分的に良く無い。それにフランスを拡張させたく無い。

 今回の件でフランスが拡張主義を諦めてくれれば良いのだが」

「それは無理だろう。今回の件で欧米に警告を与えたが、結局植民地の搾取は収まらない。パークナム事件は必ず発生するだろう」

「では事件には介入せずに、事件後にタイ王国がイギリスに融資を求めて断られた時に、日本が融資する事にしてはどうでしょう。

 政府の予算を使わずに天照機関の予算を使えば、用意できます。十年以上の分割払いでも構わないと思います。

 そしてタイ周辺の適当な島を貰って、開発拠点を構築します。利息分で鉱山資源を輸出して貰えば大きな損は無いはずです。

 ここでタイ王国に恩を売っておけば、後々に大いに日本に有利になります」

「……ふむ。事件そのものには介入せずに事後に手を差し伸べるか。『バハムート』に類する技術を多用すると拙いし、

 今の日本の国力ではフランスと表立って対立する訳にもいかんからな」

「日本ではフランスに圧力を掛ける事さえ出来ん。仕方無かろう」


 未来の情報を知っているから事前に対策を打てる事もあるが、実力不足から出来ない場合もある。

 フランスがイギリスに対抗して仏領インドシナを拡張する事を阻止するのは、現時点では困難だ。

 こうして事件の後に、タイ王国に支援する事が決定した。

 もっとも、別の方法でフランスに働きかけをしているのだが、そちらの効果は未定だ。


「対馬の方はどうなっている? ユダヤ人の受入は進んでいるのか?」

「はい。ロシアやドイツを追放された約五千人のユダヤ人を受け入れています。年内までには約五万人を受け入れます。

 受け入れた彼らは主に重機の操作を習わせて、国内の建設工事に従事して貰っています」

「計画は順調か。良かろう。ユダヤ人を粗雑に扱わぬよう徹底させておけ。それとユダヤ人財閥との接触はどうか?」

「現在は調整中です。我々が多数のユダヤ人を受け入れ始めた事で、先方が興味を示しています。

 年内中にはユダヤ人財閥と宗教指導者と会談できると思われます」


 ユダヤ人の世界ネットワークは網の目のように張り巡らされている。その力が日本に協力的になれば、多大な効果が期待できる。

 現時点でユダヤ人は欧州各地で迫害を受けており、ロシアからは1881年から約三十年間で三百万人ものユダヤ人が他国へ移住した

 記録もある。こうして天照機関は海外の工作を徐々に進めていった。

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 淡月光のフランス支店は相変わらず賑わっていた。店内に入ると、和服や各国の民族衣装を着た若い女性店員が出迎えてくれる。

 そして久しぶりに訪れた某貴婦人は、見慣れない服を着た日本女性店員に話し掛けていた。


「あら、その服は見た事が無いわね。どこの国の服かしら?」

「いらっしゃいませ。この服はタイ王国の民族衣装です。春ぐらいから皆さんに紹介を始めているんですよ」

「へえ。かなり落ち着いた雰囲気の服よね。ところで、タイ王国ってどこにあったのかしら?」

「東南アジアですね。フランスのインドシナ領の近くですよ。礼儀正しい国で、あちらのコーナーに紹介コーナーを設けてあります。

 もしお時間がありましたら、御覧になっては如何でしょうか?」

「そうねえ。じゃあ案内してくれる」


 パークナム事件の数ヶ月前から、淡月光のフランス支店はタイ王国の民族衣装を着た女性店員が現地の紹介を行っていた。

 淡月光で影響が及ぶのは、顧客の貴婦人だけだ。フランス政府に圧力や干渉など出来る訳が無い。

 彼女達にタイ王国の紹介をする事が、パークナム事件にどれだけの影響を与えるかはまったく不明だ。

 だが、駄目で元々という気持ちで行っていた。


 それと陽炎機関が買収したイギリスのスコットランド新聞も、フランスの脅威を書き立てるなどして世論工作に動いていた。

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 陣内は勝浦工場の社長室に、上司の評価が高い五人の若い男性社員を呼び出していた。

 五人の男性社員と陣内は同年代だが、その権限は天と地の差がある。

 緊張して社長室に入って来た五人に、陣内は笑いながら声を掛けた。


「いや、忙しいところを呼び出して済まないね」

「いえ、とんでもありません。ところで社長直々のお呼び出しとは何か御用でしょうか?」

「君達五人の働きを、上司が高い評価しているんだ。最近は土日も出勤して休みもろくに取っていないだろう。

 だから君達に特別賞与と特別休暇を一週間与える事にした」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「待ってくれ。まだ話の続きはあるぞ。君達は全員独身と聞いている。相手はいないのか?」

「……女と話すよりは、仕事をしている方が楽というのもあります」

「俺もそうです。どうも女と話すのは苦手でして」

「陣内社長は美人の秘書がいるから良いでしょうが、俺達はそんな出会いも無いんです」

「……分かった。その休暇中にやって貰いたい事があるんだ」

「ちょっと待って下さい! 休暇中にやって貰いたい事って、仕事ですか!?」

「そんな!? 少しは休ませて下さい!」

「言い方が悪かったな。遊郭の女将に話はつけてあるが、ある避妊薬の検証実験を行う事になった。

 女性が服用するタイプのもので、勿論人体に悪影響が無いのは確認してある。後は実際に試すだけだ。

 遊郭側にもメリットはあるし、快く承諾してくれた。ついでに実験に協力してくれと頼まれて、君達でどうかと思ったんだが?」

「そ、それって無料で遊郭に行けるって事ですか!?」

「ほ、本当に!? 好きなタイプの娘と好きなだけ出来るんですか!?」

「勿論、検証実験だから費用は掛からない。ただ、休暇の最終日は控えてくれ。会社に来ても疲れて仕事が出来ないのでは困るからな」

「あ、ありがとうございます!!」

「感謝します! やった!!」


 勝浦工場にも少数の女性社員はいるが、多くの生産現場を持っている事から男性社員の方が多い。

 一生独身でいられても困るし、どうしたら良いかと各事業部長から秘かに相談されていた。

 女性が服薬する避妊薬が完成した事を知り合いの遊郭の女将に話したら、あっと言う間に話はまとまった。

 遊郭の死病の女性を助けたり、定期的に病気検査を無償で理化学研究所の医療部が行っている事もあって関係は良好なのだ。

 これで上手くいけば、他の頑張っている独身社員にも声を掛けるつもりだった。


 さらに【出雲】の問題も関わっていた。【出雲】は急ピッチで開発が進められているが、女性は極端に少ない。

 そして不足分はクエート市の花町の御世話になっている。

 しかも飛行船の観光飛行で【出雲】に来る観光客も、日本では珍しいアラブの女性に惹かれて行く回数が増えている。

 そちらの問題が表面化する前に、対策を打たなくてはと考えている陣内だった。

 そして数年後、多くの女性社員を抱える淡月光と、定期的に独身男女を集めたお見合いパーティが開かれていく。

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 採掘用ロボットと建設用ロボットは【出雲】から引き上げられ、遅れた予定を取り戻そうと天照基地で急ピッチで工事が行われていた。

 そんな状況を陣内は織姫と話しながらチェックしていた。


「勝浦工場や【出雲】に労力を割り振ったから、最初の計画がだいぶ遅れてしまったな。

 最低限の海底や地下の資源の採掘能力はあるが、まだ大規模な採掘施設の建設に着手もしていない。

 造船所もこれからだ。ここの防衛施設は最後になるが、まったく何時になったら完成するんだか」

『優先順位の高いものから建設を進めていくのは理に適っていますよ。そのお陰で日本の国力はだいぶ上がったのでしょう』

「ああ。織姫の製造してくれた高精度な工作機械や自動製造装置のお陰だな。

 まだ【出雲】に運び込む機械の製造が終わっていない物もあるが、目処はついた。

 当面の優先項目は造船所と石油生成プラントの建設だな」

『はい。既にここの基地の約半分の工業力は、そちらに振り向けてあります。来年には完成する予定です。

 その後は光合成の繊維生産プラントとリサイクル施設、それに防衛施設です』

「航空機なんかまだ無い時代だからな。衛星軌道上からの監視体制があるだけでも、情報戦で優位に立てる。

 防衛施設の一環で攻撃衛星を配備できれば、鬼に金棒だろう」

『私も隕石で破壊された兵器を再生する余裕は無くて、二十四時間体制で設備の生産を進めていますからね。

 ですから今は攻撃衛星より、『白鯨』と潜水艦部隊を充実させた方が良いと思われます。

 太平洋各地と【出雲】、それに将来的にはインド洋や大西洋に基地を建設できれば、かなりの影響力を駆使できると思われますが』

「まあな。自立制御式にしてここから命令できれば良いが、それが無理でも海軍に少しは梃入れをしたいと考えている」


 来年の戦争の準備もあるが、天照基地はさらにその後の事を見据えたものだ。

 この基地の事は天照機関以外には沙織と由維と美香しか知らない。そして天照基地は陣内の描いた理想に近づきつつあった。

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 淡月光は女性専用用品の生産・販売会社として急成長し、列強各国の女性で知らない人はいないだろうと思われるほどになっていた。

 それでも国際企業としては、規模は悲しくなるほど小さい。

 日本の組織はそこそこだが、各国では現地の協力会社に生産を委託し、販売も大部分を委託している。

 名は知られているが、その組織力は強くは無い。それが淡月光の実態だった。

 各国に派遣されている女性職員は日本で語学やマナーを徹底的に教育され、現地に認められている。

 そのトップの川中楓(二十七歳)の優れた容姿と教養は各国に知れ渡った。もしかすると、日本人で一番の有名人かも知れない。

 派遣した女性職員が現地の若者と恋に落ちて、身を固める者が増えてきたという報告が楓に提出されていた。

 そのレポートを読んだ楓は、眉間に皺をよせて不機嫌そうに考えていた。


(女の幸せを追求するなとは言わないわ。だけどもうちょっと会社の為に働こうとは思わないのかしら!?

 まったくどいつもこいつも『妊娠したから退職します』ですって!? 後に残るあたしらの苦労を考えてるの!?

 真からは性病の治療薬や、避妊薬を数年内には量産するって言われてるのよ! そうなったら、仕事が倍増するのは確実なのに!

 日本から派遣した方が良いんだけど、忙しい真に何度も睡眠教育をさせる訳にもいかないから、現地採用を増やすしか無いわね。

 しかし、どいつもこいつも色ボケして妊娠だなんて……まあ、それも生き方の一つか。

 あたしも二十七。言い寄ってくる男は相変わらず多いけど、あたしの身体と財産目当てだもの。

 だったら真の方が……でも沙織がいるのよね。身体の相性は良いんだから、本当に捕まえてしまおうかしら?

 別に正妻とかには拘らないけど、あたしも子供が欲しいのも事実だし。問題は沙織よね。どうしよう?)


 淡月光の全株式は日本総合工業が所有しているが、特許は楓の個人取得になっている。

 会社全体は莫大な利益を出しており、給与もそうだが各国から入ってくる特許料を含めると楓の個人資産は膨大な額になっていた。

 そこら辺の小さな財閥や華族など比較にならない程の資産家になっており、それを目当てに言い寄る男は絶えなかった。

 しかし、楓も女だ。一人だと寂しく感じる時もある。だから陣内と定期的に会って関係していた。

 それでも家庭に縛られたく無いと、陣内との関係はドライに割り切っていたつもりだった。

 だが、こうも周りで男とくっついて辞めていく女子職員が多いと、楓としても少し不安になってくる。

 そして楓は口元を微かに歪めて、小悪魔のような表情で陣内の事を考え始めた。


 余談だが、女性職員の育児休暇や長期休暇制度を、淡月光は世界に先駆けて実施した。

 そして女性に優しい会社という評判が世界に定着していった。

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 七月十三日。史実通りにパークナム事件は発生した。

 フランスは仏領インドシナ(ベトナム)を所有しているが、イギリスに対抗して勢力の拡大を画策していた。

 史実のラオスにある三ヶ国の王国はタイ王国の支配下にあったが、フランスの力を借りてタイ王国に対抗しようとした。

 タイ王国がその三つの支配下の王国にどんな事をしていたかは分からない。

 だが、その三つの王国は目の前のタイ王国に対抗する為に、貪欲な猛獣(フランス)を呼び込んでしまった。

 その三ヶ国の動きを好機と判断したフランスは、タイ王国に攻撃を仕掛けていた。


 他の勢力の介入も無く、事件は史実通りにフランス側の勝利に終わった。

 問題はこれからだ。史実ではタイ王国はフランスに賠償で済ませようと、イギリスに借款を申し込んだが断られた。

 そして泣く泣くフランスに領土を割譲して、色々と不利な条約を結ばされた。

 それが契機でイギリスとフランスの間に協定が結ばれて、タイ王国は緩衝地帯として残された。

 そしてタイ王国は今までのイギリス寄りの態度を改めて、ドイツやロシア、日本との外交を深めていく契機になった。


 今のタイ王国は、まずはフランスの要求をどう凌ごうかと頭を悩ませていた。

 史実通りにイギリスに借款を申し込んだが断られて窮地に陥ったタイ王国に、秘かに日本の天照機関の手が差し伸べられた。

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 フランス政府の施設内で、男の怒声が飛び交っていた。


「何故だっ!? 何故、日本が此処でしゃしゃり出て来る!?」

「しょうが無いだろう。タイ王室が日本に泣きついたんだ。それで日本政府が動いた。

 以前の日本なら歯牙にも掛けなかったが、今の日本と拗れたら輸入が停止して大きな問題になる。

 そうなったら発電機や電灯、ベアリング、ビタミン剤、血液識別装置、真空管、無線通信機、建設用重機、糖尿病治療薬、

 扇風機、洗濯機、冷蔵庫、その他の便利グッズが入って来なくなる。

 国内で生産できるように努力はしているが、まだまだ時間は掛かるんだ。

 それに淡月光の商品もだ。それに何故か国内でタイ王国の評判が女達に良いらしく、今回の件は国民に不評なんだ。

 イギリスを始めとして、他の国からも圧力が掛かりだした。国家存亡のような危急の時ならともかく、今は問題を大きくしたく無い」

「じゃあ、タイ王国に勝ったのに諦めろと言うのか!? せっかく領土が拡張できるんだぞ!」

「日本が仲介して、タイ王国は我々に賠償金を支払うと言ってきた。何故か日本が建て替えるらしいがな」

「じゃあ日本から大金を毟り取れば良い! 絶対に容赦しないぞ!!」


 フランスはドイツとの戦争に敗れた為、鉄鉱石と石炭の豊富なアルザス=ロレーヌを失い、莫大な賠償金(50億フラン)を課せられた。

 この為にフランス経済は大きな困難に直面し、それを挽回する目的で植民地を拡大しようと画策した。

 それが日本の横槍で無に帰すなど、容易に認められる事では無かった。


「だからイギリスを始めとした諸外国の圧力もある中で、日本と揉めるのは色々と拙いんだ。

 賠償金も法外な額は要求できない。それと国内の婦人達の批判も強い。ここは妥協せざるを得ない」

「くそっ! 何でこうなった! この世は弱肉強食じゃ無かったのか!? 勝った者が正しいんだ!!」

「……我々のような大国がタイ王国みたいな弱小国を虐めるのは、風聞に響くような風潮が広がった。

 ローマ教皇庁にハワイ王国の女神が天罰を下した事も影響しているんだ。少しは我慢しろ」


 フランス政府は国内の批判、それと諸外国からの圧力もあって、日本が仲介したタイ王国との和解に応じた。

 日本が多国間の争いの仲介役を務めたのは初めての事であり、日本の対外的信用を増す結果にもなっていた。

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 フランス政府とパークナム事件の後始末が終わり、仲介を行った日本政府とタイ王国政府との間で会議が行われていた。


「日本の仲介のお蔭で、フランスと和解する事が出来ました。

 仲介を申し出てくれなかったら、我が国は領土を失い、不平等条約を結ばされていたでしょう。日本の協力に感謝します!」

「我が国は貴国と末永くお付き合いしたいと考えています。ですから仲介を申し出ました」

「本当にありがとうございます。我が国はどちらかと言うとイギリス寄りでしたが、イギリスは我が国に支援してくれませんでした。

 これからは外交政策も見直す必要があると考えています。最近の日本は凄まじい発展を遂げていますね。

 その日本の技術を使って、我が国の近代化に是非とも協力して頂きたい!」

「それは勿論です。ですが今の我が国は、【出雲】とハワイ王国の立ち上げに全力を注いでいます。

 貴国の工業化への協力は惜しみませんが、余力があまり無い事は承知下さい。それと農業分野で協力を始めたいと考えています」

「農業分野ですか? 具体的には何を?」

「貴国の東北部のコーラート台地は雨量が少なく農作物が育ちにくい環境にあって、貧困地域の代表格になっていますね。

 そこを我が国の開発した建設用の重機で大々的に水利工事を行って、農業改革を実施できればと考えています。

 貯水池や農業用水路を建設すれば、農作物の収穫も上がって現地も豊かになるでしょう」

「素晴らしい! 是非とも御願いしたい!」

「それには拠点が必要になります。フランス政府に支払った賠償金は十五年月賦で無利子で構いません。

 その代わりに物資集積所と中継拠点、工場建設する適当な島を一つと、コーラート台地の開発権利をいただきたい。

 日本は貴国との友好関係を深めて、鉱物資源や農作物の輸入を増やしたいと考えています」

「我が国は日本から様々な工業製品を輸入して、国力の増強を行う事にしましょう。

 分かりました。島の割譲とコーラート台地の開発権利の件は、国王陛下と協議してから回答させていただきます」


 コーラート台地は他の地域に比べて水はけの悪い土壌で出来ている為、洪水と干ばつを繰り返しやすい性質を持っている。

 だからこそ農作物の収穫も上がらず、貧困地域の代表格になっていた。

 そこを日本の建設用の重機を使って、大々的に開発するのはタイ王国側としても歓迎すべき事だった。

 日本が要求してきた開発支援拠点としては、タイランド湾内にあるチャーン島(面積:約217km2)が選ばれた。

 山が多い島で、人口は少ない。そこの全住民には日本から補償金が支払われて、同意して立ち退いた。

 そこに工場群を建設し、タイ王国の近代化を進めると同時に交易の拠点にする。将来的にはタイ防衛の海軍拠点に使うつもりだ。

 そしてタイ王国の貧困地域を時間を掛けて開発し、深い友好関係を築こうという遠大な計画が発動された。


(2013. 5.25 初版)
(2014. 2.23 改訂一版)