『弱虫ペダル』はこうして生まれた
作者・渡辺航が語る誕生秘話
2014年11月12日
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日本最大のスポーツ自転車フェス
「サイクルモードインターナショナル2014」が11月7日(金)〜9日(日)の3日間にかけて、千葉・幕張メッセで開催された。
同イベントは、今年で10年目を迎える日本最大のスポーツ自転車フェスティバル。国内・海外あわせて454のブランドが出展し、最新のロードバイクやクロスバイクをはじめ、マウンテンバイク、電動アシスト車、ミニベロほか、色鮮やかなパーツ、アクセサリー、グッズなどが会場狭しと彩っていた。
この3日間、自転車愛好家はもちろん、自転車に興味を持ち始めた人たちや家族連れ、カップルなど大勢の人たちで大賑わいとなった同イベント。スポーツナビDoはその中から、第2日目の模様をリポートしたい。
最初は漫画化を拒否「丁重にお断りした」
この日、最も注目を集めていたであろうコンテンツの1つが、「渡辺航『弱虫ペダル』誕生のワケ」――そう、コミックス累計発行部数が1100万部を超え、10月からはテレビアニメ第2シーズンの放映がスタートした大人気の自転車ロードレース漫画の作者・渡辺航さんのトークショーだ。
男性よりも女性の方が圧倒的に多く詰め掛けたステージに、渡辺さんは、漫画の主人公・小野田坂道が所属する総北高校自転車競技部のジャージで登場。大きな声援に囲まれながら、大ヒット漫画を生み出すにいたった経緯、背景を明かした。
「最初は趣味で自転車に乗っていたんですが、自転車と言えばマウンテンバイクだと信じ込んでいました。ところがある日、友人にロードバイクにも乗れ!と指令を受けまして、それじゃあと乗ってみたところ、ハマってしまったんですよね。すごく面白くて、毎回色んな発見があるんです」
そして、これを何とか漫画にできないかと思った……わけではないという。ある打ち合わせで担当編集者にロードバイクの面白さを熱く語っていたところ、「それを漫画にしましょう」と持ちかけられたが、「丁重にお断りしました」というから驚きだ。
渡辺さんとしては、自転車はあくまで趣味であり、ロードレースという過酷な世界を漫画で表現できる自信はなかったそうだ。
なぜ主人公・坂道はアキバ系なのか?
ところが、また後日の打ち合わせで担当者から「いま感じている自転車の熱さ、面白さを伝えるべきだ」と再び勧められ、「じゃあ、やります!」と、今度は承諾。ただ、それでも「自転車を描くのがすごく大変で、3話ぐらいで“これ、ずっと描くの?”“大変なことになったなぁ”」と思ったり、ロードレースをうまく漫画として表現できるだろうかという不安もあったという。
それでも、試行錯誤の中、「自転車って、乗りながらでもキャラ同士で話すことができるし、実際にやってみたら非常に漫画に向いている」ことを発見。自転車を描くことに関しても、「だんだんコツをつかんだので、今はもう大丈夫です(笑)」と、話を進めるごとに歯車がかみ合い、大人気漫画にまで成長した。
さらに、キャラ作成の秘話も明かした渡辺さん。主人公・坂道が普通の高校生として登場したのは、「漫画はやっぱりどれだけ感情移入できるか。いきなりプロレーサーを登場させても、読者のみなさんが感情移入できない」から。また、ママチャリならばだいたいの人は経験があり、裾野が広がることから、ママチャリからロードレースまで順序づけていければいいのでは、という戦略があったという。
加えて坂道が、自転車のエリート高校生ではなく、180度違った“アキバ系”であるのは、一歩一歩前に進む男が描きたいから。
「人って、必ず何かの才能を持っているはずなんです。それが、ある出会いや刺激によって引き出すことができたら、すごく気持ちいい。そういったことがみなさんにも起きるといいなって、僕は思っているんです」
渡辺さん自身も、自分の絵にコンプレックスを持っていたが、ある日「味がある絵だ」と言われ、コンプレックスがなくなったという。そんな体験から、「みんな、お互いを認め合えるようになれたら」という思いで、主人公・坂道が誕生した。
質問コーナー、即興イラストで大盛り上がり
もちろん、渡辺さん自身のロードバイク、レースの体験も様々に展開するストーリーの中で生かされているという『弱虫ペダル』。坂道以外の主要キャラクターの誕生秘話や、ファンからの質問コーナー、また、即興でホワイトボードに直筆でキャラを描くなど、サービス精神たっぷりにトークショーを盛り上げると、サイン会では1人ひとりとしっかり握手。さらに、自らナイトレースにも参加するなど、ファンも渡辺さんも大いに楽しんだ1日となったに違いない。
で、今さらながら白状しますが、僕は『弱虫ペダル』を漫画もアニメも見たことがありません。ですが、今回のトークイベントでの渡辺さんの人柄と作品にかける思い、そしてファンの熱狂ぶりを見るにつけ、今度、漫画喫茶に行って読んでみようかしら?と思ったのは言うまでもありません。
充実の体験ゾーン、大迫力のナイトレース
一方、ステージでは『弱虫ペダル』トークショー以外にも、ゲストにサッカー元日本代表・前園真聖さんを招き「スポーツ自転車が文化として成熟するには? サッカーの歴史から学ぶ」と題したシンポジウムや、ツール・ド・フランスで3度個人総合優勝を果たした“レジェンド”グレッグ・レモン氏のトークショー、ファッションモデルでありながら趣味のトライアスロンでは世界選手権にも出場する丹羽なほ子さんの自転車グルメトークなどを幅広く実施。
また、サイクルモード一番の目玉である各メーカーの最新モデル・人気モデルの試乗をはじめ、スポーツバイク試乗前レッスン、親子で参加できるBMX体験スクール、「教えて!プロメカニック」のコーナーなど、“見る”だけでなく“体験する”ゾーンも充実していた。
さらに、メッセから徒歩5分の幕張海浜公園ではオフロードコースが特設され、国内初となるシクロクロス・MTBの“ナイトレース”が開催された。鮮やかにライトアップされた会場、DJ・音楽との組み合わせは、単なる自転車レースではなく、ショウアップされたスポーツエンターテインメントといった印象。また、手を伸ばせば触れることができそうなくらいの至近距離で大迫力のレースを堪能できるなど、普段では味わうことができない貴重な体験の連続だった。
女性多数、徐々に根付く自転車文化
仕事ながら丸1日楽しんでしまったサイクルモード。取材した日は土曜日、また、女性限定で500円の入場券(通常は当日券1300円)が販売されていたこともあり、女性の姿が多く目立っていた。事実、スポーツバイクの試乗前レッスンに並んでいたのはほとんどが女性。これは決して弱虫ペダル目当てばかりではなく、自転車文化が徐々に根付いている証拠なのかな――そんなことも思ったサイクルモード2日目の取材でした。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)
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