改正土砂災害防止法が成立した。法制定のきっかけとなった災害が15年前にあった広島で、8月にまたも土砂災害が起き、74人が死亡した教訓を踏まえたものだ。今度こそ、命を守る礎にしなければならない。

 土砂災害の危険性について、都道府県がより早い段階で住民に伝えるよう義務づけたのが、改正法の最大の柱だ。

 「警戒区域」や「特別警戒区域」の指定に先立ち、都道府県は基礎調査をする。地形や地質を現地で調べ、予想される災害の影響範囲を割り出す。

 広島市安佐南区の八木、緑井地区は広島県の基礎調査が済んでいたが、警戒区域の指定対象となる住民に説明する前に深刻な被害が出てしまった。改正法では、調査が終わり次第、結果を公表することにした。

 02年度時点で土砂災害の危険があるとされた全国52万カ所余りに対し、調査が終わったのは39万カ所弱だ。新たに危険性が浮上した場所もあり、25万カ所以上が残っているとみられる。

 国は、5年程度で調査を完了したいとする。調査が遅れている都道府県は最優先課題として取り組むべきだ。調査は1カ所あたり数十万円かかる。早く達成するためには、国のいっそうの財政支援も求められよう。

 作業が進んでこなかった背景には「不動産の価値が下がる」という住民の懸念があった。しかし、住む土地の災害リスクを正しく知ることは、生命、財産を守るために不可欠だ。

 改正法の趣旨を確実に生かす工夫も必要だ。住民への伝達はホームページや冊子で、という自治体が目立つ。ただでさえ災害に遭いやすい高齢者らに十分理解されているだろうか。説明会を何度でも開くなど、丁寧な対応を心がけてほしい。

 改正法では、都道府県と気象台が共同で出す土砂災害警戒情報を市町村に伝えることも義務化された。

 ただ、警戒情報は主に市町村単位で出るため、合併で広域化した自治体などから「地域を絞った避難勧告の判断に生かしにくい」との指摘がある。

 和歌山県は、合併前の旧市町村ごとに警戒情報を出せないか検討を始めた。京都府も、市町村担当者が1キロ四方ごとに土砂災害の危険度を判断できるよう、情報システムを改修する。全国に広めたい取り組みだ。

 広島県は「災害死ゼロ」を目標に掲げた条例をつくり、住民の「自助」「共助」を強く促していく方針だ。ほかの地域でも今すぐできることを積み重ね、ゼロを目指していきたい。