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◆被ばくした牛たちは、原発事故の生き証人
海側から国道6号線を越え山側へ車を走らせた。小高の商店街はシャッターが下り人影もない。農村地帯は「除染作業中」ののぼりが林立し、重機があちこちで稼働していた。
目的地は浪江町の「希望の牧場・ふくしま」。緑の放牧場で牛の群れが草を食んでいた。しかし、いまも空間線量は毎時3マイクロシーベルト前後ある。代表の吉沢正巳さん(60)は被ばく覚悟でここにとどまり、牛たちの世話を続けてきた。
「3・11」当時、有限会社M牧場(村田淳社長)の浪江農場として330頭の和牛の繁殖肥育を行っていた。しかし原発事故。出荷を拒否された。その後、国は警戒区域内の家畜の殺処分を指示。
吉沢さんはこれに抗った。「牛たちを守りたい。でも本当に悩んで苦しみました。牛が売れないのはわかっている。国は全部殺せといっている。牧場へ行けば確実に自分たちも被ばくする。それでも牛を生かす意味はなんなのか」。たどり着いたのは、牛たちが原発事故の生き証人、調査の対象という考え方だった。
牧場にはいま、体表に白い斑点がある牛が約20頭いる。「40年牛飼いの経験があるけれど、初めてです」と吉沢さん。
白斑を調査するよう国に再三要望してきた。6月には白斑の出た黒毛和牛を連れ霞ヶ関に乗り込むという実力行使にも出た。その後農水省が調査に来たが、結局は「原因不明」。吉沢さんは「福島では100人を超える子どもに甲状腺の異常が出ていますが、国は甲状腺がんと被ばくは関係ないと言い切っている。因果関係を認めたくない。棄畜は棄民につながります」と憤る。
牧場内の建物の外壁には放射能汚染の分布と重ねた浪江町の地図が貼ってあった。浪江町は全村避難。大部分が帰宅困難区域だ。「僕たちに貼られた絶望のレッテルです。除染したって、帰りたくたって、帰れないでしょう。来年からはいよいよ仮設住宅の統廃合も始まる。浪江はもう320人が震災関連死しています。あちこちたらい回しになったら、それこそ棄民ですよ。僕たちは厄介者なんでしょうか」
牧場には引き取ったノラ牛なども含め約300頭がいる。20キロ圏内では他にも複数の農家が、計350頭を生かしているという。「国とすれば問題のある困った農家。でも俺は俺なりの正しさはあるつもり。『原発をやめる時代』に向かって、牛たちの寿命が尽きるまで、牛飼いとして、牛たちの世話を続けます」(了)
【栗原佳子 新聞うずみ火】
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