Updated: Tokyo  2014/11/13 08:09  |  New York  2014/11/12 18:09  |  London  2014/11/12 23:09
 

20ドル札を1000ドルに、レバレッジに引き寄せられる素人投資家

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  10月31日(ブルームバーグ):3月の土曜の昼下がり。一獲千金を夢見る素人投資家、500人以上がインターネットを通じて2時間におよぶ外国為替取引の講習を受けている。

「トレーディングでの成功は夢ではない。法則がある」と誘い込むのは業界最古参、マーケット・トレーダーズ・インスティテュートの創業者。「その法則はここにある」とジェアド・マルティネス氏は胸を張る。

フロリダ州レークメアリーの同社は1994年の創設以来、3万人以上の素人投資家に伝授してきたという。「2日間で1000ドルを稼ぐ。そのやり方を知りたくないか」とマルティネス氏はインターネットを通じて問い掛ける。「一貫性のあるトレーディングの方法を教えよう」。

ここで登場するのがマルティネス氏の義理の息子、ホゼ・トルモス氏だ。「とにかく簡単、本当に予想ができて、安全な投資方法だ」とトルモス氏は豪語する。「退職後の生活資金を準備する機会を、多くの人々が見過ごしている」と語る。ブルームバーグ・マーケッツ誌12月号が伝えている。

アリゾナ州キングマンに住む年金生活者、ダン・グラットン氏(71)にとっては、耳慣れたフレーズだ。同氏もこうした講義を2年間受けたという。外貨トレーディングで成功する夢を見て勉強したが、夢は実現しなかった。

平均4カ月で市場から脱落

「最も一貫性があるのは、損をするということだろう」と同氏はつぶやいた。その通りだ。

外国為替の個人投資家の大半がほとんどのトレーディングで負けているのは、業界自身のデータが証明している。株式を公開している店頭外為取引会社の最大手2社、FXCM とゲイン・キャピタル・ホールディングスがまとめた顧客向けリポートによると、米国の投資家の68%が過去4四半期のトレーディングで差し引きマイナスの成績に甘んじている。

損が続くと投資家は動揺する。全米先物協会(NFA)によれば、店頭外為投資家は平均して、たった4カ月で市場から脱落する。

こうした個人投資家の多くは金融以外の分野で十分高い教育を受けている。彼らが参入する市場は規制が緩くて不透明、かつ利益相反が横行している。そんな彼らをマルティネス氏のようなコーチが、退職後の資金を蓄えられる機会だと励ます構図だ。

他の資産クラスでは考えられない

しかも最高で50倍の高いレバレッジが容認されている。他の資産クラスの投資家にとっては夢のような話だ。高いレバレッジで大きく勝つこともあるが、それよりも大きく負けこむことの方が多い。注ぎ込んだ資金すべてがたった数日で消えることはあり得る。

外貨取引市場はカジノに似ている。確率上、常に不利な立場での勝負だからだと、1997年から99年にかけて商品先物取引委員会(CFTC)の取引市場部門でディレクターを務めたマイケル・グリーンバーガー氏は語る。

「ルーレットに誘い寄せられるのと同じように、投資家は外貨取引に誘い込まれる。勝ち目はない」と同氏は述べた。

個人トレーダーのほとんどは取引所で取引しない。大抵はオンラインでの店頭取引で、ブローカーが介在する。そのブローカーというのは中立な立場ではなく、買い手にも売り手にもなる。時には顧客の取引の反対側に立つことがある。

したがってブローカーと顧客の利益が相反することになるわけだ。このことは顧客に対して文書で開示するようCFTCが義務付けている。これによるとブローカーはオファーする価格も、その相手も制限されない。

当局調査はリテール市場を除外

通貨取引は世界最大の金融市場であり、国際決済銀行(BIS)によると毎日5兆3000億ドル(約613兆円)相当が取引されている。ニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引される額の100倍に相当する。外国為替市場を支配するのは、年金基金や多国籍企業のために1000万ドル規模の取引を行うプロたちだ。

この巨大市場で価格を決めるのに使われる指標が大手銀行によって操作され、顧客の利益が損なわれた疑いがあるとして、欧米の規制当局は2年前に調査に乗り出した。しかし個人投資家のリテール市場は対象外だ。

世界に2000万人いると言われる外国為替の個人投資家。一口数百ドル程度の取引もあるが、世界全体では1日当たり4000億ドルの規模になると、ボストンの調査会社アイテ・グループのアナリスト、ハビエル・パス氏は試算している。

20ドル札を1000ドルに変身させる

外為取引の魅力は通貨変動というよりも、レバレッジによる部分が大きい。50倍のレバレッジは100ドル出して5000ドルの賭けができることを意味する。

「財布の中の20ドル札を1000ドルに変身させたくないか」とトルモス氏はウェブ講習の受講者に呼びかける。「想像してみてほしい。銀行口座から2000ドルを引き出して外為市場でトレードすれば、10万ドル相当の力を発揮する」。

わずか数セントの小幅な変動でも、大きな利益を挙げる可能性があることがレバレッジの魅力だ。「通貨はあまり変動しないものだ」と米店頭外為取引最大手、FXCMのドリュー・ニブ最高経営責任者(CEO)は語る。「レバレッジが無ければだれも見向きもしないだろう」。

レバレッジは利益拡大に貢献する一方で、損失を大きくする。FXCMのウェブサイトには「レバレッジはもろ刃の剣であり、利益も損失も同じように大きく拡大し得る」と記載されている。50倍のレバレッジをかけた取引と反対の方向に相場が2%動けば、100%の損になる。9月に円上昇に賭けた投資家がまさにこれにあたる。円はわずか5日間でドルに対して2.29%下げた。

「負ければ殺される」

同じく9月、ユーロはドルに対して3営業日で2.07%下げた。理論上では100%を超える負けが生じ得るが、ブローカーは慣例としてそれ以上の損失を防ぐためにトレードを終了させる。

「勝てばレバレッジはすばらしい道具だが、負ければレバレッジに殺される」と警告するのは、元CFTCディレクターのグリーンバーガー氏(メリーランド大学教授)だ。「リテール外為市場がどんなにすばらしいか、消費者に売り込むための道具だ」。

原題:Leverage as High as 50-1 Lures OTC Forex Traders Who Mostly Lose(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:ロサンゼルス David Evans davidevans@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Jonathan Neumann jneumann2@bloomberg.net Gail Roche

更新日時: 2014/11/12 14:01 JST

 
 
 
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