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若者のテレビ離れではなく「スマホ浸透」では?―TBSマーケターが語る、これからの「番宣」【前編】


 「若者のテレビ離れ」という言葉がある。確かに近年、視聴率が30%を超える番組はなかなか出てこない。それに、リアルタイムでテレビを久しく見ていないという人も多いのではないだろうか。

 しかし、テレビ業界だって「若者のテレビ離れ」を聞き流せるワケではない。制作者の思いがこもった番組を一人でも多くの人に広めようと、日々様々な施策を試している。
 
 そんな中でTBSは最近、「番宣」手段の一つとしてTwitterを活用している。例えば、ドラマの撮影時や編集時に出演者のコメントやその日の様子をつぶやいたり、バラエティ番組などに出演者が「番宣」のために出演すれば、出演終了のタイミングで出演者の写真を掲載している。

 これらは、どんな意図があって行われているのだろうか? TBSテレビのマーケティングディレクター・山本大平さんにお話を聞いた。 

ーー「若者のテレビ離れ」という言葉を聞くようになってからずいぶん経ちますが、実際に山本さんの周りで「テレビ離れ」が起こっていると感じたことはありますか?


山本:まず、「テレビ離れという言葉が、僕にはしっくりこないんです。大画面を、特にリアルタイムで視聴するという意味であれば、確かに十分あり得ると思います。

 ただ、今は録画視聴で自分の好きな時に見られますよね。あと、ネットで番組を見る人も多い。

 そういったことを統括的に考えると、「本当にテレビ番組離れは起きているのか?」という疑問はあります。なので、あまりしっくりきていない理由の一つはそれ。

 もう一つ理由があって、「若者のテレビ離れ」が語られる時、その根拠はメディア接触のデータなんです。1日あたり、テレビ・新聞・インターネット、どのメディアに何分接触した、かのような。

 それを見ると、若い子のインターネットの接触量は増えています。それを見て「若者のテレビ離れ」と言う人が多い。

 でも、どうなんでしょうか。YouTubeやFC2などの違法のネット動画も含めて、番組のトータル視聴量を正確に調査したデータは実はどこにもないんです。それに、『半沢直樹』は、最終回の視聴率が40%を超えたんですよ。テレビ番組離れが顕著な状態で起きていたら、『半沢直樹』のようなことって起きないんじゃないかと思うんです。

 なので、面白いものは観てもらえるんです、きっと。確かに、スマホを手にする時間は増えているはず。だから僕は「じゃあ、スマホで番組を見てもらえるチャンスがあるんじゃないか」という発想になるんです。もちろん、テレビ局側の人間として、ドラマやスポーツは臨場感を楽しんでもらうという意味で、大画面で観てもらいたいなぁとは思いますが。

 つまり、僕は、「テレビ離れ」の「テレビ」の定義が人によって違うんじゃないかと考えています。例えば、今はインターネットでテレビ番組を観たら、データ上は「テレビを観た」ことにならない。むしろネットに接続したことになる。そして、録画してテレビ番組を観たら視聴率にはカウントされない。

 総合的に考えると、言葉の定義が違うんじゃないか。テレビ局が作った番組に対して離れてるかどうかではないと思います。だから「テレビ離れ」よりも「スマホ浸透」と言った方が、僕にはしっくりくるんです。

ーースマホで若者にテレビ番組を認知してもらうためには、具体的にどのような形をとるのでしょうか?


山本:電車の中で周りを観察すると、皆スマホでゲームするかネットニュースを見てるか、そのどちらかですよね。だからウェブニュースになれば、通勤時間、昼休み、帰宅時間に情報を見てもらえる可能性が高い。

 だから、まずはウェブニュースを意識しています。Yahoo!のトップページって、1日でどれくらいPVがあると思いますか? 約3億PVです。今はYahoo!以外にも、gooニュース、MSNニュース、ガジェット通信など色々な媒体がありますよね。

 あと一つ、去年からキュレーションアプリがものすごい勢いで伸びてるじゃないですか。例えば、Antennaは今400万人以上ユーザーがいて、近い未来にはユーザー1000万人も夢じゃない。だから、キュレーションアプリで情報を広げていくという手段は無視できない。

 あとはTwitter。電車に乗ってると、特に若い子がTwitterを見ていますよね。本当は覗いちゃいけないんですが(笑)、この間ちらっと見たら、吉祥寺の天気を調べている子がいました。以前だったらニュースサイトや天気予報のサイトにアクセスしないと分からなかった情報まで、Twitterで検索して情報を得ている。

 だから最終的には、ウェブニュースやキュレーションの情報もTwitterに反映されてくるはずです。なので、特に若者への宣伝効果はツイートの件数の推移に表れてくるんです。今後はそれが重要な指標の一つになるでしょうね。

ーー視聴者の見逃し防止と、若者への番組の認知。これらに対する施策は全ての番組に有効だと思いますか?


山本:僕の考えでは、半分OKで半分NG。やみくもに宣伝やマーケティングを行ってはいけないと思います。ドラマでも選ぶんですよ。品格のあるドラマ、例えば『LEADERS』や『ルーズヴェルト・ゲーム』の情報をあまりにも拡散し過ぎると、引いちゃいませんか?

 だって、ポルシェがドン・キホーテで売られていたら、仮にどんなに安くても、何かしっくりきませんよね。だから、それぞれ番組のテイストを上手くマッチングさせるようなプロモーション展開、広告展開を行う必要があります。それぞれに合った最適な施策があると思うんです。  

 それはバラエティ番組でも同じで、例えば『ナイナイのお見合い大作戦!』はネット層に違和感なくマッチングする。ただ、媒体は選びます。『ナイナイのお見合い大作戦!』が経済紙に合うかといったら、そうでもないわけです。

 あと、「どや! どや!」って、あまりにも情報を出しすぎても引いちゃいません? 「またか」って。

  このように需要と供給のバランスが大切で、がめつきすぎても少なすぎてもよくない。そして、番組のテイストと媒体と施策、この3つををマッチングさせて番組の情報を適量で投げかける。ここをとても意識しています。

 また、すでに何度も放送されていてブランドを築いている番組、例えば『SASUKE』『キングオブコント』『オールスーター感謝祭』は、皆番組のイメージを知っているじゃないですか。そういう場合は、見逃しをなくすことを第一優先とする

 なぜなら、そういった番組に関するツイートは「今日、感謝祭やってたの?」「SASUKEやってるじゃん!」という見逃しに関するものばかりだから。そこで事前に「○日の○時から放送しますよ」と確実に伝える。

  ただ、ドラマではそのノウハウが当てはまらないと思っています。なぜかというと、これからやるドラマは、どんな内容で展開するのか、視聴者に事前情報がないから。というか、それこそネタバレですよね。でも、見ていただけるように施策を行う必要があります。それでも施策が効かない場合もある。事前に情報を全部出せないから。

 そこで、PDCA(Plan、Do、Check、Action)のC(=Check。行ったことの検証)が必要で、初回OA前までに打った施策の効果が浸透しているのかを個々に確認するようにしています。そして次のP、つまり施策にに繋げていきます。この作業を繰り返しOA前まで温めていく。

 だから、新番組や単発の特番のPRは難しいんですよ。これからどのようにブランドが構築されるかも分からない。また、「それはこういうものですよ」という制作者の思いもあるし。僕はそれを壊さないようにしたいんです。

 そういった意味でも、宣伝のテイストは制作者の考えと同義でなければならないと思います。番組のPRマーケティング担当は、制作者の意向を確認し、そして制作者が届けたいメッセージとズレないように、報じる媒体や文言を選ぶ必要があると思っています。何でも報じればいいってもんじゃないこれはものすごく大切にしているところですね。 

後半はこちら



山本大平(やまもと・だいへい)氏 プロフィール

2004年、京都大学大学院を修了後、トヨタ自動車に入社。新規開発の技術者として、品質改善業務に従事。特にデータマイニングをコアスキルとし、お客さま目線を追求した品質改善を手がける。新車開発業務に従事したのち、マーケティングに携わる。
また、トヨタの多変量解析のプレゼン大会では、最高の栄誉である副社長表彰を受賞するなどの経歴を持つ。

2012年、TBSテレビに入社。編成局マーケティング部に配属。社内ベンチャー事業「Histrend」を立ち上げると同時に、ドラマ制作部で『LEADERS』のアシスタントプロデューサー(AP)を兼務。『ルーズヴェルト・ゲーム』『SASUKE』『ナイナイのお見合い大作戦!』など番組でお客さまの目線にこだわったPR戦略を立案するなど、マーケティングディレクターとして活躍している。

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「特大ホームランの番組作りにデータは必要ない」―TBSマーケターが語るこれからの「番宣」【後編】


前編はこちら



 引き続き、TBSのマーケティング戦略について、TBSのマーケティングディレクター・山本大平さんにお話をうかがっていく。

 後半では、これからの「番宣」はどうあるべきかという問題を熱く語っていただいた。

ーー今「番宣」というと思い浮かべるのは、CMや雑誌以外だと、番組の出演者の方が違う番組に出る「番組ジャック」を思い浮かべます。そういった形式から別の形式に移行していくとお考えですか?


山本:CMと番組ジャックは、番組を認知してもらえるという点で必要な手段ではあります。ただ、需要と供給のバランスでいうと、最近は供給過多。とはいえ、それをしないと番組の情報に触れる回数が圧倒的に少なくなってしまいます。だからCMと番組ジャックをやっているんですね。

 CMと番組ジャックは否定しないし、これからもやっていっていいと思う。やるべきだと思うけど、それだけじゃ足りないので、悩ましいところですね。やはりCMジャックはウザいですかね? これについては、一度意識調査をしてみたいですね。

ーー山本さんがテレビ局のマーケティングについて考えていらっしゃることをお聞かせください。



山本これは、僕なりの今のTBSに対する考えです。ものすごく基本的な概念ですが、マーケティングには4Pという切り口があります。プロダクト・プロモーション・プレイス・プライス、この4つに対してどうアクションを起こすか、それがマーケティングをする上での基本的な考え方です。

 それをテレビに当てはめると、テレビはBtoC(Business to Customerの略。企業が一般消費者に対して商品を販売する業態のこと)ですが、民放テレビでのプライスはお客さんにとってはタダ。プレイスは「どの時間に何を放送するのか」の時間枠。「編成」ですね。プロモーションは宣伝、プロダクトは番組をどう作っていくか。

 特に、プロダクトマーケティングについてですが、うちの番組は作品性や芸術性が強いので、そもそもデータで語れる領域はそんなにないと思うんです。つまり、TBSって作品性が評価されてきたテレビ局だと思っているので、データを使って「作品」を作ろうと考えている、または作れると思っている同僚がいたら、僕は真っ向から否定します。

 その根底には、TBSは本来飛び抜けた作品を産み出せるものづくりの会社だという思いがあるからです。というか、そういった作品力に圧倒されてTBSに転職したので。最近だと『半沢直樹』や『LEADERS』、また僕が好きだった『愛してると言ってくれ』も、データ云々の話ではない。


(※『愛していると言ってくれ』…1995年7月7日から9月22日に放送されたドラマ。聴覚に障害のある画家と女優の卵の2人が、様々な困難を乗り越えながら愛情を深める様子を描く。最高視聴率は28.1%。主演は豊川悦司と常盤貴子。主題歌はDREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』)


 あと『SASUKE』もそう。『SASUKE』は世界150カ国で放送されているんです。アメリカではあの『24 -TWENTY FOUR-』の記録を抜いた番組。すごい番組は、データの中では異常値として表れます。

 だから、特大ホームランの番組作りにデータは必要ないと思っています。むしろジャマです。ただ視聴率を意識した瞬間に、それは「作品」ではなく「商品」となるので、「商品」として割り切る場合はデータが必要になります。

 なので、僕がTBSできること、つまりマーケティングスキルをフルに活かせる領域は作品を「売ること」と、スパッと割り切っています。ただ、情報番組については少し考え方は違って、「商品」の要素も多いと思うので、企画段階から登場したりもしますが。

 つまり、TBSには特大ホームランを打てるクリエイターがいて、あとはプロモーションマーケティングをしっかり行えば、TBSの一番いい形が築けるんじゃないかって単純にそう思っています。

 『SASUKE』も、去年何もしていないときは、見逃した視聴者がめちゃめちゃ多かった。それが今回、プロデューサーと共に戦略を立てて、「ゴールデンボンバーのドラム・樽美酒研二さんが『SASUKE』に挑戦」などのトピックを数多くネットニュースに取り上げていただいたことで、Twitterでの放送前日までの言及数は例年の2倍になっていました。これが入り視聴率につながり、最終的に若者への視聴訴求に繋がっています。


(※入り視聴率...番組が始まった瞬間の視聴率のこと。楽しみにしている番組は始まった瞬間から観られることが多いので、この数字が高いことは、事前に番組が放送されることが周知されいることの重要な指標の一つとなる。)


 そういった成功体験があるので、テイストマッチングを意識して情報を出しさえすれば、「絶対これはいける!」という確信があるんです。なのでTBSのマーケティングってこういうやり方が合うんじゃないかって思うんです。

 むしろ、番組制作、特にヒットじゃなくてホームランを打ちたい場合の番組の企画段階で、データを使ってどうのこうのとやるべきではないと思っています。

 これは会社でも意見が分かれているんですが、僕はそんなことをするからテレビはつまらなくなるし、特大ホームランが出なくなるし、あまりにも商品性を求める動きになれば、それこそいわゆる「テレビ離れ」に繋がっちゃうんじゃないかと感じます。

 だから僕は、特大ホームランを打つつもりでやっているクリエイターの方々が作った作品を信じて、それを最大限に売ることが自分の仕事だと思っていますし、「TBS
のテレビマーケティングの仕事」という概念にフィットすると考えています。すみません、話が長くなりましたね(笑)。

ーーいえ、熱のこもったお話をうかがえて、とても嬉しいです。


山本 :そういえば、ネットフリックスが作ったドラマが、エミー賞をとったことはご存じですか?

(※ネットフリックス……オンラインDVDレンタルサービスと、ドラマなどのストリーミング配信を手がけるアメリカの会社。)

ーー申し訳ありません。存じ上げないので教えていただけますか。


山本:ネットフリックスが作って配信したドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がエミー賞を穫ったんです。このドラマは、データマイニングで、例えばこの俳優さんと女優さんを出せば売れる、という検証をして作ったと聞いたんです。


(※データマイニング……膨大に蓄積されたデータの中から、相関関係やパターンなどを探し出す技術のこと)


 時々、データで「作品」を作った一例として取り上げられるケースがあるんですけど、それって頭でっかちな意見だと思うんです

 そのドラマ、脚本自体がめちゃくちゃ面白いんですよ。データと脚本のどっちが評価されたかというと、僕は脚本だと思うんです。でも、「データ分析」って言葉が一人歩きしてしまっていて、とても残念に思います。

 あと、僕は間寛平さんが好きなんですが、「寛平さんのギャグの面白さをデータで説明しろ」と言われても誰もできないと思うんですよね。また、昔『トリビアの泉』で「笑いを研究している専門家が考えた一番面白いギャグ」を放送してたんですけど、結果はご想像通りでした。

ーーそれ、見ました。確か「真面目な番組で、青年が全裸で真面目なことを言う」というものだった記憶があります(笑)。


山本:あれは「笑いの専門家がギャグを作ったけど、面白くなかった」と分かって、それをフジテレビが流しているという構造が面白かったんです(笑)。

 ゴッホの「ひまわり」を見て、「ゴッホはなぜあの黄色を選んだのか?」と考えても、多分その時の気分なんですよね。その時の気分で「これがいい!」と思っただけですよ、きっと(笑)。しかもゴッホは亡くなってから有名になってますからね。それを考えると、作品って、そういうものなんでしょうね。

 なので、やはりテレビでプロダクトマーケティングをする際は、その番組の使命が「作品」なのか「商品」なのか、決めてから行うべきだと思っています。きっとTBSのドラマは「作品」としてお客さまに愛されてきたので、周りがデータでごちゃごちゃいうのはちょっと……。

 特に、視聴率が悪いと社内でそういう話が出ますが、視聴率は番組の内容だけでなく宣伝効果、裏番組の影響、天気などの複合要因で構成されるんです。だから、そういった作品の「内容」を視聴率分析しても無意味だし、僕は制作者が命をかけて作った番組を最大限多くの方に観ていただくことで、つまり「売る」方で自分のマーケティングスキルをフィットさせてければとマジで思います。

山本大平(やまもと・たいへい)氏 プロフィール

2004年、京都大学大学院を修了後、トヨタ自動車に入社。新規開発の技術者として、品質改善業務に従事。特にデータマイニングをコアスキルとし、お客さま目線を追求した品質改善を手がける。新車開発業務に従事したのち、マーケティングに携わる。
また、トヨタの多変量解析のプレゼン大会では、最高の栄誉である副社長表彰を受賞するなどの経歴を持つ。

2012年、TBSテレビに入社。編成局マーケティング部に配属。社内ベンチャー事業「Histrend」を立ち上げると同時に、ドラマ制作部で『LEADERS』のアシスタントプロデューサー(AP)を兼務。『ルーズヴェルト・ゲーム』『SASUKE』『ナイナイのお見合い大作戦!』など番組でお客さまの目線にこだわったPR戦略を立案するなど、マーケティングディレクターとして活躍している。

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「仕事が増えても楽しい」と思える人生は絶対に楽しい―私が「パラレルキャリア」を始めたワケ【後編】


前編はこちら


 
 今注目の働き方「パラレルキャリア」を、編集者とウエディングパール事業という2つの軸で実現している福島緑さん。

 前編では、なぜパラレルキャリアを始めようと考えたのか、実際に2つの仕事を持ってどんな生活を送っているのかなどをお話いただいた。後編では、福島さんの仕事観や、パラレルキャリアを始めてからの心境の変化についてうかがった。


ーー複数の仕事をするとなると、体力面やタイムマネジメントの面で大変そうなイメージがありますが、実際はいかがですか。


福島:会社に勤務している時はすごく大変でした。仮に9時〜17時で勤務していたとしたら、パールの仕事は朝早起きしてやって、昼休みにやって、夜にもやる。あとは土日ですね。 
 
 確かに体力的には大変なんですが、いいこともあります。私、会社員の頃は、結構くよくよ悩んで1人で仕事を抱え込むタイプだったんです。でも、パールの仕事をやるときは完全に頭を切り替えて仕事をしています。そういう意味では精神的に大丈夫だったから、体力もついてきたというか。 

 編集の仕事だけやっていたときは、無駄に悩みすぎて全然休めなかったですね。今はその無駄に悶々としていた時間がパールに置き換わっているので、切り替えが上手くできるようになりました

ーー1週間の標準的なスケジュールを具体的に教えてください。


福島:編集をメインにやっているときの一週間と、パールをメインにやっている一週間では結構違うんですよね。編集をメインにしている時のスケジュールは、会社員の方が副業をしている形に近いので、想像しやすいのではないでしょうか。


 上は福島さんの平均的なスケジュールを表にしたもの。こちらは編集者の仕事(青色)がメインの場合。福島さんの言葉通り、編集の仕事の合間にウエディングパールの作成やブログの下書き、納品作業などが細かく挟まれている。


 こちらはウエディングパールシャワーの仕事(ピンク色)をメインに行った週の標準的なスケジュール。編集の仕事をしている時は、効率よく仕事を進めることを第一に考えているそう。

ーーこの働き方を始めて、編集者としての仕事に何か変化はありましたか。



福島:以前は「自分がいいと思うものを何が何でも通したい」という強いこだわりがありました。今は、変なところで悩まないようにしています。意思決定が速くなって、サクサク仕事を進められるようになりましたね。 

 起業って意思決定がものすごく大事なんですよ。とにかく速さと思い切りが大事だから、トライアル&エラーを繰り返すんです。その感覚とスピードは、編集の仕事にもすごく影響があったと思います

 あと、以前は上司に対して「私が言っていることは正しいのに、何で分かってくれないの?」という思いが根底にあったんです。正しいかどうかにこだわりすぎて、かなり意固地になっていましたね。

 でも、この働き方になったらどうでもよくなって(笑)。とにかく「自分の言うことを最短で聞いてもらうにはどう言ったらいいか」「どう根回ししたらいいか」に力を注ぐようになりましたね。

ーーパラレルキャリアを始めて、よかったことはありますか。


福島:よかったことは、業種や年齢問わずいろんな人に会えること。全然違う考え方や知識、経験を持った人と話すようになりました。

 失礼な話ですが、会社員の時は、プライベートでは特に「この人は業種が違うから、そんなに深く話をしてもなぁ……」という思いがあったんです。でも今は、「とにかくこの人から何かを得たい」という気持ちでお会いしています。この人のすごさの秘密や考えを学ぼうというスタンスになりました。 

 あとは、忙しいけどやりがいがあるから、すごく元気になりました。それは、自由になったからというのが大きいですよね。時間の使いなども含め、誰かのせいにすることがほとんどなくなりました。人間関係でのストレスが減ったらめっちゃ元気になって、心もとないですけど、楽しくなりました。「楽しくなった」という言い方だと、軽薄でしょうか。

ーーいえ、U-NOTEは「仕事を楽しくするメディア」なので、問題ないです。


福島:よかったです(笑)。仕事って、働くって楽しいんだなって、改めて思いました。

 今は、自分がなりたいようになるための仕事をしてる感じがします。『ハウルの動く城』で、ハウルとソフィーの会話に「ハウルって一体いくつ名前があるの?」「自由に生きるのに要るだけ」というのがあって、それがかっこいいなと思ってるんです。

 パラレルキャリアはそれと似ていると思います。パールのときはこんな私、編集のときはこんな私、と。実際そんな器用に使い分けているわけではないですが。

 でも、パールの仕事をやることによって仕事の仕方が変わったし、1つの仕事をしていた時よりも自由にもなった気がするんですよね。


ーー「福島真珠 Jouer de Bonheur」のお仕事に専念しようと考えたことはありますか。



福島:はい。もともと編集の方が割合が多くて、編集:パール=9:1くらいの割合だったんです。でも、起業を志してからどんどん割合を変えていきました。起業してからは、やはり最初は食べていくために編集の仕事をしてないと無理だったから、編集:パール=6:4くらい。今は3:7くらいかな。 

 編集の仕事は収入に直結していて、パールの仕事はいつ入るか分からないので、そういう意味では編集の仕事はなかなか手放せないですね。パールに専念してもいいかなっていう気はあります。でも、別にどちらか1つにカッチリ決める必要はないかな。


ーー複数の仕事を持つ働き方は、他の人にも勧めたいですか。



福島:はい、絶対その方がいいと思います。自分がそうだったんですが、会社でストレスを溜めすぎて具合が悪くなったり、飲み屋でも延々と愚痴を言うより、よっぽど楽しいですよ(笑)。あと、やはり人との関わり方が変わります。視野がぐんと広がる、あの感覚がパラレルキャリア最大の魅力かも

  私、編集だけやってた時は、割と仕事を抱え込むタイプだったんです。今はもうそんなことできません。ブライダルは素人同然だったから、できないことがあるのを自覚しているし、周りもそれを分かってくれています。だから「私、これしかできないので、こちらやっていただけますか?」と素直に頼めるようになりました。 

 あと、こんな話があります。数年前に知り合った出版社の社長さんがNPO法人を立ち上げたんです。元々介護施設に慰問に行く活動をずっとされていて、歌や演劇を見せたりしていた方なんですが、もっと面白い企画をやりたい、と。 

 何かというと、施設にいるおばあちゃんたちにウエディングドレスを着せて、写真を撮る体験会をやりたいと相談されたんですね。私はブライダルの業界でウエディングパールを扱っていますが、自分ではメイクもドレスの調達も、撮影もできない。

 でも、それらができる知人はたくさんいるので「知人を紹介しますよ」と答えたら「じゃあ、一緒にやりましょうよ」って声をかけてくださったんです。そこで、メイクさん、ドレス屋さんに声をかけました。そうしたら面白い企画だし社会貢献にもなるので「やりたい、やりたい」と皆が言ってくれたんですよね。 

 今はクラウドファンディングでお金を集めて、大物カメラマンに撮影していただくという企画が進んでいます。一見、この活動はパールシャワーに直接結びつかない。でも、とても楽しいんですよね。損得勘定がなく、「わあ、楽しそう、やりたい!」っていう意欲のある人ばかりが集まってくるから、こんなに楽しいんでしょうね。 

 でもこれ、会社員の時だったら「うわ、余計な仕事が1つ増えた」って、絶対に面倒くさいと思っていたはずなんですよ(笑)。 でも今は、「こんな面白そうな企画が私のところに来た!」と思えるし、人と人をつなげるのも楽しい。ましてや全然違う業界の人たちと、ゼロから仕事を立ち上げるなんてなかなかできない経験だから、すごくワクワクします。

 この状況がすごく楽しく感じられるのはパラレルキャリアのおかげ。「2つ仕事をしてよかったな」と思っています。 

 月曜日に「会社に行きたくない」と思ったり、会社や上司の愚痴ばかり言ってるよりも、「仕事が増えても楽しいと思う方が絶対に人生は楽しいはずですよね。そういう意味で、パラレルキャリアというか、会社の仕事と別のことをするのはお勧めしたいですね。


福島緑(ふくしま・みどり)さん プロフィール

大学院卒業後、出版社勤務を経てフリーランスの編集者へ。
2011年、編集者として働く傍ら、「福島真珠 Jouer de Bonheur」を立ち上げ、2013年に個人事業主として開業。ウエディングパールシャワーを手がける。

福島真珠 Jouer de Bonheur WEBサイト:

 

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