はたしてこんなことが許されるのか。企業法務に詳しいMLIP経営法律事務所の大西達夫弁護士に訊いた。
「すでに納品して決済済みの在庫に対して、のちに価格が下がったから、その在庫分についてもさかのぼって計算しなおして、その差額をリベートとして支払えという要求は、常識的に見て公正な競争行為とは到底言えません。島野の主張の通りだとすれば、独占禁止法違反にあたる可能性が高いと思われます」
この不当な扱いに耐えかねた島野は、今年8月、ついにアップルを訴えた。
前出の今中氏は今回の争いを巨象とアリの戦いに喩える。
「この裁判は、島野にとっては死活問題ですが、アップルのような巨大企業にとって島野なんてアリのような存在です。
アップルにされるがままだった島野は、技術やノウハウを奪われ、商品を安く買い叩かれ、ついに訴えるしかない状況に追い込まれたんです」
島野は今回の訴訟が原因で会社に悪影響を与えることがあれば、社長、会長ともに辞任する覚悟で臨んでいるという。
だが、国際企業の訴訟に詳しいアナリストの鈴木貴博氏は、今回の裁判の無謀さを強調する。
「アップルはあらかじめ訴訟に備え、巨額の弁護士費用を会社の予算に組み込んでいます。当然、今回の裁判にも腕利きの弁護士を集めて対抗してくるでしょう。島野は裁判費用の面でもまったく敵わないといっていい」
リスクばかり押しつけられ
裁判の過程で白日の下にさらされた、アップルの島野に対する「いじめ」ともいえる要求の数々。『アップル帝国の正体』の著者である週刊ダイヤモンド誌記者の後藤直義氏がその構図を解説する。
「アップルは下請け企業への負荷が高いことで有名です。デザインにこだわるアップル製品の部品はすべてがいわば『特注品』なので、高い技術力を必要とします。しかも、アップルの製品は世界中でひっぱりだこなので、大量に必要になる。そのため、同一部品を複数の企業に作らせて、互いに競争させてクオリティを保ちつつコストを下げているんです。
下請け企業はアップルの求める水準に応えるために専用工場を持っているところが多く、当然『アップルに切られたら、おしまい』という状況の企業も少なくない。だから、下請けはどんな無茶な要求でも呑まざるを得ないんです」
実際、シャープのような日本の大企業でさえ、アップルに翻弄されている。
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