私は待っていた
情熱とか愛欲とか寂しさとか厭世とか死とか
それらをひっくるめた
切実な叫びを
私を呼び寄せる
声を腕を瞳を
この世で目に見えない
けれどある種の人々が
世紀を超えても必要としている
胸を魂を震わせる何かを
ずっと待っていて
待っていた
地位も安定も平和も生もいらない
ピリピリと音を放つ薄氷を歩くような
底意地の悪い灰色の雲海を彷徨うような
手応えのない朦朧とした
けれど確実に
心に身体に刻み込むものを
私を苛む
そして至上の悦びをもたらす
私こそを名指しするようなものの到来を
待っていて
待っていた
死がいつも誘う淵で
失うことが保つことよりも崇高な場所で
運命を享受しながら
宿命に甘く抗いながら生きること
それが私の生のかたち
破滅と救いは似ている