シャープは'11年にアップルの出資を受け、三重県にある亀山工場をiPhoneの液晶パネル専用工場に改装した。ここはかつてAQUOSなど、シャープの看板製品を製造し『世界の亀山モデル』と呼ばれるまで成功した工場だったが、リーマンショックと競合他社との価格競争を契機に業績が悪化。シャープは再起を賭け、亀山工場をアップルの中小型パネル用の工場として生まれ変わらせた。
だが、シャープは'11年度と'12年度の2年連続で大幅な赤字を記録する。その原因のひとつにこの工場があった。後藤氏が続ける。
「実は、アップル用の工場を持っていて利益を大量に出している企業は極めて少ないんです。
シャープのこの工場の場合、iPhone5が当初の予想よりも売れなくて、2ヵ月もの間まったく稼働しない時期もありました。この工場を維持させるためには設備費や人件費など月に200億円ほどかかるので、それだけで400億円もの赤字です。注文のある時はフル稼働ですが、ない時は勿論、他のものは何もつくれません。普通、工場は80%以上の稼働率が維持できるのが理想なのですが、この工場の場合、1年を通して見れば、稼働率は到底80%には届いていません」
アップルが毎年公開している「サプライヤーリスト」によると、今年3月時点で、日本は139ヵ所(中国に次ぎ世界第2位)もの工場で部品を作っている。その中にはシャープ以外にも、ソニーやパナソニックといった有名企業も含まれているが、そうした大企業はともかく、島野のような中小企業はアップルの意向ひとつで会社の命運を左右されてしまう。
もちろん、それで中小企業が潰れたとしても、アップルが意に介するはずもない。また、別の下請けを見つければいいだけの話だ。
リスクを立場の弱い下請けに押し付ける仕組みは、'11年にCEOになったティム・クック氏が作り上げたものだという。
「ティム・クックはジョブズのようなアーティストではありません。彼はコンパックやIBMといった大企業で調達担当として辣腕を振るってきた人間です。ジョブズが太陽とすれば、クックは月。ジョブズが世界中が憧れるようなデザインの商品をつくる裏で、彼はそれをギリギリのコストで世界中の部品メーカーから調達するという影武者のような役割を担ってきました。いまの『世界一アコギな企業』といってもいいアップルをつくり上げた人物です」(後藤氏)
アップルの傲慢な振る舞いはコスト面だけではなく、製造業にとってセンシティブな技術面にも及ぶ。
テクノロジーライターの大谷和利氏が自身の経験を話してくれた。
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