黒豆との出会いは一年前。面接したのが黒豆で採用され、一年間一緒に働きました。
アラサー、フリーター、中卒、引き籠り、人見知り、ももクロファン。
頭痛がするスペックです。「何て可哀想な男なんだ」と思いました。
当時私は出会い目的でスポーツジムに行っていたのですが、黒豆も行きたいと言いました。
出会いの障害になると思ったのですが、引き籠りが外でスポーツがしたいという心意気を買ったのです。
黒豆が私に一目惚れしたのは、面接時にすでに気付いていました。
同じ職場というのもあって私は鈍感なふりをしました。
身体を鍛えたいと表向きの理由で黒豆とは職場でもプライベートでも一緒に行動しました。
私にとって不利益でしかないのですが、この哀れな青年を奮い立たせて、立派な社会人になって欲しいと思いました。
相手に変わって欲しかったら、まず自分からの信念の元に、
スポーツジムでは黒豆の見本になろうと全力で体を張りました。
自分のキャパシティー以上の重りを持ち上げてみたり、持久力も黒豆に簡単に負けてならないということでコッソリ鍛えて、師匠として黒豆をボコボコにしてました。
黒豆は運動をずっとしていなかったので、すぐ息切れを起こしてバテてました。
それから一緒に簿記を勉強したりもしました。
黒豆は中卒だけど地頭は良いので、飲み込みはすごく早かったです。
運動神経も良いのもあって、持久走も一か月そこらで私を抜かして、身体つきも男らしくなっていきました。
黒豆が目に見えて変化していったのが、面白い時期でした。
一方私は25という微妙な年齢でした。
若さという資産を削ってまで、中卒のフリーターと常に一緒にいることを、友人間で問題視されました。
結婚相手見つけないといけない年なのに何をやってるんだと。
私がやばい方向へ行っていると心配されました。
友人の言ってることはごもっともだったし、自分でもヤバイ方向へ行ってるのでないかと不安に思ってました。
また私のやってることは「偽善」だという声もありました。
付き合う気がないなら、もう構うな、と言われました。
他人から見ても黒豆の好意は明らかで非常に分かりやすいものでした。
黒豆のテンションも上がって行き、車での送り迎えや、仄かに好意を匂わせる発言も増えていきました。
私は答えが出せなくて迷いましたが、最初に黒豆と一緒にいるのは半年だけにしようと決めていたので、その日まで待ちました。
幸い黒豆から具体的にどうしたいという話は一切ありませんでした。
私に夢中なうちにどうにかしなくてはいけないという使命感がありました。
しかし黒豆と一緒にいる内に私の考えの方に変化が訪れました。
「黒豆は別に可哀想じゃない」と思い始めたのです。
友達は果てしなく0に近いですが、唯一の友人がセレブ達で、黒豆を可愛がってました。
実家住まいのフリーターですが、両親は黒豆を溺愛して、いつまでも家にいて欲しいと望んでました。
よく親が死んだらどうするんだ!?という質問がありますが、黒豆が親と同時期に死ねばOKなので、何も問題ないと思います。
物欲も果てしなくゼロに近く、ミニマリストに近い価値観でした。
黒豆の身の回りのものは職場で支給される高級アパレルを日常にも着て、必要な物は社員割引を適用させて安い値段で購入して用を済ませていました。
収入は低いですが、誰よりも良い暮らしをしていました。
黒豆は経済力はないですが、資産を持ってるんです。
趣味がアイドルの応援で彼女いないだけで、立派なリア充だったのです。
「可哀想」どころか「時代の最先端を進んでる」と考えを改めました。
当時私は断捨離中で身辺修理が進めば進むほど、条件が黒豆に近づいていく自分に戸惑いを隠せませんでした。
黒豆を変えたいと思っていたのですが、何をどう変えたいのか分からなくなっていきました。
黒豆氏を変えるどころか私の方が変わっちゃったんです。
車の中でももクロの曲がガンガンに流れて聞いてる内に覚えちゃったし。
「働くこと」という最大の謎を残して、私が会社を退社して黒豆と離ればなれになりました。
結局何も変えられませんでした。
人から姫姉様は馬鹿だと言われる結果になりました。
今となってはすっかり黒豆氏の気持ちは褪せてしまって、もう当時のような情熱はもうないです。
旬は去り、私は飽きられてしまったのです。
最初から最後まで二人の間に
何もなかったのが愛の答えです。
●加筆●
今振り返っても馬鹿だな~と自嘲してしまいますね。
本人に変えてくれと頼まれてないし余計なお世話でしたね。
社会への疑問を持つキッカケ、価値観を変えてくれたという点で黒豆の功績は偉大です。
今ではすっかり疎遠になってしまいました。
風の噂では黒豆に良い感じの人が出来たようです。
私は出る幕ないようです。お幸せに。
いつまでも私のものだと勘違いしてたな~。
もういない方がいいんだな。
こうして黒豆の人生から姫姉様はいなくなった。