「私がある企業の代理人としてジョブズの右腕といわれたアップルの幹部に会った時のことです。通常であれば秘密保持契約を結んだ上で、『これから見せる技術はここだけの話で、第三者には内密に』という申し合わせをします。しかし、その幹部は『当社は秘密保持契約を結ばない』と言うんです。
それはなぜかと尋ねると『もしかすると、いまから君たちが見せてくれる技術と同じものを、社内のチームが手がけている可能性がある。その時、契約に縛られては困るからだ』と答えたのです。正直なところ驚きました。
たしかにアップルがいま何を開発中か外部からはわかりません。ですが、秘密保持契約を結ばずに、情報の開示を受け、アップルがコンセプトやアイデアを流用しても、相手は何もクレームをつけられない危険性が出てくるのです」
アップルにとっては、下請けメーカーの秘密保持という重大事も、自身が利益を生み出すためなら、些細なことでしかないのかもしれない。
裁判の行方は?
アップルの横暴な振る舞いが知られるにつれて、「最近は日本でもアップルとの取引を避ける企業が出てきた」と前出の今中氏が語る。
「日本の下請け企業の多くは、いまのアップルに対して『強引すぎる』という意識を持っています。たとえば、大量発注を匂わせておいて、実際には発注しない。あるいはいきなりキャンセルする。そのため『もうアップルとは付き合えない』という日本企業も増えてきている。アップルをありがたがる時代ではなくなってきているということです」
たしかに日本の中小企業にとってアップルの下請けになることが、大きな利益をもたらすように見えた時期もあったかもしれない。
だが、それは禁断の果実だった。一旦、下請けになれば、どんな無茶な要求をされても、文句も言えずに、呑み込むことしかできない。
島野の訴えは、そんな多くの下請け企業が抱えている「ナメるなよ」という怒りを代弁するようなものだったのだ。
この裁判の行方を、前出の鈴木氏が解説する。
「世界的な大企業を訴えたわけですから、島野も何か切り札があるのだろうと思います。私が島野側の戦略指南として参加するとしたら、『特許権侵害を認めさせ、取引を再開』を条件に和解を進めるでしょう。アップルも無駄な傷は負いたくないわけですから、応じる可能性は決して低くないと思います」
爆発的に売れる商品を楯に、下請けに無理を強いてきたアップル。この世界的大企業が支払うことになる代償は大きいだろう。
「週刊現代」2014年11月15日号より
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