売れっ子編集者はなぜアマゾンを去ったのか
「企業イメージ」の悪さで書き手探しに苦慮
2011年にアマゾンが出版部門のシニアエディターに作家のエド・パクを迎えたときは、意外な組み合わせに思えたものだ。
パクと言えばニューヨークの文壇ではよく知られた存在で、仲間と文芸誌を創刊したり、ビレッジ・ボイス紙の文学別冊の編集長を務めてきた人物。コンピュータの計算で客へのお勧め本を選ぶアマゾンには、およそ似つかわしくない。
売れない文芸書も認める鷹揚さ
だが、このギャップこそが肝心だった。パクを雇い、のちにリトルAという出版レーベルを任せたことで、アマゾンは芸術的価値はあるが売れ筋ではない作品でもリスクを冒して出版する用意があることを世間に示すことができたからだ。
パクが入ったことでアマゾンの出版部門には箔がついた。パクは名声を生かしてアマゾンのために書き手を探した。この3年でパクは約20冊の本を世に送り出した。その中には有名な文学賞を受賞した作品もある。
だがパクはこのほどアマゾンを去り、ペンギン・プレスのエグゼクティブエディターへと転じた。アマゾンの出版事業にとっては痛手であり、出版、書店の業界でアマゾンの置かれた厳しい立場を示している。
ネット書店としてのアマゾンのせいで業績が悪化した多くの一般書店は、アマゾンが出版した書籍を扱おうとはしない。このことは、アマゾンが作家やエージェントと出版交渉する際の大きな障害となった。
折しもアマゾンは、本の価格をめぐって大手出版社アシェットと対立している最中だ。著名な作家たちは司法省に対し、アマゾンを独禁法違反容疑で捜査するようロビー活動を行っている。
インタビューでパクは、アマゾンと出版社との対立が退社の主な理由ではないとしつつも、仕事上の困難を招き、退職を決意させるに至ったいくつかの要因のひとつであることは認めた。