再稼働、狂うシナリオ/第14部・東北電の難路(1)停滞

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再稼働、狂うシナリオ/第14部・東北電の難路(1)停滞

電源喪失を想定し、暗闇の中で訓練に臨む運転員=宮城県女川町の女川原発原子力技術訓練センター

<全電源喪失訓練>
 「スクラム(原子炉緊急停止)対応」「外部電源が落ちました!」。中央制御室を再現した一室に、緊迫した声が響く。
 東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)で10月20日にあった災害対応訓練。運転員がシミュレーターを使ってプラントの制御を試みた。
 「巨大地震と高さ18メートルの津波で全電源を失い、炉心損傷の可能性が迫っている」。訓練の想定は東京電力福島第1原発の事故を色濃く反映させていた。
 東北電は原発再稼働へと突き進んでいる。「安定供給と収益回復に不可欠」(海輪誠社長)として、防潮堤整備などハード、ソフト両面の安全対策も加速させる。
 だが、シナリオには微妙な狂いが生じている。
 最大のハードルは原子力規制委員会の新規制基準だ。東北電は昨年末、女川2号機が適合しているかどうかについて審査(安全審査)を申請したものの、手続きが順調とは言い難い。備えの土台となる「災害想定」にも物言いが付いている。

<苦戦の審査会合>
 10月17日の審査会合で、象徴的な場面があった。耐震設計の前提となる基準地震動について、東北電が「東日本大震災を超えるような地震動になる合理的根拠がない」と説明すると、規制委は「同意できない」と再検討を求めた。
 震災で女川は当時の想定を超える揺れに見舞われ、津波で一部の設備が浸水した。被災地に立地し、現に被害を受けたプラントに向けられる視線は厳しい。
 東北電のもう一つの原発である東通1号機(青森県東通村)も苦戦している。敷地内に活断層があるかもしれない、という規制委の疑念を晴らせずにいる。
 これまでの審査会合の回数は女川2号機が17回、東通1号機が2回。初の合格となった九州電力川内原発(鹿児島県)が60回を超えたことを考えれば、ゴールは遠い。
 東北電が「2016年度以降」(女川2号機)、「16年3月」(東通1号機)と見込んだ稼働時期は不透明感を増している。

<構造上のリスク>
 安全審査では、原子炉のタイプが不利に働いているとの見方も根強い。
 加圧水型軽水炉(PWR)の川内とは異なり、女川は福島第1と同じ沸騰水型(BWR)。PWRは絶対にメルトダウン(炉心溶融)を起こさないわけではないが、過酷事故への耐性でBWRを上回るとされる。
 新規制基準検討チームのメンバーだった明治大の勝田忠広准教授(原子力工学)は「BWRは格納容器がPWRより小さいなど、構造上のリスクを抱える」と指摘する。
 原子炉がいずれのタイプにせよ、審査が万全を保証するわけではない。勝田准教授は「基準は最低限の要求事項。決して世界最高水準の内容ではなく、これからも厳しい監視が必要だ」と言い切った。

     ◇

 九州で川内原発の再稼働が迫りつつある。福島第1原発事故で巨大リスクが顕在化してもなお、原子力は国や電力業界の「基幹エネルギー」だからだ。震災と原子力災害という二重の被災地を抱える東北電力は、どこに向かうのか。先行きには、他電力にはない困難さも予想される。
(原子力問題取材班)=第14部は6回続き


2014年11月09日日曜日

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