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俺のヒカ◯ンがこんなにBLなわけがない

「ハロー、ユーチューブ。こんばんわ、ヒカ◯ンです」

 その言葉に、モニターの向こうにいる全国の小中学生が湧いた。

 世界最大の動画サービス『ユーチューブ』を眺める彼らの目に映るのは、サングラスをかけたひとりの若い男。

 男の名前はヒカ◯ン。職業は『ユーチューバー』である。『ユーチューブ』に自作の動画を流し、再生回数に応じた広告収入や、企業から依頼を受けてコマーシャルをすることで報酬を得るのだ。

 今やいちビジネスのひとつとして浸透した『ユーチューバー』は世界中に多く存在していたが、その中でもヒカ◯ンは日本国内において、トップレベルの人気を誇るカリスマユーチューバーだった。軽快な語り口、親しみやすいキャラクター、動画の質の高さなどが小中学生を中心に話題を呼び、今やネット動画内に留まらずテレビ番組、イベントなどにもひっぱりだこの人気者なのだ。

 そのファンの数、なんと四百万人以上。時代の寵児である。

「今日も渋谷のド◯キホーテで面白いものを見つけました。じゃじゃん! 超巨大ホットケーキ手作りセット。これを使って、今日は超巨大ホットケーキを作りたいと思いまーす!」

 カメラの前でホットケーキセットを手におどけてみせるヒカ◯ン。そこからはいつもの流れだった。ジョークなどを飛ばしながら、実践を以って視聴者に商品を紹介していく。時折重ねるアクシデントは、ほどよい笑いを与えて親近感を覚えさせる。

 動画のアップロードと同時に再生回数は跳ね上がり、一週間もすれば三十万回を超えていた。ヒカ◯ンの中では上出来の部類に入る成績だった。

 この日は動画の撮影もイベント出演もテレビ出演もない、久しぶりの完全なオフである。ひとりきりの部屋で、ヒカ◯ンはユーチューブを再生していた。次々と生まれてくる強力なライバル。他のユーチューバーの動画チェックにも余念がなかった。しかしそれ以上に、やはりユーチューブが好きなのだ、というだけである。

 だが、この日ばかりは少し様子が違う。朝から何度も何度も、同じユーチューバーの動画ばかりを再生していたのだ。

「はあ、むらいさん……」

 ヒカ◯ンはモニターの前で溜息をついた。サングラスを外した彼の見つめる先にいるのは、アプリゲームに興じてそれをひたすらに実況している、老け顔の男。

 人気ユーチューバーのひとり、◯ックスむらいである。ファンの数こそヒカ◯ンほどではなかったが、彼もまた様々なメディアからお呼びがかかるカリスマ動画職人のひとりだった。

 ヒカ◯ンは彼に対し、熱い恋慕の情を抱いていたのだ。しかし、それは一方通行の想いであった。個人的にも付き合いのある相手ではあったが、ヒカ◯ンの中には単なる同士、ライバル、友情の枠を逸脱した情熱が宿っており、サングラスの向こう側に熱く濡れた瞳を携えていた。

 もうガマンできない。ヒカ◯ンが全ての衣服を脱ぎ捨て、おのれのパズルアンドドラゴンズをさらけ出そうとしたそのときだった。

「おいおい。今度は全裸動画公開か? いくらなんでも身体を張り過ぎだぞ。子供には刺激が強すぎる」

 突然の侵入者。聞き慣れた声に思わず振り向くと、そこにいたのはまさかのまさか。

 自身の想い人、◯ックスむらいである。ヒカ◯ンは慌てて床に散らばった衣服をまとおうとした。

「む、むらいさん。どうしてこんなところに」

「おっと、俺に構わず続けてくれ。でもおかしいな。動画撮影なのになんでカメラが用意されてないんだ? あっ、もしかしてそういうこと? だったら邪魔をしちゃったかな。お前も一人暮らしの男だしな。ごめんな~」

 そのあまりにも突然すぎる事態と察しの良さに、何故むらいが部屋の中にいるのかという疑問すら抱けないヒカ◯ンであった。先ほどまでみなぎっていた彼のバイリンガールはすでにしおれきってしまっていた。

「き、急に入ってこないでくださいよ。出て行ってください!」

「そんなこというなよ。なるほど、動画をオカズにしていたのか。何を観てたんだ。カリスマユーチューバーの性癖を拝んでやろうじゃないか」

「あっ、ちょっと……!」

 時すでに遅し。◯ックスむらいの視界に飛び込んだのはもちろんのこと、当の本人の姿である。

「ち、違うんです。これはたまたまというか……い、いやあ今日は暑いですね! 汗が止まらなくてついつい全裸になっちゃいましたよ~!」この日の気温は12℃である。

「どうしてなんだ、ヒカ◯ン……どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ!」

 そう叫ぶなり、むらいは目の前のパソコンを激しく殴った。穴の空いたパソコンは激しく火花を散らすと、モンストッという音とともに完全に機動を停止した。

「む、むらいさん?」

「お前だけに寂しい想いをさせて申し訳なかったな……」

 するとむらいは光速で衣服を脱ぎ捨て、一糸もまとわぬ姿となった。静かな部屋に対峙する、二人の男。邪魔するものはないもない。

「俺もお前のことが好きだったんだ。俺の心はずっと、お前のチャンネルに登録していたんだよ!」

 ヒカ◯ンの心に、これは夢なのだろうか? 自分の頬をつねっても痛くない。じんわりと、感激の波が胸に押し寄せてくる。ああ、数百万のファンも嬉しいけれど、たったひとりの愛情が、どんな再生回数よりも価値があったなんて。

「お前が400万FANS、俺が100万FANS、足して500万FANS、×2で1000万パワーだ!」

 むらいはそういうなり、ヒカ◯ンを強く抱きしめた。二人が奏でる、愛のヒューマンビートボックス。

 そして、むらいの豆だらけの手がヒカ◯ンのヒカっているキンに触れた。

「やっ、むらいさん! それはいきなり早すぎるよ! まだ心の準備が……」

「俺のAppBankはとっくにマックスでムラムラいしてるんだよ!  ◯ックスむらい、◯ックスしたい!」

「ああ、むらいさん! 好き……!」

 こうして二人のカリスマユーチューバーは結ばれた。

 それから間もなく二人は、一緒のチャンネルを開設した。二人のラブラブな生活を延々と紹介するだけのチャンネルだ。

 その愛に満ち溢れた動画は、話題性も伴って爆発的に再生回数が上昇。世界中に話題を振りまき、また絶賛された。「美しい!」「やはりこの世で一番大切なのは、愛だったんだ」。コメント欄は感動と賛辞に満ち溢れた。

 好きなことで、生きていく――そして、好きな人と、生きていく。二人のライフスタイルは、世界中のネットユーザーの憧れとなったのだ。

 なお、その年の冬コミのBLスペースには、普段よりも女子小中学生の姿が七割増で多かったらしい。

 

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