安全保障

サンゴ密漁を仕組んだ中国政府のしたたかな狙い尖閣諸島奪取の訓練か、あるいは第2列島線突破の予行演習か

2014.11.12(水)  織田 邦男

 今の法制では海保、警察による警察行動と自衛隊による自衛行動には大きな溝がある。「運用」などによっては、とてもシームレスに対応することはできない。拙稿「画龍点睛を欠く『在り方検討中間報告』」(2013.8.2)に書いたので、ここでは省略する。

南シナ海で着々と成果を上げている海上民兵

南シナ海に中国の軍事用滑走路が完成、新華社報道

西沙諸島に中国が建設した軍事施設〔AFPBB News

 ただ、自衛隊が対応できるようグレーゾーン事態の法整備をしたとしても、相手が民兵である限り、日本も自衛隊を出動させないという選択は十分にあり得る。従って、グレーゾーンの法整備とは別に、海保と警察の装備を充実させ、危害射撃要件の緩和を含め、武器使用権限を拡大して最小限の防衛行動が可能になるような施策は急務である。

 米国の場合、沿岸警備隊(United States Coast Guard)は、米軍を構成する「陸軍」・「海軍」・「空軍」・「海兵隊」に次ぐ5番目の軍隊(準軍事組織)と位置づけられている。

 2001年 の同時多発テロ事件以降、沿岸警備隊は、運輸省から国土安全保障省に移され、従来の法の強制執行権とともに、国家安全保障の側面がより重視されることとなった。もちろん武器使用権限も拡大されている。

 他方、海保の任務は保安庁法2条にあるように「法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における船舶の航行の秩序の維持、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕」等、海上の安全及び治安の確保を図る任務に限られており、島嶼防衛という任務は与えられていない。

 任務が付与されないまま、事実上、領域警備の任務に連日苦労されている海保には頭が下がる。だが、これは決して正常な状態とは言えない。今後、武装民兵の上陸等が十分予想される。事が起きてからドタバタ劇を繰り返すのではなく、事前に予想できることは準備しておくのが危機管理の基本である。

 米国の沿岸警備隊を参考にし、海保には安全保障を視野に入れた任務付与と権限強化が必要である。警察には武装民兵との銃撃戦に対応可能な装備品の導入、そして警察官職務執行法改正による武器使用権限強化が喫緊の課題である。

 今回のサンゴ密漁はただ単なる「商業目的」かもしれない。その場合でも、やれやれと胸を撫で下ろしている場合ではない。中国は南シナ海で民兵活用による領有権奪取の成果を着々と上げてきている。

 民兵活用は、まさに戦争には至らない準軍事作戦である。米国の決定的な介入を避けながら、サラミ・スライス的に逐次成果を上げるには最適の手法であることに中国政府も気がつき始めたようだ。

 尖閣諸島に海上民兵が上陸する日はそう遠くない。その日が来る前に、日本は磐石の態勢を確立しておかねばならない。


【遠洋に進出する中国海軍。あわせてお読みください】
・「米軍も取らざるを得ない『弱者の戦略』、早急に必要な中国のA2/AD戦略への対抗策
( 2014.10.30、北村 淳 )
・「ゆっくり真綿で首を絞めるように攻めてくる中国
( 2014.09.08、鈴木 通彦 )
・「オーストラリアにも脅威を与えた中国海軍の遠洋パトロール
( 2014.02.20、北村 淳 )

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