楽々と物を運べ、腰への負担も少ない。自分の本来の力以上の仕事量を果たすことのできる魔法のようなアイテム「パワードスーツ」が実用化に向けて加速度的に成長しているようです。見据えるのは「介護」や「工場」といった分野における、高齢労働者・女性労働者の活用です。一体この分野の発明は今後の社会をどのように変えていくのでしょうか。
東京理科大葛飾キャンパス(東京都)に本社を置くベンチャー企業の「イノフィス」(菊池功社長)は11日、介護や工場などで重い物を運ぶ際に装着し、腰の負担を約3分の1に抑える補助ウエア「マッスルスーツ」を発売した。同大が開発した「人工筋肉」を採用。福島県南相馬市の工場跡地で来春から量産化に取り組む。
「人工筋肉」はゴムチューブを繊維で包んだ構造で、マッスルスーツは背中に2〜4本装着。チューブに空気を出し入れする仕組み。標準モデルで約30キロの力が出るという。介護の現場や、工場などで重い荷物を運ぶ時に効果がある。中腰の姿勢を楽に持続することもでき、農作業にも応用が期待できるという。
本体価格は60万円。当面はリース・レンタル会社など主に法人向けに販売し、使用状況を見ながら改良する。同大工学部の小林宏教授は「労働人口の高齢化や女性の雇用にも役立つはず」と話す。【近藤浩之】
パワードスーツの正体
まずはこのパワードスーツについて簡単におさらいしておきましょう。正式名称は「マッスルスーツ」で、人工筋肉を採用した「補助ウェア」になります。いわゆる「腰にくる」労働に対して効果を発揮するようで、工場や介護での労働に変化をもたらすかもしれません。
介護におけるパワードスーツとは
工場での重労働は想像に難くありませんが、介護分野でも力が必要な場面は多岐にわたると言います。介護者をお風呂に入れたり、ちょっとした移動の時やトラブルがあった時などに体を支えることなど、「男手」が必要だとされる事態もよくあります。
とはいえまだまだ介護業界は女性が多い分野で、男性の割合はわずか1割ほどとのこと(こちらのサイトを参考にしました)。これでは力仕事の多い職場として、かなり女性に負担のかかる大変な仕事であるとされることも納得できます。
このような現状に対して、大きな効果を生み出すことを目的としているのがこの「マッスルスーツ」なわけですね。どうやら標準モデルで30kgの力が出る模様。具体的にどのようなアクションにその力が補助として使えるのかは記事からは読み取れませんが、腰の負担の軽減という観点からすると「なにかを持ち上げる動作」「腰を上げ下げする動作」に対して使えるのでしょう。今後はこの範囲が広がっていくことは間違いありません。
産業構造に与える影響
しかし、こういったスーツは単に女性の労働力活用にだけ用いられるポテンシャルではありません。記事にあるように、高齢者の方を労働力として再活用するためのツールとしての利用も想定のうちのようです。
確かに一つ買うとなると高いですが、リースで使えるようにすると記事にもありますので、若い男性を力仕事のために雇うよりも定年後の元気な老人を安く雇ってこのスーツを効率良く利用したほうが安上がりになる可能性も十分にありえます。
あるいは、あまり若い人の求人がこないようなものに対して高齢者を労働力として活用できるようにする、という可能性も十分にあります。その場合は若者の就職を奪うことなく単純に労働力そのものが増えることですから、少なくとも特定の観点から考えると喜ばしいことでしょう。
最近は「シルバー人材の活用」なんかもよく叫ばれていますし、現実的な労働力拡大の方法として使われてきています。そもそも定年退職後の再雇用なんかもその流れの一つですよね。
この流れに加えて、「非力な人でも力仕事ができるようになる、廉価で使えるリースのマッスルスーツ」が普及してくると、どんどん「男はでかくて力持ちなんだから、稼いでくるのは当たり前」といった社会感覚が崩れていくことも容易に予想できますね。
となると、産業革命に伴う「力がない女性や子供(そして老人)でもできる仕事の拡大」が更なる展開を見せるかもしれません。もはや、「力が強い男しか出来ない仕事」というのがなくなる社会ですね。その時こそ本当の意味で「男女平等とはなにか」を考えることができるようになるかもしれません。
まとめ
あらゆる技術の発展は、なにかしらの現状を打破するものであり続けます。フランスの著名な哲学者、モンテーニュは「随想録」の中でルクレティウスの言葉を引用して、このように言っています。
Whenever a thing changes and alters its nature, at that moment comes the deaths of what it was before.(あるものが変化し、その性質を変える時はいつでも、その瞬間それ以前の姿に死が訪れる)
「男女は違うのだから、同じように扱うのは無駄。最近の男女平等は女尊男卑になっている」という言葉がいつまで意味を持つのか、ちょっと楽しみですらありますね。
関連記事
この記事へのコメントはありません。