安全保障

サンゴ密漁を仕組んだ中国政府のしたたかな狙い尖閣諸島奪取の訓練か、あるいは第2列島線突破の予行演習か

2014.11.12(水)  織田 邦男

 今後、尖閣諸島にも漁民を装った「海上民兵」が登場してくることは十分予想される。漁民に偽装した武装民兵が尖閣諸島に上陸した場合、果たして日本はこれを守ることができるのか。

 仮に数十人の漁民を偽装した武装民兵が尖閣に上陸したとしよう。「漁民の不法上陸」として扱われ、海保と沖縄県警が対応することになるだろう。だが、日本の実効支配を崩す目的の武装民兵を逮捕、拘束することはまず不可能である。拳銃と盾だけの沖縄県警機動隊は多数の犠牲者を出し、撤退を余儀なくされる。法執行が困難となった瞬間、実効支配は消滅する。

海上民兵を取り締まれない日本の法律

 他国では、その時点で警察事態から防衛事態へと自動的に切り替わる。つまり「犯罪」から「侵略」事態へと対応が変わるわけだ。

 だが、日本の場合、「計画的、組織的な武力攻撃事態」と認定されない限り、防衛事態としての対応はとることはできない。「犯罪」でもない「侵略」でもないグレーゾーンが存在するわけだ。警察、海保が対応できず、さりとて自衛隊が自衛行動をとることもできない。

 バラク・オバマ米国大統領は4月の訪日時、尖閣諸島は安保条約5条の適用対象であると述べた。第3海兵遠征軍司令官ジョン・ウィスラー中将は「尖閣は侵攻されても容易に奪還できる」と述べた。この発言に日本は安堵したようだが、大きな誤解がある。

 安保条約5条が適用され、米軍の出動が可能になるのは「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであること」を認めることが大前提である。当事者である日本が「武力攻撃事態」を認定しないものを、米国が勝手にそれを認めて安保条約5条が発動されることはあり得ないのだ。

 武装民兵による尖閣占領のようなグレーゾーン事態に対しては、現状では日米同盟は機能しないことを我々は覚悟しておかねばならない。これが中国が狙うターゲットとなる。

 ある人民解放軍高官は、「中国にとって最も好都合な日米同盟は、ここぞという絶妙の瞬間に機能しないことだ」と述べた。米軍と事を構えたくない中国にとって、海上民兵を使い、日米同盟が機能しないまま、日本が対応できず右往左往している間に既成事実を積み重ね、実効支配を奪取するのは最良の方策に違いない。

 「サラミ・スライス戦略」の名づけ親である軍事ジャーナリスト、ロバート・ハディック氏は「米国は中国のサラミ・スライス戦略に対し答えを持っていない」と述べた。だが、日本はサラミ・スライス戦略の対象そのものであり、「答えを持っていない」では済まされない。

 安倍晋三内閣は7月1日の閣議で、グレーゾーン対処については、新たな法整備は実施せず、現行法制の運用改善で対処することを表明した。集団的自衛権の限定的行使容認を最優先した政治的妥協の産物であろうが、誠に残念である。

 今の法制では海保、警察による警察行動と自衛隊による…
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