「雑草を潰した汁の採集にあけくれる幼少期を経て、料理が趣味になりました」 という20代女子が探る肉食の宇宙。同じく肉食の飼猫ネコ山と共にお送りいたします。 ( 第1回から読む )
フライパンひとつで本格的!煮込まずできるチキンのトマト煮
趣味の本気料理ワールドを見渡すと、北米在住のセレブ奥様によるホームパーティー料理や七里ヶ浜でエコライフを満喫する趣味人の豪快料理などがあふれています。そんな憧れ度MAXの人々による余裕たっぷりなライフスタイルのまぶしさに、つい「貧乏人はマルタイの棒ラーメンで生き延びるしかない…」という投げやりな気持ちなることも……。
その点、ショップ99で買った材料でも、コンロが一口しかない一人暮らしの殺伐キッチンでも、ポイントさえ押さえればキチンとおいしくできあがるチキンのトマト煮って素晴らしい!!フライパン一つで出来てカンタンだし、材料代もかからないし、そのくせ仕上がりは割と豪華で満足感があっておもてなし料理にも使えるという驚異のコストパフォーマンスはまさに庶民の味方です。
というわけで、今回は鶏肉のトマト煮を作ってみました。明日もワークがあるのに変な時間に目が覚めてしまった真夜中、ぽっかり空いた時間の間隙を縫って鶏を煮込み、黙々と食べる女の疲れ切った姿は憧れライフとはほど遠いですが、むしろそんな状況でもおいしい料理を諦めなくて良いのだという意味での夢と希望が、そして現代人が失ってしまった何かがここにはあるのだと強弁したい! 何かって何だよと言われても具体的に答えることはできませんが……。
画像:箸の持ち方に隠しきれないオリジナリティが炸裂中。こんなことではおよめにいけない……という不安が脳裏をかすめたものの「そういう前時代的な規範を積極的に演じるカマトト精神が、結果的に抑圧の構造を再生産していることに気付くべき。だいたい箸の持ち方に云々するような品格男との結婚生活の末路は、インターネットで夫の文句を言う以外に楽しみがないような暗闇人生で……」と必死で自分に言い聞かせ不安を打ち消すことに成功しました。
鶏肉を煮る必要はなかった
肉のタンパク質は大きく分けるとスジなどコラーゲン部分とそれ以外に分かれています。コラーゲン繊維は加熱によって一旦固くなるのですが、さらに加熱を続けるとゼラチン化して柔らかくなるという性質。そのため、スジが多く固い肉は長時間煮込むことで軟らかくとろりと仕上がるのです。でも、それは焼いただけでは食べられないような固い肉の話。スジ以外のタンパク質は長時間の加熱によって再び柔らかくなることはありませんから、スジが少ない柔らかい肉の場合は、長時間加熱してもパサパサになるだけで、肉が元々持っていたジューシーさをかえって損なう結果になってしまいます。そのため、元々コラーゲン繊維の割合が少なく柔らかい、若鶏を使った料理の火入れは最小限に抑えた方が良いのです。
チキンのトマト煮の作り方
さっそく作り方を紹介します。作り方の手順さえ覚えてしまえば、40分程度で作れるはず。
材料(4人分):
・鶏モモ肉:500g
・ベーコン:100g(5枚程度)
・ホールトマト:1缶
・玉ネギ:1個
・ニンジン:1本
・セロリ:1本
・ニンニク:2カケ、オレガノ:小1/2、オリーブオイル:大3、白ワイン:カップ1、塩
まず、スライスしたニンニク、オレガノ、塩を肉によくすり込み、下味をしっかりとつけます。煮込み時間が短いので、そのまま食べても美味しいくらいしっかりと肉に味をつけておくのがポイント。
肉にまぶしていたニンニクを一旦落としてまとめておきます。フライパンにしっかりと油を引いて、その上に皮側を下にした肉をのせ、弱火でじっくり焼きます。強火で急激に熱すると肉が固く縮みパサパサになってしまうので、フライパンの底に火がギリギリ当たる程度の火力で。
今回は、スーパーで半額になっていたので骨付きのモモ肉を使いましたが、ふつうのモモ肉でももちろん大丈夫です!
肉が焼けるのに20分近くかかるので、その間に野菜の下ごしらえを。玉ネギ、ニンジン、セロリ、ベーコンをそれぞれ一センチ四方の薄切りに揃えます。
ひたすら皮目を下にして焼いていきます。焼いている間、フライパンを揺するなど肉をいじるのは避け、気になっても我慢して放置しましょう。スルー力が鍛えられます。皮がこんがり色づいてパリパリになったところで、フライパンから下ろします。
焼き上がった肉はこんな感じです! そのまま食べても美味しそう……。こうやって皮をキッチリ焼いて香ばしさとパリパリ感を出すことで、ぐっと洋風の煮込み料理らしさがアップします!
一旦こうして皿の上に肉を移し、空いたフライパンでその他の材料を炒めます。まず、フライパンの中に残っている大量の油は、臭みがあるので一旦捨て、新しくオリーブオイル大さじ3を入れます。そのとき、フライパンの底にこびりついている焦げをこそげ落とします。このカラメル状のこげに焼き付いたうまみと風味を利用するのも、洋食らしい味作りのポイントです。
再び火を掛けて、まずニンニクを弱火で炒めて香りを出し、その後ベーコンと野菜を加えて炒めます。
軽く色づくまで炒めていきます。今回は、だいたいこのくらい炒めました。
ここで、ホールトマトと白ワイン、水カップ1を加え、トマトを潰しつつ中火で煮詰めていきます。水分が飛んで、どろっとしてくるまで煮詰めます。
肉はこれくらいの大きさにカットしておきます。
十分煮詰まったら、塩、オレガノを加えてソースの味を調えます。オレガノはトマトと相性バッチリなので、ぜひ使ってみてください!100円ショップでも売っています。最後に、肉を入れたら火を止めて、10分程度味を馴染ませます。
ウスターソース大さじ1、ケチャップ大さじ1を加えると、ご飯にあうおかず風なります!ところで、連載二回目にして早くも毛皮が脱げてしまっているのはキッチンが暑すぎるからです……。
食べる前に軽く温め直してできあがり。ソースを絡めながらチキンを食べると本当にしみじみおいしい……。マンガとかで、ヨーロッパの路地裏、ゴミ溜めに倒れ込んでいる少年を助けた下町のあばずれガールが、そっと差し出したりしている煮込み料理はきっとこんな味のはず。
私「それにしても…アンタ、どこか上等な雰囲気だね。それにずいぶん綺麗な顔。こんなとこ場違いなくらい……」
ネコ山「……」
あたかも心温まる交流をしているかのようなセリフをつけてしまったけれど、実際は執拗に肉を狙うネコ山を牽制しながら肉を独占している状況を映した一コマ。
そして残ったトマトソースを次の日スパゲッティにして食べると、あまりもの特有のこなれた美味しさが最高なのだった……!!粉チーズがあったらバサーーとかけて食べたい!
まとめ
・鶏肉にはしっかり下味をつける
・皮側を下にして、弱火でじっくり焼く
・パリパリこんがりきつね色に鶏皮を焼くのが洋風煮込みのポイント!
・皮を焼いた後の油は捨てる
・フライパンにこびりついたカラメル状の焦げはしっかりこそげ、うまみをソースに溶かす
・トマトソースとオレガノはよく合う
・鶏肉を入れてからは煮込まず、味を馴染ませる
・ソース大さじ1、ケチャップ大さじ1を加えるとご飯に合う味に
・次の日に余ったソースで食べるスパゲッティは最高!