チャイナ・ウォッチャーの視点

日中首脳会談 追いつめられた習近平、主導権を握った安倍首相

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めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。執筆者は、富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)、城山英巳氏(時事通信社中国総局特派員)、平野聡氏(東京大学准教授)、森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)、三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)。(画像:Thinkstock)

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 まず「靖国参拝問題」に関しては、それに関連していると思われる合意文章の文面はこうである。

 「双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。」

 「政治的困難」に、いわゆる「靖国問題」が含まれるかどうかについて色々と解釈の余地があると思われるが、「靖国」の文字が出ていないのは事実だ。つまり、この文章を読む限り「日本側が首相の靖国不参拝を約束した」ということにはならない。この合意文書において、日本側は決して「靖国不参拝の確約」という中国側の条件を飲むようなことはなかった。

「近年緊張状態が生じている」尖閣諸島

 次は、尖閣問題に関する文面を見てみよう。原文は、「双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」とある。

 この文面を素直に読めば、日本は確かに、「異なる見解を有する」こと、中国が日本と違う見解を持っていることを認めたが、しかしここで「異なる見解」の対象となっているのは「近年、緊張状態が生じていること」であって、「領土問題」の存在ではない。文中には「尖閣諸島」の固有名詞も出ているが、それは単に「緊張状態」の生じる場所として取り上げられているのであって、文面の主語になっていないことは明らかだ。

 さらに注目すべきなのは「近年」という言葉がつけられていることだ。それによって「異なる見解」の指す対象はますます「領土問題」とは無関係なものとなる。というのも、尖閣を巡っての領有権問題は「近年」から始まったわけではなく、数十年前からのものだからだ。

 つまり、文書を素直に読めば、それは決して「日本が領有権に対する中国の見解を認めた」、あるいは「日本が領有権問題の存在を認めた」ことにはならない、とよく分かる。「領土問題は存在しない」という、尖閣問題に関する日本政府の立場はまったく後退していないのである。

 岸田文雄外相も11月11日の記者会見で、尖閣諸島をめぐって日中両国が見解の相違を認めた合意文書を発表したことに関して「尖閣に領土問題は存在しない」とする日本政府の立場は全く変わっていないという認識を強調した。

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