スーパーに行ったら:バターがない! 五つの理由

毎日新聞 2014年11月13日 17時47分(最終更新 11月13日 19時55分)

乳製品の売り場では、バターの棚だけが空っぽ=東京都練馬区のスーパー「アキダイ」で
乳製品の売り場では、バターの棚だけが空っぽ=東京都練馬区のスーパー「アキダイ」で

 北海道の生産量は昨夏から今春の多くの月で前年より3、4%も減っている。牛はデリケートな生き物なのだ。ところが「猛暑? そんな一時的な問題じゃない」という声が酪農家から聞こえてくる。

 ◇3 酪農家の減少

 「問題の根は深い。北海道では毎年200戸の酪農家が消えている。しかも若い人、経営力のある人からやめていく」と指摘するのは、北海道新得町で乳牛600頭を飼育する有限会社「友夢(ゆうむ)牧場」社長、湯浅佳春さんだ。このままでは離農は止まらず、生乳生産量は減少し続ける恐れがあるという。

 離農の原因は高齢化や後継者不足などさまざま。しかし「最大の原因は経営が大変だから。円安で餌が昨年、今年と1割ずつ値上がりしている。ところが乳価(生乳販売価格)はほとんど上がらない。せめて乳価をもっと上げてくれないと、酪農家は頑張る意味を見いだせなくなっている」。

 乳価は各地の農協連合会などの生産者団体と乳業メーカーとの交渉で決まる。「1キロ90円で生乳を売るんですよ。ミネラルウオーターより安いのか、とがっかりします」と湯浅さん。

 内外の酪農政策に詳しい鈴木宣弘・東大教授は「日本は生産者団体に比べ、買い手側の交渉力が強く、乳価がなかなか上がらない。最近は大手スーパーや量販店が価格決定の主導権を握り、牛乳を安売りの目玉商品とするため、値崩れしやすいことが背景にある」と指摘する。

 酪農家はこの10年で約1万戸減り、13年、とうとう2万戸を割り込んだ。湯浅さんは「酪農家の経営はもうギリギリ。今は肉の方が高く売れるため、乳牛ではなく和牛を種付けする酪農家も増えている。ますます乳牛頭数は減り、生産量が減る恐れがある」と打ち明ける。

 酪農家が後継者確保や設備投資をためらうのにはもう一つ理由がある。日本の酪農の将来が見えないのだ。

 ◇4 TPPの行方

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の重要5項目の一つが「乳製品」。日本乳業協会の試算によると、TPP参加でバターが自由化されれば、国内市場839億円のうち85%程度が輸入品に置き換わり、国内製品のみの市場規模は126億円に縮小するという。酪農家の受ける打撃は計り知れない。

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