2014年11月12日10時19分
佐藤雄平知事(66)が11日、8年間過ごした県庁を去った。すがすがしい笑顔を見せる一方、中間貯蔵施設の稼働への道筋など、残していく課題は多い。バトンを託されたのは、副知事として伴走してきたかつての右腕・内堀雅雄新知事(50)。12日に就任する。
●人懐こくてまめ/お笑い好きの一面/「剛」と「柔」の両輪で
公の場では久しぶりの対面だった。内堀氏は11日、翌日の知事就任を前に、佐藤知事と引き継ぎをした。「復興、新生福島をしっかりね」と固く握手する佐藤氏に、内堀氏は一瞬、人なつっこい笑顔を向けた。
冷静沈着なイメージの裏にある「人なつっこさ」。内堀氏に接した関係者の多くが挙げるキーワードだ。
1986年に東京大学経済学部を卒業後、自治省(現・総務省)に入省。福島には2001年に県生活環境部次長としてやってきた。佐藤栄佐久・前知事が全盛だったころだ。
県職員を長く務めた男性によると、「国と戦う」ことを掲げた栄佐久氏は、職員にも厳しかった。指示した作業の進み具合が遅ければ、声を荒らげて発破をかけもした。日々開かれる会議はぴりっとしたムードが漂い、副知事や部長といった幹部らも「いつも緊張させられた」(元県幹部)。
ただ一人、ひょうひょうとしていたのが当時37歳の内堀氏だ。知事のそばに陣取り、にこやかに報告する。知事のひざの上に手をのせて、談笑することさえあった。栄佐久氏は「一つ言えば十の仕事が返ってきた」と振り返る。
そのまめさに驚かされた首長も多い。要望や陳情に県庁を訪れても、簡単には首を縦にふらない。だが、肩を落として帰途に就く道すがら、本人から「大事な施策です」「一緒にやっていきましょう」と、携帯に電話がかかってくることも少なくない。
当初、「とてものめない」(財務省幹部)と相手にされなかった中間貯蔵施設をめぐる交付金を引き出した剛腕と、人なつっこさは建設候補地の首長の信頼を勝ち取る。「心配しなくていい」。内堀氏の一言は、町もともに戦おう、との連帯感につながったという。
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原点は幼少期にある。
長野県の地方銀行に勤める転勤族の父とともに、長野のほか、埼玉や東京へと居を移した。小学校で1回、中学校で2回の転校を経験した。
内堀氏は「社交的にならざるを得なかった。人の話を聞くときは目を見る、臆病だとだめ。環境や雰囲気に自分自身を合わせることを学んだ」と分析する。
小中高を通じて生徒会長や学級委員長には就かず、おとなしいタイプだった。だが高校では、歴史上の人物や格言を口にしながら人生を熱く語る姿も。一緒に下校していた同級生は「表面には出さない意志の強さを感じた」という。
親のすすめで幼稚園の時から、電子オルガン、バイオリン、合唱、吹奏楽を習い、クラシック音楽に親しんだ。だが、中学でヘビーメタルに魂を奪われる。ラジカセでがんがんに鳴らして勉強すると、かえって集中できた。「ヘビメタがなかったら受験もうまくいかなかった」と内堀氏。
大学では合気道部に入った。運動音痴の自分を変えたい。授業そっちのけで稽古に打ち込み、フルマラソンも完走した。「考えるのではなく、ぱっとひらめく。理屈じゃない人とのつながりを覚えた」と笑う。
大のお笑い好き。選挙戦が終わって初の土曜日となる1日、福島市で開かれたイベントに足を向けた。お目当ては大ブレーク中の芸人「日本エレキテル連合」。どうしても「ダメよ~ダメダメ」を見たい。混乱を避けるため、車から降りずに遠巻きに見守った。若手芸人の登竜門でもあるラジオ番組、オールナイトニッポンをこよなく愛する。
内堀氏をよく知る自治体関係者は「とにかく話題が豊富な人」。仕事に役立っているかは分からない。
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就任を待つ県職員の間には、「新知事にはごまかしがきかない」という緊張感も漂う。10月末、ある部署の会議で幹部から職員にこんな指示が飛んだ。「あの人は県の政策を隅々まで知り尽くしている。自分が関わる政策について、ホームページで選挙公約をよく予習しておくように」
内堀氏はどんなリーダーになるのか。自身が目指すのは「剛」と「柔」を掛け合わせた「ハイブリッド」型だ。仕えた2人でいえば、国や東電に強い姿勢を示した栄佐久氏が「剛」。親しみやすさを前面に、人と人との調和を重んじる雄平氏は「柔」と分析する。
ハイブリッドの理想は、国連難民高等弁務官として活躍した緒方貞子氏。交渉には毅然(きぜん)と臨む一方、現場に赴いて苦しむ難民に手をさしのべた。「国や東電にものを言うときは『剛』。協力してことにあたるときには共感が必要だから『柔』。福島の復興にはバランスが欠かせない」
●佐藤知事「復興の種 芽吹く」
「復興の種は確実に芽吹き始めている」。2期8年の任期を終えた佐藤知事は11日、最後の記者会見で振り返った。
情報提供やスピード感が足りないと批判された原発事故対応では、「復興の土台はできた」と胸を張り、18歳以下の医療費無料化や再生可能エネルギー研究拠点を作った実績を並べた。
鹿児島県の川内原発をはじめとする県外の原発再稼働については、自治体の判断がまず優先されるとしたうえで、「12万6千人近い方がいまだに避難を余儀なくされている。原発災害の厳しさを熟知してほしい」と訴えた。
会見後は、職員約200人に「現場主義と(部局間の)連携の姿勢を忘れず、全力で新知事を支えてほしい」とあいさつした。職員や支援者から手渡された花束を抱え、拍手で送られながら笑顔で県庁を後にした。